ZERO-13 再教育 (蒼太の過去話)


組織に戻った蒼太は、その足で地下の一室に連れて行かれた
腕を後ろで縛り上げられ、床に引き倒されて口の中に薬を流し込まれる
ざら、という舌触り
忘れられない、あの甘い味
ドクン、ドクン、と
恐怖に 身体がこわばっていった
「お前が最初にやるべきことは、その甘さを消すことだ
 ここで3日くらい反省すれば、少しは冷静になれんだろ」
震えながら見上げた先 未だ怒った目をした鳥羽がいる
「ゼロ、教えておいてやる
 その薬はひどく犯されれば5.6時間程度で効き目は切れる
 だが、何もされずに放置されると まぁ3日は持続する
 地獄みたいな時間がな」
前髪を掴まれて 痛みより先に疼きを感じた
ガタガタと勝手に身体が震えている
怖いからか、それともじわじわと身体中に広がっていく熱と疼きからか
「鳥羽さ・・・」
「たっぷり反省しろ」
冷たく笑った鳥羽は、乱暴に蒼太を突き放すと 床に転がって呻くような声を上げた蒼太を一瞥し 部屋を出ていった
暗くて、冷たい部屋にたった1人取り残される

手足がまず、痺れて震えた
わずか身を動かすだけで肌に触れる服の感触に 気がふれそうになる程感じ、
縛られた腕に食い込む縄に、ざわざわとまるで何十本の手でまさぐられているように昂り出す
どうしようもなかった
解放を求めているのに、何もされない
わずかの刺激に身体はありえない反応を見せる
たまらなくて、どうしようもなくて
蒼太は目をぎゅっと閉じてただひたすらに耐えた
ぴくぴく、と
そそり立ったものが最初の解放を迎えた時には 自分の出したものの ぬる、とした感触に 声を上げて震えた
身体中が狂ったように刺激を求めて、
だが求めただけ与えられず 乾き震え喘ぎ、求めて泣いた

「ひ・・、ひぁ、いゃ、や、や、やぁ・・・・あああっ」
2時間経つ頃には 腕を縛り上げている縄に血が滲むほど、蒼太はもがいてもがいて声を上げていた
何も考えられなかった
ただひたすらに、求めて求めて求めている
何でもいい
痛みでもいいから、与えてほしいと 狂ったように声を上げた
「あ、あ、あ、・・・・っああぁぁぁ、いゃ・・・・や、ぁっ」
何度いっても、まだ足りない
もっと欲しいのに、与えられない
この苦しみは、つい1ヶ月前にD伯爵らに犯されていたあの時とは比べ物にならなかった
あの時は、この身体を4人の男が休みなく犯し続けた
痛みや疼きで わけがわからなくなったけれど、それでも欲しいものは与えられた
こんな風に、何も与えられないまま、
身体だけこんな風にされて、放置されることの方が何倍も辛い
「い、い、いや・・・・っ、あぁぁぁ、あ・・・っ」
ドクンドクン、と
唯一 この身体に痛みを与える縛られた腕の傷に、身体中の血が熱くなって熱くなって
見開いた目からボタボタと涙が落ちるのを感じながら 何度も何度もひとりでいった

1日たっても、2日たっても、身体はおさまることを知らず
蒼太は時々気を失って、またわずかな自分の動きに刺激され覚醒し喘ぎ、いき、
それを繰り返して 何もわからなくなっていた
後ろに回されて縛られた腕は麻痺してもう動かない
声はとっくに枯れて、涙だけが いくたびにぼろぼろとこぼれた
「鳥羽さん・・・」
出ない声で呼んでみる
うわごとのように、床に転がって震えながら
「鳥羽さ・・・・」
ドクン、と
もう何百回と感じた疼きがまた生まれた
「ひっ・・・・」
一気に身体が緊張し震え出す
苦しみを恐怖する心が 無意識に悲鳴を上げさせる
「あ、あ、・・・いや・・・・い・・・・っ」
ぞわぞわと、背を何かが這い上がっていき、
望んだだけ満たされない乾きに 蒼太はぎゅ、と目を閉じた
何度も何度も、もう嫌だと叫んだ
許してくださいと声を上げた
だがそれで この身がおさまるはずもなく、懇願を聞いてくれる人もいない
この部屋には蒼太1人きりで、あれから一度も鳥羽は姿を見せていない
「うぅぅぅぅっ、うぁ・・・・っ、あ、あ、あっ」
泣いた
声の出ない咽は 掠れた悲鳴を上げる
あとどのくらい、この地獄が続くのかと絶望した

