性癖 (赤×青)


どうしても基地にあるコンピューターではアクセスできなかったから、蒼太は直接ターゲットのビルに忍び込んでいた
数々のセキュリティを突破して、単身 足音もたてずに歩いていく
静かな、暗い夜のビル
どんな国でも、どんな場所でも忍び込んで情報を盗むことができるエージェントとして名を馳せていた時と似た感覚が、今 この身体の中にある
冷たい床
緊張の糸を張詰めた状態
暗闇に目をこらして、神経を研ぎすませて、辺りを伺ってる
そうして静けさの中、一つのドアを開けた
コンピューターだけが並んだ無機質な部屋

(・・・パスワード発見)
コンピューターを操作しはじめてから5分程で 蒼太は目的のパスワードを発見した
一見で記憶して、コンピューターの電源を落とす
息をつく間もなく、そっと部屋を出た
そのまま、さっきと同じ道を戻っていく

外に出て 蒼太はそっと息を吐いた
一人でこういう仕事をすると、いつも感覚があの頃に戻る
スリルを楽しんでいた自分
好奇心にあらゆる世界のデータを集めていただけだった少年が、いつしかもっと世界を知りたいと思い
やがて隠された情報を漁るようになっていって
とうとう、ロックやセキュリティを破る楽しさを知ってしまった
若さと行動力が仇となったか、自宅のコンピューからアクセスできないような情報を求めて世界を飛び回った
失敗すれば死ぬかもしれないという緊張感
謎を解くのに似た楽しさ
それから、情報を得ることで知り得る世界が広がるということ
兵器開発の研究資料や、王族のスキャンダル、過去に隠ぺいされた事故の真相、その他いろいろなことが この手に入ってくるのに酔った
世界を知るのは楽しかったし、隠されているものを暴く行為は 自分が他者より勝っていると感じさせてくれた
若い蒼太には、これ以上ない生き方だった
それで、精神が蝕まれていくのを感じても、やめられなかった
極度の緊張に、仕事の後 眠れぬ夜が続いても
しばらくの間は ほんの僅かな物音にも敏感に反応してしまって心が休まらなくなっても

「・・・熱いな・・・」

上着を脱いで、冷えた空気に肌をさらした
必要なパスワードはわかったから、後は基地のコンピューターからアクセスして 情報を取ってくるだけですむ
その後のロックがどんなにたくさん付いていても、今の自分ならわけなく解けるだろうし
このビルの潜入に成功したことによって、今回の蒼太の仕事の半分は終わったも同然だった
(・・・最近多いな・・・こういうの)
ネガティブの活動が頻繁になっていると 今朝本部から通達があったから きっとこれからもミッションは増え続けるのだろうし、
それに伴って、情報を集める蒼太の仕事も今よりもっと増えるだろう
以前と違って、人のためになることだから、と
そう思って 蒼太は財団に身を置いている
ここで毎日 戦いの訓練を受けながら、自分だけに与えられた命令もこなしていく
エージェント時代に、自然に身についていった護身術を応用して訓練に生かせているから 普段辛いと思うことはさほどない
チームメイトは それこそ暁をはじめ頼りになる者達ばかりだし、
財団の開発したボウケンジャースーツは身体能力を高める他、防御機能にも優れていて 生身で世界を駆け回っていた頃に比べて とても戦いやすい
何より自分は一人じゃない
「・・・一人じゃない」
だから、むしろ辛いのは こういう一人きりの仕事の時
浸入やスパイ行為は得意分野だからこそ、
そういうことを生き方にする程、それが好きだからこそ、辛い
今も、気が昂って ささいな風の音も耳につく
忘れかけていた あの緊張の感覚が身体に戻ってきて、熱い

夜道を基地へと戻る途中だった蒼太に 本部から連絡が入ったのはその時だった
「もう一件、調べてほしいものがある」
データが転送されて、指令内容が送られてくる
「今からですか?」
「今からだ
 覇者の剣の方は 片付いたのだろう」
「はい・・・」
抑揚のない声
相手は誰だか知らないけど 多分本部の偉い人
蒼太の情報収集能力を本部では高く買ってか、頻繁にこうしてボウケンジャーとは関係ない仕事まで回ってくる
(1日に2回はきついっすよ・・・)
思いつつ、本部からの指令に背くわけにもいかず、
蒼太は送られてきた地図で場所を確認すると、歩く方向を変えた
こんなに寒いのに、まだ熱いと感じる程 身体が熱をもっている

