くだらない話 (男どもの談話)


なんとなく、男三人がサロンに集まっていた
暁はソファで本を読んでいて、蒼太はロフトで熱心にパソコンを弄っている
そんな二人の間で 何をするでもなくモニター前の椅子に座り、手の中のマグカップをコロコロしながら真墨はぼんやりと さっき蒼太が作った報告書を眺めていた
怪盗セレネーは美人だったとか何とか
ミッションやプレシャスに関係ないことばかりが書かれた蒼太の報告書は、さっき暁にボツをくらったばかり
報告書を作る作業は真墨も得意ではなかったけれど、これよりはマシに書けるだろうと ロフトの蒼太を見遣ると 何やら頭を抱えている
「そもそも、今日のミッションはセレネーのこと以外 書くことないでしょ」
ブツブツと独り言か、つぶやきに暁が本から顔を上げて苦笑した
「おまえってほんとに、女好きだな」
「心外だなぁ、女なら何でもいいってわけじゃないんだよ」
冗談めかしい口調の蒼太は、行き詰まった報告書を進めるのを諦めたのか ロフトから下りてきて真墨の向かいに座った
「いい女だったろ? あの子」
「そうか?」
「そうだよ、
 何? 真墨はああいうのは好みじゃない?」
「・・・好みじゃない」
顔を覗き込んでくるような蒼太を 軽く睨み付けるように言うと 蒼太は楽しそうに笑った
「じゃ真墨はどんな子が好きなのさ?」
「どんなって・・・」
「可愛い系? 派手系? 素朴系? それとも・・・」
「なんだよ、その なんとか系って」
「えー、言いますよねチーフ、なんとか系って」
どこまでも調子よく言う蒼太に、暁は肩をすくめて笑った
「チーフはどんな女の人が好きなんですか?」
どんな女、と
聞いて そういえば暁の女の好みなんて気にもしたことがなかったと 何となく思い至る
昔 トレジャーハントのチームを組んでいたキョウコという名の女は、どんな感じだったのだろう、とか
過去につきあった女はどんな人だったんだろう、とか
急に思って少しだけ、ソワソワした
暁も男なのだから、女に興味はあるだろうし
蒼太ほどでなくても、それなりに好みなんかもあるだろう
「足の綺麗な女がいい」
特に、何のもったいぶりもなく
興味津々に見守る二人に暁は言った
「足ですかー、フェチですねー」
嬉しそうな蒼太は、このネタで盛り上げて あのふざけた報告書を通すつもりなのだろうか
身を乗り出すように話している
「大抵、胸とかお尻って言いますけどね
 チーフはマニアだなぁ」
嬉しそうに笑って 今度は真墨に向き直った
「なんだよ」
「真墨は? 胸派? お尻派?」
「だから そのなんとか派とか、なんとか系って何だよっ」
こんなバカな話に暁がのったりするから、蒼太が調子に乗って嬉しそうだし
自分までわけのわからない派閥に入れられそうになっている
だいたい、女の子の好みを聞いて どうして足とか胸とか尻なんだ
他にもっと見るところがあるだろう
性格とか、しぐさとか、もっと人間として大事なものが
「あれー、真墨は意外にマジメ解答だなぁ」
「うるさいなっ
 普通そうだろっ
 胸とか尻とつきあうんじゃないだぞっ」
「いやまぁ、そうなんだけどさー
 やっぱ好みってあるだろ? なんせ女体は僕達 男にとったら神秘だから」
ヘラヘラと蒼太が笑ったのに、暁もクク、と笑った
「どうせ側に置くなら見た目好みの方がいいだろう」
「なんだよ、その側に置くっていう発想は
 飾りじゃないんだぞっ」
暁の目を見たら、おかしそうに笑ってる
なんとなく、からかわれているのかもしれない、なんて思いながら抗議のように言ってしまうのは そんな外見などで判断されたくないからか
それとも、暁の望む綺麗な足や、女の子らしい膨らんだ胸や尻を 自分は持ってないからか
「気に入らないなら言い直そうか?
 どうせ抱くなら 見た目も好みな女がいいってことだ」
その言葉に、キョウコの名前がふと浮かぶ
男は女とセックスするのが自然で、
