2回目の罰 (赤×黒)


「ん・・・う、う、・・・・・」
ガクガクと足が震える
肌にふれる手は冷たくて、身体の中を奥深くまで犯しているものからも体温は感じられない
それでも、真墨の行為に慣れた身体は ヤイバの与える刺激に昂りそそり雫をたらし
その咽からは 濡れた声が上がってしまう
「お前は本当に、愚かな人間だ」
身体の上で、低くヤイバが笑った
ズク、と
彼を奥深くまで飲み込んで ぞぞと背が反る
声を我慢しようとしても、できない
触れられて、弄られて、挿入されれば 真墨はどんな男相手にだって感じる
たとえ心で嫌悪していても、
たとえ、望まない行為でも
「く・・・そっ、」
歯をくいしばって、ヤイバを睨み付けた
彼の向こうに見える暗い空
最初、どうしてこんなところにいるのかわからなかったけれど
ヤイバが 薄く笑ってこんな行為に及んだから、思い出してしまった
少し前にも、彼の暗示にかかって、こんな風に誰もいない暗い夜に犯されたことがあるとこを

(くそ・・・っ、さっさと終わらせろよ・・・っ)
ヤイバに犯されると、昔の自分を思い出す
男に気が狂いそうになるまで犯されて、
いつしか その行為に身体が慣れて 誰が相手でもイけるようになって
心は嫌悪したまま、
相手の男達に、こんな自分に、嫌悪したまま それを武器にして生きてきた
そんな頃の自分を思い出す
望まない行為に、こんな風に揺さぶられていると
「威勢がいいわりに、身体は喜んでいるな」
「うる・・せぇ・・・っ」
視界がガクガク揺れた
ヤイバの手に握り込まれたものが、熱を増して今にもイきそうになっている
「くそっ、あ、く・・・・っ」
ぎゅ、と目を閉じた
暁と出会って、彼に抱かれて、初めて感じたことがある
こいつになら、暁になら、
犯されても嫌悪しない
心のどこかで こうして身体を繋げる行為を求めている自分がいる
暁にだけ、そう感じた
だからもう、彼に抱かれた後は 他の誰にも触れられたくない
昔の自分を思い出して吐き気がするほどに、暁以外とのこういう行為を どうしようもなく嫌悪する

荒い息を繰り返しながら、真墨はヤイバの顔を睨み付けていた
解放を迎えて、ざっと身体の熱が引いて行くのを感じながら 未だ上にのしかかるようにしているヤイバの下でもがく
「済んだんなら さっさとどけよっ」
彼が何のために、こんな風に真墨に暗示をかけて呼び出すのかわからないけれど
この間のように、闇へ戻ってこいというのならまだしも、
今日はそんなこと一言も言いもしないで この行為におよび
暗示のおかげで身体の自由のきかない真墨は 結局今もされるがまま
ここから逃げ出すこともできないでいる
「おまえは愚かで不思議な男だ」
「何がだっ」
ヤイバは、真墨には答えずに 低く笑っただけだった
今日、アメノカナヤマノハガネを追っている時 ヤイバに会ったのがいけなかったのだろう
その時にまた、暗示をかけられたのだろう
闇のものにしかきかない暗示だと彼はいい、
真墨は 夜になると ヤイバの暗示に無意識に応えるように こんな誰もいない森まできてしまった
どうやって基地を抜け出しているのかもわからず
ここが どこなのかすらわからないけれど、それでも
自分がここにいるのは事実だし、それがヤイバのかける暗示によるものであることも事実だった
「私の声に反応してここまで来るくせに、自分の意志で光の元へ戻っていくのだからな」
そう言ってヤイバは 真墨の首元に顔を近付けた
「な・・・に、すんだっ」
もがいても、どうにもならない
一瞬、
ほんの一瞬 首筋がひどく熱く感じて、真墨は声を飲み込んだ
「もう少し、様子を見てみるのも悪くない
 お前は興味深い」
ヤイバに触れられても、身体を奥まで犯されても熱を感じない
だから、とても驚いた
熱くなった首筋から、身を放して ヤイバはもう一度低く笑うと姿を消した
呆然と、もう誰もいなくなった空間を見つめながら 真墨もその場から姿を消す
後には静寂だけが、残った