1時間程で、ターゲットのビルまできた
下調べも何もない、本部からの僅かな情報だけで浸入しなくてはならないこの状況に 蒼太の意識はまた過去の感覚を呼び起こした
ゾクゾクする
何が起こるがわからない緊張感
張詰めた神経
多分 自分は本当にこういう状況が好きなのだ
そして、それに身体が悲鳴を上げているのに気付いても、やめられない
エージェントから足を洗っても結局 同じことをしているのだから
罪悪感もなく行動できるというだけで、身体にかかる負担はほとんど同じ
精神も現在進行形で蝕まれていっている

本部のデータにあった見取り図は どうやら古いものらしく、最近新築したのであろう新館まではカバーしきれていなかった
(まずいな・・・)
目的はやはりデータらしいが、社長室は見取り図の場所にはなく どうやら新館に移動になっているらしい
データの中身も、ここがどんな企業なのかも知らない
ただ、警備の多さと監視カメラの数に辟易した
浸入という技術に関して、蒼太より優れている者が今の財団にはいないのだろう
だから こんなに便利に自分を使ってくれるのだろうが、
(やる方の身にもなれっての)
階段の陰で警備をやり過ごしながら 呼吸も忘れて神経を張りつめたまま
蒼太は暗い廊下の奥を見遣った
あそこまで行くのに、監視カメラが2つと、警備が立つ扉が1つ

それから1時間後
ターゲットからは大分離れたビルの裏にうずくまって、蒼太は震える身体を抱いていた
熱くて、そのくせ身体の震えは止まらない
スリル、興奮、達成感
だけど、それの副作用のように伴う この緊張の切れた後の気の昂り
身体の熱、そしてどうしようもない欲求
「だから1日に2回もいやなんだ」
蒼太は一人つぶやいて、白く色のかわる自分の息に目を落とした
こんなに空気は冷たいのに、身体はどんどん熱くなる
社長室のコンピューターからデータを自分のメモリにコピーした瞬間 警告ランプが点滅して
けたたましいブザーが鳴り響いた
20秒もたたないうちに警備が駆け込んできたのに間一髪、窓を開けて外に飛び出した
一体どこの軍事施設だという程のサーチライトが壁面や地面を照らしている
それをすり抜けて、
一番 安全で確実で早い脱出経路を計算して走った
警報に似た音が いつまでも耳について、追い掛けてくる気がした

どくん、どくんと
熱がどんどん上がっていく
疼きのようなものが 身体を渦まくように生まれている
手足の震えは止まらず 神経は通りの車の音にも敏感に反応する
「はは・・・やばい、立てない」
軽口を言ってみても、声は震えた
こういう状態になる自分を、恥だと思った
まるで 自分の生き方は麻薬のようだ
スリル、興奮、好奇心を満たしてくれるもの
大好きだったけれど、その後のこの副作用
身体も精神も蝕まれて、擦り切れそうになる
多分、2.3日は眠れない日々が続く
最初の仕事だけだったらよかったのに
それだったら、何度も頭の中でシミュレートして、準備もばっちりで
多少の副作用は出るだろうけれど、これほどまでにはならなかった
現に 身体の熱さも神経の昂りもあったけれど、自分の足で基地に向かって歩いていけたし
暁に仕事終了の連絡もできた
動けなくなる程の昂りは、なかったのに
「だから・・・本部は嫌いなんだ・・・」
震える声で呟いて、拳をビルの壁に打ち付けた
痛みと、血が滲んでいったのに 少しだけ、
ほんの少しだけ落ち着いた
蒼太はもう一度、ビルに拳を打ち付けた

