ZERO-22 メルセデス (蒼太の過去話)


休暇は2週間与えられていたが、蒼太は1週間で組織に戻った
日本でやることを終えてしまえば、後は特にしたいことなどなく
蒼太にとっての居場所は、今や組織のあの部屋であり 組織での自分こそが<本当の自分>だったから

異国の、街中から少し離れた場所にある組織の建物は、広大な敷地の奥に位置している
10階建てのビルの、3階から6階が組織の人間のプライベートルームになっており、
地下には監禁部屋だの拷問部屋だのと物騒な部屋が並んでいる
1階はロビーと医療施設、2階はサロン、7階から10階は訓練室という造りになっていた
最初に敷地内へと入るチェックがあり、角膜と声紋の照合の後ゲートを通され、
そこから車で10分ほどかかる広大な庭を抜けると ビルの入り口へとたどり着ける
(やっぱり車ないと不便だよな・・・)
蒼太は、免許は持っているが車は持っていない
仕事の時はいつも鳥羽が運転しているし、それ以外も組織の人間が送り迎えをしていることが多かった
そもそも、仕事で世界中を飛び回っていて この組織に戻ってくることもめったにないから、ここに車を置いていたって それにのって自分の時間を過ごす暇などあまりない
持っていても仕方がないと思いながらも、
こんな時はとても不便に感じた
ゲートまではタクシーなり何なりで来れるけれど、その先は徒歩で延々30分も歩かなければビルには到着しないのだから
(ここ、もう少し明るくしてくれてもいいのにな)
現在、夜中の1時
こんな時間に帰ってくる自分が悪いのだけれど、ぽつぽつと立っている灯りだけでは暗くて辺りがよく見えない
遥か遠くに見えているビルの灯りを目ざしながら 蒼太はそっと呼吸を繰り返した
冷たい空気が肺に染み込んでいくのが、心地いい

建物の入り口では、指紋、声紋、角膜の照合と、組織の人間が持たされているカードの確認が行われる
係の男性にカードを提示したら、もう顔見知りになっているその男がにこやかに笑って言った
「あんた達は休暇を楽しむ方法を知らないのか?
 たしか、休暇はあと1週間あっただろう?
 鳥羽さんも、昨日帰ってきたが、まさか休暇返上でもう仕事に出るのか? 」
冗談めかしく笑った男に ニコニコと適当に言葉を返し 蒼太は返却されたカードをポケットに突っ込むと2階のサロンへと足を速めた
鳥羽は恋人のところへ行くと言って休暇を取ったから、2週間ギリギリまでここには戻らないと思っていた
それがもう戻っているなんて、と
鳥羽がいつもいるサロンへ入ると、手前のカウンターやテーブルで2人ほど静かに酒を飲んでおり、その奥ではソファで話をするグループがいくつかあった
さすがに夜中だからか、いつもよりも人は少ない
(鳥羽さんの声・・・する)
サロンは2階全域に渡っているので、かなりの広さがある
多分 組織の人間全員がここでくつろいでも余るくらいのスペースはあるだろう
仕事や秘密の話ができるように 1つ1つのソファやテーブルが離れていて、間に高級そうな家具や植物なんかが置かれている
一番手前にバーがあり、軽い軽食も取れるようになっていて、
真ん中あたりはソファが点在し、一番奥にはルーレットやダーツなんかが置いてあった
この組織には娯楽がないから、戻ってきた者で暇なものは 仲間内で賭をして遊ぶ
酒を飲みながら、ダーツをしてみたり、ルーレットを回してみたり
(ほんと、鳥羽さんていつもここにいるなぁ・・・)
どんどん奥へと歩いていくと、窓際のテーブルに鳥羽がいるのを見つけた
鳥羽は、いつもたいてい この席で仲のいい面子と酒を飲んでいる
蒼太は食事は部屋で1人で取るタイプだったし、仕事の話はこんな場所ではしないから 普段はあまりサロンへは来ない
