ZERO-11 狂宴 (蒼太の過去話)


鳥羽のパートナーとなっての最初の仕事は、裏の世界ではかなり有名な秘密倶楽部への潜入だった
依頼書を見ると「D伯爵の所持する爆弾の解体」と書かれてある
D伯爵の名は、時々耳にする
有名な革命家の影には必ずいる、爆弾作りの名人で 今回も某組織から依頼された爆弾を運んでいる最中だとか
あれが使われると、その威力はたちまちに一国を揺るがしてしまう
毒ガスだったり、たちの悪いウィルスだったりを仕込んだ特殊な爆弾は、並の者では解体できない
狙われた国は、それが国に届くまでに 何が何でも解体してくれと、かなりの高額で依頼がきている
もちろん仕事の難易度ランクはSである
「爆弾解体なんて・・・誰がやるんですか」
「俺」
煙草をふかしながら、鳥羽が言った
目がもう仕事モードに入っている
「え・・・?」
「俺の特技、爆弾の解体」
その言葉に 蒼太は驚いて鳥羽を見つめた
初めて聞いた
そして、本当にこの人は何でもできるんだなと感心する
蒼太の、組織のデータに書かれた特技はプログラミングとなっている
その腕さえ、鳥羽にはまだかなわない
蒼太より遥か上のプログラミングスキルを持ちながら、鳥羽はそれを最大の武器としていないなんて
爆弾解体なんていうとんでもないスキルを、持っていたなんて
(そういえば・・・最初、お手製の爆弾とか言って持ってきたっけ・・・)
まだ蒼太が麻薬の中から戻り切れていない頃、無理矢理に爆弾解除のプログラミングをさせられた
その時もって来ていた爆弾は、そういえば鳥羽の手製だったか
解体ができるなら、当然作るのも簡単なのだろう
この人は 計り知れないな、と思いつつ 蒼太はそっと息を吐いた
鳥羽の見つめる書類には 今回解体する爆弾の設計図が描かれている
D伯爵は 爆弾を作り上げた後すぐに起動スイッチを入れる
何時間後、何日後、または何年後に爆発させるかは、すでに組み込まれてあり 彼は時限装置を動かしたまま いつも現地までそれを運ぶのだった
彼だけが、その爆弾を移動させることができ、他の者が盗んだりすれば一発でドカン
唯一の処理方法が 置いてあるその場で解体することだった
だから、今回も、その爆弾の作り手がD伯爵であるとわかった瞬間から、現場への潜入は必須で、さらにその場で処理できる者が必要だった
「まぁ、この手の依頼は大抵俺のとこに来るな」
D伯爵の爆弾を解体したことが10年くらい前にも一度だけある、と
鳥羽はつぶやくように言った
紛争の最中、その国に持ち込まれてしまったものを探し出し、ギリギリの時間の中でやった作業に 一時は死ぬかと思ったけれど、と
言いながら言い書類をぺらぺらとめくっていく
設計図は全50枚のうち、20枚までしか集められなかったようで、鳥羽はぶつけ本番、中を開きながら 残りの30枚分に書かれているはずの未知の部分も解体しなくてはならない
「最低10時間はかかるな・・・
 まぁ、今回はギリギリじゃないだけマシだ」
ぽつ、と鳥羽がつぶやいたのに、蒼太は黙ってうなずいた
「お前の仕事はD伯爵の足止めだ
 10時間、時間をかせげ」
「はい」
ため息をついて、鳥羽は資料を机の上に放り出し 何か考えるように宙を見つめた
頭の中で、今見た設計図を元に解体をシミュレートしているのだろうか

