3回目の嫉妬 (赤×黒)


その日の夕方 ミュージアムの裏口から出て行く影を見ながら真墨は困惑していた
たしか、昼間 雨の中ずぶ濡れになってここへ来たラギは人間の姿をしていた
なのに、今、暁に見送られながら去って行く姿は、まぎれもなく龍の姿
まだ覚えている、リュウオーンに与えられたという強い力を持つ あの龍の姿だった
(・・・なんで?)
混乱する
綺麗な目をして、暁、と必死に呼び会いに来た少年
いきなり泣き出したのを、暁がいつもと何ら変わらぬ様子で部屋へ連れていったのを見て嫉妬して、
それからずっと、真墨は地下の訓練所で身体を動かしていた
忘れようと思って
暁に会いに来た少年のこと
笑った暁のこと
心がモヤモヤするこの嫌な感じのこと
(・・・意味わかんねぇ)
ようやく、身体が疲れきって、何も考えられなくなるくらいクタクタになって
もうこのまま眠ってしまおうと思っていたのに、見てしまった
ちょうど、帰るところなのだろう
雨の上がった薄オレンジの空の下、去っていく後ろ姿
来た時と違って悲愴感も切羽詰まった様子もなく、落ち着いていて
逆に真墨は、忘れていた嫉妬を思い出して不愉快になった

しかも、人間が急に龍になったのだし

「ああ、真墨、いたのか」
龍の姿が消えるまで見送っていた暁は、通路に立っていた真墨を見つけて 笑った
「今の・・・何だよ」
「ラギ」
「来た時 人間だったろ」
「身体が乾いたら、龍の姿に戻ったんだ」
何でもないことのように言いながら暁がサロンへ向かうのを 真墨は思わずついて歩いた
「どういう意味だよ、それ」
「どうやら、地上の水に濡れると人の姿になるみたいだな
 雨に濡れたのが乾いたら、龍になったんで俺もラギも驚いた」
不思議だな、なんて言いながら 誰もいないサロンの電気をつけて 暁はソファに腰を下ろした
呆れる
不思議だな、で済ませる暁
ラギがここへ来た時の様子からして、奴は暁に特別な感情を抱いているのは明白なのに
それを暁が気付かないはずないのに
優しく笑って相手してやるのも
こんな風に、相手が人だろうが龍だろうが受け入れるのも
気に入らない
なんだか全てが気に入らない
「機嫌悪いな、真墨」
こちらの心情を見抜いているのたろうか
意地の悪い目でこちらに視線を投げてきた暁を睨み付けて 真墨は暁の前に立った
「あいつ、なんで泣いてたんだよ」
「寂しかったんだろ」
「あんな姿だからか」
「そうだな」
「おまえは平気なのかよ、あんな変なの」
「中身は子供だ
 見た目が変わっても何も変わらない」
ふーん、と
言ってて気分が悪くなってきた
イライラする
暁は、どんな相手にだって差別しない
区別もしない
興味のあるものには どんどん関わっていくし、気に入った奴は誰だって構う
水の民ラギも例外ではなく、あのミッションの時 暁が一番深くラギと関わった
水の都復活に一番力を入れていたのは暁だったし、ラギの父の水の証の修復を牧野に頼んだのも暁だった
あの時は、こんなこと予想もしなかった
ラギが暁に会いにくるなんて
龍から人の姿に戻るなんて
たった一度 ほんのわずか一緒に過ごしただけの暁を、ラギが特別に見るようになるなんて
「寂しいから求めてるんだろう、ラギは」
それならそれで構わない、と
暁はわずかに笑った
またムカとする
「中途半端に優しくするなよな
 可哀想だろ、どうせ真剣に相手するわけじゃないんだから」
暁は、許容範囲が広い
求められれば求められただけ与えることができる程、深くて大きい
なのにけして本気にはなってくれない
いつも暁は余裕で、笑ってて、こちらを翻弄して、楽しんでる
奴は本気にならない
本気になってどうしようもなくなるのは自分だけ
自分だけが、こんな風に嫉妬する
「おまえは俺をそんな風に見てるのか」
暁が、おかしそうに笑った
イライラする、その余裕の顔
人を弄んで楽しんでる目
こちらを意地悪く見て、真墨が何か言うのを待っている
いつも暁はそうやって、翻弄する
「じゃあラギには本気になるのかよ」
悔しくて、
自分の想いを自覚して、真墨は小さくつぶやいた
どうせ、暁は本気にはならない
わかっているけれど、それでも嫉妬する
他の奴に構うこと、他の奴に踏み込んでいくこと
暁の興味のあるもの全てに嫉妬する
「あれは綺麗な目をしてる
 子供独特の目みたいな、そんなのだ」
暁はソファにもたれて笑った
だから、何なんだよ
どうせ自分は汚れきってる
あんなラギみたいな綺麗な目なんか持ってない
黙っている真墨に、暁がククと笑った
さっきからこいつは笑ってばかり
ラギに会って そんなに楽しかったのか
こんな機嫌のいい暁を前に、自分はイライラが募る一方だってのに
「綺麗なものは、汚したくなるよな」
暁の目がまっすぐに真墨を見つめる
それに、真墨はしばらく言葉もなく、ただ暁を見つめ返すだけだった
ようするに、
ようするに、暁はやっぱり興味と遊びでラギを構っているだけで
綺麗なものは汚したくなる、なんて最低な理由でラギの相手をしているのだ
「あんた・・・最低だ」
「俺は優しくないんでね」
暁の手が伸びて来た
むしろ呆れてしまった真墨は、抵抗もなく暁に腕を掴まれて そのままソファへと倒れ込んだ
「可哀想だろっ、そんな風な構い方すんなよっ」
「それでいいって言うなら、遠慮はしない主義なんだ」
倒れ込んで来た真墨を抱きとめて、服の中へと手を浸入させ 暁は真墨の耳もとで囁くように笑った
背中を撫で上げる暁の冷たい手の感触
ぞく、と
震えて 真墨は唇を噛んだ
どうしようもない
嫉妬しているのだから、こんな風に触られれば身体は正直に反応してしまう
体温が一気に上がって震える
言葉もうまく出てこなくなる
「お前がラギを心配するのは意外だったな」
「何が・・・だよ」
「別に親しくもなかったろう」
首筋を、暁の舌が這う
強く吸われて思わず声が上がりそうになったのを必死でこらえた
悔しい
こんな風に 暁の思いのままになる自分が悔しい
「あんたが・・・最低なことするからだろ・・・っ」
「気になるのか?
 別に傷つくのはおまえじゃないだろう?」
ソファに身を沈められて、被いかぶさってくる暁を見上げると いつもの意地悪な目がまっすぐこちらを見下ろしている
体温があがる、ぞくぞくする、無性に、とても、泣きたくなる
「それとも、嫉妬でもしたか?」
だから暁が、そんなことを笑っていった時にはどうしようもなく
本気で、本気で泣きそうになった

