4回目の嫉妬 (赤×黒)


サージェスには、ボウケンジャーのために整備の終ったマシンに試乗するスタッフがいる
いつもは、基地の地下で作業と試乗をしていて ボウケンジャーメンバーとはめったに顔を合わさない
大抵作業は深夜に行われ、皆が起きて活動を開始する頃には 作業を終えて本部に戻っているから

「ああくそっ、なんで覚えられないんだよっ」
ある日の深夜、真墨は自分のマシンに乗って もう何十回と繰り返したフォーメーションの確認をしていた
何通りもある上、マシンが増えるごとに合体や変型、並びが変わる
戦いながら 咄嗟にそれら、どのパターンで行くかを判断し指示を出す暁に、今日のミッションで真墨だけが少し遅れた
パッと言われてすぐに行動に出ないのは その全パターンを覚え切れていないからで、
抜群に記憶力のいい蒼太やさくら、暁は 1回やったたけですっかり覚えてしまい
菜月は驚異の勘で、いつもバシっとついてくる
結局、真墨だけが まだ全てのフォーメーションを覚えきっておらず、ミッションの後 厳しい目をした暁に言われてしまった
今夜中に全部覚えておけ、と

「だいたい多いんだよ、色々とっ」
ぶつぶつと、文句を言いつつ 深夜になっても覚え切れない真墨は 溜め息を吐きつつハンドルを握った
これはもう、頭で考えたって無理なのだ
繰り返して、繰り返して 身体に覚え込ませるしかない
それでもう、腕が痛くなるまで、
身体がふらふらになるまで さっきから独りでマシンに乗っている

丁度、深夜3時を過ぎた頃、地下に一台の車が入ってきた
ぞろぞろと若い男女が車から下りてくる
「誰だ?」
スクリーンに映る彼等を見遣ると、なんとなく皆 見たことのある雰囲気を漂わせていた
女の子2人に、男が2人
こんな時間にこんな場所に何の用事かと思ったら 牧野が現れて彼等に何か指示を出した
「おっさん」
呼んでみる
牧野と男女が 一斉にこちらを見た
「ああ、真墨くん、いたんですか」
「いて悪いかよ」
「すみませんが、そのマシンちょっと貸してくれませんか」
言われて、何なんだと思いつつ 時計を見遣って溜め息をつく
夕方からやって、もう深夜
腹も減ったし咽も乾いた
「・・・いいけど、何すんだよ」
言って、マシンから下りた真墨に 牧野は笑って言った
「今日の戦いでシステムがやられていないかチェックします
 1時間ほど、貸してください」

ペットボトルの水を飲んで、真墨はコンクリートの床に座って牧野の作業を眺めていた
この地下では時々整備士が何人かきて、大掛かりな修理をやっている
だが、今日のように若い男女が来たのは初めて見た
整備をする風でもなく、今はただ真墨と同じように作業の様子を見守っている
「なぁ、おっさん
 あいつら何?」
こそ、と 側に立って整備士にあれこれ指示している牧野に聞いてみた
その声が聞こえたのか、男が1人こちらを見る
そして、真墨をギっと睨み付けた
その様子に、何かとても 気持ちが騒いだ

「彼等はあなた方のテストライダーですよ
 マシンの整備後に ちゃんと整備できているか、不備はないか 彼等が動かして確認しているんです」
牧野の言葉に ふーん、と相づちをうちつつ 真墨はその、睨み付けてきた男がなんとなく気になった
誰かに似ている気がする
いや、誰かというよりは、自分にとてもよく似ている
あまり良くない目つきも、髪型も、体型も、身長も何もかも
「君たちと背格好の似た人たちをわざわざ選んでいるんですよ
 身体にかかる負荷や、マシンに乗った時の体重のかけ方なんかもチェックしますから」
「初耳だな」
「そうですね、あまり言っても仕方がないことですから」
牧野はそう言って、何かの指示をしながらマシンの方へと駆けてゆき、残された真墨はなんとなく居心地悪く 整備中のマシンを見上げた
いくら、テストライダーだからって、髪型まで似せなくてもいいのでは、と ふと思う