「え・・・・・?」
今まで 暗い空を見ていたのに、突然明るい天井に景色が変わって 真墨は驚いてまばたきをした
身体を起こすと わずかな痛みが走っていったものの、自由に動かせた
ヤイバの暗示に身動きできなかったのが解除されている
「まさか夢?」
思って両手を見たら、土で汚れているし
服も乱れたままで さっきまでの全てが現実だったと伝えている
(なんだよ、気持ち悪い術使いやがって・・・っ)
心の中でつぶやきながら 真墨は部屋のシャワーへ入り 土や葉で汚れたジャケットを洗濯カゴへ放り込んだ
不愉快な記憶は全部シャワーで流してしまおう
女じゃないから、犯されたくらいでメソメソしたりはしない
トレジャーハンター時代に 自分から男を誘って行為に及んでいたのだから、今さら傷ついたりしない
だけど、暁を想って確実に胸が苦しくなるから
彼以外は嫌だと、心がそう望むから
忌わしい今夜の記憶も、身体についた形跡も全部消えてしまえと、真墨は長い間 熱いシャワーに打たれていた

「おーい、菜月」
濡れた髪をそのままに、シャワーから上がったあと 真墨はサロンにやってきた
時間は夜中の1時
この時間なら 夜更かし好きの菜月ならまだサロンにいるかもしれないと思ったから
「替えのジャケットどこにあるか知らねぇ?」
言いながら電気のついたサロンに入り、そこに誰もいないのに首をかしげて立ち止まる
(電気ついてんのに誰もいない・・・?)
珍しく、もうみんな眠りについたのだろうか
時々電気を消し忘れてさくらに叱られている菜月が、またやらかしたのだろうか
壁のスイッチに手を伸ばして電気を消そうとした瞬間  エレベーターの音が響き、
そちらを見遣ると、暁が両手にプレシャスを回収するボックスを抱えて出てきた
「・・・・・っ」
瞬間 ドクン、と心臓がなる
「どうした? そんな格好で」
濡れた髪、タンクトップ姿で立っている真墨に いつものように声をかけ 暁はボックスをテーブルに置くと中に入っていた何かをロッカーに入れた
「なんだよ、それ」
「今、本部から送られてきた遺跡の発掘品だ
 牧野先生に調査してほしいらしいんだが、先生は今取り込み中でな
 仕方ないから今晩はここに入れておくことにした」
サロンで施錠できるロッカーはここだけだし、と
言って暁はロッカーにロックをかけると 未だ同じ場所で突っ立っている真墨を見遣って少し笑った
「で? おまえは何をしてる?
 そんな格好でいると風邪をひくぞ」
「俺は・・・その」
ジャケットの替えがほしいと、
言いながら 真墨はこちらに近付いてくる暁の顔を見つめた
「ふぅん?」
側まできた暁の声
少し、低くなった気がする
そう思った途端、彼の手が真墨の首筋に触れた
ドクン、
さっきの熱を思い出した
ヤイバが顔を近付けて、熱をもった場所
そこをなぞるそうに一度触れて 暁は無言で手を放した
「な・・・んだよ」
見上げる先、暁はいつもより冷たい目をしてる気がした
「ジャケットはどうした?」
「・・・汚れたから洗濯に回した」
「どこで汚した?」
「・・・どこって・・・」
「誰に汚された?」
「だれ・・・って・・・」
冷たい声
確実に、含みのある言葉
ドクン、ドクンと真墨の心臓が鳴った
「何だよ、別にそんなのどうだって・・・」
暁を睨み付けたら、わずかに意地悪く笑って 暁はロフトに置いてある鏡を顎で指した
「見てみろよ、自分の姿を」
そう言って、冷たい目で真墨を見下ろすから どうしようもなく
真墨は言われた通り、ロフトに上がって鏡の前に立った
「え・・・」
鏡にうつる自分の姿
シャワーの後 ろくに拭いてないから濡れたままの髪
ジャケットがないから、黒のタンクトップだけ着て
だから露になってる首筋に、一つ
まるでキスマークみたいに鮮やかに、赤い花が一つ咲いていた
ドクン、
ヤイバに与えられた熱を思い出す
まさか、これは奴がつけたのか
こんな場所に まるで暁が行為の最中 身体中につける痕のように
まるで所有の印のように
「・・・・・・・・これ・・・」
思わず、首筋に手を当てた
さっきと同じ場所に立って 暁が言う
「俺はな、おまえがどこで誰と何してようと気にはならないがな
 自分のものに、そうやって印をつけられるのは好きじゃない」
冷たい声
戸惑って、暁を見つめるだけの真墨に冷たい言葉が降り注ぐ
「それが消えるまでは お前を許さないからな」
意地悪く笑っているのに、言葉の温度に容赦がない
「なん・・・だよ・・・っ、こんなの俺・・・知らないっ」
どうしようもなく、
そう叫ぶように言ったら 暁はチラとこちらを見ただけだった
そのまま無言でサロンを出ていく
残されて、半ば呆然と
真墨は立ち尽くしていた
あんな暁を初めて見たかもしれない
そして、言われた言葉にこれ以上なく動揺している自分がいる