夜が空ける頃、ようやく蒼太は本部にデータを届けることができた
「遅かったな」
受け付けの処理を待っていると、奥のドアから暁が入ってきた
「チーフ・・・」
「とっくに基地に戻ったと思ってたが」
「ああ、あの 特令が出たので」
動揺を隠して、ヘラリと笑う
今はもう ここに辿り着くだけで精一杯で
誰かと話すのも、こうしてここに立っているのも辛いのに
どうして こんな時間に暁がここにいるのだと
蒼太は曖昧に笑った
「データの確認を完了した」
「あ、そうですか
 じゃあ僕はこれで帰りますので」
無機質に対応する係が こちらを見上げてくる
一刻も早くここを去りたい
早く 一人になりたい
熱くて、昂って、疼いて、どうにかなりそうだ
「申し訳ないが、一人しくじったのがいてね
 悪いがフォローに回ってくれないか」
パラ、と書類をめくりながら言った言葉に 蒼太は苦笑して肩をすくめた
「無理です、勘弁してくださいよ」
これ以上 何かをしろなど到底無理だ
本部の人間がしくじったなら、本部で解決すればいい
オーバーワークだし、もう何より身体がついていかない
「特令として正式に君に依頼する」
だが係の人間は こちらの都合など一切考えない口調で言うと 手許のコンピュータを操作した
特令と言われれば、蒼太にはどうしようもない
本部からの指令として正式に言い渡されるなら やるしかないのだが
(ちょっとひどくないか、それ)
血の固まった両手の拳をぎゅっと握った
ピピ、と
連絡用の携帯がデータの受信準備に入る
その瞬間
「すみませんね、うちの隊員はまだミッション中なので本部の仕事はパスします」
その携帯を取り上げて 暁がそう言い放った
ピ、と携帯の電源が落とされる
「まだ特令は受信できてませんから」
すみませんが他を当たってください、と
言い残し 暁はポカンとしている蒼太を連れて 部屋を出た
「あの・・・チーフ?」
あっけに取られたような係の顔が 閉まるドアの向こうに消えた
いいのだろうか、こんな風に出てきてしまった
あのままもう一件仕事をしろなんて、今の蒼太には到底無理だったから とてもとても助かったのだけれど
後で本部の人間に暁が叱られたりしないのだろうか
あんな強引に、断ってしまって
「本部には人間が山程いるだろう
 何故、そいつらを使わないんだ」
どこか怒ったような横顔に ああ、心配してくれているんだろうかと
ふと温かいような気持ちになる
そう、ここに帰ってきたら自分は一人ではなくなる
暗いビルの裏路地に たった一人震えて立てないでいることもない
痛みで頭がいっぱいになるまで、ビルの壁に拳をうちつけることもない
「その怪我、どうした?」
「あ、これは、その、不注意で」
またヘラリと笑った
心配してくれる暁の存在は嬉しかったけれど
その喜びはまた別の感覚を呼び起こす
痛みに押さえ付けていた疼きを、呼び覚ます
「大丈夫・・・です
 僕 帰って・・・ね、寝ますから・・・」
言う間に手を取られた
ぞく、と背中を何かが駆けて行く
「はなし・・・てく・・・ださ・・・」
声が震えて、最後まで言葉にできなかった
昂りが、
熱が、
疼きが、
身体中に戻ってきた
夜の風にさらして冷やした身体に、暁のつかんだところから熱か注ぎ込まれてくる

「ああああ、あ・・・・」
またガタガタと身体が震え出したのに、蒼太は立っていられなくなった
「どうした」
暁の問いにも ただ首を振るだけ
大丈夫だから
また何か身体に痛みを与えて、
もしくは このままじっと耐えて何時間かすれば、
熱も疼きも震えも何もかも、おさまるだろう
大丈夫、と
繰り返した時 その身体がぎゅ、と抱き寄せられた
強い腕が 身体を抱く
ポンポンと、背を軽く叩かれて 瞬間どうしようもない位に感じた

もうダメだと思った

「どうして欲しい?
 一人で震えてなくていい」
その言葉は 不思議と心に響いて こわばった心を溶かしてしまいそうだった
スリルと興奮と、誰も知らない秘密の情報
それと引き換えに 失った平常
後悔はしていない
今だって、好奇心には勝てなくて、あらゆる情報を探し出すし
浸入もスパイも 仕事だったら進んでやる
嫌いな世界じゃない
汚いものやドロドロしたものを見ることも多いけど、それが人間というものだと思っているし
そういう汚いものや醜い部分を自分だって持ってる
だから こんな風な自分になってしまったのは仕方のないことだし
求めたものの代償なのだ
後悔はしてない
仕事のあと、眠れなくても
震えが止まらなくても
身体に痛みを与えなければ この熱と昂りが引かないのだとしても

「僕は・・・極度の緊張で・・・か、感じるんですよ・・・ね・・」
言葉にすると、なんて滑稽なんだろうと思った
張詰めた神経の糸
生きるか死ぬかのギリギリのライン
研ぎすまされた五感
だからこそ、全てが終わった後 どうしようもなく疼く
やり場のない昂りを処理できず、身体が震えて熱だけが残る
「一日に続けて2・・・2件もやらされ・・・ると・・・」
巧く口が回らない
情けない顔で笑うと 蒼太は暁を見上げた
「ほって帰ってくださ・・・い
 置いとい・・・たら治りま・・・すから」
幸い、今 暁が連れてきてくれたこの部屋は誰も使っていないみたいだから
この疼きを押さえ込んだら、一人で基地へ戻るから
「お前は一人じゃないだろう
 どうしてほしいかと、俺は聞いたんだ」
だが、返された声は 強い意志のものだった
蒼太の好きな、支配する者の声
下の者に迷いを与えない 強い意志ある者の言葉
聞いていて、どうしようもないと思った
たった一人で抱えてきたこのスリルの代償
好奇心のツケ
人の隠しているものを暴き奪うことへの制裁
苦しくても仕方がないと思った
これくらいのことはしてきたし、これくらいの報いを受けて当然だと思っていたから

