ZERO-16 二重生活2 (蒼太の過去話)


A社のマシューと契約した B社の顧客名簿を奪うためのチームメンバーは蒼太を入れて5名
仲介の人間はもちろんのことと、メンバーのほとんどがインド系の人間で 彼等は常に母国語であるヒンディー語で会話した
彼等の計画では、メンバーの半分を技術屋としてB社にもぐり込ませ、中のシステムを把握し、
同時に残りのメンバーがB社に対して システム管理のソフトを売り込み
あらかじめ中に入っていた仲間と共同して 完全にB社のシステムを作り替え 顧客名簿を奪うことになっている
どうやら ここに集まったのは そういうことを仕事している技術屋ばかりらしい
誰もかれもが頭のよさそうな、融通のきかなさそぅな目をしている
「プロトンとユージが先に潜入する
 ベータと俺とゼロは残る方だ」
このチームは、一番リーダー格の男 アルファが 常に場を仕切っていた
彼等の中の蒼太の認識は、A社からの監視という認識だから もちろんB社に潜入するなどという重要な役は与えられない
はじめて会合の場に出た時 このアルファという男はやけに蒼太を疎んだ
通訳だと紹介したマシューに1時間以上も難くせつけて話が進まなかったほど
俺達が信用できないなら、この話は最初に戻すしかない、とか
こんな何もできないような人間をチームに入れられては 成功する仕事も成功しない、とか
それらを全部 忠実に訳しマシューに伝えながら蒼太は心の中で苦笑していた
そうはいっても、もうこの場に蒼太を出してしまった以上 マシューは蒼太をひっこめるわけにもいかず
自分で交渉しようにも 言葉が通じずでどうしようもない
マシューの話では、途中の段階までは彼等も英語で会話をしていたという
話がまとまりそうになったところで、相手が急に条件を出してきたのだ
信頼の証として、こちらの言語で今後話をしてほしいと
(なんか、プレジデントと似たようなこと言ってるなぁ・・・)
信頼の証だの、忠誠の証だの
プレジデントはことあるごとに 蒼太にその忠誠の証を求め、
そのたびに 蒼太は彼に奉仕を繰り返してきた
だんだんと過激になるオフィスでのセックスの最中 これまた計ったようにマシューが部屋へと入ってきて仕事の報告をさせられていたっけ
わざと、蒼太のいる時に呼んでるんじゃないのかというほど プレジデントはマシューに対して自分の性行為を見せたがった
いつかなんて、執務机の上に仰向けに寝かされ、挿入されてる最中に 彼はそのすぐ側で書類について説明していた
どう印象を変えたって、あまりに近いとバレるかもしれないし
マシューはこちらを見ようとしていなかったけれど、それでも声で何か気づかれても困る、と
その時 蒼太は必死に声をかみ殺していた
(・・・なんか、マトモな神経の人間に最近会ってないかも)
このアルファも、プレジデントのような人間なのだろうか
世界で自分が一番偉いと思っている、とでも言うべきか
どこか不遜な態度、言葉遣いに 蒼太はなんとなくそんなことを思いながら しばらくはだたの通訳に徹していた
結局、彼等の目的は報酬だったようで
マシューが報酬を倍に増やすから 蒼太をチームに入れろと言ったのに 承諾した
「ゼロ、お前はあぶないことはしなくていい
 意味がわからなくても ただ彼等の仕事のことや話していた内容を教えてくれればいい」
マシューはそう言っていた
通訳として会合に出ていた1週間ずっと 蒼太は話の意味にも内容にも興味を示さなかったし
常に別のことを考えているような素振りを見せた
今のブームは、少し卑猥なショーを見ることで、
仕事の後には マシューに劇場の一番前の席をねだったりして それ目当てでのお手伝い程度としか思っていないように印象づけてある
「いいか?
 自分から何かをしなくてもいいから、聞いたこと、見たことはちゃんと教えてくれよ」
いよいよ、チームが行動を開始する前夜 マシューは何度も蒼太に言い聞かせるように言っていた
そのための携帯を買い与えられ ここにメールを送るんだと教えられた
「あのさぁ、どれくらいかかるの?
 僕も行くって聞いてなかったんだけど」
不満そうに言いながら 蒼太は携帯をくるくると弄んだ
「通訳だけって言ってなかった?」
「お前が向こうにいれば 彼等が俺の意向と違うことをしていたらすぐに方向修正の指示ができる
 現場にいてどんな風になっているか教えてほしいんだ
 本当は自分で行くつもりだったが、あの言葉では俺じゃわからない」
結局マシューは蒼太を通訳に使うと決めた瞬間から ヒンディー語のレッスンをやめてしまっていた
「お前を信頼しているから頼むんだ
 そのかわり、この仕事が終ったら何でも好きなものを買ってやる」
「何でも?」
「何でもだ」
ふーん、と
それで機嫌を直したような顔をして、蒼太は 今ここに来ている
マシューの住む街からは少しはなれたB社のある街の、ホテルの一室へ