ターゲットのD伯爵がいるのは、この街の高級カジノの地下にある秘密倶楽部という名のホテルだった
そこでは夜な夜な、淫らな行為とパーティが繰り返されている
幼い子供が売り買いされ、彼らを無理矢理にSMショーへ出して客を喜ばせるようなものから、調教済みの奴隷のやりとりなど、高額な金額が動いている
人を人とも思わない 残虐性すら感じるプレイに会員達は酔いしれている
「D伯爵はな、有名な男色家だ
 中でも特別アジア系が大好きらしい
 よかったな、たっぷり可愛がってもらえ」
組織の協力者から渡されたパスカードで ここのメンバーになりすました鳥羽は、蒼太を連れて堂々と正面からホテルへ入った
宴は20時間ぶっ通しで続く
深夜の0時から始まって、夜の8時に終る
それを毎日毎日繰り返している
(よく体力もつな・・・)
呆れるほどに、性欲旺盛なのか
それとも、それしか楽しみがない病んだ者たちばかりが集まっているのか
ともかく、世界の金持ちや いわくつきのもの達ばかりが集まるこの空間は 異様な空気で満ちている
「まぁ相手は並の変態じゃない、特に相手をいたぶって喜ぶサディストだ
 おまえも相当覚悟して相手をしろよ
 その上で10時間耐えろ
 伯爵を部屋へ戻すな」
「はい・・・」
失敗も、敗北も許されない世界
今、自分はそこにいる
鳥羽の相棒として、彼と仕事を共有している
その緊張と使命感と、昂ぶりとが入り交ざった感情に 蒼太は唇を引き結んだ
これから何が起ころうと、けして鳥羽の足手まといになったりはしない
その誓いを、心の中で繰り返した

会場は、想像していたものよりもずっと明るかった
まぶしいくらいの照明の中 裸の男女が絡まりあっている
(・・・・・すごいな)
係りに案内されながら、蒼太はぞっと寒くなる気持ちを必死に押し殺していた
10時間も、こんな場所で、と
考えただけで泣きそうになる
それでも、鳥羽のやる爆弾解除に比べたら、と 必死に平静を保った
鳥羽は、一歩間違えれば死ぬようなことを たった10時間でやるのだから

案内された奥の部屋には、D伯爵とその友人が3人いた
ゆったりとしたソファとテーブル
奥にはただならぬ広さのベッドがある
「初めてお目にかかります、伯爵
 今日は私が友人の代わりに きっと伯爵のお気に召しますものをご用意致しました」
丁寧に挨拶した鳥羽の後ろで 蒼太は僅かに頭を下げた
ここに4人いるということは、このまま4人の相手をするのだろうか
ザワザワと、緊張のような絶望のような
そんな気持ちが広がっていく
「日本人か、顔を見せてごらん」
「日本人の黒い目は宝石みたいで綺麗だな」
一人が、蒼太のところまで歩いてきて顔を上げさせその目を覗き込む
酒を飲みながら 満足そうにしている伯爵は、鳥羽にわずか皮肉めいた表情を作っていった
「私はそれこそ色んなものを見てきたよ
 東洋人は好きだが、東洋人なら何でもいいわけじゃあない
 私の好みを知っているか?
 この子はちゃんと私を楽しませてくれるんだろうね?」
なまりの強い外国語に 蒼太は半分も彼の言うことを理解できなかった
鳥羽が笑って 綺麗な発音で答えている
「友人から承っております
 このゼロを もしお気に召さなければ殺してくださってかまいません」
微笑し、鳥羽は蒼太に膝をつくようしぐさで示した
その場に膝をつき、皆を見上げるようにする
「東洋人は恥じらいと品を兼ね備え 従順で、しかし内向的な性格ゆえになかなか心を開きません
 こいつも、普段はそういうタイプです
 ですが、伯爵、今宵はあなたのために、これを伯爵お好みの淫乱な娼婦に変えて御覧にいれます」
興味深そうに、男達が蒼太を見た
言葉が少ししか理解できないから、蒼太にはなぜ皆が自分を見ているのかがわからない
そんな蒼太の目の前に、鳥羽は1つの小さなビンを差し出した
ラベルの貼っていない、見覚えのあるビンだった

これを鳥羽が使ったのを、今までに5回ほど見たことがある
いつも女性に使っていた
飲まされた女は、狂ったように泣き叫びながらこの身を犯してくれと鳥羽に懇願し、
そんな女を縛り上げて詰問しながら、鳥羽は顔色ひとつ変えず よがり泣く女を見ていた
最初 驚いて何事かと聞いた蒼太に、鳥羽が教えてくれたのだ
死にたくなるくらい感じる強い媚薬だと
犯されて犯されて犯されて、それでも身体がおさまらず もっとしてくれと自ら懇願するような それほどに何にも感じる身体になる薬だと

