枷 (赤×黒)


暁は時々 うなされている
浅い眠りの時、苦しそうに眉を寄せているのを2.3回見た
前に牧野から聞いたマサキとキョウコの夢を見てるんだろうと想像する
暁の中で唯一 暗い影を落としているのであろう失った仲間は、今も暁の中に大きく存在している

「チーフ、大丈夫なの?」
「大丈夫じゃありません、絶対安静です」
ガイとレイを倒した後、ろっ骨を悪化させた挙げ句 左腕まで負傷した暁は医務室で治療を受けた後 薬で眠っていた
医者からは、とりあえず1週間ほどは安静にしていろと言われている
もちろん、今は会わせてもらえないし、それ以上の情報も医者から聞くことはできなかった
「でも、チーフが戻ってきてくれてよかったね」
「そうですね・・・」
菜月とさくらの会話を聞きながら、真墨はなんとなく居心地わるくソファに腰をかけた
暁に対して言いたいことは山のようにある
ミスターボイスにボウケンジャーをやめるよう言われていたことや
ミッション中に昔の仲間に会ったこと
ボウケンジャーの指揮権をさくらに譲ってまで会いに行ったマサキと何を話したのか
あの場にいた映士と、どんなやりとりをしたのか
「チーフはほんと、何でも一人でやっちゃいますね」
「それだけ、菜月たちのことを信頼してくれてるんでしょ?」
「そうですね、黙ってついてこいという意味だと思っていますけど」
蒼太が苦笑して側に置いてあったパソコンを引き寄せる
何も言わなくてもついてきてくれると信じているから言わないのか
たとえ誰もついてこなくても困らないくらいの力を持ってるから、いつも一人で行ってしまうのか
何を考えているのか絶対に言わないし、
いつのまにか一人で解決して、ふっきれている
暗かった横顔も、厳しかった目も、いつのまにかいつもの様子に戻っている
今回も、あんな怪我を押して何の装備も持たず一人でマサキに会いに行った
皆がかけつけた時には さくらの言っていたような思いつめた様子ではなかったから安心して
安心したら今度は怒りみたいなものが湧いてきて
どう言っていいのかわからないけれど、それが不満で仕方ないのに 不満をぶつける相手は絶対安静で医務室のベッドの中ときた

(皆は不満じゃないのかよ)

イライラとしながら、真墨は指輪を爪ではじいた
ボウケンジャーを捨てて会いに行った男と何を話したのか知りたいと思った
いつもの暁を取り戻したのに映士がからんでいるっていうなら 彼と何を話したのか知りたい
暁のことは何でも知りたい

今だに、姿を見せただけで 暁がああも心を動かす人間であるマサキのことを考えていると イライラはピークに達した
いつものように勢いにまかせて 牧野の部屋へと向かい、研究中で忙しい彼に無理矢理時間を取らせてつめよった
教えて欲しい、暁のこと
彼の失った仲間のこと
まだ、真墨が憧れ目指していた頃の暁は、どんな人間でどんな風に仲間を愛していたのかを