いても、顔をみせる程度で1時間くらいとか、
鳥羽に引き止められて、酒の相手をする時くらいだった
(・・・別に機嫌が悪いってわけじゃなさそう・・・)
遠くから鳥羽の様子を伺って、蒼太はそっと息をついた
休暇があと2週間もあるのに ここに戻ってきているのは何かで不機嫌になったからかと心配したが、今ここで笑っている様子からして そんな風でもなさそうで 蒼太は安心して鳥羽の席へと近寄った
テーブルにカードが散乱している様子からして、何か賭けてポーカーでもしているのだろう
ゲームをしているのが5人で、
その様子を 周りで見ながら楽しそうに酒を飲んでいる男が4人ほどいる
「鳥羽さん」
声をかけると、鳥羽はわずかに目を上げて蒼太を見、にっと笑った
「なんだ、早かったな」
「鳥羽さんこそ」
ギャラリーが勧めるから、側のソファにとりあえず座り 酒をついでくれた男に礼を言う
この辺りには、このグループしかいなくて
丁度奥まったこのテーブルは、向こうで話をしている人たちの姿も見えない
「ゼロ、お前ナイスタイミング
 今、丁度おまえのこと賭けてるから」
誰かが、おもしろそうに言った
「え?」
グラスの酒が冷たくて、30分も歩いてカラカラだった咽を潤してくれたのにちょっとだけ気分が落ち着いた
そんな蒼太に誰かがもう一杯 酒をつぐ
「鳥羽さんと、カーリーが賭けてんの」
「鳥羽さんが負けたら、カーリーにお前を好きにさせるって賭」
一瞬 聞き間違いかと思って 言った男の顔を見ると 相手はにやっと笑って言葉を続けた
「カーリーな、お前のこと気に入ってるみたいだぞ」
「だってゼロが教育期間終る時 自分のパートナーにしたいって言ってただろ
 俺、あの時カーリーに煩いくらい聞いたもん、その話」
周りがやいやい盛り上がっている話に、どうやら当事者である蒼太だけがついていけなかった
「鳥羽さん、どういうことですか?」
助け舟を求めると、鳥羽は何でもないことのような顔をして笑う
「どういうって今聞いたままだ
 カーリーがお前を賭けろっていうから、賭けてんだ、今の勝負に」
「だから、僕を賭けるってどういう意味ですかっ」
グラスを持ったまま 勢い込んで身を乗り出した蒼太に、鳥羽の向かいの席でカーリーと呼ばれた男が意地の悪い顔で笑った
「俺が勝ったら、一晩はお前で楽しませてもらうってことだ」
それで、蒼太は言葉もなく わなわなと震えた
何を言い出すのかと、思った
一晩楽しませてもらうって何だ
当事者のいないところでそんなことを勝手に決めて、勝手に勝負をしているなんて
「鳥羽さんっ」
そんなの酷すぎるだろう、と
立ち上がったら、側でぐだぐだに酔っている男が蒼太の腕をぐいと引っ張ってその身体をソファへと押し倒した
「ちょ・・・っ」
ぽすん、と
皮のソファに背が押し付けられるのと同時に、持っていたグラスが傾いて中身が床にこぼれる
「いいからいいから、お前はおとなしく勝負の行方を見てろよ」
「そうそう、なかなか鳥羽さんが負けそうでレアだと思うぜ? こんなのは」
ここには酔っぱらいしかいないのかという程に、皆がケラケラと楽しそうに笑っている
自分の上に乗っかっている男を押し退けて、蒼太は身体を起こしつつ鳥羽を見遣った
鳥羽が容赦ないのは今に始まったことではなく
こんな風に、自分をモノ扱いするのも、大事にしてくれないのも最初からで、
今さらそれを不満だと言うのもバカらしいけれど
「・・・負けないでくださいよ、鳥羽さん」
恨みがましい目で言った蒼太に、鳥羽はおもしろそうに笑った
「ほんと、お前は俺の言いなりだな
 素直で従順で、大変宜しい」

組織の人間は、みな金を腐るほど持っている
