ZERO-29 その他大勢 (蒼太の過去話)


ホテルの一室で、蒼太はアゲハと二人で鳥羽が戻るのを待っていた
学校から車で空港の側まで行き、そこから飛行機に乗って隣の国へ移動し、そこで組織が手配したホテルに入った
ネロは、ここには合流せず 王子を王室へ連れ戻した後しばらく滞在し調整すると言ってきていて
蒼太とアゲハは、ここで鳥羽とおちあった後 仕事終了の報告を組織へすることになっている
(今日のフライトは17時が最後だから・・・鳥羽さんが着くのは明日かな・・・)
時計を見ながらため息をついた蒼太に、アゲハがつまらなさそうにベッドに腰掛けた
「ゼロってさ、僕のこと嫌い?」
「え・・・?」
「だってさっきから全然かまってくれないよね」
「・・・構うって・・・」
苦笑して、蒼太はアゲハを見遣った
そもそもホテルの部屋は二人別々に取ってあったにも関わらず 荷物を置くなりアゲハがこっちの部屋に来てしまって、ようやく一人になれたと思ったのにくつろぐ暇もなく
蒼太としては、実はちょっと迷惑している
どっちかっていうと、一人でいる方が好きだったから
学校の寮で 他人とずっと一緒だったから余計 仕事が終った今 一人でゆっくりしたかったのだけれど
「学校ではあんなに構ってくれたのに」
「あれは仕事ですから」
苦笑しながら言った蒼太に アゲハは頬をふくらませた
「あーあ、鳥羽さん早く帰ってこないかな
 ゼロは遊んでくれなくてつまんないから、鳥羽さんに遊んでもらおっと」
「そうしてください」
言いながら 蒼太はじわじわと身の内に広がっていく泥のようなものを感じていた
疲れと、アゲハに対する感情が蒼太をまいらせる
アゲハの容姿、スキル、その他の色んな要素に劣等感を覚えるのだ
なんとなく気が重くて 蒼太はまた ため息をついた
早く一人になりたい
そして、何も考えず目を閉じていたい

アゲハは夜には自分の部屋へ帰っていき、蒼太は一人になった部屋でベッドに仰向けに寝転がっていた
何も考えず、目を閉じて、眠りたい
そう思っているのに、眠りは訪れない
仕事で関わった人間のことが 次々と頭を巡っていく
アルベルト、ユーラン、王子、ヒルダ、ホウル、
学校という密室に閉じ込められているのは息苦しかった
上下関係や、主従関係
特異な世界での残酷なやりとりは、蒼太の心を傷つけ身を削らせた
演じることを苦痛だとは思わない
これは仕事で、手段だ
だから、羞恥心も捨て、痛みも甘受し、自らすすんで相手の望むようあろうとする
相手に従うこと
誰にでも笑いかけること
それが蒼太の武器だ
鳥羽がほめてくれた、この世界で生き抜くために有利な性質だ
(だから苦痛じゃない)
そう思っているのに、なのに眠れない
締め付けられるような息苦しさが残り、目を閉じても心は安らがない
ざわざわと、いつまでもいつまでも嫌な感じが残っていく
(いつまで、こんな風に半人前のままなんだ・・・)
毛布にもぐりこんで、蒼太は小さくため息をついた
仕事の最中や、仕事の後 眠れないなんて半人前だと鳥羽に言われている
訓練して眠れるようになっておけ、と最初の頃に言われた
必要なときに眠って、必要なときには何日でも活動し続けること
それができるよう訓練した
パソコンの前での工作なら8日くらいは寝ないで活動できる
潜入行動だって、3日ぶっ続けで動いていてもなんとか保つ
空いたわずかな時間に眠って、体力を回復させることができるようになった
鳥羽のいうように、プロとしてやっていけるよう、訓練した
なのに
(・・・どうして眠れないんだろう・・・)
最近、また眠れなくなった
気が昂ぶっているのだろうか
ベッドに入って目を閉じても、眠りが訪れない
何も考えず意識をそらそうとしても、ふと気づけば考えている
仕事のこと、自分のこと、鳥羽のこと、傷つけた人達のこと、殺した人たちのこと