「明石くんの過去ですか・・・私も直接本人に聞いたわけではないんですがね」
真墨の剣幕に押され、仕方なく研究を中断した牧野は、真墨にお茶を入れると積み上がった本の下の方から一冊のファイルを抜き取って差し出した
開くと、いろんな人間のデータがはいっている
「昔、私はサージェスで戦う人をスカウトする仕事をしていましてね
 そこに書かれているのは その時に候補に上がった人たちのことです」
一番最初に、暁のデータが入っていた
「明石くんは 大分前からこの世界で名前を上げていましてね
 サージェスが保護しようとしたプレシャスを彼に先に取られるなんてことは日常に起きていました」
その頃は 今のボウケンジャーが使ったてるような、人間の持つ力を強化するスーツや様々な戦闘機能を備えたマシンは まだ開発段階で完成しておらず
生身の人間対人間の戦いとなった時 暁はサージェスのどんな人間より強かったという
「それで、ならばいっそ 明石くんを仲間にしようという話が上層部で出ました
 当時 そういう仕事をしていた私が彼に会い そう申し出たところあっさり断られましてね
 サージェスなどという組織で 人に言われて宝探しをするのはごめんだと、彼はその時 笑っていました」
当時も今も、そういうところは変わらないんだなと思いつつ
真墨は どこか苦笑するような牧野の顔を見つめた
「その時ね、明石くんは中国にいて、古い伝承を元にかなり貴重なプレシャスを発掘した直後だったんです
 両手に火傷を負って治療中だったので 私は彼を簡単につかまえることができたんですが、そうでなかったら世界中を飛び回っている彼に会うのすら、そう簡単にはいかなかったはずです」
その頃の暁は、まだ幼さの残る表情をよく見せる、今ほど鋭い目をしていなかった
「私は不思議だったんです
 確かに遺跡は危険ですが、彼ほどの人間でも こんな風に大怪我をするのかと」
それ程、当時から暁の強さは常識を超えていた
経験と勘と判断力、そしてそれに追い付く運動能力
全てのバランスが完璧だということを、生身の暁を見て改めて実感した
「その上 彼は医術も学んでいる
 一人で何でもやれてしまうんですよ
 どんな場所でだって生きていけるし、どんな敵にだって負けない
 引き際を心得ているし、戦術も豊富です
 少し物騒な言い方ですが、彼を殺すことができる生身の人間はそういないだろうと、私は思ったんです」
だから、両手の火傷にとても違和感を覚えた
何があって、そんな風な傷を負ったのか
どうして 彼ほどの人間がそれを回避できなかったのか
「彼の変わりに 側にいたマサキさんが答えてくれたんですが・・・
 遺跡の中で、トラップを発動させてしまった仲間を助けて火傷を負ったそうです」
勢い良く燃え上がる炎の中で、瓦礫をかきわけて生き埋めになったキョウコを助けたんだと言った
「・・・今とそそんな・・・変わらないな・・・」
つぶやいた真墨に 牧野は笑った
ボウケンジャーの暁も、ミッションの最中は常に仲間に気を配っている
誰かが倒れれば必ず助けるし、不注意で発動させてしまったトラップの始末も彼がすることが多い
暁には、経験である程度のトラップの気配を感じることができるのだろう
そこは気をつけろ、とか
そっちには行くな、とか
勘でものを言うような雰囲気で指示を出すことも多い
だが結果、その通りにして 全員無傷で帰れるミッションも多いのだ
暁がいないと、ぐんとメンバーの負傷率が上がる
「私はね、意地の悪い人間ですから、聞いたんです
 一人で行ったなら、その傷は負わなくてすんだでしょうねって」
言った牧野の顔を、真墨はまじまじと見つめた
なんとなく、ずっと心のどこかで思っていたことがある
暁は、仲間にこだわるけれど、
いっそ仲間など持たずに一人でいた方が効率よく仕事をこなすことができるのではないかと
暁一人で何でもできるのだから、仲間なんて必要ないだろうと
そんな思いが時々頭のどこかでふと生まれる
「それで・・・明石は何て答えたんだよ」
「答えてはくれませんでした
 でも、変わりに笑ってました
 見たことのないような・・・なんというか複雑な表情で」
両手に包帯を巻いた痛々しい姿で、ホテルの部屋にいた暁は その時窓際に座っていた
心配気に 少し離れたところからこちらを見守るキョウコと
牧野の向かいに座って、まるで牧野を見張っているかのような目をしたマサキ
二人を無言で交互に見て、あの時の暁は笑った
自嘲、といえば一番近いだろうか
まるで自分自身に苦笑したみたいな顔だと その時に思った
「私が推測するに、です
 明石くんが冒険に夢中になるのは、ある意味飢えているからだと思います」
「飢えてるって何にだよ・・・?」
「たとえば・・・世界に」
静かに語る牧野の目は、いつもの温和な雰囲気を消していた
「世界って・・・」
どくん、と不安に似たものが胸に広がる
心当たりのある言葉
いつも、心のどこかで思っている
暁はできすぎるから、日常がつまらないのだ
この世界は易しすぎて、暁が生きていくにはつまらなさすぎるのだ
だから、暁は仲間にこだわる
一人で何でもできるくせに仲間を求めるのは まるで自身の能力を制限する枷を求めるかのようだ