「まずは1週間以内を目標にB社へ潜入
 中を見て どの程度で把握できるか連絡をくれ」
アルファの言葉に 窓際で煙草をふかしていた鳥羽が 軽く片手を上げた
今日、このホテルで蒼太はアルファ以外のメンバーと会ったが、その中に当然といった顔で鳥羽もいた
蒼太を除けば チーム内唯一の外国人なのに、鳥羽は蒼太とは違ってかなりの信頼をチームの中で得ていた
どういうルートでどうやってこのチームに入ったのか 蒼太には想像もできなかったが、
鳥羽は鳥羽のやり方で、最初の目的であるB社の顧客名簿を奪うためのチームに入っている
しかも、メンバーに自分の有能さを理解させた上で
「ベータ、お前はゼロを見張ってろ」
「見張ってなくたって、僕は何もしないよ」
比べて、自分のこの信用のなさといったら
まぁ、入り方が入り方なだけに、まるでマシューのスパイのような扱いで ここにいる全員からけむたがられている
誰も信用しないし、余計なことをマシューに報告しないよう逆に見張られているような感じだ
(やりづら・・・)
こんなので、ちゃんと仕事ができるだろうか
これは、自分を見張れと言われていたベータを味方につけなければ始まらない
(ほんと・・・面倒臭い仕事)
結局、最初の日は アルファの仕切りでだいたいの計画の確認をしただけで終り
ようやく会えた鳥羽とも、目を合わすことも、もちろん話をすることもできずに終った