明け方、
蒼太は起き上がって、ため息をついた
結局5時間ほどベッドに入ってみたけれど、眠れなかった
(無駄なあがきはやめよう)
眠れなければ、寝なければいい
やることは探せば色々あるのだし、そろそろ夜も明ける
今日は鳥羽が帰ってくるだろう
そうすれば、次の仕事のことを考えていられる
(諦めよう)
気持ちを切り替えて、蒼太はバスルームへと向かった
シャワーを浴びると体温が戻る気がする
そういえば、体がずっと冷たかった
長い間熱いシャワーを浴びて 固まった血を溶かすようにして、
それから鏡に映った自分を見つめた
金色の髪、グレーの目
なんとなく気分を変えたくて、その伸びた髪をハサミで切った
痛むはずないのに、なんとなく痛い気がした

昼過ぎ、蒼太の携帯に鳥羽から連絡があった
町にいるから今すぐ来い、と
いつも通りの声に、嬉しくなって蒼太はPDAだけ掴んで部屋を出る
タクシーを拾って指定された場所まで行くと ぷかぷかと煙草をふかしている鳥羽がカフェの前に立っていた
「鳥羽さん・・・っ」
「・・・・・」
鳥羽の視線がこちらを向く
そして、わずかの間の後 おかしそうに笑った
「おまえゲイみたい、その頭」
「え・・・」
ゲイって、と
思わず立ち止まって言葉を詰まらせた蒼太に 鳥羽がまた笑った
「懐かしいな、その長さ
 トラウマ克服したのか」
「トラウマって・・・?」
「その髪型のせいでゲイにつきまとわれたっつって、伸ばしてたんだろ
 なんだ、忘れたのか」
くく、と
笑われて、蒼太ははっとして息を呑んだ
そうだった
教育期間中、鳥羽について世界中まわってたとき 気分を変えようと髪を短くした途端に男にモテてモテてへこんだことがあったんだった
麻薬密売組織にいたから余計、そういう人種が多くて
迫られたり、襲われたり、犯されたり、あの時は大変だった
何より相手が真剣に愛を囁きながら迫ってくるから余計怖かった
それがトラウマになって、あれ以来 髪をあまり短くするのは避けていたんだった
「忘れてました」
「次行く国はゲイ大国だぞ、よかったな」
「・・・冗談ですよね」
「冗談なもんか、よかったな、またモテモテだぞ」
「そんな・・・先に言ってくださいよ」
「まさかそんな切ってくるなんざ思わないだろ」
くつくつ、と
可笑しそうに笑いながら 鳥羽は蒼太の短くなった髪を撫でた
「器用だな、また自分で切ったのか?」
「はい」
「赤毛にしてみろよ、ピアスも増やせ、ゲイ好みに」
「ゲイ好みになりたくてしてるんじゃないんですっ」
「じゃなんで切るんだよ、長い方がオレは好きだがね」
「・・・気分転換です」
ずき、と
胸が痛んだのを感じながら 蒼太はわずかに俯いた
鳥羽が金髪碧眼が好きなのは知ってる
髪は長めの方が けだるそうでいい、と言ってたのも覚えてる
鳥羽好みにしたいと思うこともあるし、鳥羽がそうしろと言ったらするけれど
だけど、隣にアゲハがいたら、自分なんて霞んでしまうだろうとも思う
鳥羽の好みはああいうのだ
けぶるような金の髪、青い目、幼い顔、媚びるような目つき
色気のある、けだる気な表情
その隣に、中途半端な自分が並ぶと思うと とても嫌な気持ちになった
だから衝動的に切った
もやもやとしたものを、消したくて
切り落としてしまいたくて
「ホテルへ戻りますか?」
「なんで? だったらわざわざお前を呼ぶかよ」
「でも、ホテルにアゲハがいるんですが」
「待たせておけばいいだろ」
買い物するぞ、と
言われて 蒼太はくす、と笑った
素直に嬉しい
鳥羽も仕事から解放されて、羽を伸ばしている
そのお供に、自分だけ呼んでもらえたのが とてもとても嬉しい
「ああ、そうそう、これをお前にやろう」
「はい?」
歩き出した鳥羽は、ポケットから一枚の紙を取り出した
「なんですか?」
「診断書だよ、診断書
 治りましたってな、これでオレは晴れて酒、煙草、女解禁なわけだ」
言いながら その手は煙草に火をつけている
そういえば、蒼太が禁止してから約1ヶ月が経とうとしている
律儀に今まで守っていてくれたのだろう
さっき、煙草を吸っていた姿がとても久しぶりだったから、鳥羽は本当に蒼太の言うことを聞いていてくれたのだ
「ありがとうございます、テレーゼさんに報告しておきます」
「最強タッグだなぁ、お前達
 オレはテレーゼにはかなわないが、お前までテレーゼの手下になっちまったら困るんだよなぁ
 悪いことできないじゃないか」
「しないでください、悪いことなんか」
嬉しくて、
どくん、どくんと心臓が鳴るのを感じながら 蒼太は診断書をポケットに突っ込んだ
空は晴れていて とても気持ちがいい
鳥羽の隣を歩きながら 蒼太は笑った
幸福だと感じた

