雨を聴きながら、なんて

おとといから、ずっと降り続いている雨に 少々うんざりした様子で北岡は溜め息をついた
「あーあ」
気がめいる
ただでさえ、うっとうしい季節
その上 雨にまで降られたら じっとりと空気が身体にからみついて、気分も天気と同様、灰色になる
「たまにはカラッと晴れないかねぇ・・・・」
でかけるのも億劫で、
それで北岡は 朝からこうして外を見ている
「先生、そろそろ時間ですが・・・」
彼が、今日3度目 そうやって声をかけてきた
スケジュールは、何だったっけ?
どこぞの社長の「折り入っての相談」の後、裁判待ちの男に会って
それが終わったらお得意さんのご機嫌伺い?
その後、資料の整理をして、新しい依頼人と顔合わせ
「あーーーーーーーーーーーあ」
大袈裟に、ためいきをこぼした
「こんな天気、いやんなるよね」
振り向いて彼の顔を見つめる
先程から、ゴローちゃんは困ったようにそこに立っていた
彼の手には僕のカバンと、スーツの上着
それから車のキー
「何なのよ、そんなに仕事に行ってほしいわけ?」
「後がつまってますから・・・」
相変わらず、言葉少なく
だけど、彼はこういう時ゆずらない
「・・・・・・・・・今日は行く気がしないな」
雨だから、と
言ってみても、彼は顔色ひとつ変えなかった
「時間に、遅れますよ」
また、溜め息が出る
なんでこう、この男は真面目なんだろう
いいじゃないか
売れっ子弁護士なんだから、気乗りしない時は仕事なんかせずに家でボーっとしてたって
働き蟻みたいに、セコセコとした生活をしなくたってかまわないのだ
「いやだ、決めた
 今日は行かない」
大人気ないのはわかっていても、彼を困らせて我侭を通すことが 今一番したいことだった
「ゴローちゃん、プリンが食べたいな」
君の作ったやつ、
上目使いで見上げると、彼は少しも引かずに視線を合わせてきた
「・・・・・・作って食べたら、仕事に行きますか?」
その言葉に 少しだけむっとする
何?
まだ仕事なんかにこだわって
今日休んだからって依頼が減るわけでなし
今日の予定が、依頼人の明日を決めるわけでもなし
「約束してくれるんでしたら、作ります」
その言葉に、大きく息を吐いて言った
「わかったよ、ゴローちゃん」