30分もすると整備が終ったのだろう
ぞろぞろと、男女がマシンに乗り込んだ
「明石の席が開いてる」
「ああ、彼のテストライダーはいないんですよ
 明石くんの席は一番負荷がかかりますからね、あんなのに耐えられる人間が見つからなくて」
聞きながら、真墨は呆れてわずかに笑った
自分の座る場所も、相当な負荷がかかっている
戦いの後はぐったりするし、パワーアップを繰り返している今では、ハンドルを握るだけでビリビリする
スーツをきていなければ失神しそうなくらい、マシンを動かすのにかかる負荷に身体が悲鳴を上げている
暁には、それ以上の負荷がかかっているのか
いつも平然と 当然のようにあの席に座っているけれど、テストライダーがいないくらい
他に代わりがないくらい、暁は貴重な存在なのだ
このマシンを使って戦うサージェスにとっては

「なんだ、真墨、まだいたのか」
試乗を見ていた真墨に 声がかかったのは試乗が始まって5分くらいたってからだった
「明石・・・っ」
振り返ると、暁が手に皿を持って立っている
「ちゃんと全部覚えたのか?」
「・・・まだ」
「しょうがないな、あとでつきあってやる」
「いらないっ」
叫ぶように言うと、暁はおもしろそうにクツクツと笑った
「明日はミッションがあるんだぞ?
 いいかげん終わらせて寝ておかないともたないぞ」
「余計なお世話だ」
だいたい、そう言う暁はこんなところに何をしにきたのだ
見遣ると、暁が手にした皿にはサンドイッチが大量に乗っかっている
「あいつらに差し入れだ」
「・・・あんた、あいつらのこと知ってるのかよ」
「知ってるさ、ウチの大事なテストライダーだ」
不備のないマシンにボウケンジャーのメンバーを乗せて 万全の状態で戦えるよう 彼らが身体を張って試乗している、と
暁は言って 片手を上げた
見ると、マシンの中から男が1人手を振っている
さっき、こっちを睨み付けてた奴だと思った途端、この不愉快な気持ちを真墨はなんとなく理解した
あんなに似た まるでもう1人の自分みたいな人間が 暁の側にいたなんて 今の今まで知らなかったこと
それが何かとても、気味が悪い

10分間の試乗を終えた男女は、フラフラになりながらマシンから下りて コンクリートの床に座り込んだ
当たり前だが、普通の人間では10分でも辛いだろう
毎日訓練を受けている真墨でさえ、あの身体にかかる負荷はきついのだから
「シロ、お前怪我してるな」
「バイクでこけたんだよ」
「バカ、お前気をつけろよ、大事な身体なんだから」
「わかってるよ、チーフ」
さっきの男が 親し気に暁と話すのに イラ、とした
暁の持って来た差し入れのサンドイッチに手を伸ばしながら 何か嬉しそうに話している
彼はただのテストライダーで、ボウケンジャーの一員ではない
だから暁をチーフと呼ぶのも何か違う
違和感と、妙なイラつきに 真墨は整備の終った自分のマシンの方へ歩いていった
何かわけがわからないけれど、余計なことは考えないでさっさとフォーメーションを覚えてここから出ていこう
知らない奴と楽し気に話す暁を見てるのも嫌だし、自分そっくりの奴が 嬉しそうに暁と話すのを見てるのも嫌だった
(なんだよ、イラつく)
思いつつ、マシンの下まで歩いていく
そこに、足音がおいかけてきた