傷つくのはおまえじゃないなんて、
別の奴を暁が構うだけでイライラするこの気持ちは、傷つくって言わないのか

「あんたなんか・・・っ、大嫌いだっ」
泣きたくなくて必死で腕を張って暁の身体を押し返そうとする
こんな体勢になって今さらかなうわけもないけれど
易々と、腕を取られてすぐにソファに沈められてしまったけれど
「くそ・・・っ」
足で暁の腹を蹴り上げようとしたら、それも膝で抑えられてしまった
動けない
身体も心も暁に捕われて、もう、もうどうしようもない
「久しぶりに聞いたな、そういう言葉」
相変わらず、余裕の声で暁は言い
すっかり乱れた服を邪魔くさそうに剥ぎ取った
「離せっ、ちくしょうっ」
抵抗してみても、ちっともきかないけれど
全身に力を入れてないと、泣き出してしまいそうでどうしようもなく
睨み付けるようにして、罵ってないと 一番言いたくないことを言ってしまいそうで
「はなせよっ」
服を取られて肌をさらし、
その肌に暁が舌を這わせるのを見ながら、真墨は震えた
その感触、熱、もたらされる特別という錯角
他の誰にも与えないで欲しい
自分だけ、見ててほしい

言ってしまいそうになる
他の奴なんて、構わないでほしいと

「う・・・く、んぅ・・・っ」
ぞくぞくと、もたらされる熱に真墨は声を押さえることができなくなった
震えながら、身体の奥の疼きに負ける
暁の服を必死に掴んで、もっと欲しいと言わんばかりに自分から口づける
舌を差し入れて中を探るように求めたら、わずか暁の笑った気配を感じた
すぐに、求めに答えるよう舌をからませて、口内をかきまわしてくる
そのまま、頭がボウ、とするのを感じていた
暁とこういうことをするのが、気持ちいい
こんな風に思うのは暁だけで、こんな風に求めるのは暁だけだ
「ん・・・んぅ・・・っ」
唇を離すと、暁は真墨の身体に深く身を沈めた
「あ・・う、んぅー・・・」
ソファに押し付けられて苦しい、と思いながら
だがその思考はすぐに与えられる熱に消えていく
奥まで暁を飲み込んで、感じ取って、もっととねだるように腰を浮かせて
真墨は何度も何度も自分の想いを自覚した
こんな風に抱くのは自分だけにしてほしい
他の誰にも与えないでほしい
誰のものにもならないでほしい
いつか、自分が求めるように、暁も自分を求めてくれるのだろうか

自分もラギのように 興味で構っているだけなのだろうか

「あか・・・し、嫌だ、もっと・・・っ」
一度果てて、身を離そうとした暁の腕を真墨は必死で掴んだ
壊れれるまでしてほしい
どうせ興味で構うだけならいっそ、何も考えられなくなるまでしてほしい
誰かに嫉妬して、世界に嫉妬して、イライラするのは辛い
苦しくて仕方がない
「淫乱だな、おまえは」
耳もとでささやかれて、泣きそうになった
どうせ、綺麗なんかじゃないと言ってやったら 暁は上機嫌にクク、と笑った
「じゃあ、おまえはどこまでも堕としてやるよ」
俺のいるところまで、
そう聞こえた後は、ただもう熱
その手と声と熱にどうしようもないほどいかされて、何も考えられなくなるまで
意識を失うまで、
暁の腕に抱かれて、果てた
堕ちた先に暁がいるのなら、どこまでだって堕ちたいと 願いながら


女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理