次の日から、鳥羽とプロトンがB社への潜入のために出てゆき
残りのアルファとベータで 別ルートからB社にシステムの売り込みを開始した
最初にウィルスを送りつけてB社に軽度のダメージを与え、その後それの回復システムを送りつける
だんだんと、相手に与えるダメージを大きくしたウィルスに変えてゆき、何度もB社に打撃を与えた上で、成す術なくうろたえているところに回復システムを与える
たっぷり時間をかけて10回ほど繰り返すと、あちらから、故意に曝しておいたこちらのアドレスにアクセスしてきた
「決断が遅いんだよ、無能な証拠だな」
「慎重なんじゃないか」
「ともかく接触してきた
 せいぜい高値で売り付けるぞ」
アルファとベータが使っているシステムは、相当高度なものだった
このやり方も、相手の企業からしたら たまったものじゃないだろう
回復システムを売り付けてきている者が 破壊者だとわかっているにもかかわらず、買わなければまた壊される
10回も持ちこたえたのは、あらかじめ潜入した鳥羽やプロトンがこのシステム相手にある程度戦ってみせて なんとか凌いだからだろう
凌いでみせて、10回目で 次が来たらもう無理だと宣告したのか
企業の方が もう次は無理だと判断したのかわからなかったが
「ユージとプロトンは何ていってんだ」
「入れ替え準備まで4日かかるってさ」
別のマシンに届いたメールを読み上げて 蒼太はピアスに手を当てた
鳥羽達が潜入して1週間
毎日毎日こちらもウィルスを送ったり 回復システムを送ったりしていたから B社もなかなかに疲弊しているだろう
「4日か」
「さすがにユージは早いな」
「じゃあ4日後にそれ売りに行くの?」
ぷらぷらと、暇そうにしながら聞いた蒼太を一瞥し アルファは吐き出すように言った
「そうだ、御主人様に報告しておけ
 思ったより早く手に入りそうだってな」
御主人様ってマシューのことかと思いつつ、蒼太は気分を損ねたフリをしてベッドへと場所を移動した
ベータが心配そうにこちらを見ているのを感じながら あえて無視して毛布にくるまる
(4日か・・・
 鳥羽さんが向こうでダミーシステム作ってくれてるはずだから、僕もあのシステムにバグ入れないといけないんだけど・・・)
元々、蒼太達の目的は B社の顧客名簿ではなくA社の顧客名簿だ
B社に潜入し、B社の顧客名簿を奪うふりをしながら このチームのメンバーから名簿を守りつつ
同時にA社から名簿を奪わなければならない
ここにきてから毎日バスルームの中でPDAを通してA社の情報の電子化を進めている
蒼太が何度も何度もプレジデントに忠誠の証とやらを見せたせいで、彼は随分と蒼太を気に入ってくれた
時間をかけて少しずつ、アナログな社内の情報を電子化する許可を得て、
ここに来る直前に 顧客名簿の電子化にもOKを出させた
今ごろは、システムチームの人間が 膨大な量の名簿を電子化するために まるで監獄のように監視された部屋で作業をしていることだろう
それが終るのが 多分3.4日後
丁度 鳥羽の言ってきた時間と一致する
(鳥羽さんの感覚、すごいよな・・・)
二人は この仕事に入ってから一度も会話をしていない
なのに、彼は蒼太の仕事の進み具合を 自分で調べた情報を元に推測し、把握している
そして、それに合わせるように ここでの仕事をしている
だから 蒼太も考えなければならない
鳥羽の求める、自分のしておくべき仕事を
この仕事を成功させるための、奥の手を
(鳥羽さんがB社のシステムを把握して アルファ達が売り込んだシステムを入れると ここのマシンにB社の情報が流れ込むようになってるわけだから・・・
 その時に顧客名簿が流出しないよう 鳥羽さんは今 ダミーのシステムを作ってるはず
 だから僕のやるべきことは)
ぷくぷく、と
湯を張った浴そうに身を沈めながら 蒼太は頭を整理した
(こっちのシステムにバグを入れて、このシステムがA社と関連するものだってわかるような細工をすること)
蒼太達のところにきた依頼は、A社の顧客名簿を奪うことと、A社がB社の顧客名簿を奪おうとした事実の証明の2つだった
一つは、今着実に進んでいるA社の情報のデータ化がすめば 手許の操作一つで可能になる
だが、このチームの存在やプランに関しては、何一つ証拠も記録も残っていないから
このメンバーなら、何の形跡も残さずにことを終え 姿を消すことができるだろうから
蒼太がやらなくてはならない
こちらに残った蒼太が、今からB社に買い取られるシステムの中に バグを一つ仕込まなければならない

毎日毎日、蒼太はアルファとベータと同じ部屋で過ごしているから 1人になれる時間といえばバスルームの中だけだった
初日から1時間もかけて風呂に入ってみせたから 東洋人が風呂好きってのは本当なんだな、と悪態をつかれつつも 長時間風呂にこもっていても とりあえずは疑われずにすんだ
PDAを持ち込んで バグを組み上げていく
こちらの作ったシステムは アルファとベータが作業している後ろから覗いて見た程度だから 詳しいところまではわからない
だいたいの感じで それに合うようなものを作らなくてはならない
実際、二人の目を盗んでバグを仕込めるとしたら 時間は2.3時間しか取れないだろう
2日後にアルファがでかける用があると言っているから、その時しかチャンスはない
ベータ1人なら、なんとかなると踏んでいる
ベータは、アルファとは違って チーム内で邪魔者扱いされている蒼太に わずかながら同情のような感情を抱いているようだったから
ことあるごとにアルファに嫌味を言われながらも  それに悪態をつきつつ、嘆くわけでも、気にするわけでも言い合いをするわけでもなく ただフラフラとそこにいるだけのような蒼太に わずかに興味も持ちはじめているから
(まぁ、そういう風になるようにしてるんだけど)
最初に、アルファがメンバーの仕事をふったときに思ったのだ
鳥羽とプロトンには 彼は信頼を置いている
自分の目の届かないところにいても ちゃんと仕事をすると思ってB社へ行かせたのだ
逆に 信用ならない蒼太と、どういう評価をしているのかベータは自分の側に置いた
加えて、こちらのシステムに関してはほとんど自分がやってしまい、ベータにはそれのチェックや蒼太の監視をさせているのだから 鳥羽やプロトンと比べると あまり信用しているとは言いがたい
それを、ベータとしても気に食わないと思っていたりするのだろう
そのアルファに対する不満は、きっとそれ以上に酷い扱いを受けている蒼太へ対する何らかの感情となって向けられると予想した
だから、ここではなるべく元の人格を崩さないまま ベータの好きそうな人間を演じている
何にも捕われないような、何も気にしないような、自由な人間
堅くてマジメな人間は、全く逆の奔放な人間に興味を覚えると どこかの心理学の本で読んだような気もしたし