半分くらいは、それでも金が欲しくて仕事をする人間で、あとの半分は別の理由でこの組織にいる
だから、こういうゲームで賭けるのは、たいてい金ではなく別のものだった
大切にしているモノとか、レアなモノとか
鳥羽が普段 何をかけているのか知らなかったけれど、どうやら今回のように人をかけることも珍しくないようだった
「そもそもどうしてこんな話になったんですか」
テーブルについているのは5人で、他の面子は時計やら薬やらを賭けているらしく どっちかっていうと鳥羽とカーリーの勝負を楽しんでいるような様子だった
「カーリーの娘が、鳥羽さんに惚れたって話になってな」
「それで鳥羽さんが、じゃあ付き合おうかって言ったらカーリーが怒ったんだ」
なんだそれは、と
思いながら蒼太は このどうしようもなくソワソワとした気持ちを落ち着けようと 新しいグラスの酒を飲み干した
「放っておいても娘は鳥羽さんが好きなわけだし、鳥羽さんもカーリーの娘だったら面白がって手を出すだろ?
 だから、カードで勝負して、カーリーが負けたら娘を好きにしていいって話になったわけだ
 で、鳥羽さんはゼロを賭けろってカーリーから指定が入った」
(なぜその条件で勝負を受けるんだ・・・)
別に女に不自由はしていないくせに、と
鳥羽を見遣ったら 視線を感じたのか 鳥羽は振り返って意地悪く笑った
「娘に手出したら面白そうだろ?
 話してるだけでこんな怒ってんだから、実際やったらどんな顔するか」
見てみたいだろ? と
言われて蒼太は 眉をひそめて鳥羽を抗議の目で見つめた
そんな、単なる嫌がらせみたいなもののために、自分は犠牲になっているというのに
引き合いに出された蒼太のことなど、これっぽっちも考えていないというか
蒼太など どうでもいいというか
(ひどい・・・)
これも、今さらだけど、と
思いつつ、蒼太は時々にやにやと笑いながらこちらを見るカーリーをこっそり見遣った
彼のことは知っている
蒼太がこの組織に入って 正式にパートナーを決める際 ぜひ自分のパートナーに、と言ってきた男だ
蒼太は鳥羽に選ばれなかったら、彼と組むことが決定していた
鳥羽の試験に合格し、鳥羽のパートナーになれたから そんなことはすっかり忘れていたけれど
「でもまぁ、一晩くらいいいじゃないか」
「そうそう、パートナー変えろって言ってんじゃないんだから」
またしても絡んでくる酔っぱらいを押し退けながら 蒼太は本当にそうならなくて良かったと心の中でわずかだけ安堵した
もし、カーリーがこの勝負に勝ったら蒼太を自分のパートナーにしろと言っていたら
鳥羽は それでもわかったと言いかねない
もちろん、こんな男に好き勝手されるのは嫌だったが、それでも耐えていれば一晩で終ると思えばよほどマシだ
「ゼロ、お前いいの?」
「何がですか?」
「具合」
「具合?」
何のことだ、と
聞き返した蒼太に、カーリーが笑った
「それを、俺が今から確かめてやる」
それで、ぞっと背が冷たくなった
具合って、この身体のことか
女じゃあるまいし、そもそもそういう行為のためにできている身体じゃない
この世界では男色も驚く程多いから、そういう行為をすることも多かったけれど 好きでやっているのではないし
仕事でやる以外ははっきりいってごめんだった
「良くないです」
「何? ゼロは好きじゃないの、こういうこと」
「好きじゃないですよっ、あなたは好きなんですか?」
相手は酔っぱらいだと思いつつ、まともに返答した蒼太に 隣の男が笑った
「俺は、どっちかっていうと、男とする方が好き」
「俺は男にそういうことされるの好き」
その言葉に、ほんとうにこの組織には変人ばかりが揃ってる、と思いつつ
蒼太は言葉を飲み込んで、大人しくソファに座り直した