「別に俺はお前のものじゃない・・・っ」

ベッドにもぐり込みながら、つぶやいてみる
暁は身体を繋げる時 必ず所有の印を残す
それも一つや二つじゃない
いくつも、いくつも
抱かれた次の朝には、まるでお前は俺のものだと言ってるようなこの痕に 心が騒いでどうしようもない
昔は嫌いだった痕を残すという行為
こんな風に勝手に人を所有した気になって、と思ったけれど
暁にされても、嫌じゃなく
むしろそれは誇らしい気持ちにさせた
彼がそういうことを自分にするということは、少しは
少しは暁が、自分に執着しているということ
それの証明のようで、気分が良かった
「なんなんだよ・・・っ、自分だっていつもしてるくせに・・・っ」
首筋に手を触れた
ヤイバが何のためにつけたのかはわからなかったけれど、
それで あんな風に暁が怒るとは思わなかった
そもそも、この痕はシャワーを浴びた時にはなかったのに
暁の側にいたら浮かび上がるように出てきて、それで
あんな風に言われた
痕が消えるまで許さないなんて、一方的で
行為自体は 誰としたってかまわないとか言ったくせに、たかだかこんな痕くらいでと
真墨はぎゅ、と目を閉じた
暁のあの冷たい目と、言葉のせいで眠れない

結局、あれから4日たっても痕は消えなかった
「なんで消えないんだっ」
毎朝、鏡を見て苛立ちながら あれから一度もマトモに口をきいてくれない暁を思って泣きたくなる
仕事以外では 真墨の方を見ようともしない
完全に無視しているかのように振る舞われて、最初の1日目はどうしようもなく戸惑って
2日目に なんなんだ、と一人で喚いて
3日目に、暁が一人の時に捕まえて文句を言ったら 綺麗に無視されて今日に至る
「くそ・・・っ、なんで消えないんだっ」
少し薄くなっている気はするものの、まだ消えてはいない
今日も暁はこちらを見ないだろうと思うと 本気で泣きたくなった
思い知る
自分は暁を求めていて、彼が話し掛けてくれたり、笑ってくれたりしたら それが何より嬉しくて
彼に触れられてどうしようもなく感じて、
彼に特別な言葉をもらって、どうしようもなく酔う
暁に対する想いを自覚しはじめた真墨には 今の状態は何より辛い
どうしていいのか、わからなくなる