風呂で長時間考え事をしていると、さすがにのぼせてくる
最初の1時間程は 服をきたままタイルの上に座り込んでPDAを弄っているけれど、それ以上はいつ誰が様子を見にきてもいいように 服をぬいで湯につかっている
それでも考えることが多すぎて 気づいたら身体はほかほかで
いつもいつも、頬を真っ赤にして出てくる蒼太に アルファは呆れたように 飽きもせず毎日毎日嫌味を言った
そんなに磨いたって、東洋人は白い肌にはならないのにな、なんて
(自分なんかもっと色黒いくせに)
さら、と嫌味を受け流し、蒼太は机の上の水を飲み干して ゆでたこのような身体を冷やす
時間があまりない
何度もPDAに打ち込んで だいたいのバグの構成はつかんだ
あとは、それまでにベータをこちらに落とすだけ

「ゼロ、いつまで風呂に入ってる」
次の日、いつものように風呂の中で長考していた蒼太の様子をベータが見に来た
さすがに2時間も入っていれば 中でどうにかなってるんじゃないかと心配するのだろう
今までも何度か そうやってベータが様子を見にきたことがあった
その時はおとなしく、彼について風呂を出たのだけれど
「一緒にはいんない? 気持ち良いよ?」
「俺はいい
 またアルファに言われるぞ、さっさと上がれ」
「あんなのいつものことだし、言わせておけばいんだよ」
そう言いながらベータにの腕を取ると ぴく、とその肩が揺れた
彼は、こうして蒼太の風呂の様子を見にくる時はいつも どこか緊張したような顔をしてる
意図して、彼と話す時はその目をじっと見つめるようにしているし、
アルファがあんまり煩い時は 意識してベータの側にいるようにしていた
暇そうにしながら 作業中のベータの背中にもたれ掛かってみたり、
彼が好んで飲んでいる酒を たまに作ってやったりもした
そうして、今までずっと 彼の様子を伺っていた
こちらに好意を持つように、少しずつ仕向けてきた
(つもり・・・だけど、うまくいくかな)
いかんせん、ベータはあまり表情がない
というか、意図して殺しているという感じだった
だが最近は、蒼太をよく見るようになったし、こんな風に風呂で肌を曝している様子に どこか意識している風に見える
(色仕掛けとか、組織の人に教わっておけばよかった)
仕事で相手を落とす時は こういう方法は有効だとよく聞いたけれど、詳しいやり方なんかは聞かなかった
鳥羽は当然 そんな方法は使わないといって、女の扱いしか教えてくれなかったし
「何だ、・・・ゼロ」
戸惑った様子で、ベータが言った
「アルファ何してんの?
 あいつ煩いから、部屋に戻るの嫌なんだ」
好きでここにいるんじゃないし、と
悪態をついた蒼太に ベータはかけていた眼鏡がくもったのか それを外してポケットに入れた
「アルファはシステムの調整をしている」
「だったら別に僕が戻らなくても気付かないよ
 あいつ、熱中したら何時間でもやってるし」
きゅ、と
シャワーを出すと 高いところから勢い良く 二人の頭上に水がふってきた
「冷・・・っ」
驚いたようなベータの声
(いいや、もう強引にいくしかない・・・)
とにかく時間がない
アルファがシステム作りに熱中してるなら 今は願ってもないチャンスだ
幸いここには防音効果もあるし、シャワーの音で声なんて外に聞こえない
「こっち来てって言ってんのに」
ぐい、と
力まかせにベータの腕を引っ張った
シャワーから逃げる様にしていたベータは、ふら、と体勢をくずして浴そうに倒れ込む
バシャーン、と
激しい飛沫が上がって、その後湯がバシャバシャと蒼太とベータの二人を濡らした

