暁のいる夜 (赤×黒)


人形騒動が一段落ついた日の夜中
なぜか眠りが浅くて、なんとなくサロンにおりてきた真墨は そこで暁を見つけた
モニターにダイボウケンのデータを流しながら 腕を組んで何か考えている
こんな夜中に何してんだ、と
声をかけたら 驚いたように振り返って奴は笑った
「今日の合体の応用を考えてた」
リミッターを解除しての合体フォーメーションは、一歩まちがえばドカンだ、と
あの時 暁は言った
エンジンを全開にしながら 腕から電流が身体の中に流れ込んでいくのを感じた
気をぬけば意識がふっとびそうになるくらい
終わったあと しばらくは目の側がチカチカしてたくらい
それぞれの身体にかかる負荷が大きいのを身にしみて感じた
だからこそ、あんなパワーが出るのだし
だからこそ、今日の戦いで勝てたのだけれど
「さくらも菜月も俺達ほど体力があるわじゃないからな
 あんなのが毎回だと保たないだろう」
(アンタみたいな体力は俺だって蒼太だって持ってない・・・)
適当に相づちをうちながら、モニターの正面の椅子に座った
「もう少し負荷がかからないようにできないかと思って」
「こんな夜中にか?」
「思い立ったが吉日だ」
「・・・あんたっていつも、そんななのか?」
「そうだな」
だからって、こんな誰もが寝静まってる夜中に フォーメーションや合体を考えなくてもいいだろうに
今回の件と同じく
暁は思ったらすぐに行動に移すのだ
いつか言ってたみたいに
宝の地図を見つけたら、誰かに取られる前にとにかく現地へ行くんだと
そしてその後のことは、着いてから考えるんだと
「よくそんな体力あるな」
「おまえこそ、起きてないで寝に戻れよ」
「俺はなんか眠れないんだよ」
目が冴えて、と
言った真墨に 暁は自分のマグカップをよこしてきた
まだ湯気のたつそれには、琥珀色の液体が入っている
「何これ」
「紅茶」
「・・・珍しいな、アンタいつもコーヒーなのに」
「さくらが煎れてくれたんだ」
「ふーん・・・」
手にして、一口飲んだ
紅茶とは思えない味が口の中に広がっていく
「・・・なんだよ、これ」
「だから紅茶だって」
暁が、クク、と笑った
「変な味がする」
「ブランデーが入ってる」
「・・・なんで紅茶にそんなもん入れるんだっ」
うえ、と
途端まずそうな顔をした真墨に 暁は面白そうに言った
「眠れないんだろ ?
 それ飲むと よく眠れるぞ」
なんならミルクにブランデー入れてやろうか、と
言われて 真墨はギッと暁を睨み付けた
「バカにすんなよ
 酒が飲めないわけじゃないんだっ」
「だったら それ飲んでさっさと寝てしまえ」
「アンタは?」
「俺はもう少し、ここにいる」
何か、部屋に戻れない理由でもあるのだろうか
今は、モニターのデータに背を向けて おもしろそうにこっちを見てる
「なぁ・・・」
まだ、ここにいたかった
こんな風に暁と話をするのが、最近とても好きだ
暁はいつも からかったり意地の悪いことを言ったりして 本気なのか冗談なのかわからない言葉で翻弄してくるけれど
それでも、二人でこんな風に話す時間は楽しかったし、何か胸がソワソワした
だから、彼の言うように寝に戻る気はなかった
手の中の紅茶をもう一口飲む
「無理するなよ」
笑った声が、すぐ側でして ドクンと心臓が鳴った
この距離が、誇らしく
この時間が、たまらない