「ぼ・・・僕を抱いてくださ・・・・」

今、自分がどんな顔をしているのかなんて わからなかったけれど
吐き出した言葉は やはり滑稽だった
自嘲する
こんな風に助けを求めたって、相手が困るだけだ
自ら望んだ行為に感じて、一人身体を昂らせて、
どうしようもなく震えて、痛みでごまかすこともできず、だから抱いてくれなどと

あなたに抱いてくれなんて、言えた資格はない
これは自業自得の性癖だ

「なるほど」
それでおさまるのか、と
暁の声が聞こえた時には 血の固まった拳に ざらりと温かいものが触れた
「あう・・・っ」
ゾク、と大きく背が沿った
血を舐め取るように舌を這わせる感触に ドクドクと血がめぐっていく
必死に押さえ込んでいた疼きが、出口を求めて身体の中を駆け抜けていく
「自虐はやめとけ、精神が荒むぞ」
その強い手が首筋から肩へと降りていく
羽織っていただけの上着を落として、シャツの下に手を入れると その感触にまたぞく、と感じた
解放される、苦しみから
痛みで誤魔化していたものを、その手で払ってくれようとしている
「あ、あ、あ、あ、・・・・・っ」
胸の突起に歯を立てて、もう一方を指の腹で転がすようにして
その指で、舌で攻め上げる暁に、蒼太はもう完全に身体を暁に任せていた
抱いてくださいなんて バカみたいな言葉に応えてくれようとしている
それが同情でも、
仲間としての義務感でも、
上司としての責任感でも 今はもう何でもよかった
この身体をどうにかしてくれるなら、
この苦しみから解放してくれるなら、
何でもよかった
今はもう この迷わない腕にすがっていたい

冷たい床に四つん這いになって、蒼太は暁のものを奥まで飲み込んでいた
「はっ、はっ、・・・・あぐ・・・・う」
後ろから抱くようにして、暁の舌が背中の傷を舐め上げていく
「は・・・う、あ、あ、あ・・・っ」
蒼太の背には まだ新しい生傷が無数についていて、
それを見て 暁は顔をしかめていた
痛みでしか押さえ込むことができないこの疼き
てっとり早く 一人でなんとかするにはと、
財団で、もう使われていない拷問装置を無断で基地に運び込んだ
それで気を失うまで鞭で打たれていれば、朝 目が覚めた時には とりあえずは平常に戻れている
そうして、今までやってきた
誰にも知られず、一人の仕事のあと こうやって疼きを抑えてきた
「ぼ・・・僕・・・は、極限だと・・い、痛みだけでいけるみた・・・いで」
むしろ、痛みを伴わなければいけないのか、
とにかく、自慰などではおさまらないものを 一人でなんとかするにはそれしかないのだと
言った蒼太に 暁は苦笑して その傷を舐めた
「早く言えばいいものを」
痛々しい背中の生傷
古いものは もう取れないほどに身体に染み付いている
一体どれ程 こうやって一人で耐えてきたのかと思って 暁は苦笑した
そのまま、身体の下で喘いでいる蒼太を激しく突き上げる
熱くからみついてくる内壁の、奥を壊すように
強く、何度も、何度も
「ひっ・・・」
濡れた声も、悲鳴が混ざるのは 多分彼がそう望むように 痛みを伴う抱き方をしているからだろう
今にも崩れそうな身体を支えながら 激しく揺さぶると、蒼太はがくがくと震えながら2度目の白濁を床に吐き出した
もう、ほとんど意識はないのだろう
突き上げられる時の声と、ひどくした時の悲鳴に似た声
それしか発せなくなっている
「あ、あ、あ・・・・・う、・・・・あふ・・・」
ずるり、と身体を引き離して
その身を離すと 蒼太はそのまま床に崩れ落ちた
「満足か?」
返事は返らなかったけれど、かわりに一言
無意識なのか、かろうじて意識があるのか

「ごめ・・・んなさ・・い」

それだけ聞こえて、あとは静けさだけが戻った
暁は小さく溜め息をついた


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