3日目の昼過ぎ、鳥羽が部屋へ来た時 蒼太は気絶していた
わずかに眉をひそめ、煙草に火をつけた後 鳥羽は部屋の隅にあるホースを引っ張って来て手許のスイッチを入れた
途端、大量の水が噴射され、蒼太の顔に勢い良く流れる
「ぐ・・・っ、かは・・・っ」
覚醒し、吸い込んだ水にむせ返りながら 蒼太は一気に正気を取り戻した
ぐたぐたになって もうわけがわからなくなっていたものが 冷たい水で冷やされて戻ってくる
薬の効き目も 消えかけている
「ちったぁ頭冷えたか?」
問われて、はい、と返事をした
震える
そして、ようやく何かほっとしたような救われたような気持ちになる
鳥羽の目は あの怒っている目ではない いつもの目に戻っていて、水浸しになって転がっている蒼太を見下ろしていた
「1時間 時間をやる
 着替えて7階フロアに来い」
ようやく、ホースの水を止め 鳥羽は蒼太の腕の縄を解いた
長く縛られていたせいで、身体が完全に固まってしまい、蒼太はすぐには動けなかった
そんな蒼太を気づかいもせず、鳥羽はさっさと部屋を出ていく
残されて、必死に痛みと戦い身を起こしながら 蒼太は鳥羽の後ろ姿を視線で追い掛けた
行きたい、あの場所へ
鳥羽と並んで歩く、その場所へ

30分かけてようやく身体が動かせるようになった蒼太は、水浸しになった部屋を片付けて、自室に戻りシャワーを浴びて着替えた
指定された7階は 未だ足を踏み入れたことのない場所で、エレベーターを下りた蒼太に テレーゼが声をかけてきた
「久しぶりね、大丈夫?」
「はい・・・」
返事の声が掠れているのに、彼女はわずかに苦笑して 奥に並んでいるベッドを指差した
「祐二から聞いてるわ
 脳内シミュレーショントレーニングをするから、あのベッドに横になってちょうだい」
(脳内・・・?)
言われた意味はあまり分からなかったが、蒼太はテレーゼの指示通り 奥のベッドに横になった
3日 飲まず食わずであの罰を受け、そのままここに来たから 身体はもうフラフラだった
鳥羽に浴びせられた水で身体が冷えきって、手はまだ完全に感覚が戻っておらず震えている
そんな蒼太の様子に わずかに溜め息をつき、テレーゼは横になった蒼太の頭に何本ものコードを設置した
同時に 両手両足が枷でベッドに固定される
ドクン、と
一瞬 恐怖が身を過っていった
「怖いでしょうね、
 でもこれからもっと怖いことが起きるわ」
ドクドクと心臓がうるさいくらいに鳴り出した
「祐二が言ってたわ
 あなたは人の機嫌を読むのには長けているけれど、相手の立場を理解する心が欠けてるって」
その言葉に 蒼太は唇をかむ
わからない
相手の気持ちや立場を理解して何になるというのだ
情報として知っているだけではだめなのか
仕事相手に余計な感情移入をしてはいけないと言われているから、あえて触れないようにしているのに
考えないようにしているのに
相手のことを考えたら、仕事と割り切ることができなくなるではないか
この世界の鉄則だと、言われたことが遂行できなくなる
「少し意味が違うわね
 私達がしなければならないことは、相手の立場を理解した上で接すること
 感情移入とはまた別の話
 相手の気持ちに呑まれろと言ってるんじゃないの
 理解した上で、それさえ利用できなければダメ」
そして、と
側のマシンを触りながらテレーゼは笑った
「相手って、何も敵ばかりじゃないわ
 自分が守らなければならない相手も、いるでしょう?」

テレーゼがスイッチを入れると 蒼太は一瞬意識を失った
そして、次に気付いた時には 暗い空間に1人立っていた
何もわからない状態で、ここに立たされている
そうして、そんな蒼太に 次々と知らない人間が襲い掛かってきた
何も考えられなかった
ただ、ひたすらに、蒼太は暗い空間を走って逃げた

