暁のいない夜 (赤×黒?)


突然いなくなった暁を、必死に探してる最中 何度も最後に見た暁の顔を思い出した
あの 今にも炎上しそうな、爆発しそうな操縦室の中
「全員退避」と命令をくだして、メンバーを逃がそうとしていた
真墨も、暁に背を押されて 出口へと押し遣られた
その時に、振り返ったら 暁は厳しい目をして早く行け、と
一言言った
そして、そのまま
煙にまかれながら、よろめく菜月を支えて必死に脱出した
あとから、暁も来るんだとそう信じていた
なのに、暁はいなかった

「あいつ・・・っ 」

最初に込み上げてきたのは怒り
そして、それをぶつける相手のいない現実
遠ざかっていく自分達のマシンを、ただ見てるだけしかできない満身創痍の自分
ハンドルを握る腕がズキズキ痛んで立っていられなかった
力が抜けていく
暁の姿が見えない
置いていかれたんだと そんな予感のようなものが胸を過った
「手分けして探しましょう」
夕方おそくまで、みんなで必死に探してもいなくて
「見つかりません」
「あっちは探したのか?」
「そっちはまだ、見てない」
「僕、向こうを探すから」
「そこは俺がさっき探した」
いつもみたいに 暁が指示をくれないから
誰かと同じ場所を探していたり、かと思えば まだ誰も探していない場所があったりで
「くそ・・・っ、そこは俺が行ったっていっただろっ
 向こうを捜せよっ」
「一人でイライラするなよ、消耗するだけだろ」
笑って止めてくれる暁がいないから、口論しそうになったり手が出そうになったりする
「チーフがいないよぉ・・・」
「仕方ありません、一旦基地に戻りましょう」
「やだっ、もっと探すっ」
「いつまでもここにいたって仕方がないよ、一度戻ろう」
「戻りたいやつだけ戻れよ
 俺は一人で探す」
有無を言わさないあの強さで命令を下す暁がいないから
みんなの意見が一致しなくて、行動がグズつく
ささいなことに、時間を取られる

(くそ・・・っ、あのバカっ)

暁だけがいない
あいつが逃げおくれるなんて間抜けな真似するわけがない
全員が退避できるように あの時の暁は全員のことを気にかけて見ていた
よろけるさくらに手を貸したのも見た
蒼太が菜月をフォローしながら出口に向かったのを目で確認していた
最後に残った真墨の背を押して、言葉をかけた
その余裕があったのだから
あんな場面で、あいつはちゃんと自分の仲間を逃がして生かしたんだから
それの犠牲になって自分が逃げおくれるなんて真似 するわけがない
あんなに強いやつが
あんなに、天が味方についてる強運の男が

基地に戻って、なんとなくサロンに集まったけれど 誰も何も言わなかった
「俺は寝る、ここにいても無駄だからな」
「僕も、部屋へ戻ります」
いつもなら、暁が仕切ってミーティングみたいなことをしたり、
菜月やさくらがいれたコーヒーを飲んだりするのに
それで ちゃんと解散、と暁が言って おひらきになるのに
そのけじめもなく、
まとまりもなく、
皆が、暗い表情のまま それぞれの部屋へ戻っていった

(どこいったんだよ、あのバカ)

おいていかれたと思ったあの予感みたいなもの、それは見事にあたった
どこを探しても暁はいなくて、
こんな風に今 仲間の心がばらばらになりそうになっている
(そもそもあいつらが明石を信用してないからダメなんだ)
今回の人形騒動で、蒼太と菜月が暁に背き、さくらも何か不満に似たものを感じていた
どうして、信じなかったのか真墨には不思議だった
いつもチーフ、チーフといって従順なくせに
三人とも、暁に可愛がられてるくせに
暁はさくらを信頼して仕事の上で片腕のように扱っているし、
菜月のワガママや子供っぽい様子を 受け入れて可愛がっているし、
蒼太なんか 仕事で多少ミスったってお咎めなしなんだから贔屓もいいとこだ
あいつは今 本調子じゃないんでな、なんて言葉 何回暁から聞いたことか
調子の善し悪しまで把握してるくらい気にかけてるってことだろ、と
そのたび妬いた
みんな、みんな、
暁に信頼をもらっているはずなのに
(・・・)
真墨はそのまま 暁の部屋へ向かった
暁のIDカードがないとドアは開かない
だから ドアの前に蹲って座った
自分は、暁を信じていた
今回の人形の件も 何か奴には奴なりの考えがあってあんな行動をとってるんだとわかってた
こんな自分を信頼していると言ってくれた暁の言葉
それが未だに頭に響く
得たかった、信頼
それをくれた暁に どうしようもなく堕ちている
それを自覚しているからこそ、こんな風にされると
置いていかれると、イライラする
叫び出したくなる
信頼してるから、どんなことをしたって許すけど
どんな冷たい言葉も、非情なふるまいも 何かわけがあるんだと考えるけれど
でも、これだけは
これだけはダメだ
置いて行くなんて
みんなを、自分を置いて 暁だけいなくなるなんて