もう何も言うまいと思う
ここで何を言ったって、どうせまともに聞いてはもらえない
勝負は自分の手の届かないところで行われているのだから

結局、その勝負 鳥羽は負けた
「あーあ、やっぱ今日はついてないなぁ」
「俺の勝ちだな
 約束通りゼロを一晩貸してもらうぞ」
「はいはい、どうぞ」
二人のやりとりに 目の前が真っ暗になりながら 蒼太はじとっと鳥羽を見つめた
鳥羽は、ついている時は恐ろしくついて勝ち続けるくせに、ダメな時は本当にダメなのだ
「ついてないのわかってるんなら、そんな時に賭けないでくださいよ・・・」
恨みがましい蒼太の言葉に 鳥羽は全く悪びれる様子もなく 面白そうに笑って蒼太の髪を撫でた
「悪いな、ゼロ
 かわりに あとでお前の言うこと何でも聞いてやるから 今回は大人しくあいつに可愛がってもらってくれ」
悪いな、と言いつつ
どこかこの状況を楽しんでいる様子は、本当に何を考えているのかわからない
どうせ、自分のことなんて犬程度としか思っていないのだろうと 拗ねるような気持ちになりながらカーリーを見遣ったら 彼は先程からずっとそうだったように 意地の悪い目で蒼太を見て 無言で手招きした
(・・・戻ったばっかりなのに・・・)
今夜、相手をしなければならないのだろうか
長旅で疲れているのに、と思いつつ 立ち上がって側へ寄ると カーリーは満足そうに蒼太の顔をじっと見た
「俺は日本人ってのはあまり好きじゃない
 お前のその髪と目は、なかなか似合ってる」
日本人が好きじゃないなら、自分なんか気に入らないで欲しいと思いながら 曖昧に笑った蒼太に誰かが何かを言った
それがあまり聞き取れなかったのは、強い力で腕を引かれ そのままテーブルに押し付けられたから
「い・・・っ、つ」
腕を伸ばした状態で、上半身をテーブルに押さえ付けられ、そのまま服に手がかけられたのに 蒼太は一瞬で全身が熱くなった
「カーリー、いくらさかってるからって ここでやるのは可哀想だろう?」
「や、俺は見たいねぇ
 鳥羽さんが仕込んだゼロがどんな顔するのか見てみたい」
周りのテンションが上がるのを感じて、ドクドクと心臓が鳴り出した
まさか、ここでやる気なのか
こんな皆のいる前で
鳥羽の、いる前で

鳥羽が負けた時点で、色々と諦めていた蒼太は 身体中をまさぐられながらぎゅ、と唇をかみしめた
カーリーの太い指が何度も入り口をほぐして 前をしごくのに足はさっきから震えてどうにもならない
背を舐め上げられて、入れ墨を消して火傷の痕のようになった傷がズキンと疼いた
震える
こんな行為、好きでもないけれど 触れられれば疼くし 入れられれば濡れる
狂った世界で何度も何度も抱かれ、傷をつけられてきた身体は 心とは関係なく反応する
蒼太が暴れないようしっかりと押さえ付ける腕からかかる強い力とか、
こういう行為に慣れた者が 相手を感じさせようとしてやる触れ方とか
そういうのに、身体はどんどん反応する
それでも、
それでも必死に声を上げないよう 蒼太は目を閉じて歯を食いしばった
鳥羽とする時もそうだけれど、なるべく声を出したくない
こんなことに感じる自分が好きではなく
堕ちていくのを自覚するから 限界まで我慢する
できるかぎり自分の中の快楽に抵抗する
疼きにたまらなくなって震えながら 蒼太はどんどん上がっていく体温と鼓動を なんとか、なんとか抑えようとした
「く・・・・っ、う、っ」
熱いものが入ってくる感触に、背が反り 咽が震えた
それでも、声を飲み込んで目を閉じた
息が荒くなるのはもうどうしようもないけれど、
できるだけ、できるだけ抵抗した
相手にではなく、自分自身に
行為にではなく、それを感じる自分の身体に

「鳥羽、こいついつもこんななのか?」