半ば強引に、蒼太はベータのズボンのベルトを外すと、中のものを取り出して口に含んだ
半分 湯に顔をつけるようにしてそれを勃させる
最初、戸惑ったように蒼太の肩を押し退けようとしていたベータだったが、蒼太の舌でなでられ刺激されるうち 低いくぐもった声を漏らして その快感に身を浸し出した
手でしごきながら、とりあえず一回いかせてしまおうと、根元までくわえこむようにして何度も何度も舐め上げた
先端から透明な雫がたれてきたのに それをわざと指ですくってみせ ちゅ、と音を響かせて舐め取った
そうして、最初の解放を誘い 彼がいったのを見て そのスーツを着込んだまま浴そうにつかっているベータの胸にぴた、と頬をくっつけた
「仕事いつ終るの?
 僕、アルファは嫌いだけど、ベータは好きだよ」
いつまで一緒にいられる? と
言った蒼太に ベータはわずかの沈黙の後 蒼太の肩や背の銃の傷痕を手で撫でた
「聞きたかったんだが、この傷は何なんだ」
「それ? マシューがやるんだ、逆らうとお仕置きだっていって」
本当に撃つんだよ、信じられる? と
口からでまかせを並べ 蒼太は両手をベータの首に回した
「依頼主か」
「そうだよ、あいつ僕のことなんか本当は大事じゃないんだ
 危険だから気をつけろって言うくせに こんなところに放り込むし、殴るし蹴るしあげくに銃でおどすんだから
 何度も逃げようと思ったけど そのたびに捕まってね、ひどいことされた」
だから本当は帰りたくない、と
蒼太の言葉に ベータは黙って何かを考えているようだった
(・・・この人 反応薄くてよくわからないんだよね・・・)
蒼太的には 何でもいいからこちらに興味を持ってもらいたかったのと、
できれば同情のようなものを抱いてほしかった
自分より弱い者には 人は気を許すから
2日後の、アルファが用事ででかけるという日までに ベータと通じておけば、彼を欺きやすくなる
あのシステムにバグをいれるすきを作りやすくなるのだ
今、ここで彼を落としてしまえば
彼に気を許してもらえれば
「してよ、いいでしょ?」
一度 達して萎えたものを 蒼太はもう一度その手で擦り上げて勃たせ、その上に自分で腰を下ろした
湯の浮力で 体重をかけようにもうまくいかない
それでも なんとか入れようとして眉を潜めた蒼太を ベータは抱き上げると一度立たせて壁に押し付けた
そのまま、足を開いて尻をつきだすようにした蒼太の前に手を回し 蒼太がしたように擦りあげる
同時に、指を 蒼太のひくひくと求め出した部分に沈め 中を何度かかきまわした
「ん・・・う、んぅ・・・っ」
がくがくと、足が震える
刺激された前から雫が垂れるのを感じながら 指がぬかれ かわりにぬらぬらとしたものがあてがわれるのに ぴくりと肩を揺らした
「早くきてよ、ベータ・・・」
求めるように催促する
ずっとそう演じてきたように、こういうことに快楽を感じるような そんな人間のふりをした
やがて挿入された熱いものに、声をあげてよがってみせ、
ベータ、と
名前を呼びながら達したら、彼も蒼太の中で震えるように熱を吐いた
ザーザーと、煩いくらいのシャワーの音の中 湯気の熱にあてられながら 二人はしばらく身体を繋げたまま浴室にいた