結局、夜まで街をうろうろした鳥羽は、蒼太に服とアクセサリーを買ってくれた
他にもギターやら何やらと買ってくれたけれど、それはとりあえず組織へと送られていき
手元に残したのは 今着ている服と、指輪だけにした
「次の仕事はいつからですか?」
「とりあえず明日向かうつもりだ
 ネロから連絡があってな、王子の後処理にもう少しかかるそうだから アゲハがフリーになるわけだ
 オレはほうってくつもりだったんだが、組織がアゲハも計算にいれた仕事を回してきてな
 だから次もアゲハと同行だ」
「・・・わかりました」
本当は、嬉しくなかったけれど それは表には出さないようにした
仕事に私情を入れてはいけない
組織がそういう仕事を回してきたなら、仕方がない
従うだけだ
自分は組織の駒なのだから
「ランクAの軽い仕事だ
 その後の仕事も決まってる、こっちはランクS
 今回のは その次の仕事の前準備と思っておけ
 Aの仕事の依頼者はカジノの経営者、潜入というか 仕事場になるのはそこと付き合いのあるマフィア
 Sの仕事の潜入先も、同じくそのマフィア
 Aの仕事を利用して そのままSの仕事へ入る
 詳しくはホテルに戻ったら依頼書読んでおけ」
「はい」
「安心しろ、Sの方はオレ達二人だけで、アゲハはいないから」
くく、と
笑われて 蒼太は顔を赤くした
「別に・・・そんなこと思ってません」
「オレの目をごまかそうってなら もうちょっとポーカーフェイスしろよ
 お前はわかりやすいぞ」
「鳥羽さんだからです」
他の人には こんな隠した表情読まれはしないし
鳥羽だからこそ、油断して甘えて、気持ちが顔に出てしまうのかもしれない
「アゲハが嫌いなわけじゃありません」
「わかってるよ」
妬いてんだろ、と
さらと言われて 蒼太はますます赤くなって俯いた
そこまでわかっていて、この人は蒼太の前でアゲハを可愛がるのだ
酷いというべきか、
結局鳥羽にとって、蒼太などどうでもいいというか
「子供みたいな独占欲見せてると笑われるぞ」
「見せてませんっ」
「ミエミエだっての」
鳥羽の言葉に、蒼太は ふい、と顔を背けた
恥ずかしいし、悔しいし、悲しい
鳥羽は世界中にたくさんの恋人がいて、
その誰にも平等に相手をして、楽しんでいる
それと同じなのだ
蒼太もアゲハも、同じ
たくさんいる 鳥羽をとりかこむ人間のうちの一人
鳥羽の機嫌を損ねたらおしまい
嫌われないよう、可愛がってもらえるよう、取り繕って、尽くして、
ようやく側に置いてもらえる
その他大勢のうちの一人として
「なんだ、今度は拗ねたのか?」
「拗ねてません」
「お前は時々わからんなぁ
 従順な犬かと思ったら 気難しい猫に変わってる」
くしゃ、と
髪を撫でられて、蒼太はぎゅ、と唇を噛んだ
それでも、それでも、
鳥羽の隣にいられる時間はパートナーである自分が一番長いと知っているし、
その他大勢の扱いでも、
蒼太のことなど、結局どうでもいいのであろう鳥羽の言葉や態度に悲しくなっても、
この身も心も鳥羽に捕らわれていて、どうしようもなく
ここが一番好きな場所だと、そう感じる
だからここから離れられない

