1つ目の呪い (赤×黒)


縊峪の呪いを聞いたのは まだ幼い頃だった
仲間の半分が、縊峪の秘宝を求めてハントへ出向き たった一人しか帰らなかったのを覚えている
「縊峪には呪いがかかってる」
帰ってきた一人は、全身に黒い無気味な模様の痣を浮き上がらせていて、1週間後に死んだ
毎日のように 夢にうなされて痣の浮き出た身体を爪でかきむしり、目覚めては発狂したように叫んでいた
そんな彼に食事を運ぶたび、薬を運ぶたび 真墨は恐怖し
何度も彼の繰り返す言葉に怯えた

「縊峪の水は一度あおれば極楽、二度触れれば地獄」

当時、トレジャーハンター達の間で話題になっていた縊峪の宝は、古代中央政府に反逆を起こした武将の隠し財宝だった
反逆の資金、数々の武器、古代の秘宝はハンター達の興味をそそり 誰も帰ってこないという縊峪に何人もの男達が向かっていた
そして、そのほとんどの者が戻らず
戻った者も 死んでいった
真墨の目の前で、狂ったように叫んで喚いた男のように
身体に無気味な痣を残して 呪いに殺された
彼が死んだ夜、ほっとしたのを覚えている
もう、食事を運ばなくてもいいこと
もう あの恐ろしい叫び声を聞かなくてもいいこと
あの痣だらけの身体を見なくてもいいこと
縊峪の呪いのことなんか、早く忘れてしまいたいと思っていた
あの幼かった頃

「俺は行かないからな」

だから、ここにきて、縊峪の名前を聞いた時 正直ぞっとした
また関わるのはごめんだと思った
呪いなんか、ほとんどがデタラメだったり ただの言い伝えだったりするけれど、縊峪は別だと知っている
あれは本物の呪いだ
実際の犠牲者をこの目で見たんだから
医者もどうしようもないといったあの身体中の痣
黒い模様
縊峪に行き、何に触れてそうなったのかは分からなかったけれど 真墨の仲間達はあれから二度と縊峪には行かなかったし その話をすることもなかった
皆が、縊峪の呪いを信じて恐れた
そんな場所に、今さら行きたいなんて思わない
あの場所へ行ったら、自分もあの男のように全身痣だらけになって死ぬ、そんな気がする

「俺は嫌だ」
「怖いのか?」

挑発的な目で見て来た暁を真墨は睨み付けた
怖い、あんなのを見れば誰だってそう思うだろう
彼が死んだ後も しばらくは夢にうなされた
腕に、足にあの痣が浮き出る夢を繰り返し見て一人で泣いたこともあった
まだ子供だったから、恐怖のやりすごし方を知らず
長い時間をかけて 少しずつ、少しずつ忘れていくしかなかった
ようやく、記憶が薄れて
ようやく、縊峪なんて言葉 忘れていたのに
「縊峪の呪いは本物だ」
言ったら、可笑しそうに笑って 暁は首をかしげた
「逃げるんだな」

なんて奴、
いくらお前だって、あの場所へ行けば死ぬだろう
呪いにかかって痣だらけになって
発狂して、悪夢にうなされて、死ぬだろう
暁ほどのトレジャーハンターが縊峪のことを知らないわけでもないだろうに
全く信じていないのか
あれ程の人間が向かって、死んだ場所なのに 全く恐れていないのか
あの叫び声
あの痣
過去に恐れた呪いの影が、真墨の心に蘇ってきた
どうしても行きたくない
二度とあの無気味な雰囲気に触れたくない
なのに、暁が言うから
いつもの強い目で、絶対の自信を眼に浮かべて笑うから
「くそ・・・っ」
逃げてるなんて言われたくなくて、暁の服につかみかかった
逃げたりなんかしない
お前が平気だと言うなら俺だって平気だ
呪いの一つや二つにびびるような人間だと思われたくない
暁に認められるように、
暁のように強くなれるように、
いつか暁を超えられるように、ここにいるんだから
お前がいくなら俺だって行くと、
言った後 可笑しそうに笑った明石に本気でグラグラした
「それでいい」
なんて言葉
俺はお前に翻弄されているだけで、お前は俺の全てを手の上で転がしてるだけなんじゃないのかと思ってしまう

