夏の終わり、季節はずれの休日
二人で過ごす、誰も邪魔などできない時間

「あのなぁ、だから何でお前はそう自分勝手なんだよっ」
「これくらいお前だけで充分だろう
 俺がやる必要もない」
「何だよ、その言い方っ
 明日から旅行で休みもらってんだから、今日くらいマジメに働けよ!」
「好きで行くわけじゃないんでな
 その旅行だってお前が勝手に決めてきたことだろう」
「なんだとっ」

バタン、
いつものように、本当に毎度のように蓮が花鶏を出てゆき、
残された真司はいいかけた言葉を飲み込んだ
(なんなんだよ、)
散らかったカウンター
雑然と並ぶティーカップや雑誌なんかを片付けながら真司は溜め息をひとつ吐く
「そんなに嫌かよ・・・」
蓮が片付けや店の仕事をさぼることなどいつものことだ
そんなことは別にどうだっていい
それよりも、
「そんなに嫌ですか」
あーあ、と
真司は側の椅子にだらしなくもたれると、天井をあおいだ

たまには、
たまには、蓮と旅行なんかいいなと思った
そういえば親戚のやってる宿があったなぁ、なんて思い至り連絡を取ってみたら今期で閉鎖するから遊びにおいでといわれた
これは神様が旅行に行けといってるようなものじゃないか
二人きりで、
二人きりで・・・?

「行くわけがないんだよなぁ、あいつがオレと二人でなんか」

あはは、と
情けなく笑って真司はカウンターに頬杖をつくと目を閉じた
どうしようかと思っていた時に 偶然街で由良に会ったのだ
どうも、と
いつもの無愛想な顔で それでも律儀に挨拶をした彼に真司は助け舟を出した
「ライダー同士の親睦をはかるために旅行をですねぇ〜」
ヘラリ、
その笑顔に彼は怪訝そうな顔をしていたものの、先生に聞いて返事をします、と
そう言ってくれたのだ
そしてさっきOKだと連絡が入った
よし、それなら大丈夫だ
そういう理由で 北岡も由良も来るんなら無理矢理にでも蓮を連れていく口実ができる
さっそくオーナーに休みをもらって 朝 蓮にも話をした

「・・・・・・相変わらず、バカなことを考える」

蓮はあきれたようにそう言ったが、それ以上は何も言わず さして気分を害した様子もなかった
真司はてっきり、彼もまたこの突然の旅行を楽しみにしていてくれているのだと思っていたのに

「勘違いですか・・・・」

やれやれ、と また溜め息がもれる
結局、そういう風に普通ではない感情を強く持っているのは自分だけなのかもしれない

その夜、蓮は11時を回っても帰ってこなかった
「心配ないっすよ、オレちょっと探してきます」
携帯電話は圏外
電源を切っているのか、電波の届かない場所いるのか
それさえもわからないが、とりあえずバイクを出してきて心当たりを走ってみた
あいつがよく行くところ?
そんなのは知らない
二人で行った場所だとか、自分の思い入れのある場所だったらわかるけど

(結局、その程度かー)

それでも、
旅行の話をした時に 蓮がわずかに笑んだように見えたのが錯角だったとは思いたくなかったし
部屋に二人でいる時の彼の空気が変わったことも、気のせいだとは思いたくなかった
夜の道を、バイクが走る

12時を回った頃、ようやく真司は蓮をみつけた
しかもそれは海岸
二人で話をした、真司にとっては思い入れのあるその場所で

(・・・・・なんだよ、素直じゃねーなー)

この場所を、蓮も好きなんだろうか
それはあの日、二人で話をしたからだろうか
それとも、それはまた自分だけのうぬぼれだったりするんだろうか

「蓮」

声をかけると、蓮はゆっくりと振り返った
「何してんだよ、こんなとこで
 お前、なかなか帰らないから皆心配してんぞ」
「・・・・・」
蓮は無言でまた前を向き、それから深く溜め息をついた
「・・・・・お前のせいだな」
「は?」
「・・・・・・・・・お前のせいだ」
「何が?」
彼が顎で前方をさし、そちらに視線をやると そこには横倒しになってバイクが転がっている
「・・・・・何だよ、壊れたのか?」
「誰かさんのせいでな」
「だから何でオレのせいなんだよ?!」
ふい、と
蓮は無言でそっぽを向き、
それにあきれて、真司は倒れているバイクへと歩いた
(・・・・・まったく・・・・)
あんな奴を可愛いと思ってしまう自分はどうかしているのだろうか
大事にしているバイクを起こしもしないで、こんなところで一人ですねてたってことか?
何がオレのせいなんだ
オレの顔みて、一瞬安心した顔になったくせに
(甘いんだよ、)
くす、と
一人勝手に笑みがこぼれて、真司はバイクを起こすと蓮の側までひっぱってきた
「ホラ帰るぞ」
「・・・・・」
無言だが、蓮は立ち上がり、バイクを受け取る
ここから歩いて帰ったらどれだけ時間がかかるだろうか
「つきあってやっから、歩くぞ」
「・・・・・」
でもまぁ、いいか
それだけの時間、こうして二人でいられるわけだし

「なぁ、おまえさー、泳げる?」
「は?」
「川があるんだってさー
 魚とかもいて釣って焼いて食ったりできるんだぜ」
「・・・こんな季節に泳ぐバカはいないだろう」
「昼間はまだ暑いだろ? 泳げるって」
まだ9月
二人にとっては はじめての夏休み
「夏なんかもう終わった」
「いいんだよ、気持ちの問題なんだから」
ケラケラと笑ったら、バカだな、と軽い返事が返ってきた
心地いい
結局、さして嫌でもないんだろうか
ただ気がひきたくてわがままを言う 子供みたいな奴なんだろうか
そんなことを言ったら刺されそうだけど

「・・・・・なんだ」
チラと盗み見したのがバレで 蓮が怪訝そうに足をとめた
「別に、」
にやり
可愛いなぁ、などと言った日にはそれこそ
「気持ち悪い、ニヤニヤするな」
「はいはい」
二人して、延々つづく誰もいない道路を歩く
朝がくるまで
二人の部屋に、着くまで


女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理