「おまえさ」
声をかけられて振り向くと、さっきの男がいた
「・・・何だよ」
思わず 真墨も睨み付けてしまう
さっきからずっと こいつがこちらを睨んでいるから
「フォーメーションも覚えられないようじゃボウケンジャーはつとまらないんじゃねぇの?」
挑発的な言葉に、一瞬カッ、と体温が上がる気がした
関係ないだろう、そんなことは
こいつはただのテストライダーで、ほんの10分程度しかマシンに乗ってられない一般人なのに
「俺だったら1発で覚えられるね、この程度のフォーメーション」
「だから?」
「おまえ、チーフの足引っ張ってんのわかんねぇの?
 やる気ないなら辞めれば?」
辞めれば? と
言われて真墨は溜め息を吐いた
こんなことを 他人に言われる筋合いは全くない
そして暁は彼等のチーフじゃない
「あのな、お前何か勘違いしてないか?」
相手をするつもりはなかったけれど、どうしても黙ってはいられなかった
ここで無視できないから、自分は子供だと 暁や蒼太に言われるのだが
それでも言ってやらなくては気がすまない
不愉快になったこの、気がすまない
「明石はお前のチーフじゃない、俺のだ」
正確には、俺達の、だったけれど あえて俺のと言ってやった
悔しそうに、男の顔が歪んでいく
「チーフとか呼ぶなよ、そんな資格ないだろ」
吐き捨てるように言った真墨に、男はあからさまに敵意をむき出しにして真墨を睨み付けた
ほんと、さっきから目つきの悪い奴
そもそもどうして自分にかまってくるのか
テストライダーだっていうなら 仕事だけしてさっさと帰ればいいのに
こんなところで自分に構ってこないで、暁と話でもしてればいい
「俺はなりたくてもなれなかったんだっ
 ボウケンジャーはエリート中のエリートで、俺らなんて最終選考にも残れなかったっ
 あんなマシンに乗って戦うなんて正気じゃない
 10分乗るだけで死にそうなのに、エリート様は乗りながら判断して戦って勝つなんて信じられるかよっ
 人間じゃねぇよっ
 貴重だから、万が一整備不備で怪我することなんてないように 俺達が先に乗ってテストしてんだろっ」
わめくように言った男の言葉を聞きながら 真墨は彼の言わんとしていることがよく理解できなかった
奥では、暁がマシンに自ら試乗している
その起動音がここまで煩いくらいに響いてくる
「エリート様から見れば所詮俺達なんてテストライダーだ
 いくらでも代わりはいるし、その存在なんて無視だ、無視っ
 だけど チーフだけは違う
 テストライダーなんて使わずに いつも自分で試乗するし 俺達のことも大事にしてくれるっ
 お前達と何ら違わない扱いをしてくれるっ
 俺をお前と同じ様に扱ってくれるっ」
言われて、かなりムッとした
奴の言っていることかメチャクチャで 結局だから何が言いたいのかはわからなかったけれど、不愉快さだけはガツンと伝わった
イライライラ、と気が昂っていく
「ほんとむつかく、おまえ」
お前なんかと一緒にするなと言いたい
そして、暁が自分で試乗しているのは あの負荷に耐えられるライダーがいないからだ
勝手に話を美化するな、と思った
とてもとても、腹が立つ
同じように扱われてたまるかと、思う
自分は暁の中で、誰とも同じにはなりたくない
「要するに、負け犬なんだろ、お前はっ」
怒りが、言葉になって現れた
「一緒に扱ってくれるとか言うけどな、お前 ここにいる以外の明石を知ってんのかよっ
 戦ってる時のあいつのこと 知ってんのかよっ」
一度だって、同じ敵を前に戦ったことがないくせに
こんな試乗で隣に座って動かしたからと言って、
10分かそこそこの時間 同じ空間にいたからといって、何がわかる
訓練の時のあの眼光や、食事をしている時の笑った顔や、本を呼んでる時の子供みたいな顔や、やってる時の あの意地の悪い顔
そんなのを全部知っていて、
そんな風に暁と過ごして はじめて同じだ
いや、固体が違うのだから それでも同じとは絶対に言えない
「俺と一緒とか絶対ありえないんだよっ
 気持ち悪いこと言うなっ」
だいたい、こいつはかなり暁を慕っているようだけど、同じ様に扱われて慕うわけがない
あの意地の悪い顔で命令してくるあの男を 素直に慕えるわけがない
「一緒に戦いたくても戦えないんだよっ」
「だから そんな奴がわけわかんねーことで俺にからんでくんなって言ってんだっ」
まるで子供の喧嘩みたいに、お互い罵りあった
ようするに何か
こいつは、普段からずっと暁の側にいる自分が気にくわないのか
フォーメーションも覚えられないような真墨が 選ばれたボウケンジャーのメンバーであることが許せないのか
「フォーメーションなんざ100回乗れば覚えんだよっ」
いちいち口出しするな、と
言い放って、真墨は男を睨み付けた
どいつも、こいつも、暁が大好きで
それが本気で気に食わない
あんな奴のどこがいいんだ
いつも余裕の顔をして、おもしろそうにこちらを見ている
翻弄して、翻弄して、結局奴の思うがままになっている自分が とてもとても自己嫌悪なのに
「お前はいいよな、チーフに守ってもらえるんだから」
ぽつ、と
男の言葉に真墨はうんざりと天井を見上げた
何が、守ってもらえるだ 気色わるい
そんな風に考えたことは一度もない
そもそも、守ってもらうために ここにいるんじゃない
自分は彼と並んで立って戦うために、ここにいるのだから
「あのなぁ・・・おまえ根本的に・・・」
説明しようとして、真墨ははりばりと首をかいた
この勘違い夢見ヤローに、何と言って説明すればいいのか
相手にしているのも、疲れてくる
「俺は明石に守られたいわけじゃ・・・」
言いかけて、ふと、真墨は顔を上げた
さっきから 煩いくらいに響いているマシンの起動音が 少しおかしい
いつもはこんな音はしていない、と思った途端 真墨は身を返して走り出した
たった今までしていた口論のことなど、瞬間で頭から吹っ飛んでいった

