僕があの人を好きな理由 (赤×青)


チーフはいつも笑ってて、
いつも揺るがなくて、いつも生きてることを楽しんでる
その自信が、側にいる者を安心させる
僕みたいな不安定な人間は、あの人の言葉に救われる

だからそんなチーフが人形を燃やすなんて言ったから、愕然とした
あなたは、そんな人じゃないと思っていた
あなただけは、組織や命令なんかには流されない強い意志を持ってると思っていた

「見損ないました、チーフだけはそんなことしないと思ってた・・・っ」

蒼太がそう言った時、暁はわずかに笑った
目は相変わらず揺るぎなくて、明るい色をしていて全くいつもの暁なのに
言葉だけが冷たく命令する
人形を燃やしたくないという菜月の想いと
それに応えたくて人形を調べて無害と結論を出した蒼太の努力を無視するような言葉
「時間だ」
人形は処分する、と
それは本当に非情に聞こえたし、いつもの暁の顔からは その心の中は読み取れなかった

あなたを信頼して、あなたに心を傾けていた
なのに、こんな風に裏切るんですか
あなたは、そんな人じゃないと思っていたのに

(・・・なんて、僕はそれほどチーフのことは知らないけど・・・)

蒼太は一人、部屋でパソコンに流れていく数々の情報を眺めていた
暁について調べると 輝かしいトレジャーハントの記録が出てくる
蒼太が本の中でしかしらない遺跡や国に、彼は自分の足で行き、その手で宝を見つけてきた
極寒の洞くつや、熱帯の遺跡
あらゆる敵や自然と戦って、勝ち残ってきた人なのだ
あの、いつでも人生を楽しんでるような気楽そうな男は
ここに集まった様々な個性をまとめている、あの人は
「僕はチーフのことを何も知らない」
スカウトされたチームのチーフだと紹介された時 暁は笑って宜しくと言った
その時にはもう、蒼太は暁に関するデータを全て集め終えていたから
この人は世界で一番有名で力のあるトレジャーハンターで
遺跡で仲間を失くして、失意のうちにここにいるのだと そう認識していた
「宜しくお願いします、チーフ」
いつもみたいに、笑って言った
初対面の相手には、いつもこうする
腰を低くして、顔には笑顔
そして頭で情報を参照して、相手好みの話をさりげなくふってみたり、
相手の言葉に、あたりさわりなく感心してみせたり、驚いてみせたり
そうして、相手との距離を慎重にはかりながら付き合っていく
あたりさわりなく、波風をたてないように
敵をつくらないように、もめごとを起こさないように
「部屋は好きなところを使っていい」
「はい」
腹の中で、身構えている蒼太に暁は笑った
自分は人の機微に敏感だからわかる、その笑みに隠された含み
ほんのわずか、苦笑したみたいな色
ドクン、と
心臓がなった
今まで誰も見抜けなかった蒼太の この嘘の仮面を見破ったのだろうか
暁はそれ以上は何も言わずに 仕事があるからと席を外し
蒼太を構いも咎めもしなかった

妙に心が不安定で、落ち着かなかった最初の日
この人は、自分が考えているより大物かもしれないと反省して その夜は暁のデータを見直した
腹の内を見抜かれてはいけない
この演技を見抜かれてしまったら、相手に不快感を与えるし
自分の評価だって、良くはなくなるのだから

(チーフはあんなこと言う人じゃない)
溜め息を吐いて、ソファに深く身体を沈めた
暁のデータなら、サージェスに入った時 いやというほど研究した
彼を理解して
どうつきあっていけばいいのか、考えるために
そして 全ての経歴を暗記できるほど覚え込んで 彼の趣味嗜好を理解した
結局、その努力は 暁のたった一言で無駄に終わってしまったんだけど

「俺を知りたいなら、俺とセックスでもしてみるか?」

冗談みたいに笑った暁に、返す言葉もなかった
暁に関する膨大なデータが、財団のマシントラブルでサロンのモニタに延々流れてしまったある日
細かな文字が画面いっぱいに流れつづけるそれを見て 蒼白に立ち尽くした蒼太に暁が笑った
「よくもまぁ、これだけの量集めたな」
感心、感心、なんて冗談みたいに言って
なんて言い訳をしたらいいのか、とか
こんな風に 自分が情報を集めていることが知れてしまっては意味がないなんて思っていた蒼太に一言
「おまえはそんなに俺に興味があるのか?」
光栄だな、なんて
暁が言ったのに、どうしようもなく
どうしようもなく負けたような気になった