「そうだな、そんな感じだ」
一度、蒼太の中に白濁を吐いたカーリーは、自分の腕の下で震えている蒼太を見ながら不満そうに溜め息をついた
「俺はどっちかっていうと激しくよがる方が好きなんだが」
「俺はゼロみたいなのが好きだなぁ
 いかにも耐えてますって顔がいい、鳥羽さんの好みもこんなだろ?」
周りで楽しそうに話す声も 遠くにしか聞こえない
カーリーがいくのと同時くらいに 蒼太も無理矢理に高められていったから 僅かに彼が身体を動かすので伝わる振動にも震えて 蒼太は必死に歯を食いしばった
たまらない
この男はあまり相手のことを考えず、入れた後は好き勝手するから たまらなかった
そういうやり方の方が 蒼太には感じる
優しくされても、物足りないと感じるから これくらい勝手にされる方が良かった
だから逆に、身体がどんどん反応して声を上げてしまいそうになる
「もうちょっと楽しませてくれよ、ゼロ
 俺は大声でよがってほしいんだよ」
耳もとでささやかれて、背に何かが走っていった
ぶるぶると首を横に振る
そんなことは、できない
仕事なら、相手に合わせて 相手が好きなよう演じるけれど
これは仕事でもなければ、自分が望んだ行為でもなく
ただのとばっちりなのだから
はっきり言って、さっさと勝手にやって終らせて欲しい
その間をただ耐えていようと、それしか考えていない
「鳥羽、なんとかしてくれよ」
未だ蒼太と身体を繋ぎながら カーリーが抗議するような声で言ったのが聞こえた
相変わらず、周りは楽しそうに好き勝手なことを言っている
「我がままだなぁ、お前」
「勝ったんだから、それくらい言う権利あるだろう」
「はいはい、わかったよ」
テーブルの右側のソファから、鳥羽が立ち上がって近付いてきた
気配に、どくんと心臓がなる
こんな風な姿を、鳥羽に見られていると思うだけで ますます体温が上がる
どうしようもなくなる
「悪いな、ゼロ」
コツ、と
ガラスの何かがテーブルにぶつかった音がして、蒼太は怯えながら鳥羽を見上げた
その手にある小さなガラスの瓶が、コツコツとテーブルに当てられている
「い、・・・・いや・・・・っ」
途端、ぞっとして体温が一気に下がる気がした
その瓶、もう忘れられないくらいに記憶に染み付いている
鳥羽が愛用する拷問用の媚薬
ほんのわずか服用するだけで、気が狂う程感じる身体になる あの薬
「嫌・・・っ、嫌です鳥羽さん・・・っ」
必死に、もがいた
こんな 罰でもなく、仕事でもなく、ただの鳥羽の気紛れのとばっちりに そんな薬を使うなんて
この状態で、そんなものを飲まされたら気が狂う
いっても、いってもまだ足りなくて、
自分から もっとしてくださいと懇願するような そんな身体にされるなんて
こんな場所で、
鳥羽の見ている前で
「嫌っ、嫌・・・っ」
涙目になって暴れ出した蒼太を押さえ付けながら カーリーが嬉しそうに何か言った
やっぱり鳥羽さんて鬼畜だ、とか
俺もまぜてほしい、なんて周りの声が遠くなる
必死に、いやいやと首を振って懇願した
「鳥羽さんっ、嫌ですっ、嫌・・・お願いですからっ」
言う蒼太の顎を掴んで上向かせ その唇に封を切った瓶を当て 鳥羽はわずかに笑った
ぞっとする目
鳥羽の、容赦ないその表情
彼は蒼太が傷つくことを何とも思っていないし、この薬で狂ったようになるのをむしろ楽しんでしまうのだろう
がくがくと震えながら 蒼太はそれでも懇願した
許してください、と
繰り返した唇に、冷たい液体が触れた

「ひっ、う・・・・あ、ぁぁああっ」
薬は速効性で、ざらりとした感触を舌に感じたと同時に 入れられたままの部分が熱をもって疼き出した
「あ、あ、あ、あ・・・・・っ」
がくがくと震えるのと同時に 目から涙がこぼれる