「おい・・・っ」
「真墨くん?!」

急に飛び出してきた真墨に、整備員と その場で何か指示をしていた牧野がぶつかってよろけた
「明石っ」
操縦席の暁の姿が見える
まるで マシンの懐に飛び込むように駆け込んだら、その瞬間 暁が驚いたような顔をした
そして、その2秒後 嫌な音をたてて 操縦席から火が上がった

ポカン、としている一同の前に暁はすぐに現れた
無傷でピンピンしている
火が上がる前に脱出が間に合ったのだろう
「チーフっ」
「大丈夫ですか ?!」
「明石くん、怪我は?」
皆がわらわらと暁によってくる
あの男も走ってきたのを横目で見て 真墨は大きく溜め息をついた
「すみません、不備はすぐに直しますから」
「お願いします」
いつものように笑って言い、暁は立ち尽くしている真墨に笑った
「真墨、生身で飛び出してくるな
 驚くだろう」
「なんだよ、俺のおかげで気付いたんだろ」
「ああ、よくわかったな、あれの不調が 」
「そりゃ1日に何十回も乗ればな
 音が違うくらい、気付くだろ」
むす、として言った真墨の方へ 暁の手が伸びてくる
あの瞬間、マシンの前に飛び出した真墨を見て 暁はその表情からとっさに真墨の言いたいことを理解してくれた
そして、火が上がる前に脱出した
おかげで こうして暁は無傷だし、被害も最小限に抑えられている
(守ってほしいとか、気色悪いこと考えるわけないだろ)
むしろ、今のは自分が暁を守ってやったのだ
女じゃあるまいし、守ってほしいなんて考える方がおかしい
どうせなら、俺が守ってやる、くらい言いたいものだ
(それも・・・ちょっと気色悪いけど)
わしゃわしゃと、暁が髪をなでるから それから逃げる様にして腕で暁の手を押し退けたら ふ、と黙って立っているあの男と目があった
何か言いたそうにこちらを睨み付けて、それから
それから彼は無言のまま こちらに背を向けた

「あいつ、なんかからんできて嫌な感じだな」
「シロか?
 お前のテストライダーだろ?
 体重も身長もほんとお前にそっくりだぞ」
「嬉しくねぇよっ、そんなのっ」
気持ちわるい、と
結局 暁につきあってもらいながらフォーメーションを覚えた真墨は 誰もいなくなった地下で一つ溜め息をついた
「しかもシロって何だよ、変な名前」
「白木っていうからシロ
 おまえはクロってところか?」
「嫌な呼び方すんなっ」
あいつとおそろいなんてごめんだ、と思いつつ 真墨は最後に悔しそうにしていた白木の顔を思い出して溜め息を吐いた
彼の言っていたことは よくわからない意味不明の嫉妬だと思うのだけれど、
だからって、真墨のように、とか
真墨になりたい、とか考えるのはおかしくないか
暁が言うには、元々短かった髪を最近あんな風に伸ばしているんだと言っていたし
「いいじゃないか、面白いだろう?
 自分に似たやつがいるってのは」
「面白くないっ」
「抱き心地も似てる、気が強いところもな」
「な・・・っ」
ぎっ、と暁を睨み付けたら 彼は面白そうに笑った
それは何か
奴ともやったことがあるということか
それとも単にからかっているのか
「知るかよっ、好きにしろよっ」
叫ぶように言った真墨に 暁は答えをくれなかった
ただ面白そうに笑うだけ
それで、わずかにおさまっていた嫉妬が 少しだけ復活した
あんなのに嫉妬するなんて、おかしな話だと わかっているけれど


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