「テレビゲームでも、簡単すぎたらプレイしてもつまらないでしょう?
 でも、例えばそのゲームにハンデをつけたら 少しは面白く感じるかもしれない
 必殺技を使わないでクリアする、とか 武器を使わないでクリアする、とか」

牧野が、真墨の心を代弁しているかのようだった
「明石くんにとっては、世界が易しすぎてつまらないんです
 だから仲間というハンデをつけて生きている
 ・・・一人では難なくクリアできる遺跡も、仲間がいれば自分の意図しない問題を起こしてくれる
 仲間全員でクリアしなければならないというクリア条件がつく
 すると、世界の難易度が少しだけ・・・上がるんです」
仲間は暁にとって、このつまらない世界で生きていく上でのハンデなのだと 牧野は苦笑した
ドクン、ドクンと心臓が鳴る
なんとなく、そう感じていた
暁が自覚して、ハンデのために仲間にこだわるのかはわからない
だが、結果論そうなのだ
そのおかげで暁は 負わなくていい怪我を負ったり 仲間の面倒を見るという手間をかけながらミッションをこなさなければならなくなった

「勝手な推測ですよ、この話は」
牧野の言葉を聞きながら 真墨は手許のファイルに目を落とした
「断った明石がなんで・・・今はサージェスにいるんだよ」
ハンデとなった二人が死んだから、新たなハンデを求めたのか
それとも、もっと別の理由があるのか
「私と明石くんが会った2年後に 明石くんの仲間が事故で亡くなりました
 その後、私はもう一度 明石くんを誘ったんです
 そして、OKをもらいました」
溜め息を吐いた牧野の顔は 今度は少し曇っていた
「OKしてくれた理由はわかりません
 彼は何も言わなかったし、私も何も聞きませんでしたから」
「・・・あんたの推測は?」
牧野が苦笑した
さっきから苦笑ばっかりだなと思いつつ 見つめると小さく溜め息を吐いて牧野は天井を見つめ、それからまた真墨に視線を戻した
「推測ですよ? あくまでも」
そして、続けた

「サージェスが殺したマサキさんとキョウコさんへの、償いになると思ったからじゃないでしょぅか」

は? と
真墨は牧野の顔をまじまじと見つめた
「あんた、今 二人が死んだのは事故だって言っただろ」
「事故でしたよ
 サージェスは全力を上げて 明石くん達のターゲットとする遺跡に先回りし、あらゆるトラップをしかけ、へたをすれば明石くんまで死んでしまうような遺跡に仕立て上げたんです
 入ったものは皆、死ぬ
 そんな遺跡が人工的に作られてしまいました
 その準備に2年かかり、とうとう明石くん達がその遺跡に入った後 サージェスは静かに見守りました
 そして、明石くんだけが生還したのを確認して、私を再び明石くんの元に行かせたんです」
牧野が、真墨の手からファイルを取り ページをめくって差し出した
レポートのようなものが挟まれている
「私が最初に明石くんに会った後 サージェスに出した報告書です」
暁の仲間に対する思いや、その意味
今、牧野が推測だと語った言葉が書かれている
仲間は暁の枷であり、弱味であり、この世界で生きていく理由でもある
ならば彼の仲間をサージェスの人間にすげかえたら、仲間のいる場所に暁は留まるだろう、と
「・・・本当にサージェスが明石の仲間を殺したのか・・・?」
「結果・・・そういうことになるんでしょうか
 もしかしたら、サージェスが手を回さなくても あの遺跡で二人は命を落としたのかもしれませんが」
遺跡というものは、もろく危険が一杯で、無事に戻れる可能性は低い
訓練を積み、経験を積んだって 人は死ぬ時は死ぬのだから
「それで、明石は気付いてるのかよ」
「彼は言いました
 世の中には危険なプレシャスがたくさんある
 マサキさんやキョウコさんのように誰かがそのプレシャスのせいで死ぬのは嫌だから
 自分がサージェスに入ってプレシャスを保護し、人々を危険から守るんだと」
それは、気付いていないということか
当のサージェスが暁ほしさに罠をしかけたことを
あわや暁本人も死んでしまうかのようなトラップをしかけたことを
「私は、明石くんは、気付いたと思っています
 私に言った言葉はあくまで、表向きの言葉でしょう」
「気付いてたら、そんな発言するかよ」
「気付いてなお、サージェスに身を起き、そう言ってまでして自分の気持ちを抑えたんじゃないかと、思っています」
あの時の暁の顔
もう一度 サージェスに入ることを考えてくれと言った時の暁の顔
牧野の目を見て、しばらく黙って、そして笑った
やはり、自嘲みたいな顔だった
「意味がわかんねぇっ」
「これも推測です、彼は何も言わないですから
 私が思うに、明石くんは、あの時自分がサージェスに入ることを承諾していればマサキさんもキョウコさんも死ななかったのに・・・と考えたのだと思います
 拒んだばかりに、どうしても明石くんが欲しかったサージェスによって二人は殺された
 守れなかった悔しさもあったでしょうけどね
 だからもう二度と、二人のような犠牲を出さないために明石くんはサージェスに入った・・・
 私は、そう理解しています」