夜遅く ホテルに戻ってきた鳥羽を見るなりアゲハは嬉しそうに頬を染めた
「鳥羽さん、ネロから聞きました
 僕 次の仕事も鳥羽さんと一緒なんですね」
「ああ、そうだ
 ゼロから依頼書見せてもらっておけよ
 明日 出るからな」
「はいっ」
言った鳥羽は 蒼太の部屋に入ると そのままバスルームへと消えた
どうやらこのホテルを手配した組織の人間が アゲハを勘定に入れていなかったらしく、元々2部屋しか予約できていなかったため、鳥羽の部屋を新たに借りることができなかった
鳥羽は特に気にもせず、組織がポカするなんて珍しいな、とか何とか言いながらさして怒ってもいなかったけれど、
おかげで今夜は 蒼太がアゲハの部屋に引っ越すことになりそうだった
「ずるいな、ゼロだけ鳥羽さんとお買い物してたなんて」
「すみません、朝早かったので、まだ眠っていると思ったんです」
本当は鳥羽に電話をもらったのは昼で、その時アゲハのことなど思い出しもしなかったのだが、一応軟らかくそう言っておいた
アゲハが鳥羽を好きなことを知っていて、
鳥羽に誘われなかったのを面白くなく思っているのもわかっていたから
「ゼロって髪短いのも似合うんだね
 でもあんまり色を入れると 髪が痛むよ?」
「もう痛みまくってます」
「・・・うん、そうだね、手遅れかもね」
アゲハの言葉に苦笑しながら 蒼太は自分の顔を鏡に映した
鳥羽が赤毛にしろと言うから、蒼太の髪色は今度は赤みの強い茶色になった
これで少しはゲイから離れたかな、と思う
「ねぇ、ゼロ
 ゼロはあっちの部屋を今夜一人で使っていいよ
 僕、鳥羽さんの側にいたいから」
テーブルに、鳥羽の酒を用意しながら アゲハの話は色々と飛ぶな、と思いつつ
蒼太はわずかに苦笑した
「僕はかまいませんが、鳥羽さんを一人にするのが優先だと思いますよ」
「うん、そうなんだけど、僕どうしても今夜鳥羽さんといたいんだ
 鳥羽さんの邪魔にならないようにするから」
「・・・だったら鳥羽さんに言ってください」
「ゼロがいいなら、そうする
 ゼロには先に言っておこうと思って
 鳥羽さんにはあとで聞いてみる」
「どうぞ」
それは自分に気を使ってくれているのか、釘を刺さしたのかどっちだ、と
思いつつ 蒼太は内心ため息をついた
アゲハの気持ちもわかる
鳥羽の側にいたいという想いは、どうやったって消えない
止められない
だから、昼間側にいられなかった分 夜に、と
そう思うのだろう
蒼太も鳥羽に捕らわれているから、よくわかる

シャワーから戻ってきた鳥羽は、蒼太の作った酒を一気に飲み干した後 仕事の指示を2.3してソファへ腰掛けた
携帯でどこかへ連絡を入れているから 次の滞在先の女か
それとも、仕事の関係か
「ねぇ、鳥羽さん」
そんな鳥羽に酒のグラスを持って アゲハが擦り寄っていった
「んー?」
「今夜、僕もここにいてもいいですか?」
ピ、と
携帯に視線を落としていた鳥羽が アゲハの顔を見た
「僕も、とは?」
「ゼロは向こうの部屋で 鳥羽さんはこの部屋で
 僕は本当は向こうに行かなきゃダメだってわかってるけど、鳥羽さんの側にいたいから」
上目遣い、甘えた声
それに、ああ、と
鳥羽はわずかに笑って 蒼太を見た
意地の悪い目にどき、とする
「ゼロ、お前この間の続き、今夜やるからな
 お前が前より巧くなってなくてオレが満足しなかったら アゲハと交代させる
 だからお前は呼ぶまで待ってろ」
意地の悪い顔、意地の悪い声
どくん、と
瞬間 身体が熱くなって 蒼太は鳥羽を見つめた
アゲハは わずかに目を潤ませて鳥羽を見上げている
「・・・呼んでくれるの・・・・?」
「ゼロが下手だったらな」
それは、もしかすると呼ばれないかもしれないということだ
鳥羽が蒼太に満足すれば、アゲハは呼んではもらえない
蒼太だけが抱かれて、アゲハは抱いてもらえない
(・・・鳥羽さん、ほんとにひどい)
残酷な人だと思う
蒼太だって、うまくやらなければアゲハと交代させられるなんて酷すぎる
だけど彼は平気で言う
そして 本当にそうするだろう
次やるときまでには、もう少しマシになっておけと
確かにそう言っていた
次があると、期待してはいけないと、あの時自分に言い聞かせた
鳥羽は気まぐれで、残酷なのだからと
「ゼロ、手配がすんだら来いよ
 アゲハ、そういうことだ、とっとと外せ」
別に不機嫌というわけでもないのに、こういう時の鳥羽の言葉は本当に冷たい
泣きそうになりながら、アゲハは部屋を出ていった
どくん、どくん、と心臓がなる

