台風が近付いている、子供は怯える

ガタガタと風になる窓を眺めて、蓮は暗い部屋のベッドに座っていた
同居人はいない
いつもはいびきなんかかいて煩くて仕方のないあいつが、今夜はいない

「取材でさぁ、どこそこまで行かなきゃなんなくてさ〜」

どこへ行くっていってたっけ?
朝食の席で、奴がべらべらと話してしたのをいつものように聞き流していた
こんな時間になっても帰らないとなると、相当遠くへと出たか
それとも、この風と雨で足留めをくっているのか

(今夜は帰らないかもしれないな)

それはそれで静かでいい、と
蓮はひとつ溜め息をこぼした
時計は2時を回っている
風の音が耳について、眠れなかった
ガタガタと窓がなる
ザーーーー、という音
雨なのか、木々が揺れている音なのか、
時々バタタタ、とうちつけられるような水の音も、眠りを妨げた
台風が、近付いているのだ

蓮は、台風の日 その音に怯えて眠れなかったことがある
ずっと昔、子供の頃

「ふん・・・・・」
思い出して苦笑した
一晩中、毛布をかぶってうずくまっていたっけ
皆が寝静まっている静かな家の中
自分の息遣いと、風の音
世界がひどく狭く感じられて、窒息しそうだった
そういう時の夜は、長い

時計を見た
まださっき見た時から5分もたっていない
いつもはあっという間にくる朝も、今日は遠い
毎晩煩くてイライラする奴のいびきも、きこえない
側に、あいつがいない

ボンヤリと、真司の顔を思い出した
間抜けた笑顔とか、叩いても蹴飛ばしても起きないだらけた寝顔とか
それで、少しだけ笑った
あいつはいつも、バカみたいな顔をしてるな
少しはマジメな顔ができないものか

もう一度、笑みがこぼれかけた時、突然部屋の灯りがついた
「あれ? まだ起きてたのか?」
たった今、思い出していた顔
ふにゃけた顔
「ひどい有り様だな」
「そりゃすごい雨だもんよ
 風呂入ろうと思ったんだけどさ〜」
「節約中で、湯は残ってないだろうな」
「そーなんだよ」
へへ、と
タオルで髪をふきながら、奴は笑った
全身びしょぬれで、それでも何でもないような顔をして
「もしかして蓮、オレが帰るのを待っててくれたのかな〜?」
「そんなわけあるか」
ふい、と
顔を背けても、表情は読まれてしまっただろう
戻ってきた真司に、安心してしまった自分がいたのに気付いた
多分、それは顔に出てしまった

「風呂入れないから、寒くてさ〜」
濡れた服を脱いで着替え出した奴の、向こうで窓がガタガタ揺れた
「さっさと寝ろ、寝たらあたたまる」
「冷たいなぁ」
ひやっ、と
首筋につめたい奴の腕がからまる
「・・・・・・」
無言で睨み付けたら、にやけた顔がこちらを見ていた
ああ、ダメだ
雨の音なんかより、風の音なんかより
今、奴が触れている心臓が煩い
聞こえるんじゃないかと思うくらいに

「温めてよ、蓮」

身体は雨に濡れて冷えきっているのに、
奴の息は熱かった
舌が首筋を伝って、そのまま肩へ下りた
凍えるような両手が服の下へと滑り込んでくる
「つ・・・っ」
びくり、と身体が震えた
触られたからじゃなくて、冷たかったからだ
言い聞かせるように睨み付けたら、そのまま
そのまま口づけられた
熱い
どうして、こいつのくちびるはこんなにも熱いんだろう

何度も舌をからみとられ、しびれる程に口づけをくりかえされてようやく解放された
荒い息を整えようとうつむいたら、そのまま奴の体重がかかる
すんなりと、倒れ込む身体
こういう時、どう抵抗していいのかわからない
力が入らないんだ
頭の芯がぼぅっとしてるんだ