「明石・・・っ」
その日の午後、真墨は廊下で暁を捕まえた
「何でそんな風なんだよっ、明石っ」
叫ぶように言う真墨に 暁は面倒くさそうに立ち止まると 真墨のジャケットを掴み ぐい、と首元をはだけさせ、あの痕を確認すると そのまま手を放した
そうして また歩き出したのに 本気で、本気で泣きたくなった
「なんだよっ、待てよっ
 こんなのくらい、何でもないだろっ」
声が震える
力任せに 暁のジャケットを掴んで引き止める
冷たい目で見下ろしてくる暁を 涙のたまった目で見上げて 真墨は叫ぶように言った
「わかんねぇよっ、あんたっ
 こんなことくらいで怒るかよっ、普通っ」
今にも泣いてしまいそうだ
この仕打ちは 思っていたよりこたえるいる
たった4日 相手にされないだけで
まともに見てももらえないし、話もしてももらえない
それがこんなに辛いなんて
泣きたくなるくらい、どうしようもない
「なんとか言えよっ、明石っ」
言ったら、暁は溜め息をついて 意地悪く笑った
「言わなかったか? 真墨
 俺は自分のものに 他人が所有の印をつけるのは気にくわない
 それを許すお前も同罪だ」
だから消えるまでは許さない、と
言って暁は 服をつかんでいる真墨の腕をバシッ、と払った
「・・・っ」
びり、と手に痛みが走る
本当に容赦がない
暁は 訓練の時やセックスの時に 真墨をひどく乱暴に扱うことがある
わざとなのか、彼の力の強さゆえ そうなのかはわからないが
だが、それらさえも 手加減しているのだと今知る
たった今 払われた手に走った痛みは鋭くて
冷たくて、痛くて、泣きそうになった
どうしても、どうしても、このままでは暁は自分を許さないのだ

それから2日間たって、ようやく、
ようやく ヤイバのつけたあの痣は消えた
「・・・っ、消えた・・・っ」
鏡の前で震えるようにしながら、部屋を駆け出る
我ながら、どうしようもなく暁に捕われていると思いつつ 足は止まらなかった
暁の部屋へ行き、ノックもそこそこにドアをあける
「明石っ」
怒鳴るように言ったら、窓際のソファで雑誌を見ていた暁が 怪訝そうに顔を上げた
ドクン、ドクンと胸がなる
暁の方へ歩いていって、目の前でジャケットの首元をはだけさせた
「消えたっ」
叫ぶように言う
ゆっくりと暁は真墨の顔を見て、それから冷たい目のまま 言った
「それで?」
瞬間、カッとなる
この1週間 ロクに会話もしてくれないで
こちらを見てもくれないで
暁に特別扱いされたいと心のどこかで思っている自分が、それでどれだけ傷ついたか
それでも、暁の言うように
ヤイバにこの痕をつけることを許してしまったのも自分だから
彼の言うように この痣が消えるまで我慢していたのに
暁がそれまでは許さないと言ったから、消えるのを毎日毎日待っていたのに
「な・・・なんだよっ、消えたら許すって言っただろっ」
相変わらず冷たい目をしている暁を見て、本気で泣きそうになった
ガクガクと、震えそうになるのを必死で堪えても 声はどうしても震えた
「消えたんだから許せよっ」
言いながら ボタ、と涙が落ちるのを感じた
悔しくて仕方がない
自分ばっかり、暁を好きで
こんな風にされると、どうしようもなくなってしまう
どれだけ必死になったって、こんな冷たい目で見られたら それだけでもう泣けてくる
「許すと言った覚えはないがな」
暁は、泣き出した真墨に言うと、しばらくグラグラ揺れる真墨の目を見つめた後 笑った
「お前はほんとうによく泣くな」
「うるさいんだよっ、誰が泣かせてんだっ」
子供みたいに大声で喚いて、暁の服につかみかかると クク、と暁は笑った
「これに懲りたら あんな痕 つけて帰ってくるなよ」
俺は嫉妬深いんでね、と
いつものように笑う顔、声から あの冷たさが消える
ドクン、
熱が身体に戻る気がした
見つめたら、暁はゆっくりと視線を合わせてきて、
それから 言った
「次はこんな罰じゃ済まないから、よく覚えておけ」
それで、ようやく、ようやく
真墨は安心して へたへたと暁の足下に膝をついた
完全に捕われてる自分を、自覚しながら


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