暁はどうせやるなら 足が綺麗で白くて柔らかい女がいいって、そういうことだ
自分が暁に求めはじめているものは、不自然なことだと思い知らされる
(なんだよ、くそ・・・あたりまえの話じゃないか )
男が男に抱かれたいと思うのなんて気色悪いと思っていた
男が男を犯したいと思うのだって、理解できなかった
男同士のそういう行為は、一種の支配欲で上下関係で、
暴力の延長のようだと、ずっとそう思っていた
それを武器に生きてた頃、自分から身体を開いたけれど けして犯されることを望んだわけじゃない
そうやって油断させて、逆襲するためだ
この身体を性欲のはけ口に使った奴らに復讐するためだ
「あれ、真墨、なんか暗いよ?」
いつのまにか、うつむいて意識を過去に飛ばしていた真墨を覗き込むように蒼太が笑った
「真墨のいうように性格だって大事だよ? ね、チーフ」
何の慰めのつもりか、いつものヘラヘラ調子で蒼太が続ける
「チーフの好きな性格はどんなですか?」
いつまで女の話でひっぱるのか、と
思いつつ 暁を見たら 見なれた意地の悪い目がこちらを見返してきた
「なん・・・だよ」
「勝気で強気なのが好きだな
 弱いくせにキャンキャン煩くて、なかなか慣れないようなのを服従させるのがたまらない」
くく、と
暁の上機嫌の証の笑い声が、響いた
「チーフ、サドですねー」
蒼太が笑う
その向かいで、まさかそれは俺のことかと
完全にからかわれていると確信して、真墨はギッと暁を睨み付けた
誰が弱いくせにキャンキャンだ
何が服従だ
「俺は服従なんかしないからな」
つぶやきは、暁には届かなかったのか 奴は大きくのびをしてもう一度笑った
「で? 蒼太、お前はどんなのが好みなんだ」
時計はそろそろ夜中の1時を指す
今日もミッションがあったのだし、これ以上夜更かしできるほど体力は残っていない
それを思ってか、この話を切り上げるつもりなのだろう
暁の視線が 一度時計へと動いた
「僕ですか?」
「よほどのこだわりがあるんだろうな、なんとか派や、なんとか系の」
普段の言動を見ていたら、女なら何でもよさそうなこの男に こだわりなんかあるのだろうかとも思うのだが
この流れでいったら、やはり胸とか尻なのか
意外に性格重視だったりするのか
「僕はアレですよ、顔」
「顔?」
「そう、美人が好き、それだけ」
にこ、と
何を悪びれることなく言い放った蒼太に 暁が呆れたように立ち上がった
「ミもフタもないな」
「おまえ、顔がよけりゃ性格最悪でもいいのかよっ」
「美人で性格最悪の人なんかいないよ
 真墨はわかってないなぁ、心の美しさが顔に出るんだよ?」
もうちょっと女性を見る目を養わないとね、なんて
言った蒼太は、テーブルの上に放ってあったボツ報告書を手にとった
「というわけでですね、チーフ
 怪盗セレネーは美しく、彼女の存在こそがプレシャスだったとまとめたこの報告書、受理してくれませんか?」
結局、それが言いたかったのか、と
半ば呆れながら蒼太と暁を交互に見遣ると、暁は読みかけの本を手に 肩を竦めて意地悪く笑った
「それとこれとは また別の話だ
 俺は寝るが、お前は明日の朝マトモな報告書を出すように」
できてなかったら怒るぞ、と
最後の一言は 軽い調子にも関わらず有無を言わさないいつもの強さがあって
結局 蒼太は はい、と
返事をして サロンを出ていく暁の後ろ姿を見送った
「あーあ・・・チーフは騙されてくれないなー」
「あんな話で騙されるような奴かよ」
「でも意外、チーフは足派かぁ」
(・・・しかもまだその話をひっぱるか)
溜め息をつきつつ、蒼太はボツ報告書を持ってロフトのパソコンの前に戻り
真墨は、何か嫉妬のような、それとはまた別の昂りのような
複雑な気持ちを抱えて 溜め息をついた

とある夜の、男同士のくだらない話


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