そうして、それから何ごともなく過ごして、アルファが朝から出かけた日
部屋で二人きりになった蒼太とベータは この時を待っていたとばかりにベッドで身体を合わせた
「お前を連れて帰ってやる
 私のものになるなら、お前は依頼主のところへは帰らなくていい」
蒼太を抱きながらベータは言い、その言葉に蒼太は心底嬉しそうに笑ってみせた
「嬉しいな・・・」
彼のものを深くまで飲み込み、わずかに苦し気に眉を寄せ
それでも、もっと欲しいといわんばかりに自分から腰をふって求めた
何度も抜き挿しを繰り返して、強制的に身体を高め 相手のいきそうなのに合わせて自分もいくよう呼吸を合わせた
色んなことを考えながらセックスをした
余計な感情は、一切湧いてこなかった

2時間も3時間も抱き合ったあと、蒼太はグラスの水を半分くらい飲んで 残りをベータに渡した
受け取って、火照った身体を冷やすかのように飲み干したベータに抱き着いて、その身体をベッドへと押し付ける
さっきの水には薬を入れた
蒼太は慣らしてあるから効かないが、普通の人間が飲めば30秒ほどで眠ってしまう
「ね、アルファ何時に帰ってくるの?」
「夕方だと言っていた、まだ大丈夫だ」
「だったら、もう一回しよ」
「お前 あれでまだ足りないのか」
言いながら、ベータの目が閉じられていく
薬が効いたかな、と思いつつ しばらく様子を伺った後 蒼太はベータが完全に眠ったのを確認して ベッドから下りた
急いでシャツを羽織り、マシンの前に向かう
ロックしてあるのを無理矢理開いて まずざっと目を通した
想像通りの部分と、考えていたのとはちょっと違う作りの部分がある
どこにどうやってバグを入れるかは もう何日も何日も考えていたから迷うことはなかった
とにかく、早く
アルファが帰ってくる前に バグを仕込み終え、ベータを起こして服を着させ 自分は何ごともなかったかのようにしていなければならない

2時間で、作業はすんだ
マシンを使った形跡を消し、服を脱ぎ捨て ベータの隣に戻ると、薄い毛布をかぶって横になる
そうして、細い針でベータの首にチクリ、と気付け薬を注入した
これで5分もしないうちにベータは自然と目覚める
蒼太はここで 何も知らない顔で眠っていれば、彼がアルファが帰る前に 起こしてくれるなり、服をきせてくれるなりするだろう
疑われずに、ことは終る
あとは、鳥羽の指定した日を待つだけでいい

その日はすぐにやってきた
アルファの作ったシステムがB社に渡った2時間後、鳥羽の操作でB社の情報が次々とこちらのマシンに流出してきた
顧客名簿の全部が流れ出てくるのに5.6時間はかかるだろうか
それでも、仕事は成功したも同然だった
打ち合わせでは、そろそろ鳥羽とプロトンもここに戻るはずだ
B社にいる人間では、この流出を止めることはできない
だから、あの場にいる必要は もうなかった
「ゼロ、おまえの御主人様に連絡しておけよ」
仕事はもう終りましたって、と
アルファの言葉に 蒼太は気のない返事をしてポケットから携帯を取り出した
丁度 昨夜 A社の全情報の電子化が終了したところだった
前に蒼太が入れたシステムの上に綺麗にのっかっているのを確認した
ボタン一つで、A社の顧客名簿はB社へと転送することができる
その実行ボタンを、携帯で押せるように設定してある
それを今押した
あとは、蒼太が仕込んだバグが作動するのを待てばいいだけ
(・・・これで終了、あとはここから逃げるだけ)
鳥羽は、当然 このホテルにはもう戻ってこないだろう
どこかで蒼太の仕事を見届けて、完全に自分達へ与えられた仕事が遂行れさたことを確認したら 最初のホテルへ戻るか
それとも直接空港へ向かうか
「煙草買ってくる」
立ち上がると アルファがいつになく上機嫌で言った
「ついでに酒も買ってこい
 ユージとプロトンも もうすぐ戻るだろうしな」
うん、と
やはり気のない返事をして、部屋のドアに手をかけた
ドアをしめる時 蒼太を見ていたベータと目が合ったけれど、特に何も感じなかった
全ては仕事のための演技で
関わった者達は皆、ただ通り過ぎていくだけのモノでしかないのだから