それから彼はキッチンへ入って冷蔵庫からたまごやら牛乳やらを取り出した
いつもながら、何でもできるその手際の良さに感心する
彼の背に抱きついて、後ろからその様子を伺った
「・・・・先生、危ないですから・・・」
「器用なんだから、これくらい平気でしょ」
もう決めたのだ
今日はとことん我侭を言って
この実は頑固な男をどこまでも困らせてやる
「ゴローちゃんの作るものは何でも美味しいよね」
レシピなど頭に入っているのか 彼はチャッチャと作業を進める
僕を背中にひっつけたまま
「ね、だからこんなことされても平気だよね?」
カプ、と
彼の耳に噛み付いた
「?!」
ビク、と
一瞬彼の身体が大きく揺れて、それでその後浅い息が漏れた
「・・・・先生、ふざけないでください」
さっきので多めに入り過ぎた材料を見下ろして彼が言う
「邪魔するんでしたら向こうで座っててください」
「嫌だよ、そんなの寂しいじゃない」
せっかくこうやって二人きりなんだし
仕事も休みなんだし
「休みじゃありません
 食べたら行くんですからね」
その言葉に、今度はもっと強く噛み付いた
「つ・・・・」
彼が顔をしかめる
「そんなこと言うゴローちゃん、嫌いだよ」
「・・・・先生」
ちょっとだけ、怒ったような呆れたような彼の声
それを聞きながら、今度は首筋にキスをした
「・・・・・・・」
彼がこういうことで感じるのを知っている
どこが、とかではなく
俺が触れることで、彼が感じるのを知ってる
「早く作ってね
 作り終わったらやめてあげるから」
そうして調子に乗った僕は、彼の耳や、首筋や、肩に舌を這わせて
両手で彼の胸のあたりをまさぐるように撫で上げて
やわらかな、じれったい刺激を与える
意地悪みたいに
そうやって、彼を誘う
そうやって、真面目な男に意地悪をする
「・・・・・先生、いいかげんにしてください」
とうとう作業の手を止めて 彼が言った
振り返って、首に回していた僕の腕をはずすと身体の前で片手でまとめる
大きな手
お菓子なんか作るのが、とても似合わない手
「ふざけてると、怒りますよ」
たしなめるように言うけれど、
彼が俺に、今 感じているのを知っている
彼は今、俺に感じている
「ダメだよ、僕を仕事に行かせたいんでしょ?」
悪戯っぽく、笑った
「じゃ、大人しく向こうに行っててください」
「それも嫌、ここでゴローちゃんが作るのを見てる」
にこり、
彼は、大きく溜め息をついた
「次 なんか変なことしたらその手を縛りますよ」
そうして、彼はまたクルリと背を向けて作業に戻る
なんて可愛いんだろう
もっと困らせて、もっと意地悪して、
それから、この男にめちゃくちゃにされたい
妙な欲求がいつもある
可愛いと思う彼
でも自分は、そんな彼に
彼の強い腕に
結局はすがりたいと思っている
あの強い力で、抱き締めてほしいと思っている
「・・・・・・ゴローちゃんっ」
猫なで声で呼び掛ける
彼は振り向かない
「ゴローちゃんってばっ」
今度はまた、背に抱きついた
でも彼は、まだ僕を無視する
「ねぇ、ゴローちゃん〜」
つ・・・・と手をシャツの下にもぐりこませた
ビク、と彼の身体が反応したのが伝わった

急に、彼はこちらを向いた
つけていたエプロンのひもをはずすと、それであっという間に俺の両手を縛り上げる
「・・・・・ゴローちゃん〜?」
まるで手錠みたい
その手際の良さに、あっけにとられて彼を見た
「変なことしたら縛るって言いましたよね」
平然と言ってのけ、彼はまた背を向けた
「それで変なこともできないでしょう?」
確かに、どんな縛り方をしているのか手は抜けないし、動かない
「本当にすることないだろ〜」
どこで覚えたんだ、こんなこと
彼の後ろ姿を恨みがましく見つめて、
それで思わず縛られた手で力いっぱい彼の服をひっぱった
「?!」
わずかにこっちを向いた彼の、くちびるにキスをする
強引に、舌を入れると彼のものがそれをからめとっていった
長く、唇を合わせ、
離れると同時に熱い息がもれた
「・・・・・・あーもぅ、先生のせいですからね」
うつむきがちに、困ったような怒ったような
彼の声と同時に ふわっと身体が浮いた
抱き上げられ、キッチンのテーブルの上に寝かされた
「・・・・・こんなとこでするの?」
「ここでしたいんでしょう?」
少し乱暴な手付きで、シャツのボタンが外される
「先生はこっちの方が飢えてたんですね」
仕返しのつもりなのか、
意地悪な言葉に 苦笑した
「失敬だな・・・・」
でも、それは図星
彼の手や、彼の背中や、彼の目を見ていると
彼に抱かれたくなる
無性に、身体がうずく
どうしてなのか
俺という人間が、こんなにも性欲に貪欲だったとは思わなかった
「さんざん邪魔したんですから、覚悟してくださいよ」
「どういう意味よ? それ・・・・」
言う間に、服が剥ぎ取られて、こんな場所で全裸にされる
「ゴローちゃん・・・・」
さすがに、羞恥に似た感情が生まれて
それで少しだけ身を起こした
だがそれも、すぐに押さえ付けられる
「よほど欲求不満のようですから・・・
 手加減なんかいりませんよね」
サラリと言って彼はいつもみたいに舌を這わせる
身体中
露になった、肌の全てに
「あ・・・・・・あっ」
首筋も、肩も、胸の突起も、腕も、背中も、内股も、足の先も
「あっ・・・・あっあっ」
ビクビクと、すぐに身体は反応して
最初からさらけだされているものが頭をもたげ濡れている
「まだ満足しませんよね?」
そうして繰り返される愛撫
ゾワゾワと、支配してくる快感に身を委ねながら高まるものをどうしようもない
「ご・・・ゴローちゃん・・・っっ」
縛られた腕で必死に彼に手を伸ばす
欲しい
高められた場所に、触ってほしい
彼の手で、唇で
そうして、もっといかせてほしい
「まだダメですよ
 さっきのことを反省してもらわないと」
グイ、と腕を頭の上まで上げられて、そこで片手で押さえ込まれた
「あっ・・・・・あぁぁ」
繰り返される愛撫に、だが解放は許されない
「や・・・やだ、ゴローちゃん、」
わかっているくせに
一番求めているものを、わかっているくせに
それを与えずに、悪戯に広く浅く高められていく
「やっっ、ゴローちゃんっっ、お願い・・・・・」
いかせてほしい
身体中感じて、身体中快感に浸っているのに
決定的にいかされない
「お願い・・・・・・っっ」
彼を見た
いつもより、ちょっと意地悪な彼の目
「こうさせたのは、先生でしょう?」
「あぁぁっっ、」
もがいて、背を反らせて、喘いだ
ダメだ
自分ではどうしようもなくて
うずきだけが高まって辛い
「ゴ・・・ゴローちゃんっ、お願いいかせて・・・・っっ」
それで、彼が少しだけ苦笑した
「しょうがない人ですね、アナタは」
やんわりと、彼がやっと中心に触れた
「ひっ・・・・・・・・」
びくん、と大きく背が反る
自分の身体なのにコントロールなんかきかない
クチュクチュと、
与えられなかったもどかしさに泣いていた雫が、彼の手の中で淫らな音をたてた
それが一層身体に、脳に刺激を与える
「あぁぁっっ」
与えられて、
彼の手の中で 一気にそれは解放された
咽がひきつるような、濡れた声とともに