鳥羽に言われた仕事の手配を終えた後 蒼太は鳥羽の足元に膝まづいて奉仕した
学校で 何度も何度もユーランにした
その時には体が熱くなることなんてなかったのに、
心は冷めたままだったのに
今は、頭がグラグラするくらい、身体がジンジンとなるくらい感じる
たまらなくて、震える
「おまえ、あの学校で何人とやった?」
「・・・二人です」
「なんだ、意外に少ないな
 アゲハは24人って言ってたぞ」
教師全員と、校長
それから男子生徒の何人か
やった相手には アゲハが男だとバレただろうに それすら問題にならないくらい相手を自分の虜にする
アゲハはそういうことが 本当に巧い
「特技 色仕掛けは伊達じゃないってこたどな」
くく、と
蒼太の髪を撫でながら鳥羽は面白そうにつぶやいた
髪に感覚なんてないはずなのに、ゾク、と震える
しびれそうになる
「でもまぁ、お前の仕事もパターンができてきたな
 確実にポイントを絞れるようになったじゃないか
 あれなら、オレとお前の二人でもいけたな
 次からは、あの程度なら二人で充分だと報告しておけ」
鳥羽に腕を取られ、促されるままソファに膝をついて そそりたったものに自分の身をゆっくりと沈めた
感じる
たまらなく感じる
鳥羽の言葉は蒼太の劣等感を拭い去ってくれたし
与えられる熱は その意識すらふっとばすほどに身を焦がした
震えながら 奥まで鳥羽のものを飲み込んで 耐え切れず声を漏らしながら必死にその身で尽くした
鳥羽とこういう行為をすることも
熱を与えられて、わけがわからなくなるほど感じて、いって、それでもまだなお求めるのも
自分だけではなく、
アゲハも、世界中にいる恋人達も、みんなそうで
鳥羽にとって自分は、その他大勢の一人にすぎなくても
それでも、それでも今だけは
鳥羽の熱を感じていられるのは自分だけなんだと、そう思いたい
「こういう体位の時はな、相手の目を見ろ、感じてる顔を見せろ
 そうやって落とせ」
ほら、顔を上げろと
鳥羽の言葉に 蒼太は俯いて目を閉じていたのを そっと開いた
恐る恐る鳥羽を見る
息が上がって、苦しくて、なのに感じて
どうにかなりそうだ
こんな状態で鳥羽の顔なんか見たら、と
思った途端、はら、と
涙が落ちた
最近 本当に涙腺がゆるい
悲しくなんかないのに
心が痛いのはいつものことで、
鳥羽を想うあまり、わけがわからなくなって真っ白になるのもいつものことで
泣くほどのことじゃないのに
なぜか涙が落ちていく
はらはら、と
震えながら泣く蒼太に 鳥羽が意地悪く笑った
「気をつけろよ
 セックスの最中に泣かれるのが嫌いだって男も、多いからな」
オレは好きだけど、と
激しい突き上げに、蒼太は喉をそらせて声を上げた
「ひっ・・・う、あ、あ・・・っ」
揺さぶられて、身体が一層奥まで沈む
ずくん、ずくん、と
疼きが腹の下でぐるぐると渦巻いていく
たまらなかった
いつもいつも思う
このまま死んでしまえればいいのにと
いつもいつも願う
このまま殺して欲しいと願う

鳥羽の上で喘ぎながら、震えながら
蒼太はその熱を身体の奥で受け止めた
しとしとと濡れたものを手に握りこまれ、先端を擦り上げられて何度も果てた
そのたびに 鳥羽の背に回した腕が痙攣して、爪先が鳥羽の肌に食い込むのを どうにもできなかった
ギリ、と
鳥羽の肌に赤い蒼太の爪痕が残る
「ひん・・っ、ひぁ・・っ、あっ」
涙はとまらない
がくがく、と
突き上げられ、達するたびにシーツを濡らす
「抱かれ慣れて少しは色気が出てきたな」
鳥羽の声にどうにかなりそうになった
何度達しても、
何度白濁した精液を吐いても、
熱は冷めなかった
身体は行為をもっと、と望んで 心は痛みに慟哭している
自分が自分で制御できない
いっそ壊れればいいのに、と
また望んだ

結局、鳥羽はアゲハを呼ばなかったし、蒼太は最後には気を失って朝を迎えた
目を覚ますと自分は昨日と同じソファに眠っていて
鳥羽はバスルームを使っているのか、シャワーの音が聞えていた
起き上がって服を着て、汚れたままのソファを片付けて、
フロントに電話をして 朝食を頼む
そして、ようやく息をついた
熱がまだ、身体の中にあるような気がする
この熱に焼かれて死ねればいいのに


女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理