6時間後、手許のPDAで 蒼太の仕込んだバグが正常に作動したことが確認できた
A社の顧客名簿も すべて流出し終え、
途中で情報流出に気付いて対処しようとしたA社では 蒼太以外の人間には一切触れないようロックがかかってあるシステムに会社が傾く勢いの大混乱だった
アルファのいるホテルでも、マシンに転送されてきている情報が偽者な上、自分達の入れたシステムのバグのせいで 一連の企てがA社によるものと判明してしまい、報酬を受け取るどころの騒ぎではなかった
「ブロトンはどうしたんですか?」
「薬で眠らせて車の中に置いてきた」
まぁ適当に逃げるだろう、と
仕事の確認をしている蒼太の隣で、鳥羽はてのんきに煙草をふかしている
蒼太の予想通り、煙草を買いに行くといったままばっくれた蒼太のところに連絡をしてきた鳥羽は、空港に来いといってきた
マシューから与えられた携帯を通りのゴミバコに捨て、蒼太は空港に向かい
2時間待った後、鳥羽と合流した
そして、今、この国から出るための飛行機を こうしてのんびりと待っている
「おまえ、今回何人の男と寝た」
「・・・3人です」
「そりゃ御苦労だったなぁ、お前もなかなかやるじゃないか」
あのベータまで落としたか、と
おかしそうに言われて、蒼太は軽く鳥羽を睨み付けた
「他に方法を知らないんです」
「色仕掛けが一番てっとり早くていいだろ」
「色・・・っ」
この仕事の間中 ずっと気を張っていたから 実はさっき鳥羽の顔を見たら安心して気がぬけてしまっていた
変態ジジイに膝を折って奉仕するのも、オフィスで抱かれるのも
その息子に甘やかされながら毎日のように身体を弄り回されるのも
堅い男を強引に誘ってその気にさせて 何度も何度も行為に及ぶのも、疲れた
今回は本当に、疲れた
「でもまぁ、よくやったな
 今回俺はたいしたことはしてないから、お前の手柄だなぁ」
PDAの電源を落とした蒼太の髪をくしゃ、と撫でて鳥羽は言い
その言葉に 蒼太はうっかり泣きそうになってうつむいた
途中でわかってしまったのだ
アルファ達が急に母国語のヒンディー語で交渉を始めたのか
いつまでも、このチームに入ってこない蒼太を助けるために、すでにチームにいた鳥羽が アルファに自分達に有利なよう今後母国語で交渉しろと言ったんだということ
そうなれば、ヒンディー語が話せないマシューは通訳を探すしかなくなり、
そのチャンスを 蒼太が逃さずものにすれば チームに入るきっかけができる、と
(ようするに、最初の段階から僕は鳥羽さんに助けてもらってたのに・・・)
それでも、誉めてもらえた
それが嬉しくて、ようやく仕事が終ったのだと安心して 泣きそうだった
「甘いのもちったぁマシになったみたいだしな」
男を3人もたぶらかしておいて、何も気にしていない風の蒼太に 鳥羽は満足そうだった
実際、蒼太は騙してきた男達に対して 罪悪感や、もっと他の何かの感情を持ってはいなかった
最初から、ちゃんと切り替えができていたから
仕事モードから プライベートモードへ切り替わった今 彼等のことなど考える気もなかった
側に鳥羽がいるのだから
今は彼の側にいられる喜びのことだけ、考えていたい
「このピアスのおかげです・・・」
蒼太の言葉に 鳥羽は笑っただけだった
上機嫌で饒舌な鳥羽と二人 深夜の飛行機に乗り 蒼太はそっと目を閉じる
多分もう、自分は仕事の上で何かを迷ったりすることはない
鳥羽の隣にいつまでもいられるよう、
今日のように誉めてもらえるよう、
それだけを考えて 生きていく


女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理