おまえは強くて遠くて、届かなくて遠い

震える心を叱咤しながら縊峪へ入り 真墨は先頭を歩く暁の背中を睨み付けていた
縊峪の霧は濃くて、遠くで流れる川の音がそら寒い気持ちにさせる
「しかし濃い霧だなぁ」
「お互いを見失わないように気をつけてください」
蒼太のいつもの脳天気な声
さくらの落ち着いた指示
「気味わるーい」
後ろの菜月の気配を確認しながら まっすぐ前を見て何か考えているしぐさの暁を見ていた
縊峪の呪いを恐れないのは 自分に自信があるからか
それとも、真墨のように実際の呪いの犠牲者を見たことがないからか
「真墨、遅れてるぞ」
自然 重くなる足取りを暁に気付かれたのか
立ち止まって振り返った彼の顔が本当にいつも通りで、恐れも緊張も見当たらなかったから
「うるさいなっ」
言いながら、心が熱くなった
お前は本当に何も恐れないのか
この暗い霧の中ですら、自分をまっすぐに信じていられるのか

暗い病室、眠っている男はうなされて、汗びっしょりになって、時折発作のように身体中を掻きむしって
伸びた爪には血がこびりつき、黒い痣の上に赤い血が滲み
運んだ食事も口にせず、呪いの言葉を吐きながら男は時に大声で笑った
「真墨、お前は行かなくてよかったなぁ」
枯れたような声
震えながら 食事と薬を差し出した子供に男は焦点の合わない目を向けて言った
「お前なんかが行っていたら、白い霧に誘われて、黒い幻覚に捕われて、赤い水に沈められて、今頃は泥の中で窒息しているだろうよ」
狂った笑い声
恐ろしい言葉
はじめ、縊峪の宝を探しに行くと仲間がいった時 自分も連れていってくれと真墨は言った
古代の財宝を見てみたい
心が熱くなるのに従って、無邪気にそう言った
だが子供は足手纏いだからと拒否されて、仲間の半分とこうして待ってた
お前にハントはまだ早いなんて言われて、どうでもいい資料整理とか
次の旅の買い出しとか支度とか
そんなのをしていた
もし、あの時 縊峪へ連れていかれていたらと思うと ぞっとして、
幼い真墨は声も出ない程に 震えた
この男のような姿になって、
こんな風に狂っていって、呪いみたいな言葉を口にし死んでいたかもしれないと思うと
どうしようもなく怖かった
想像に、息が止まるほどに恐怖した

ここはその場所で、ここにはその呪いが満ちている

「なんだよ・・・くそ・・・っ」
過去の記憶に浸っているうちに、気づけば真墨は一人になっていた
濃い霧が辺りに広がって 前が見えない
暗い視界に 背が寒くなる
(・・・呪いなんか・・・・)
ぎゅ、と拳を握って呼吸を整えた
さっきまで見ていた暁の背中
遅れるなよ、なんて いつもみたいに言ってた顔
落ち着いた声、自信に満ちた眼
思い出して そっと息を吐いた
縊峪の呪いを真墨は信じている
だけど、それさえも なんでもないことだと笑う暁を何より誰より信じていて
どんなものより、真墨は暁を求めている

(・・・しっかりしろ、こんなんじゃ笑われるだけだ・・・っ)
暗い病室も、男の笑い声も、黒い痣も、呪いの言葉も 頭から振払おうと必死になった
自分はもう ただ恐れるだけの子供ではない
悪夢にうなされて泣くだけの 弱い子供ではない
どんな時だって、強くなるために努力してきたし、何にも負けてはいけないと言い聞かせてきた
自分を守るには力が必要で、
この世界で生きていくには、強くなくては意味がないと知ったから
高みを目指して今まできたのだ
世界一と言われた男を追って、ここまできたのだ
こんなところで、逃げるだけなら それこそ自分はあの頃の子供のままで
不滅の牙には到底 およびもしない
彼の高みに届きはしない