ぼんやりとした意識の中、彼が自分を抱き上げたのが分かった
そのままどこかへ運ばれて、やわらかな場所へ横たえられる
意識を半分手放しながら、僕は思う
ああ、雨の音が聴こえる と

目を覚ましたら、彼が電話をかけていた
起き上がった俺を視界に捕らえて、彼はあと二言、三言話すと電話を切った
俺が放棄した仕事相手だろうか
妙に営業的な会話だった
「できてますよ、プリン」
彼は、少し笑んでキッチンへと行く
しばらくして戻ってきた時には 皿にプリンを盛ってきた
「・・・・・仕事が早いなぁ、さすがゴローちゃん」
「先生が邪魔しなかったらこんなもんです」
出されたプリンを一口口に入れる
ああ、甘い
いつもより、甘くて苦い
「先生のおかげで分量間違えましてね
 おかげで焼いたら焦げるし甘過ぎるんですが・・・」
まぁ、自業自得でしょう
あなたが食べるんですから、と
彼は紅茶をいれながら照れたように言った
ああ、なんて愛しいんだろう
なんて可愛いんだろう
もう一口口に入れて、僕は笑う
それは言い訳だよ、と
「おいしいのが食べたいなら次は邪魔しないでくださいね」
「これも、おいしいよ」
チラ、と彼が視線を合わせた
紅茶をツイと差し出してくる
「ゴローちゃんは食べないの?」
「オレは先生でお腹いっぱいですから」
どこまでも、意地悪だなと
抗議の目を向けたら 彼は笑ってうつむいた
「キッチンに入るたびに当分は思い出しますね」
それで、さすがの俺も少しだけ恥ずかしくなる
「・・・・・・・嫌だなぁ、なんかそれ・・・
 あのテーブル、買い替えようか?」
「いいですよ、オレはあれで」
「・・・そりゃ君はね、俺が嫌だよ・・・」
それで二人して笑いあった
ああ、こんな日も悪くない
外は雨
彼の声の向こうに、雨の音が聴こえている


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