一晩、そこで過ごすつもりだった
廊下は冷たくて 身体が固まってしまいそうだ
でも動きたくなくて
眠れずに、一晩 暁のことを考えていた
サージェスという財団の影
本部が隠す宝のこと
そして、何かに気付いた暁の感情と行動を

「宝の地図を手に入れたらどうする?」
以前、暁の部屋でそんな話をしたことがあった
「下調べして食料揃えて出発する」
「俺はまず、現地に行く」
「そんなことしたって後で行き詰まるたけだろ」
「何でも現地調達ってね
 俺、サバイバルには自信がある」
「・・・だろうけどな、無謀だろ」
「意外に真墨は慎重なんだな」
「意外って何だよ、普通の感覚だろっ」
「そんなグズグズしてたら、宝を他の奴に取られるだろ?」
「それは・・・そうかもしれないけど」
「ああ、お前はアレだな
 先に宝取ったやつを色仕掛けで騙して奪うんだったな」
「な・・・っ」
「俺もそうされないように、気をつけないとな」
「誰がお前なんか誘うかよっ」
「そういう顔が、誘ってるって言うんだぜ?」

思い出して、ぎゅっと目を閉じた
いつもいつも、翻弄されている
言葉に、行動に、その眼に、
冗談みたいに笑って、なのに強い意志で手を伸ばしてくる
「誰かに取られるくらいなら、持つものも持たずにでかけるね、俺は」
そう言って強く抱き寄せられて、そのまま抱かれたのは つい最近のこと
まだ熱が身体に残る気がする
限界まで攻められて、気がふれる程いかされて
かきまわされて、注がれて、声が枯れるまで、気を失うまで揺さぶられる
身体中を暁でいっぱいにされて、熱に酔いながら眠りにつく
そんな風なセックスをするようになって、自覚したことがある
好きだの何だのと 気色悪いと思っていたけれど
こういう感情はそれだということを
暁へ向かう わけのわからないこの想いが、嫉妬や憧れだけではなくて
暁の全てを世界中から奪ってやりたいと思う程に激しいものだということを
こんな風に、抱かれて泣きそうになるくらい感じるのは奴だけだと
最近 真墨は自覚した
だから今もこうして、膝を抱いて暁のことを考えている

(くそ、なんか熱くなってきた・・・)

抱かれた記憶に、身体が疼いて
真墨は慌てて首を振った
こんなところで一人で欲情してどうする
身体を動かして、冷まそう
朝になったら、みんな少しは冷静になるだろうから そうしたらみんなを置いて消えた暁を探して
散々に文句を言ってやろう
置いていくなって
それだけは、許さないって
(そうだ、そもそも仲間を大切にしてるとか言ってるくせに、こんなことしやがって)
暁の得たいと願っているものが 仲間というもので
だから奴は、仲間のために怒ったり戦ったりすることも多い
自分はよく知らないけれど、本部では幹部の人間とよく口論しているとか
仲間に無茶させないよう、本部の要求を断ったりすることもあるんだという
(言ってることとやってることが逆なんだよ)
溜め息をついて、真墨は腰を上げた
トレーニングルームへ向かおうとして、サロンの前を通りかかり
中に蒼太がいるのを見つけた
「何してんだ? こんな夜中に」
覗き込むと、驚いたようにこちらを振り返って 蒼太は苦笑してみせた
いつもの元気がないなと思う
テーブルに地図を出してるから 何か考えていたのだろう
暁の行き先とか、
奪われたマシンがどこに持ち去られたのか、とか

