こんな夜は二人して、ワインなんかで乾杯しよう

シャワーを浴びた後、北岡は吾郎の用意したワインを飲んでいた
眠る前に、こういったゆっくりした時間を持つこと
それが、北岡はたまらなく好きだった
何げなく、つきっぱなしになっているテレビに目をやる
たわいないニュース
この時間、こんなものがついているのは珍しくて
きっとゴローちゃんが消し忘れたんだろう、と
ぼんやりその画面を見つめていた
ああ、今日も忙しかったな なんて
そんなことが頭を過る
明日も、忙しいだろう
人のいいゴローちゃんが どんどん依頼を受けてくるから
どんどんスケジュールがいっぱいになる
秒単位で動き回って
俺を、殺す気? なんて
冗談で、思ったりしながら

ザーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

突然、テレビの画面が切り替わった
さっきまで流れていたニュースが消え、不快な音と画面一杯の砂嵐
ドクン、と
心臓が鳴ったのを感じた
何?
突然に、終わってしまった番組
消えてしまった、今迄映っていたもの
寒気が、した

「ああ、電波が不調みたいですね」
キッチンから戻ってきた吾郎が そう言ってチャンネルを変えた
どこも同じ不快な音がする
「アンテナかな?
 ちょっと見てきますね」
言って背を向けた彼に、また寒気がした
嫌だ、
そうやって、背を向けないでくれ

「いい、ここにいて、ゴローちゃん」

声が震えていたのだろうか
驚いたような彼の顔が 俺を見つめた
「先生? どうかしましたか?」
いつもの優しい顔で、彼が側へと近付いてくる
「先生?」
僅かに震える手を、そっと握って 彼は言った
「先生、大丈夫ですよ・・・」

彼の言葉には理屈も、根拠も、筋道も、証拠も、ない
だけど、彼の言葉は俺を安心させる
「ゴローちゃん、抱きしめて」
また、声が震えた
彼は一瞬の躊躇の後、僕の手にしていたワイングラスを取ると側のテーブルへ置き
そして、それから強く俺の身体を抱いた

彼の力は強い
多分、本気を出せば 今よりもっと強いんだろう
「もっと、もっと強く」
不愉快な音が、まだ聞こえている
あの音
突如消えた、今迄あったもの
突然消えるものが この世にはあるのだ
ニュースの画面とか
ここにいる彼の存在とか
この命、とか
俺という、存在とか

「強く抱いて、壊れてもいいから」
ここに俺が確かにいるのだということを、証明して欲しい
間違いなく、俺はここに存在していて
こうして彼に抱かれている
痛みや、熱を感じることができる身体
それが、彼とまだ繋がれると証明してほしい
「抱いて、ゴローちゃん」
めちゃくちゃにしてほしい
何も考えられないように
何も考えなくても、いいように

彼の優しいくちづけが首筋から舌へと降りていく
大きな手で胸や、肩や、腕や、足や、
身体中に触れられ、口付けられ
ゾワゾワと背にしびれが走った
ああ、感じる
彼の体温
それから、優しさ
「もっと、ひどくしていいから」
忘れさせてほしい
あの不快の画面
消えたもののこと
明日もまた、同じように忙しい日になるんだと安心させてほしい
今夜で全てが終わったりしないと、言ってほしい

彼の動きに全神経が集中して、やがて思考ができなくなる
この感覚が好きだ
ほてった場所に触れられて、声を上げた
我慢する必要なんてない
感じるままに喘いで、息を上げて、名前を呼んで
「あ・・・・・あっあ・・・・・っっ」
必死に彼の首に腕を回してすがりついた
身体が高まっていく
うずきも熱さも頂点に達して、身体は彼を求めてやまない
「ゴローちゃん・・・・っっ」
入れて、と
欲しい、と
うめくように、喘ぐように言った
「お願い・・・・・・・っっ」

彼の熱を受け、ビリビリと身体が麻痺したようにしびれた
なりふりなどかまわずに、必死に彼にしがみついて声をあげる
「先生・・・・・・・・・・」
彼の大きな手が髪をすいた
繋がった時の、彼のことしぐさがたまらなく好きで
たまらなく安心する
涙が出そうになる程に
ああ、彼が必要なんだと自覚する
やがて、少しずつ動き出した彼に合わせて、落ち着いていた呼吸もまた乱れ出した
カクガクと身体が自分では支えきれない程に揺れる
淫らな音が耳について
それで、一層気が高ぶる
羞恥なんてない
ただ、求めるものを貪るだけ
彼という存在を、確認するだけ
「あ・・・あっっ、ゴローちゃんっっ、も・・・・・も、ダメ・・」
朦朧とした意識の中、やっとそれだけ言った
あとはただ解放
彼という存在を飲み込んで、
俺という命を、突き上げて、
二人同時に果てた
白濁が、二人の意識にも降りてくる

気づいた時、彼は側で穏やかに いつものように笑っていて
テレビの画面は正常に戻っていた
「・・・・ゴローちゃんが直したの?」
「いいえ、気づいたら戻ってました」
風向きでも悪かったんでしょうね、と
彼は微笑して、グラスにワインをついだ
「どうぞ」
差し出されたグラスに、揺れる白い液体
こんな風に、心安らかな時間が何よりの幸せ
彼の存在が、俺の支え
「ゴローちゃんも飲みなよ」
ハイ、と
グラスを取りに行こうとした彼の腕をつかんだ
そのまま深く口付けをする
「・・・・・?」
コクリ、と
彼は無理矢理に流された液体を飲み下して少しだけ照れたようにうつむいた
「先生、ふざけないでください」
何を今さら、と
すっかり安心した俺は笑う
彼の腕に抱かれて
自分というものを取り戻して
彼という存在を確認して
俺はやっと笑える
いつもの、夜みたいに


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