震える腕を振り上げて、モガリへと叩き付けても 奴はびくともしなかった
信じられない力で首を締め上げられる
息がつまって気が遠くなりそうで
それでも必死に武器を振り下ろすと、わずかにそれが弱まった
「白い霧に誘われて、黒い幻覚に捕われて、赤い水に沈められて、泥の中で窒息する」
グラグラする頭の中で 忘れられない言葉が響く
想像して、窒息する夢を何度もみた
息苦しさが蘇るようで 泣きたくなった
ここは白い霧の中
正体不明の黒い敵が襲ってくる
その手を伸ばしてくる
「くそ・・・っ、なんで・・・っ」
これは幻覚なんかではなく、痛みは掴まれた首に残っている

「クビを返せ・・・・・・」
気味の悪い声が響く
脳を震わせるみたいな音
足が重くて、うまく動かせなかった
呼吸の度に肺に吸い込むこの霧が、気持ち悪くて吐きそうだった
繰り返される敵の声
幻覚のような存在なのに、けして幻覚なんかではない
ビリビリと頭が麻痺しそうで、正気を保っていられなくなる気がする
「くそ・・・、」
逃げなければ、敵は攻撃してくるのに 動けなかった
呪いのような言葉に 頭が考えることを拒否している
もう、嫌だと思った
こんな場所にいるのも、呪いに身を浸しているのも

「も・・・、いやだ」

このまま敵の刃に倒れれば楽だろうかと、ふとそんなことまで考えた
朦朧とした意識で、相手を見る
「白い霧に誘われて、黒い幻覚に捕われて、赤い水に沈められて、泥の中で窒息する」
この後、赤い自分の血の中に倒れて 死ぬのだろうか
そう、ぼんやりと思った時 目の前で明るい火花が散った
瞬間に、意識がはっきりと戻ってくる

「明石・・・っ」

強い力で腕を取られて、そのまま身体が浮いた感覚を覚えた
そして、目の前で景色が飛ぶように変わる中 眩しい光が飛び込んできた
「・・・っ」
乱暴に、放られる
地面に叩き付けられた痛み、土の匂い、外の光
同時に感じて それからあの霧に解放されたことに気付く
「明石・・・」
目の前に立った暁の後ろ姿を目にして、ようやく息をついた
あのまま殺された方が楽だろうか、なんて考えた自分に驚いて
あの逃れがたい霧から、いとも簡単に救い出した暁に どうしようもなく心が震えた

だめだ、また捕われる
呪いなど恐れない、自分を信じて強く立つ彼に 魅かれてどうしようもない
こんな風に、なりたい
自分も暁のように、闇を恐れない人間になりたい

「結局、今回はプレシャスの収穫はなしか」
基地に戻って、牧野の報告を聞いた後 真墨は一人部屋へ戻った
心が熱い
自分はどこまで暁に堕ちていくのかと思いながら そっと息をつく
カジャと暁の会話が蘇ってくる
死人の墓をあばき、宝を奪ってきた暁と真墨
トレジャーハンターは泥棒と同じで、墓荒らしと同じで、罪人だ
奪われた者達は 暁や真墨を恨み呪うだろう
だからこの身には どれだけの呪いがかけられているかわからない
それでも、知っていてハントを続けるのは 血が騒ぐからだ
真墨は宝が好きだったし、まだ誰も解けない謎のことを知ると 解いてみたくて仕方がなくなった
真相を知りたい
古代の謎を求め、滅びと繁栄の理由を求め、残された財宝を求めた
だから、呪われるのも当然で
この身には数々の呪いがかかっているとわかっている
わかっていて、やめられない

「そんなもの、どうってことないだろう」

暁は笑っていた
彼は呪いを恐れないし、自分のしていたことの罪も知っていた
でも、彼もまた冒険にとりつかれていてやめられない
求めるのは、心が熱くなる冒険だと言った彼は 真墨以上の貪欲さを その瞬間に見せた気がした
それが暁の魂のあり方なのだろうか
自分を律して、磨いて、絶対の自信を持つに至り 高みへと立ち続け
その力を存分にふるえる場所を探し求めている
一人で何でもできるくせに、仲間を求めるのは枷を自分でつけているようなものだと 最近思うようになった
自分より能力の劣る仲間が何人もいたら足手まといだろうに
それだけで 一人で仕事をするよりリスクが増えるだろうに
暁があえて仲間に固執するのは 優れ過ぎている自分をセーブするためか
仲間という足枷をつけて、敵と5分の勝負をして
それでようやく世界に存在している、そんな気がする
暁は不敵すぎて、枷でもつけていないと この世界はつまらなさすぎるのかもしれない