「それにしてもスパルタね
 まだ新人なんだから 少しくらい手加減してあげなさいよ」
「してるだろ
 新人じゃなかったら 二度と組まない、あんな甘いガキとは」
ベッドに横たわって目を閉じ 意識の底を漂っている蒼太を見ながら 鳥羽は大きく溜め息をついた
「面倒くさいなぁ・・・、いつまで俺は教育係なんだ」
「この子が育つまでずっとよ」
「時々無性に捨てたくなる」
「今までは、そう言ってすぐに捨ててきたじゃない
 ゼロには、それでも連れて帰ってきて再教育するんだから あなたこの子を気に入ってるのよ」
そうかね、と
煙草に火をつけようとした鳥羽の手を テレーゼは無言で止めた
そして微笑する
「ここは禁煙よ、忘れたの?」
「・・・相変わらず、厳しいねぇ」
「医者の前でそういうものを堂々と吸うんだから あなたも相変わらずよ」
長生きできないわよ、と
言うテレーゼに 鳥羽はくく、と笑った
「長生きするのに興味はない」
そうして、蒼太を見下ろした
「いつ死んでもいいと思ってる奴しか、こんな稼業は続けられない」

蒼太は、ただひたすらに恐怖していた
わけのわからない不安がどっと押しよせて、なぜだが意味もわからず恐怖していた
知らない人間に襲われること
撃たれ、斬られ、引き裂かれ、抉られる
それらから逃げながら 必死に何か助けを求めていた
誰を呼べばいいのかわからず
どこに逃げればいいのかわからず
ただがむしゃらに逃げ隠れながら このどうしようもない恐怖をただただ感じて怯えた
意識の底に、刻み込まれていく
わけのわからない恐怖が
それを助けてくれる者を求める思いが

1時間で、テレーゼは蒼太を覚醒させた
目を覚まして ベッドに横になったまま 放心状態の蒼太は起き上がることもできずに天井を見つめている
「これから1ヶ月間、あなたには色んな感情を覚えてもらうわ
 そして、それに左右されない意志の強さを手に入れるのよ」
テレーゼの言葉に 今までのは現実ではなく何かの脳への作用によって見ていた夢みたいなものだったのかと理解する
「この間の仕事で祐二に叱られたことを思い出しなさい
 あなたの依頼主は、恐怖からあなたに守ってほしいとすがっているのよ」
その言葉に 自分の都合で 危険な刺客のいる船の中 1人きりにしたヨーマのことを思い出した
逃げて逃げて逃げて怯えた夢の中、蒼太も助けてくれる誰かを求めていた
ヨーマにとって、自分の命を狙われている船の中 護衛の蒼太が行ってしまって1人どれだけ不安だったか
使ったこともないような銃を渡されても、何の支えにもならなかっただろう
青ざめていたヨーマの顔を思い出して 俯いた
何かを守るということは、命さえあればいいというものではない
全ての危険から遠ざけて、無傷でおいておくこと
あの時、鳥羽はそう言っていた
蒼太は、ヨーマの恐怖を理解していなかったし、自分の感覚で 銃があれば身を守れるなどと思っていた
彼が銃の使い方を知っているかどうか、確認もしないで
「祐二の相棒にふさわしい人間になりたいんでしょう?
 あなたは頭のいい子だわ
 それに努力家だし、従順だし、祐二によくなついてる
 私が彼と組むのをやめてから まともに長続きした相棒があの人にはいなかったから、少し心配していたの
 あなたのような子が彼の側にいたら、私は安心できるわ
 だってあの人、なんだかんだいいながら、あなたといるようになってからとても楽しそうだもの」
テレーゼが 蒼太の頬に手を触れた
いつから泣いていたのだろうか
はらはらと、涙がこぼれて頬を濡らしている
「泣かないで、いいことを教えてあげるから」
蒼太の涙を拭きながら テレーゼは優しく微笑して囁いた
「祐二が再教育してまで自分の側に置くのは あなたが初めてよ」

その夜 蒼太は久しぶりに深い眠りに落ちた
どんなに辛くても、どんなに痛くても、どんなに苦しくても
どうしても、どうしても鳥羽の隣に立ちたかった
彼の求めるような プロになりたかった
そのためなら何だってやると心に誓い、あと1ヶ月続く今日のような訓練への恐怖を必死に飲み込んだ
1ヶ月間 鳥羽は待っててくれるのだ
蒼太がこれで育つのを
今度こそ、と思った
泣きたくなるくらい、鳥羽の側にいたかったから


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