「真墨は、チーフを信じてたんだな」
「あ?」
見上げてくる蒼太の目、ちょっと苦笑したみたいな顔
「だって、真墨だけだったよな、今回 チーフに背かなかったのは」
「さくら姉さんだって背いたわけじゃないだろ」
「表向きはね」
溜め息をついて、蒼太は手にしたリモコンをテーブルに置いた
「真墨はどうしてチーフを信じられたんだ?」
「気色悪い言い方するなよ」
どかっと、ソファに座った
変な蒼太
奴はいつも笑ってるから こんな風に苦笑しかできないでいるのなんてめったに見ない
こういう顔をしてる時のこいつは、何を考えているんだろう
「あいつはいつも俺達を信頼してるだろ
 だからおかえしに、信頼してやってるんだよ」
言ってて、ちょっと寒気がするくらい恥ずかしい台詞だったから 間違っても暁本人相手にはけして言えない言葉だな、と思う
聞く蒼太は わずか、わずか泣きそうな顔をして また苦笑した
「そっか、チーフはいつも僕達を信じてくれてたもんな」
「でもまぁ今回のことで あいつに悪いと思ってるなら それは間違いだ
 悪いのは明石で俺達じゃない
 置いていくなんて、俺は許さない」
言っていてまた腹が立ってきたから、真墨はぱしっ、と拳で手の平を叩いた
「真墨は、可愛いなぁ」
「何がだっ」
「そういう、素直なとこ」
「ケンカ売ってんのか?!」
「ホメてるんだよ、チーフが夢中になるのもわかるなぁ」
へへ、と
未だ泣きそうな顔をして蒼太は言い、立ち上がって真墨の座るソファまできた
「僕も、もう少し素直にならないとな」
「・・・何言ってんだよ」
「そうしたら、真墨みたいにチーフに愛されるかなぁ」
なんて、と
冗談なのか、本気なのかわからないままに
蒼太の顔が近付いてきて、真墨の唇に触れた
「・・・・・っ!???」
硬直したまま動けなくて
目を見開いて、蒼太を見たら 今度はいつものような悪戯っぽい顔で蒼太が笑った
「真墨の素直を分けてもらいました」
ごちそうさま、なんて言葉をぼんやりききながら
たっぷり3秒はかけて、真墨はようやく、ようやくことを理解した
「お、お、おま、おまえ何しやがるっ」
「真墨可愛いなぁ、キスくらいで真っ赤だよ?」
「何がぐらいでっ、だっ
 殺すぞっ」
わめいた真墨と、笑った蒼太と
真っ赤な真墨と、暗い影を隠した蒼太
その胸元につかみかからん勢いの真墨から逃げるようにして、蒼太は言った
「明日はチーフを見つけだそう
 そして僕は 信頼できなかったことを謝るよ」
「知るかっ、勝手にしろよ」
「うん、ありがと真墨」
そしてごちそうさまと、
また笑った蒼太にソファのクッションを投げ付けながら 真墨は階段を下りてく足音を聞いていた
(なんだよ、あいつ
 明石のこと好きみたいじゃないか)
そうしたらチーフに愛されるかな、なんて言葉 あんな切なそうな顔で言って
こんなところで一人 暁のことを考えてたなんて
信頼できず背いた自分を悔いていたなんて
(知るか、そんなこと・・・)
蒼太が暁を好きでも、関係ないと
真墨はぶんぶんと首を振った
蒼太は謝るって言ってたけど、自分は違う
散々文句を言って 謝らせてやる
置いて行って悪かったとか、言わせてやる
もう二度としないと言うまで許さない
怒りに誤魔化しているけれど、本当は不安で仕方ないのだから
ようやく見つけた光だから
暁は真墨にとって、太陽みたいな存在なのだから
多分もう、今は暁がいなくてはどうしようもなくなっている
それほどに、魅かれていることを自覚しているのだから

そうしてそれぞれ 暁のいない夜を過ごす
あの迷わない横顔を、想いながら


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