そんなことを考えながら、真墨はシャワーを浴びてベッドへと入った
精神的に疲れた気がする
幼い頃恐れた呪いは断ち切ったはずなのに、まだ少し背が寒い気がした
早く忘れてしまおうと、目を閉じる
そうしてやがて、夢をみる

「白い霧に誘われて、黒い幻覚に捕われて、赤い水に沈められて、泥の中で窒息する」

男は死ぬ真際も笑っていた
しわがれた声
仲間達が こいつは完全に狂ってると囁いている
彼のために薬と水の入ったグラスをトレイに乗せ持ちながら 真墨は逃げ出したいのを必死で我慢していた
「呪いはなぁ、消えることはないんだよ
 より強い呪いがなぁ、いつまでもいつまでも身体に残ってしまうんだ」
そうして夜中に男は死に、冷たくなっていく痣だらけの身体を 真墨は黙って見つめていた
呪いは消えない
トレジャーハンターなんて続けている限りは 呪いに身を浸しているようなものだ
「呪いなんか気にしなければいい」
「呪いが怖いならトレジャーハンターなどやめろ」
仲間達は言い、笑った
暁も、どうということはないと言った
それよりも心が求めるものに背くことの方が苦痛だと笑った

真墨だって 熱くなる心に背けなくてここにいる
だけど、悪夢はこうして蘇る

「・・・っ」
夜中に目を覚まして、真墨は大きく息を吐いた
不快な感覚が身体に残っている
子供ではないから、恐怖に泣いたりはしない
だけど、どくどくというこの心臓が気持ち悪くて
身にしみついた呪いの数々を思うと 窒息しそうだった
自分は弱いのだろうか
貪欲に宝と金を求めていた昔の仲間達のように
熱くなれるものを求めている暁のように
割り切ることができない
いつまでも 呪いの影を引きずっている

「・・・・・」

寒くて、気持ち悪くて
真墨はベッドから出ると 洗面所に向かった
顔でも洗ってシャキっとして 身体でも動かそう
そうして、何も考えず 時間が記憶を薄めるのを待とう
そう考えて、水道の蛇口をひねり 自分の姿を鏡に写した
途端、暗い鏡面に映ったその姿に 息が止まった

黒い呪いの痣が、首筋に浮き出ている

「・・・・・・っ」
声が出なかった
かわりに 手にしたガラスのコップを床に落とした
「あ、あ、あ・・・・・・・っ」
遠くでコップが割れる音がしたけれど あまり聞こえなかった
鏡の中の自分が一歩 離れた
あとずさる、よろけるようにして
あの谷に踏み込んだのがいけなかったのか
昔、仲間を殺した呪いの黒い痣
全身に浮き出て、狂って笑いながら死んでいった
同じものが 自分の首筋に浮かんでいる
あの男のようになるのは嫌だと思った
恐怖が、
押し殺していたものが、一気に溢れてくる気がした

「・・・うわぁぁぁ・・・・・・・・っ」

ガシャン、とまた音がした
手に痛みが走る
自分が何をしているのかなんて、わからなかった
ただ必死に 逃げようと思った
何から、なんてわからなかったけれど
そして、身体は自分が思うようには動かずに 真墨は洗面所の床にへたりこんだ
暗い病室、死んだ男、呪いの言葉
どうしようもなく恐怖した
どうしようもなかった
何も考えられなかった