ぼんやり、と
どこかまだ信じられない思いで、真墨は廊下を歩いていた
牧野の話は全てが推測だったけど、どこか外れていない気がして
心に言い様のない痛みが残った
ハンデがなければ こんな世界つまらなさすぎて生きていけない暁と
そのための仲間を暁から奪ったサージェス
暁に残された道は、世界を諦めてつまらないまま生きていくか
新しい仲間を得て冒険を続けるかの、どちらかしかなかった
サージェスに入らなければ また別の仲間を殺してしまう
だから、サージェスの用意した人間を仲間にして、今ここにいる
そういうことなのだろうか
本当に暁は、そんな風に考えて、サージェスのしたしうちを知っていながら ここにいるのか
「・・・くそ・・・っ」
いてもたってもいられない
どうしようもなくて、真墨は医務室へと向かった
面会謝絶だって関係ない
絶対安静だって関係ない
会って、聞きたかった
なぜ、ここにいるのかと
それで、いいのかと

「明石っ」
医務室に入るなり怒鳴るように名を呼んだ真墨に ベッドの上に起き上がっていた暁は 少し驚いたようにして その後笑った
「どうした、不機嫌だな」
暗い部分のまったくない目をしてる
いつもと同じ 余裕のある顔
たまらなく求めてしまっている、存在
「あんた・・・マサキとキョウコが何で死んだか知ってんのかよっ」
入ってきた時の勢いのまま、ベッドへとつめよった真墨に 暁はくく、と少し笑った
「なんだ、何の話をしてる?」
おまえはいつも前置きがないんでわかりにくい、と
言って右手で真墨の乱れた前髪をすいた
「・・・っ、答えろよっ」
「死んだ理由?
 俺が守りきれなかったからだ」
そんなこと聞くなよ、と いつもの口調で返ってくる
「そんなうわべの理由がききたいんじゃないっ」
めげずに吠えると、呆れたような目が真墨を見つめた
そして、一度笑みを唇に乗せた後 やはりいつもと変わらぬ口調で 暁は言った
「どんな原因があったにせよ、そこに誰の思惑がからんでいたにせよ
 結果、俺は二人を守りきれなかったんだ
 そのことに変わりはないだろう」

暁の目、口調、そして表情
目の当たりにして、確信した
暁は気付いている
仲間を殺したのがサージェスのトラップだったということ
気付いていて、こんな風に見た目平静でいるのだ
「じゃあ何でサージェスなんかに入ったんだよ」
これも、牧野の推測通りの言葉が返ってくるのだろうか
仲間をこれ以上死なせないように、
サージェスの与える仲間を枷に、生きていくことを選んだと

