眠りを誘う毒、彼の香水の匂い

甘ったるい香りがする
彼の肩に顔をうずめて、そんなことを思った
しなやかに筋肉がつき、まっすぐ綺麗にのびた腕
2本の腕は、力強く俺を抱き、髪に手を入れすいてくれている
この香り、何だっけ?
よくバーの女の子がつけている香り
南国をイメージさせるような、情熱的で甘くて、
それで、ちょっとだけ落ち着かない香り
何という名だったかな
一時、自分は香水というものにはまった
彼に色んな香水を買い与えて、それをまとう彼に満足していた
その時に、買い与えた一つだろう
ボトルの色も覚えている
香りが気に入ったんじゃなくて、その真っ赤な毒りんごみたいなボトルが気に入ったから
ああ、なんだか彼に似合いそうだと買ったのだ
何という、名前だっただろう
この甘く漂う香りは
「先生、辛いですか?」
「・・・・・・・・・え?」
うわの空だったのに、気付かれたのかゴローちゃんが心配気に顔を覗き込んでいた
「ううん、大丈夫だよ」
繋がって、そのままでいてと言い
抱きしめてといったから、彼はそのままずっと抱きしめてくれている
彼のものが一番奥まで入り込んで、中をいっぱいにして、
その上にこんなに強く抱きしめられたら、苦しい
だけど、その苦しいのがいい
何故だか、今夜はこういう気分なんだ
からっぽになりそうな俺の中を、彼で満たしていてほしい
いっぱいにして、熱くして、
何も考えられなくしてほしい
「・・・・・・・ゴローちゃん、いかせて」
彼の首にまわした手に力を込めた
はい、と
彼がちいさく返事をする
そ・・・と、彼の身体が離れて、それで苦しいのが少しだけましになった
同時に、正体不明の不安が降りる
「ひどくして、」
何も考えられないくらい
こんな不安なんか、きえてしまうくらい

やがて、彼が動き出す
また身体に熱が点り、中をひどく強く突き上げられかき回され、やがて意識が白濁していく
「は・・・・・・っ、あふっ」
耳をつく、濡れた音
ベッドがきしむほどに、身体がシーツに何度も沈む程に突き上げられた
ああ、目眩がする
思考が強制的に消されてなくなる
「あっあっ、あぁぁっっっ」
背が弓なりに反り、声が高く響く
淫らなその行為に、何度も彼の名を呼んだ
「あっあ、ゴローちゃ・・・・・・・・・・・っ」
彼の片手がゆっくりと撫でるように優しく そそり立ったものを包み
複雑に動いて快感を誘う
ああ、わけがわからなくなる
苦しいくらいに、彼でいっぱいにされ それでもまだなお突き上げられ
だが、一方でもどかしいくらいに、優しく優しく高められていく
「あぁぁぁ、い・・・・・いく・・・・・・・・っ」
わけがわからなくて、
それでも押し寄せる快感だけははっきりと感じた
「あぁぁぁぁぁぁぁぁっっ」
ひときわ高い声を上げて、北岡は自らを放った
そのしめつけに、低く短く息を吐くように吾郎も解放した
熱いものが、北岡の中に広がっていく

髪をすかれる感覚に、北岡は目をあける
ちょうど吾郎が彼に優しい口付けを落としたところで、
ふ、と彼が側で笑ったのを感じた
「このまま眠りますか?」
ささやくような声
解放の後、北岡は大抵意識を一度手放す
彼の身体が敏感な故か、基本体力のなさのせいか
そうして、短くて浅い眠りに似た感覚のあと、目をあけると必ず吾郎がそこにいた
彼はいつも、優しく自分の髪をすく
汗でひたいにはりついた前髪を丁寧にすいて、
それから彼がそうされるのを好むことを知って、目ざめるまでゆっくりとそれを続けてくれるのだ
いつも、安心に似たぬくもりの中 北岡は目をあける
「ゴローちゃんの手、好きだな」
それから、そうされるのも好き
また、あの香りが漂ってくる
熱くて、妖しくて、甘い香り
ああ、思い出した
ヒプノティック・プワゾンだ
真っ赤なボトル
毒リンゴみたいだと言ったら 彼は毒ですか、と
複雑な顔をしてたっけ?
気に入ってつけてくれているのだろうか
それとも今日は、たまたまそんな気分だった?
「・・・・・甘い」
「え?」
「甘い毒なら、いいな」
彼の視線が落ちてくるのを感じながら目を閉じた
毒リンゴ
ひとくち食べたらたちまち悲劇のはじまり、だったっけ?
可哀想な姫は、永遠の眠りについてしまうんだったっけ?
「それ、気に入ったの?」
彼に視線を合わせると、言葉の意味を計りかねるといった顔をしていた
「その、香水」
それで、ああ、と彼はつぶやく
「気になりますか?
 ・・・今日はボトルを落としてしまって」
いつもより余計についてしまったのだ、と
彼は申し訳無さそうに言った
「酔いました?」
吾郎は、北岡がきつい匂いが嫌いなのを知っている
香水を必要以上にふる女なんか、それだけの理由で仕事を受けないこともあるのだ
なのにこうやって大量に吾郎に買い与え、つけててね、なんて笑って言う
彼の気にならない、普段には感じない程の量
それを吾郎は要求されているから
「すみません・・・・」
「いいよ、嫌いじゃない」
甘くて、妖しい毒リンゴの匂い
そんな毒ならいい
そんなので、死ぬのならいいのに
「俺が死ぬ時は、吾郎ちゃんの腕の中って決めてるんだ」
唐突に、北岡は笑った
ふわり、
一瞬吾郎の、彼を抱く腕に力が入るほど、その瞬間の北岡は儚かった
今、ここで消えてしまいそうな程
「それから、」
また北岡は笑う
「俺を殺すのは吾郎ちゃんなんだよ」
これも決めてるんだ、と
その言葉を吾郎は黙ってきいていた
北岡が求めるもの
彼がそうしろということ
それを全て叶えると決めた
彼が言うなら、自分はそうする
それが、今の吾郎の存在理由
「俺の最後の呼吸を、ゴローちゃんのキスで奪って殺して」
にこり、
いつもの悪戯な目で北岡は言い、
ハイ、と
いつもの調子で吾郎は答えた
この香水つけててね、
はい、
それと全く同じ調子で

甘い香りのする彼の身体に頬を寄せて、
彼の手が腰に回ったのを確認して、北岡は目を閉じた
ヒプノティック・プワゾン
彼の毒で、眠るように死ねたらいい
北岡は、眠りの毒に身を浸す


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