多分、それからすぐだったろう
ドアが開いて 暁が部屋へと入ってきて 洗面所にへたりこんでいる真墨をみつけてベッドへと運び 半分 錯乱しているようなその様子に一度 なだめるように抱き締めて背を撫でた
「しっかりしろ、真墨」
声がすぐ側で聞こえる
「い、い、い、いやだ・・・・」
ぶるぶると首を振ったら もう一度抱き締められる
強い腕、知ってる感覚
「真墨、大丈夫だ」
少し笑ったような声
しょうがないな、なんてつぶやいて 一度離れた後 温かいものが唇に触れた
「う・・・・、く」
息苦しくなる
呼吸ができない
でも、くちづけは終わらない
「ん・・・っう」
わずかに解放されて息を吸い込むとすぐにまた、くちづけられる
繰り返されて、ようやく意識がはっきりしてきた
「あか・・・しっ」
服を掴んで名前を呼ぶと 側で暁が笑った
「正気に戻ったか」
そのまま くちづけは首筋へと下りる
それで、ぞく、として あの痣のことを思い出した
恐怖に身体が震えだす
「あああ、あう・・・・・っ」
どうして自分だけ、と思った
他のみんなも 暁も平気そうなのに自分だけこんな痣が出て、
このまま あの男みたいに死ぬのかと思うと怖かった
「いやだ・・・っ、いやだ・・・っ」
暴れるのを、暁が強い力で押さえ付ける
そのままベッドへと押し倒されて 真直ぐに目を見つめられた
「真墨、黙って聞け」
強い口調、
有無を言わさない自信と強さ
泣きたくなった
「嫌だ・・・っ、明石、怖い・・・っ」
言ったら 涙が溢れてきた
忌わしい記憶、呪いの言葉
あの男の死を知らなければ 自分は呪いをこんなにも恐れなかったかもしれない
この痣に、こんなにも恐怖しなかったかもしれない
「大丈夫だ
 それはあの薬に二度触れた者に出る痣で 放っておけばそれが全身へ回り死ぬらしいが」
また、暁が首筋へくちづけた
熱く火が灯るようなくちづけ
強く吸われて、ドクン、と心臓が鳴った
「お前は死なせはしない、心配するな」
何故そんなことが言えるのだ、なんて問いかけを許さない絶対の言い方に 真墨は涙のたまった目で暁を見た
「縊峪の水は一度あおれば極楽、二度触れれば地獄」
記憶の中の男と、暁が同じことを言った
ぞく、とした
だが、暁は笑ってる
「続きがある、
 縊峪の水は、3度浴びれば甦る」
今、服に付着したあの薬を摘出させている、と 暁は言って そっと真墨の涙を拭った

浅く息を吐きながら 真墨は暁の体温を感じていた
薬の摘出までまだ時間がかかるだろうから それまで気を紛らわせてやると
暁は真墨の身体の隅々まで くちづけをして手で触れた
震えはやがて止まり、恐怖に早鐘のようだった鼓動も 別の熱に速度を増す
「明石・・・っ、なんで・・・っ」
ぞくぞく、と身体をかけていく感覚に身を浸しながら 真墨は暁に手を伸ばした
強い腕
自分を抱くこの身体
普段のやり方と全く同じ 少し乱暴な扱いをする暁に救われる
彼はいつも通りで
だから、彼が大丈夫だと言ったように、自分はこの痣で死ぬことはないし
ほんとうにこの行為は、薬ができるまでの時間つぶしのようなもので
呪いなんて、怖がることはないのだと
「なんで・・・そんなこと・・・知ってたんだ・・・っ」
縊峪の呪い
あの薬は麻薬のようなもので、飲めば幻覚を見て精神と脳を壊し
2度触れれば 薬が肌の上で反応して人体に有害な物質をつくり出す
「調べたんだよ、さっきな」
くちゅ、と 暁の手の中で弄ばれていたものが雫をたらした
「あっ、う・・・」
息が弾む
身体が震える
「今日の報告書を作るついでにな
 過去の死者の死因も調べた
 そうしたら気になる伝承があったから、念のため あのクビの入れ物と俺の服から薬を抽出するよう依頼して、お前の様子を見に来たんだ」
くちゅ、
また 淫らな音が耳についた
暁の手の中で質量を増したものが、指の動きに刺激されてしとしとと雫を垂らしている
こすられて、ぞくぞくと背を快感がかけていく
「ふ・・あぅ・・・っ」
「聞いてるのか? 真墨」
意地悪く 耳もとで暁が囁く
そのまま 首の痣に舌を這わせる
どうしようもなく、感じた
暁が調べなければ、自分は死んだかもしれないと思うと 本当にどうしようもなく心が熱くなった
彼が大丈夫と言ったから
お前は死なせはしないと言ったから
もう恐怖はない
ただ、彼の存在に堕ちる自分を痛感して、熱くなる
暁を、求める
「明石・・・っ」
彼の首に手を回して、必死に求めた
「明石・・・っ、あかしっ」
涙が滲む
こんなに、こんなに求めてしまう
彼の熱を感じて 彼のことだけを考えていたい
「入れてほしいなら、そう言えよ」
側で暁が笑った
睨み付けながら、こみあげてくるものをどうしようもなくて 真墨は泣きながら必死に懇願した
「入れて・・・っ、俺を全部あんただけにしてくれ・・・っ」
あんたのことだけを考えていたい、なんて
本気で本気で思った
他は何もいらない
暁の言葉が全てて、暁がいたらもう何もいらない