この人は、自分が考えてるより もっともっと大きい人だ

それから、財団のマシントラブルがおさまるまでの2時間
モニターに流れ続ける暁の情報をバックに サロンで蒼太は暁に抱かれた
うすぐらい部屋に、モニターの青白い光がチラチラ眩しくて
身体に その熱を感じながら蒼太は心の中で何かを悟った
暁の情報をいくら集めたって そこにある暁はほんの一部で
実際に触れないとわからない部分の方が多くて
触れていても、これが全部だなんて思えないほど この人は奥が深くて計り知れない
「チーフ・・・、怒らないんですか・・・」
「怒ってほしいのか?
 お仕置きがほしいなら、してやってもいいが?」
意地悪く笑った顔に、たまらなくゾク、として
まさか この人はこの自分の性癖まで見抜いてるんじゃないだろうかと 恐ろしくなった
「そ、いうわけじゃ・・・な・・・」
「欲しそうな顔をしてるけどな」
繋がった部分が疼くのに、応えるよう暁が腰を深く深く沈めてくる
背が沿って、声が漏れた
とりつくろうと思っても、できなくて
いつもみたいに、相手の情報を参照しながら言葉を選ぶことができなかった
「蒼太、おまえはおまえらしく自然にしてればいい
 ここで気張ってどうする、ここはお前が休む場所だ」
奥深くまで浸入して、その中をいっぱいにされ
頭の芯がしびれそうなくらい、快楽を与えられた
「チーフ・・・、あ・・っ」
時折、激しく突き上げられ
痛みに似た熱が身体を駆け抜けていく
たまらなくて、
どうしようもなくて、
蒼太は暁にしがみついた
陽の匂いがする、そう感じたと同時に意識が飛ぶほど突き上げられてそのまま
最初のセックスを終えた
快楽に浸されながら、震えながら、何も考えることができなくて
ぼんやりした目に、未だ流れ続ける暁のデータを見ていた
あんな情報とは比べ物にならないくらい、暁を知った
実際に相手に触れてみないとわからない、なんて言葉は、信じていなかったけれど
情報が何にも勝るのだと信じていたけれど
(あなたが言うなら信じられる)
思って、蒼太は目を閉じた
彼のような人間は、側にいる者を安心させてくれる
そのままの自分でいていいと言ってくれた言葉、どれほど心に響いたか
ここは、お前の休む場所だと笑った彼に救われた
今まで、たった一人で仕事をしてきて、休む間もなかった
心を許せる人間なんていなかった
これからは違うんだと、今 暁は蒼太に居場所を与えてくれた

「だから・・・これは裏切りだと思います・・・チーフ」
ぽすん、と
ソファのクッションに倒れ込んで 蒼太は熱くなった身体を自分の腕で抱き締めた
はじめて暁に抱かれた時に 彼が痛みを与えたから
真っ白になるほどにイった
その熱が、甦ってくる
ドクン、ドクン、と昂っていくものを手にして 目を閉じた
暁の声を思い出す
耳もとでささやくようにされると、ぞくぞくと背に快感が走っていき
深く深く、熱い楔を打ち込まれるように突き上げられると、たまらなく震えた
生温いセックスじゃイけない身体だからこそ、この身を満足させられる人間は少ない
蒼太は性癖を恥じ隠しているから、
誰にも悟られないよう いつも笑って誤魔化しているから
「チーフ・・・っ」
呼吸が、喘ぎに似たものに変わっていく
くち、と
濡れはじめたものを手でしごきながら暁のことを考えた
彼は蒼太に特別な感情など持っていない
あの日、蒼太を抱いたのも 彼の言ったとおり そうすれば暁のことがわかるから
バカみたいにデータばかり集めていた蒼太に、何でもないような顔で言ったように
身体を繋げれば 身をもって知ることができるから
暁という人間を
(・・・知りすぎたと思ったのに・・・本当は何も知らないのかもしれない・・・)
抱かれて、魅かれた
熱いものを感じて、痛いものを感じて、どうしようもなくイって
もらった言葉に、どうしようもなく泣きたくなって安心した
この人の側にいよう
この人についていこう
この人を信じていたい
そう願ってしまった
蒼太はあの日から 暁に特別な感情を持ち
だが暁は 変わらず微動だにせず存在している
だから蒼太はこうして、時折たまらなくなった時 一人で暁を思って果てる
熱くなった身体を、慰める
彼の触れるやり方を、思い出しながら

「・・・っ」
暗い部屋で、ソファに横たわって
一人白濁を吐いて 蒼太は大きく息を吐き出した
蒼太の信頼を裏切った暁がわからない
今、もし、彼が自分を抱いてくれたらわかるだろうに
自分の考えていることなんか ほんとうに目の前のことしか見えていなくて
暁はもっともっと大きなものを見ていて、
だから彼の言葉は正しくて
彼の行動の意味も理解できるのだろうけれど
暁は、ここにはいなくて
特別な感情を持っているわけでもない蒼太なんかを、暁が何の理由もなく抱くはずもない
(チーフ・・・、早く、答えをください・・・)
クッションに顔をうずめて、蒼太は目を閉じた
彼がいなければ不安で仕方がなく
彼に背いたままでは、心が休まらない
揺るぎない目で、まっすぐにこちらを見て一言言ってほしかった
心配するなと、
大丈夫だと、
(試されているんだろうか・・・)
考えながら、蒼太は眠りに落ちていく
何かを意図して隠した、暁の横顔を想いながら


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