「なぁ・・・」
別に何をするでもなく、
いつまでも動かない真墨に、暁はこれ以上 部屋へ戻れとは言わなかった
「アンタはさ、見つけた宝をどうしてるんだ?」
「どうとは?」
「売ったりしてるのか?
 アンタの部屋に、あんまり置いてないだろ」
いつもいつも片付いている暁の部屋には、遺跡の発掘品のようなものは置いていない
売ったのか、寄贈したのか、それとも別の場所に置いてあるのか
「売るのもあるし、研究に貸してやってるのもあるし、財団にくれてやったのもあるな」
ここの資料室に いくつか展示してあるぞ、なんて言いながら 暁は頬杖をついて笑った
「そういえば、お前の部屋には色々と置いてあったな」
「愛着湧いたやつは手放せないだろ」
苦労して手に入れたんだし、と
答えながら、暁は宝に愛着など湧かないのだろうかと考えた
必死になって手に入れた宝は、簡単に売れるものではない
真墨は、いくつかそうやって手放せなかった宝を部屋に置いている
普段、それをつくづくと眺めているわけではないけれど
手放すには惜しい
そうやって残しているから 部屋があんなに散らかってるんだとわかってるけど
「俺は宝を探し出す経緯が好きなんだ
 宝を手にした後は それほど・・・執着しない」
例えば、宝が隠されている場所を特定する作業
文献を漁ったり、推測をつめていって一つの結論を導き出したり
そして実際にその場所で、いくつものトラップを乗り越えて探し出す
その冒険が、暁には全てで
その後 手に入る宝は二の次なのだ
美しいものも、貴重なものも、胸をわくわくさせるけれど
見つけてしまった後はもう 次の冒険のことを考えてしまう
「・・・手に入れたら冷めるタイプなんだな」
「冷めるって感覚ではないんだがな」
言ってて、ドクン、と
不安のようなものが広がっていった
わかっている、暁の性格
宝を手に入れるまでの経緯を楽しんでいるからこそ、こんなにも行動的で
だからこそ、狙った獲物は逃さない不滅の牙なんて異名がつくほど貪欲なのだ
宝は、手に入れた瞬間から 暁にとって価値が減るのだ
ゼロになるとは言わなくても、新しい未知の冒険には叶わない
暁の関心は、別のものに移ってしまう
「・・・じゃあさ・・・もし、生きてる魚がすげぇプレシャスでさ
 それをお前が見つけたとして・・・どうする?」
自分でも 何を聞いているのだろうと思いながら 真墨は暁を見上げた
「生きてる魚?」
怪訝そうに暁が繰り返す
なんだそれは、なんて笑いながら それは任務で見つけたわけじゃないんだな なんて確認しながらしばらく考えて
「そうだな、やっぱり食うかな」
そう言った
その答えに、一瞬ポカンとして、
それから なんでだよ、と思わず真墨は立ち上がった

手に入れた途端に 宝に興味がなくなってしまうなら
出会った時 お前は俺の獲物だなんて言った暁の手に捕まってしまったなら その瞬間から暁の興味は自分以外のものへ向いて
お前を手に入れると笑ったあの熱を もうもらえなくなってしまうということだ
暁に堕ちた瞬間 彼は自分に飽きるかもしれない