(・・・・っ)
ぞっとした
それを今から 飲まされるのか
この身が、あの女たちが狂ったような あんな身体になるというのか
震えながら鳥羽を見上げたら、彼は二言三言 周りの男達に何かを言った後 蒼太の唇にそのビンを押し当て傾けた
鳥羽にはためらいも容赦も、ない

甘い味が口の中に広がって、喉にざらついた感触が下りていく
泣きそうになった
ジンジン、と その瞬間から手足が末端までしびれるように震えだす

鳥羽は、男達の中に蒼太を置いて出てゆき、蒼太はグラグラする意識の中 壁にかかっている大げさな時計に視線をやった
今、明け方の5時
昼の3時まで堪えれば、鳥羽が仕事を終える
D伯爵の私室に忍び込み 彼の荷物の中の爆弾を解体し終える
「さぁおいで、ゼロ」
「たっぷりと可愛がってあげよう」
男二人が、膝をついたまま立てないでいる蒼太の腕を取った
自分の着ている服が肌に当たるだけで ぞくぞくと感じる
空気が髪をさらうだけで ざわざわと足が震える
掴まれた腕から感じる熱や痛みに、どうしようもなく声を上げそうになった
足が萎えて、すでにまともに歩くこともできない

広いベッドの上で、蒼太は常に2人の男を相手にしていた
裸にされ、あちこちに触れられ それだけで何度もいって声を上げた
いっても、いっても、萎えない身体
熱をもった部分は 自分のものと男達のもので もう何が何だかわからないくらいグチャグチャで
交代交代に挿入されるものに、もはや声を上げるのを我慢するなんてこと、できはしなかった
必死に声を殺しても、挿入されてこすられると それだけでいきそうになって声が上がる
手足を縛られて目隠しをされると ドクドクと心臓が早鐘のように鳴り出した
「ひっ、いぃぃ、いぁぁあああっ」
シーツを掴んで ぶるぶると震えながら白濁を吐けば、蒼太のものをくわえ込んだ男がまるで吸い付くように舌で舐めまわす
「ひんっ、ひや・・っあっあっあ・・・・っ」
泣きながら、震えながら、喘ぎながら、
蒼太は 萎えることなく延々と昂ぶり続ける身体を抱かれ、弄ばれ、時には鞭などで打たれ、男達のものを挿入された
相手は2人ずつ入れ替わり、自分達がプレイに参加していないときは おもしろそうにこちらを見ている

地獄だと思った
それでも、意識を必死で保たなければならない
気絶してしまえば、蒼太に興味をなくしたこの男達は私室へと戻ってしまうかもしれない
10時間
鳥羽が命がけで あの難しい爆弾を解体している間 自分はここで時間をかせがなければならないのだから

実際、蒼太には時間を気にしている余裕はなかった
声は枯れ、突き上げられる度 涙が零れ落ちる
それでも身体は求めているから、そそりたち濡れたものをしゃぶられ、手でしごかれるとたまらなく感じて たまらなくいった
どうしようもないほど、この薬は効いている
髪を掴まれて 男のものを無理矢理にくわえさせられた途端、震えていた身体が限界を迎える
舌に熱いものを擦りつれられて、苦しいのに、身体はどんどん反応を見せる

5時間を過ぎると、蒼太は自分で手足を動かすことができなくなっていた
縛り上げられて、足を大きく開かされ、後ろにはテーブルに置いてあった太い蝋燭が突っ込まれている

「私の好みを知っているとあの男は言っていたな
 たしかにゼロ、君は従順で可愛いペットのようだ」
伯爵の手で蝋燭に火がつけられると あっという間に蝋がたれて肌を焼いた
「ひっ・・・あぁぁああ、うぐ・・・」
熱さに、意識がグラグラする
こんなものでも、感じる
「私は自分でも自覚しているが相当なサディストでね
 毎晩こうして奴隷を調教しているんだよ
 ゼロ、君も私の奴隷にしてあげよう
 私は君をとても気に入ったよ」
蒼太には、何を言っているかわからなかったが、彼が鞭を取り出したのが視界の端に映った
朦朧とした意識の中で、つい先日 鳥羽に鞭で打たれたことを思い出す
ぞぞぞ、とそれだけで 何かが背をかけていく
たまらない欲求が 出口を求めて身体の中で熱くなる