「あの時の俺には選択肢が二つしかないように思えた
 ひとつは、怒りにまかせてサージェスを潰す道
 もう一つは、諦めて生きることをやめる道」
暁の声はほんとうにいつも通りだった
ベッドの端に腰掛けている真墨の髪をその指でといている
ゆっくりと、愛しいものに触れるように
「・・・どっちも、選んでないじゃないか」
「そう、どっちも選ばなかった
 その二つはあまりにあまりで、俺はもう少しだけ考えた
 考えて出た結論が、俺は宝探しが好きだってことだったわけだ」
今回と一緒だな、と独り言のようにつぶやいて、暁は苦笑した
世界自体は嫌いじゃなかった
仲間を失った時、その傷と宝探しのできる世界を天稟にかけたら 世界の方が重かった
それで道は決まったのだ
「俺は勝手な人間で、その時に嫌というほど思い知ったが、自分が愉快に生きるために他人を犠牲にしてもいいと本気で思っている節がある
 マサキとキョウコは大切な仲間だった
 死なせてしまって、心に穴があいた気がした
 だが、それでも宝探しができなくなることに比べれば軽い痛みだと思ったわけだ
 だから、せめて、二人に償おうとサージェスに入った」
そこで、はじめて 暁は真墨が見たことのない表情を浮かべた
「二人を死なせたくせに、宝探しのできる世界を選んだ償いに、せめて俺から大切なものを奪ったサージェスに所属しようと決めた
 許せない存在であるサージェスの駒として生きて行くことで、二人を忘れないでいようと思った
 ・・・まぁ、これも勝手な言い分なんだがな」
ようするに自分が可愛かっただけだ、と
しめくくった暁に、なぜか胸がぎゅっとなった
たとえ、暁にとって 仲間を持つことが他人を犠牲にしている行為だとしても
暁に仲間と認められ一緒に冒険ができた人間は それを誇りに思い かけがえのない時間をともに過ごすことができているのに
幸福に思うことはあっても、犠牲だなんて思うことなど絶対にない
今、彼の側にいて、
彼に認められたくて、
彼と同じ時間を過ごしている自分か言うんだから間違いない
自分は暁に犠牲にされているなんて思っていない
むしろ、もっと深く求めてほしいと願っている
「あんたの頭の中 変だ
 あんたの考えてることは、おかしい」
言ったら、涙が溢れてきた
世の中には完璧な人間などいない
だから世界は均衡している
だけど、より完璧に近い人間にとって、この世界で生きるのは苦痛なんだろうか
枷をつけなければ生きていけないほど
枷を失った後、世界を諦めて死のうかと思うほど
つまらない場所なのだろうか
自分の生きる、この世界は

「おまえが泣くことじゃないだろう」
「うるさいなっ」
「おまえにしか言ってない、他でするなよ」
「するかよっ、こんな胸くそ悪い話っ」
ぼろぼろと涙は止まらなかった
一人きりで完結する世界なんて、悲しいだけだ
人は足りないから補い合うのだと 昔誰かが言っていた
菜月を見てると よくそう思う
世話がかかるのは時折うっとうしいけれど、それでも相手を構ってやる楽しさがあり、頼られる嬉しさがある
暁には、ないのだろうか
他人にマイナス要素しか、求めていないのだろうか
それはあまりに悲しくて、冷たい世界だ
そんな中で生きていくのは、どんなにどんなに辛いだろう
「そう言うな、それほど悪い人生じゃない
 最近は特に、そう思う」
髪に触れていた手が、頬に下りて涙をぬぐった
見つめると、やはりいつもの顔が穏やかな光をたたえてこちらを見ている
「俺が・・・つまらないなんて言えないようにしてやる・・・っ」
泣きながら、真墨は呻くように言った
欲して、求めて、願って、手をのばすのが自分だけだなんて嫌だ
暁にも、同じ様に求めてほしい
願ってほしい
自分が暁の側にいることを
この世界で一緒に生きていくことを
「それは、また、嬉しいことを言ってくれるな」
暁の手は、傷の熱で熱くて
平気そうに見えるけれど 身体中 傷だらけで相当な負担がかかっているのだろう
ひとつ、浅く息を吐くと 暁はポスンとベッドへ身体をあずけ、一度真墨を見て笑った後 目を閉じた
「おまえが側にいると飽きない」
そして、そのつぶやきの後 整った呼吸だけが静かな部屋に響いた
たとえ世界がつまらなくても
暁が何よりもこだわっている仲間というものが この世界を生きるための枷でしかないとしても
暁から与えられる総てのものが 周りに大きな影響を及ぼしている
枷である自分達には 暁の与える痛みも優しさも苦しさも切なさも、全部が身を灼く熱に変わる
側にいたいと願う想いに変わる

頬から外れてしまった暁の手をそっと取り、もう一度自分の頬にあてて、真墨もまた目を閉じた
熱い体温が、それでも暁がこの世界に留まっている証のようで ほんの少しだけ安心した


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