「どうした、急に」
カッとなって叫ぶようにした真墨に 暁が可笑しそうに笑った
「なんで食うんだよっ
 貴重な宝だぞっ、生きてて高価で いっぱい研究とかできるすごい魚なんだぞっ」
「だって俺が見つけたんだろ?
 別にいいじゃないか、食ったって」
「だから何で食うんだっ
 大事に育てようとか思わないのかよっ」
「なんでそう、熱くなるんだ?」
クク、と
笑いながら 暁が手を伸ばしてきた
その手が頬に触れたのにドキンとする
「俺のものなんだったら 、誰かに研究させるのもしゃくだし、見せてやるのももったいないし、かといって そんないいモンが側にあったらやっはり食ってみたくなるだろ?
 どんな味がするのか考えたら、食わずにはいられないな」
暁の目がまっすぐに覗き込んでくる
少し意地の悪い色を浮かべて
「で? これは何の例え話なんだ?」
「なんでもないっ
 おまえはヤバンだ、食うなんてっ」
「お前ならどうするんだよ
 大事にガラスケースにでも入れて飾るのか?
 それとも皆にみせびらかすか?」
「俺は見せびらかしたりしないっ
 大事に水槽で飼う」
「水槽なんかで飼ったら狭いていって魚が逃げるんじゃないか?」
暁の指が、頬から髪へと移動する
ぽすん、と座って 真墨は暁を睨み付けた
「逃げたら殺す」
「おいおい、お前 俺より酷いな、それは」
「じゃあ逃げられないように鍵をかける」
「可哀想だろ、魚が」
「可哀想じゃないっ」
いつの間にか、真墨の手の中のマグカップは空になっていて
もしかして こんなカップ半分のブランデーで酔ったのか、なんて思いながら 暁は真墨にそっと顔を近付けた
「お前はさっきから、何の話をしてるんだ?」
囁くように問いかける
きついくせに、どこか無防備な目が 見つめ返してきた
「お前は見つけだした宝を大事にしないし、捕まえた魚だって大事にしないってわかった」
「それで?」
「だから俺はお前には捕まらない」
「なるほど」
それはようするに、自分は暁の獲物だって自覚があるということで
すっかり暁の牙にかかって捕らえられてると、そう告白しているも同然
わざわざ こんな例え話で確認して
このままじゃ飽きられるとでも 思ったのだろうか
(いらないから食うわけじゃないんだが、まぁ 何を言っても無駄か)
触れた首筋から とくんとくん、といつもより早い振動が伝わってくる
酒に弱いんだな、と思いながら 自ら捕らえられていることを告白してくれた真墨に笑みが漏れた
なんて可愛い奴
なんて、なんて無防備な奴
「捕まったら食われるからな、せいぜい捕まらないようにしとけよ?」
「わかってるっ
 お前だってなっ、油断してると水槽に閉じ込めて鍵かけるからなっ」
「わかった、気をつける」
くく、と
また笑みが漏れた
自分で何を言っているのか わかっているのだろうか
それは、暁を誰にも取られないよう独占したいと そういうことだ
逃げないよう鍵をかけて、誰にも見せずに隠して自分だけのものにする
そう言っているのだ
この わずかなブランデーで見事に酔っぱらったこの男は
「お前はやきもちやきなんだな」
結論を出して 暁はどこかボンヤリとしている真墨の身体を引き寄せた
机に邪魔されて、上半身だけがフラリとこちらへ寄ってくる
「飽きさせなきゃいいんだよ、ようするに
 そしてお前は、飽きる暇がないくらい面白くて可愛い」
そのまま、くちづけた
いつもより熱い舌が ゆっくりと浸入してくる
からめとって、そのまま真墨の口内をかきまわすと、咽を震わせてわすかに声をあげる
しばらく 角度をかえて何度も、呼吸を飲み込むようにした
とろけそうに甘い声が、漏れる
同時に いつまでもマグカップを握ってる手が震える
「ん・・・うぅ」
たっぶり虐めるようからめとって、酔いのせいでおとなしいのをいいことに散々かきまわしてやったら 真墨は身を放すと同時に くったりと テーブルにくずれるようにして目を閉じた
「おまえはたまらないな」
さら、と流れる髪に触れて そう囁く
返事が返らないかわりに 整った寝息が聞こえてきた
「大事なお宝が風邪ひかないように、部屋に連れて帰ってやるか」
つぶやいて、暁は真墨の身体を抱き上げ 真墨の部屋へと向かった
こんな風に色んな顔を見せるから、飽きないでいられる
なついたと思ったら 鋭い目で睨み付けてくる獣みたいな奴だから面白い
真墨の心配してるようなことには まぁ当分なりはしないとひとりごち 暁は一人満足気に笑った


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