「・・・つめたい・・・・・・っ」
触れられるたびに、身体が反る
奴の手に体温を奪われて、なのにいっこうに冷めない熱
奥からジン・・・と熱くなるこれは何なんだろう
「どしたよ、気持ちいいなら声だせよ」
「・・・・は・・・・っ、何言って・・・・・」
「そんなに息乱して、強がってんの?」
「・・・・・・・・・・っ」
また熱が上がる
奴が触れるたびにドクン、と
身体がおかしくなるような波がおしよせる
さらけだされた場所に触れられるたび、いい様のないものがこみあげる
「あ・・・・・・・っ」
疼きの中心に触れられ、ぼんやりしていた思考が一気に戻ってきた
「やっ・・・・・・、」
「や、じゃないよ、こんなに濡らしてるくせに」
「・・・・・・おまえがっ」
「オレが触ってるから感じてるんだろ?」
「ちが・・・・・・・・・・・・・・・・・っ」
ああ、頭が麻痺しそうだ
奴の手は俺の熱をもってうずいているものを握り込み、手の中で弄ぶようにしている
ああ、頭がグラグラする
どうして奴は、こういうことを俺にするんだろう
奴の手の中で、しとしとと濡れて、
それはますます大きな疼きを生む
「はっ・・・・・・・・あふっ」
ああ、声が勝手に上がる
どうして、
どうして俺は、こういうことを奴に許すんだろう

「大分、いいみたいだな」
つ・・・・と、後ろに奴の指があたり、それが強い圧迫とともに中へと入ってきた
一瞬、緊張に息が止まる
何度も、こういうことをして
そのたびに感じる不安のようなもの
ゾクリ、とする
異物を受け入れることに対しての恐怖
そう、台風の夜の震えに、それは似てる
「う・・・・・・・あっ」
無理矢理に、中をこじ開けられ、高まっていたものが冷える
「あ・・・・くっ」
何度も奴の指が入り口から奥へと押し込まれ抜かれ、
そうして繰り返される
再び熱を持つまで
またあの声が、漏れるまで
「あっ、あっ・・・・・・あっ」
意識なんかできない
声は勝手に上がるんだ
淫らな音が、静かな部屋に響いてますます
ますます、頭が支配される
この行為に
こいつの、していることに
城戸が俺に、触れているということに

「は・・・・・んっ」
目があけられなくなって、意識ももうろうとして、
ただ身体の奥の疼きに声を上げるだけになった頃、つ・・・と圧迫が消えた
かわりに、別のものが当たる
ああ、奴が見ている
いつもみたいに、笑って、何か言っている

「入れるよ、蓮」

それは一気に中へと入ってきた
「あっ・・・・・・・・・・くっ」
苦しい
そういおうとしたが、声にならなかった
痛み?
それに似た強い圧迫
先程のものとは比べ物にならない熱いものが入ってくる
奥まで
あの疼きに届く一番奥まで入ってくる
「あっ・・・あっ」
激しく中で動かれて、腰ががくがくと揺れる
どうしようもない
ただ、されるがままで
熱いもので身体中いっぱいにされて
苦しいのとは違うものが、広がっていく
「あうっ・・・・・あぁぁぁぁぁっ」
「蓮、」
何度目か、奥を突き上げられて果てた
ほぼ同時に、奥で熱いものが広がった
ああ、凍えるから温めろなんて言って
お前は充分 温かいじゃないか

ボンヤリと天井を見ていると また風の音が聞こえ出した
遠い昔を思い出す
震えていた、まだ幼かった子供のこと
「何? お前 台風怖いの?」
「・・・・」
「オレは好きだけどな〜
 台風とかって何かワクワクしねぇ?
 昔、飛べるかもって思って傘もって外に出たことあるよ」
見下ろす顔が笑った
いつもの、ふにゃけた顔
「バカだな」
「なんだよ、飛べそうじゃないかよ
 まぁ、結局 傘壊してしこたま怒られたんだけどさ」
快活な声が響く
あの耳障りな風の音
今も不安を呼ぶ、けして好きになれない音
その音の中で、このバカが傘を片手にくるくる回っているのだと思えば
それはバカげた笑い話か
「本当にバカだな・・・・」
まだ感覚の戻らない身体を無理矢理に動かして毛布にくるまった
ああ、今度は眠れそうだ
風の音も不快じゃなくなった
不安は、もうない


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