パシッ、と
最初は軽く、次第に強く 伯爵は蒼太の背や尻を鞭で打った
そのたびにグラグラ揺れる身体に、突き刺すように挿入されている蝋燭がユラユラと揺れて蝋をたらす

もう熱さも痛さも わけがわからない状態で
何をされても感じるし、何をされてもいった
掠れた声を上げて 泣きながら堪えるしかできない
蒼太には、それしかできなかった
身体が限界を迎えても 気力だけで必死に意識を保った
約束の時間まで、
鳥羽が迎えに来てくれるまで、気絶するわけにはいかなかった

結局、最後はどうなったのか 蒼太にはわからなかった
気づいたら、ベッドに寝かされていて、側のソファに鳥羽がいた
「鳥羽さ・・・」
呼んだ声が掠れた
頭が心なしかクラクラする
「よく頑張ったな」
笑って、鳥羽が煙草を消す
目が、いつもの鳥羽に戻っている
そう思った途端、空気が動いて、ふと、血の匂いが漂ってきたのに蒼太は敏感に反応した
「鳥羽さん、怪我してるんですか?!」
慌てて起き上がり ベッドからおりようとする
手当てをしなければ
血の匂いがするということは、鳥羽はまだ手当てをしていないのだ
「あ・・・っ」
だが、足は 蒼太が思うようには立たなかった
ガクン、と膝から堕ちるように床に崩れて 蒼太は萎える腕で必死に身体を起こした
また血の匂いが漂ってくる
「無理すんな、あんな変態どもに10時間も可愛がられてちゃ すぐには立てないだろ」
くく、と笑うと 鳥羽はソファから立ち上がり へばっている蒼太を抱き上げてベッドへと寝かせた
「怪我の手当てを・・・っ」
「あとでな」
鳥羽のスーツから覗く手首と手のひらの血は乾いているから 傷はそんなに深くはないのだろう
「あと2時間ほどで迎えが来る
 それまで、眠ってていいぞ」
「でも・・・」
「俺がいいって言ってんだから 素直に聞いとけ」
「・・・はい」
側に鳥羽の気配を感じながら 蒼太は言われるがまま目を閉じた
安心したら、気だるさが じわじわと身体を蝕んでいく
痛みも この身の体力を削っていく
「鳥羽さん・・・いつ来てくれたんですか?」
目をとじながら、聞いた蒼太に、また煙草の香りが漂ってきた
「お前が男に突っ込まれながら別の奴にご奉仕してるとき」
言われても、いつのことかわからなかった
鞭でさんざん打たれた後 蝋燭が引き抜かれ、そこに今度はワインを流し込まれたところまでしか覚えていない
冷たいワインで満たされた中を代わる代わるかき回され突き上げられて、声もなくただ喘いでいた
そこで記憶が飛んでいる
「部屋に催眠ガスを入れたからな、しばらくは全員起きないだろう」
鳥羽の言葉を聞きながら 蒼太はそっと息をついた
(金持ちって変態多い・・・)
消え行く意識の中 心の中でつぶやいてみる
支配欲が強い人間が多いのかもしれないと、考えながら 意識を手放した
今は、側に鳥羽がいて、良く頑張ったな、と褒めてくれて、
眠ってもいいと言ってくれたから、安心して目を閉じられる

2時間後 鳥羽は眠っている蒼太を抱いて 来た時と同じく堂々と正面から出ていった
組織の協力者のよこした高級車に乗り込み、狂宴のホテルを後にする
潜入から13時間で、最初の仕事が終った


女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理