視界に いつもの様子でソファへと戻っていく鳥羽の姿を映しながら 蒼太は感じるのに上がる声を抑えることができなくなった
暴れるのを押さえ付けている腕も、繋がっている部分も、まさぐられている胸の突起も、舌で舐め上げられる背中の傷も
たまらなく、たまらなく、
全部に感じた
触れられる部分の全てに、どうしようもない程感じ、それでもそれでも足りなかった
激しく突き上げられ、熱が奥を抉るようにしても足りない
しとしとと濡れて、今にも達してしまいそうなものを掴まれると 悲鳴を上げてよがった
「ひんっ、ひ、いぁ・・・あぁぁぁああああっ」
がくがくと震えながら、泣きながら
どうしようもない疼きに暴れた
こんなものでは足りなくて
1人の男に犯されているくらいでは、全然足りなくて
疼きは自分の身体から いくらでも生まれ、
どれだけ激しくされても、どれだけ酷くされても もっと、と身体は悲鳴を上げた
「あ、う、う、・・・・・・っ」
ずるり、とカーリーのものが抜かれ、抑えられていた腕が放されると 蒼太の身体はテーブルから床へと崩れ落ちた
「ひんっ、ひ・・・っ、う、う、うぁ・・・・っ」
足を伝う精液のぬるぬるしたものに、たまらなく感じる
入れて欲しい、抜かないで欲しい
止めないでほしい、もっと、もっとして、この身が壊れるまでしてほしい
「なんだ、もう止めるのか?
 それじゃあゼロが可哀想だろ」
鳥羽の声が聞こえた
こんな風に求める姿を見られたくないのに
仕事でなら、いくらでもする
こういうことを武器にできるくらいでないとな、と
この身にそれを教えたのは鳥羽だから、仕事にこの身体を使うことに躊躇はない
でも、こんなのは嫌だ
こんな風に、誰でもいいから犯してくださいと思っている自分を
行為を狂ったように求める自分を見せたくない
見られたくない
「まぁ、このまま放置するってのも手だけどな
 このままだと こんな調子で3日くらいは、苦しむだろうが」
幸い休暇中だし、と
その言葉に本気で、本気でぞっとした
以前 罰だと言ってこの薬を飲まされて放置されたことを思い出す
求めたものを与えられず、放置された身体に気が狂うかと思った
痛みに感じ、わずかの空気の動きに喘ぎ、何度も何度も1人でいって許しを請うたあの地獄みたいな時間
泣いて、泣いて、泣いて、
鳥羽の名を呼んで 何度果てたか
どうしようもない自分に、数え切れないほど嫌悪した
許してくださいと、叫んだ
あんな思いをまたするなんて、耐えられない
しかも鳥羽が見ている前で
「嫌、いや、いや、いや、いや・・・・・・っ」
がくがく、と震えながら蒼太は必死に鳥羽を見上げた
涙で視界が曇って よく見えない
頬をすべっていく涙の感触にすら、感じて震える
「ゆ、ゆるしてくださ・・・っ」
びく、と
込み上げてきた疼きに震えながら 蒼太は必死に爪で床をかいた
身体が熱くて、何もされていないのに、
もう自分が言葉を発するだけで わけがわからなくなっていきそうになる
「や、あ、あ、う・・・・っ」
はだけられた服が肌に触れて、それでぞぞぞ、と全身をたまらないものが駆け抜けていった
「あ、あ、いや、いや・・・・やぁぁぁあっ」
目をぎゅっと閉じて、どれだけ耐えようとしてもどうしようもなく
びくびく、と白濁を吐いて 蒼太は床にへたりこんだまま 手足の先まで痺れる感覚に震えた
ぼろぼろと、涙がこぼれて床を濡らした

「ゼロが可哀想なので、俺も参加していいですか?」
誰かが、言ったのが聞こえた
「カーリーは年だからなぁ、
 2.3回やったら満足しちゃったんでしょ?」
楽しんでるような声があちこちから響く
「そうだなぁ、ゼロがして欲しいって言ったら、してやってもいいんじゃないか?