「お前は普段素直じゃない分、こういう時は熱烈だな」
涙を舌で舐め取りながら 暁は濡れて求めていた部分に身を沈めた
からみつく熱に、身が震える
「んぅ・・・っ、ぁ、あ、あ・・・・っ」
声を抑えようともせず、感じたままに喘ぐ様子がたまらなくて
暁は一気に奥まで貫くと、震えながら もっとと懇願する真墨に深くくちづけた
「お前みたいな淫らな奴は見たことないぞ」
奥まで飲み込んで、なおもっととねだる
腰を抱いて足を上げさせて 一度ゆっくりと身を離してまた、一気に奥まで貫いた
「ひぁ・・・っ、ぁぁぁ、あかし・・・っ」
濡れた声、繋がった部分が生み出す熱
犯されることをこんなにも望む相手は暁しかいない
身体をつなげる行為に何の意味も見出せなかった今までが 全て消し飛んでいく
快楽だけを貪るのではない
性欲処理のための行為でもない
何かもっと違うものを 真墨は暁に求めている
こうして身体の奥までその浸入を許してまでして、彼に求めているものがある
言葉になどできないこの想い
わけのわからない熱い感情
もっと欲しいと 必死に暁にしがみつき
深いキスに応えるよう舌をからませると、強く吸われてグラグラした
そのまま角度を変えて何度もされるたび どうしようもなく感じ、どうしようもなくいった
全身全霊で、暁を求めた
誰より何より強い、その存在を

うとうとと、意識を落としかけながら 真墨は暁の声を聞いていた
「呪いなんてものは 上から強い呪いがかかると古い呪いは薄れて消えていくもんだ」
真墨の髪をなでながら 暁が言う
半分聞きながら、半分眠りに落ちながら 真墨は意識の下で考えた
「じゃあ・・・俺の呪いはみんな消える・・・」
かろうじて声を出す
ふぅん? と暁が不思議そうに相づちをうった
「だって・・・」
答えながら 言葉になっているのだろうかと思いながら、
真墨は眠りへと落ちていく
呪いだらけのこの身体
暁の言うように、上から強い呪いがかけられると前の呪いは消えるというのなら
「俺にはお前の呪いがかかってる・・・」
まるで呪いみたいに捕らえて放さない彼への想い
そうさせる 強い暁
孤高の人
魅かれて、どうしようもなくなって、こんなにも翻弄されて、生かされて、
多分 暁は真墨の死すら思いのままにできるだろうと思う
そんなのは呪いと同じだ
彼に捕われてどうしようもなくなった自分は、彼の呪いにかかったも同じだ
そして、それは何よりも強く真墨の身体と魂に刻まれていく
「だって・・・お前の・・・」
言いながら、もう言葉にならないと 真墨は眠りの中に身を投げた
今ならもう、あの悪夢はみないだろう
呪いを恐れた心も、どこかえ消えた
暁へ向かう想いは、恐怖などではないから
そんなものよりも もっとやっかいなものだと知っているから
「なんだ、言うなら最後まで言えよ」
可笑しそうに笑った声が最後に聞こえた
暁は 真墨の額に一つキスをして、そっと部屋を出ていった


女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理