 そもそも、決める権利は俺じゃなくカーリーにあるからな」
鳥羽の声だけが、やけにはっきりと聞こえた
蒼太にとって、絶対的支配者の声
彼になら、何をされてもいいと思っているから 結局こういう事態でも素直に従ってしまう
こんな目に合いながらも、心の底から求めている
「そうだな、あのすましたゼロが壊れるのは見てみたい」
今でも充分壊れてるけど、と
笑ったカーリーの言葉に 何人かの男の手が蒼太の身体を引き起こした
「ひっ、う・・・っ」
触れられて、たまらなく感じた
「聞いたか? ゼロ
 お前がしてくださいって言えば、俺達が相手してやるぞ」
「そのままじゃ辛いだろ?
 その薬、俺も試したことあるけど、ほんときついもんな」
「恥ずかしがってないで言ってみな?
 楽にしてやるから」
頭の中に、言葉ががんがんと響いてくる
何も、考えられなかった
ただ、この苦しみから解放されたくて
ただ、この疼きを何とかしてほしくて
理性なんかもうどこかへ吹き飛んでしまうほど、身体が求めて求めて求めて
どうしようもない程に、犯されることだけを望んだ
「して、くださ・・・・、」
泣きながら、
それでも、そこに鳥羽がいることだけは忘れることができなくて
「・・・して、してください」
最後の最後の感情で、自分に嫌悪しながら、蒼太は男達に身を差し出した
いっそ狂ってしまいたいと願いながら

目を覚ました時、蒼太は自分の部屋にいた
身を起こそうとした途端、全身に痛みが走り、そのままうつぶせにベッドに引き戻される
(い、たい・・・・・)
記憶は、途中から飛んでいて 最後にはわけがわからなくなって気絶したのだろうと推測した
頭も痛い
咽もかれている
枕元の時計に視線をやったら 朝の8時だったから、丁度薬が切れてすぐの頃だ
(いつまで、してたんだろ・・・)
随分長い間 眠っていたような気がするけれど、あまり時間は経っていないのかもしれない
そんなことを考えながら 痛みをやりすごそうとしていた蒼太の耳に ドアをあける音と、続いて規則正しい足音が聞こえた
(鳥羽さん・・・)
ぎゅ、と胸が痛くなる
羞恥に似たものが、じわじわと身を満たしていく
「なんだ、もう目が覚めたのか」
ベッドまで来ると、鳥羽は蒼太の髪をくしゃと撫でた
それに、ぞく、と何かが背をかけていく
やっぱり、この感じは薬が抜けて間もないからだ
「さっきまでやってたんだから もう少し寝てろよ」
鳥羽が水の入ったグラスをかざしたのを 必死に起き上がって受け取った
このほてった身体を冷やしたい
できればシャワーを浴びて 薬を完全に抜いてしまいたかったけれど 長く起き上がっていられそうにもなかった
水を飲み干すと、また 崩れるようにベッドに落ちる
「今回は悪かったな、
 次は調子いい時にするよ」
ベッドの端に腰掛けて言う様子からは、ちっとも悪びれている雰囲気はなかったから 蒼太はわずかにむくれてシーツに顔をうずめた
「もう僕は賭けないでください」
「そうもいかないんだよなぁ
 なんせ相手が指名するからな」
「・・・っ、断ってくださいよっ」
「カーリーが実の娘の処女を賭けてんのに、断れるかよ
 それなりの誠意を見せてやらないと成立しないだろ?」
「誠意って・・・」
(僕にはかけらもくれないのに)
しかも どうせ1度か2度やったら飽きるような女なんかのために
「鳥羽さんてひどいですよね・・・」
つぶやいたら、鳥羽はおもしろそうに笑って もう一度蒼太の髪を撫でた
「悪かったって言ってんだろ?
 かわりにお前の言うこと何でも聞いてやるから、機嫌なおせよ」
そういえば、そんなことを言ってたっけと、思いつつ
蒼太は 鳥羽に触れられてうずく身体を必死に抑えながら 疲れきった頭で思考した
このしうちに仕返しできる何か
少しでも、鳥羽が自分を見てくれるようになる何か
(・・・僕ってほんと・・・どうしようもないな)
結局、鳥羽の側にいたくて
鳥羽にこちらを見てほしくて
どうしたら、鳥羽に認めてもらえるか そればかり考えている
鳥羽のことばかり、求めている
「・・・じゃあ、車ください」
ぽつ、とつぶやいた
「おー、好きなの言えよ、買ってやる」
意外そうに、だがどこか楽しそうに鳥羽が笑う
「新しいのはいりません
 鳥羽さんの車・・・メルセデスください」
蒼太の言葉に、鳥羽はわずかに驚いたような顔をした
鳥羽は仕事の時も自分で運転するほど、車が好きで
色んな国で借りてるアパートやら女の家に自分の車を置いている
そんな中で、この組織に置いていて 一番気に入って乗っている車があるのを蒼太は知っていた
二人乗りで、蒼太も何度か乗せてもらったことがある
銀色の、メルセデス
それで恋人のところへ出かけたり、ちょっとした旅行に行ったりする あの車
「鳥羽さんがここから出かける時は僕が運転します
 だから・・・鳥羽さんは、新しい車買わないでください・・・」
その言葉に、鳥羽はクツクツと可笑しそうに笑った
「何? でかけるのに わざわざお前に運転してもらわないとダメってことか?」
「そうです・・・」
いつも、気紛れにどこかに出かけてしまう鳥羽を、これで少しは縛れるだろうか
仕事でもプライベートでも、1人でいなくなってしまう鳥羽に これで少しはついていけるだろうか
「生意気言うようになったなぁ、おまえ」
却下されるかな、と思ったけれど
鳥羽はおもしろそうにそう言うと、ポケットからキーを取り出して 蒼太の目の前にそれを置いた
ドクン、と心臓がなる
こんな我がままを、許すのだろうか
それとも、いつか鳥羽はこの約束を忘れて 自分の新しい車を買って やっぱり1人でどこかへ行ってしまうのだろうか
「お前が俺の運転手になりたいんなら、かまわないぜ?」
意地の悪い目で見つめられて、蒼太は体温が上がった気がした
「ありがとうございます・・・」
「ありがとうございますってのはおかしくないか?」
「・・・他に言葉が思い付きません」
ぎゅ、と
キーを握って蒼太は目を閉じ
その様子に、鳥羽はまた笑って立ち上がった
ゆっくりと部屋を出ていく足音を聞きながら、たまらなく泣きそうになったのを必死で堪える
冷たいキーを握りながら、それを与えた鳥羽を想った
求めた蒼太を許した鳥羽に、心が震えた
そしてまた、堕ちていく


女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理