1回目の診断結果 (赤×黒)


「なんだよ、これはっ」
モニタールームで朝食を取っていた真墨は、突然スクリーンに写し出された映像に声を上げた
「どうかしたー?」
のんきな声で返事をしながらキッチンから顔を出した菜月を睨み付けるようにして 真墨はスクリーンを指差す
「あれ〜? これ真墨だねぇ?」
「なんで俺のこんな映像が映ってんだっ」
巨大なスクリーンいっぱいに、木々の間を駆け抜ける真墨の姿が映っている
これは、このあいだのミッションの時の映像か
見覚えある森や海岸、見知った景色
「おもしろいね」
「おもしろくないっ、なんなんだこれはっ」
二人が言い合いをしていると、朝食を運びながら蒼太が入ってくる
驚いたようにスクリーンを見て、喚いている真墨に苦笑した
「これ、定期診断だよ」
「定期診断って?」
「僕達が雇うに値する人間がどうかを 財団がチェックするんだ
 これは お前達二人のテスト入隊の結果だな」
たしか合格点は70点以上だったかな、と
トーストをほおばりながら蒼太は画面を顎で指した
色々な文字と数字と計算式がスクリーンに出ては消え、やがて真墨の結果が写し出される
「スピード10ってのはすごいな」
「技も10だって! 真墨満点が2つもある!」
何なんだよ、と
つぶやきながらも 真墨はスクリーンをくいいるように見た
何年も何年もトレジャーハントで鍛えた身体だ
この負けず嫌いの性格が幸いして、努力を怠ったりはしなかったし、トレーニングだって嫌いじゃない
真墨は強くなることに貪欲だから、常に上を意識しているし、今だって現状に満足してはいない
「真墨は合格だねっ」
「当たり前だろ」
そもそも、あれだけたくさんの入団希望者の中から3回も試験をして残ったのだから こんなのパスして当たり前だと真墨はひとりごちた
ただ、こんな風に わけのわからない計算式で計算され、数値として人間性や力を計られるのは面白くない
「あっ、菜月だよ〜」
スクリーンの映像が菜月に変わった
先程の真墨の動きに比べたら たどたどしいというか危なっかしいというか
「あら、もう結果が出てるんですね」
コーヒー片手にさくらと暁も入ってきた
「真墨は80点」
蒼太の言葉にさくらが微笑した
「さすがですね」
私も このあいだの定期診断はそのくらいでしたと
その言葉に 真墨は黙ってコーヒーなんかを飲んでる暁を見遣った
彼は、何点だったんだろう
実際戦ってもみず、こんな映像だけで何が判断できるのかと思うけれど、それでも暁の点は気になった
かつての自分の憧れで目標だった 最高のトレジャーハンター
そして今、目の前にして どうあがいたってかなわない相手
こういう数字で示したら 彼にはどんな点がつくのか

「あっ、菜月の点出たー!」
隣で すっかり朝食を取るのを忘れてスクリーンを見ていた菜月が声を上げた
計70点、ギリギリセーフ
「やはり直感力が優れていますね」
「順応力が高いってのもうなずけるなぁ」
どこでも巧くやっていけそうなこの性格では、と
笑った蒼太に 菜月が嬉しそうにはにかんだ
「二人とも これで正規のメンバーですね」
「テスト入隊期間終了
 晴れて正式なメンバーになったってわけだ、おめでとう」
さくらと蒼太の言葉に 菜月は笑って、
真墨はいつものように フン、とか何とか答えながら 
やはり、黙ったままの暁を気にした
こんな時 チーフとしてのお言葉とか何とか言いそうなものなのに
おめでとう、の一言もなく
頑張れよ、もなく
いつも通りに 落ち着いてコーヒーなんか飲んでる暁の心がわからない

「なぁ、明石のデータないのか?」
昼前、朝の訓練が終わった後 蒼太に声をかけると 彼は一瞬考えこんでから机の上に並んだボックスの一つを開けた
「これが一番最近の定期診断のデータ
 見たら そっと戻しておけよ
 チーフはあんまりこの制度好きじゃないみたいだから、チーフには見つからないように」
隠れて見ろ、と
視聴覚室の鍵とともに それは渡された
(好きじゃないって?)
もしかして自分の評価が悪いとか?
それとも、真墨と同じように こんなもので何がわかるのかと不満を持っているのか
蒼太は暁に見つからないように、と言ったけれど
今は皆 昼食の時間だし、今日は暁は本部へ行くと行って 朝食の後から姿が見えない
見つかるわけないだろう、と安心しきって 真墨は視聴覚室へ向かった

スクリーンに映る暁の姿はスキ一つない動きをしていた
こうして客観的に見てみたらよくわかる
視線、腕、足、それから武器の動き
全てが効率的で、それがもう身体に染み付いてしまっているかのような
考えてしている動きではない、そんな風に見えた
圧倒される
隣で戦っていても、自分のことに必死でここまで見ることはできない
敵として対峙した時はじめて、その凄さを思い知る
未だに、毎日の夕方の模擬試合で 真墨は暁に勝てたことがない
そして その時にも こんな風に冷静な目で彼の動きだけを見ることはできないから
「・・・くそ・・・」
すごいと思った
嬉しかった
そして、同時に悔しかった
どうして彼はトレジャーハンターをやめたのだろう
こんな財団に どんな魅力があって、世界の宝を捨てたのだろうか
彼に憧れていた自分を裏切って、ここに来た理由は何なんだ
(あいつは俺のことなんか、知らないんだけど)
だから、捨てられた、も裏切られた、も 自分のひとりよがり
いつも、一方通行
憧れも、怒りも、このわけのわからない感情も、
「くそ、高得点たたき出しやがって」
計算結果は92点
満点が4つは驚異的だと思いつつ、
暁の強さは92点なんてレベルの強さじゃないとも思う
やはりこんなのは ただの財団の勝手なデータで
実際 彼と向かい合ったら その眼の強さとか 自信とか、オーラみたいなものに圧倒されて
1000点でも2000点でも足りないくらいに感じるだろう
経験と直感で宝を探し出して
力と技で敵を倒す
こんなにトレジャーハンターであるべき人間は他にいないのに
(・・・くそ、遠いな・・・)
点数でいったら12点の差
でも その差はもっともっと大きい気がした

何度も繰り返しデータを見ていると、突然背後で人の気配がした
「・・・うっ、わ」
「お前 いつまでやってんだ?
 とっくに訓練始まってるぞ」
いつのまにか、休憩時間は終わったようで 時間を忘れていた真墨は慌てて時計に目をやった
「おま・・・え、いつ帰ったんだよ」
「今
 通りかかったら使用中ランプついてたから誰かと思って覗いてみた」
何見てんだよ、と
笑った暁に 真墨は慌てて画面を消した
蒼太に、暁には見つかるなと言われていたのに
当に本人に見つかってしまった
怒るだろうか
それとも笑うだろうか
一方的にライバル視して、こんな風に暁ばかり見ていた自分を
「お前、そういうの気にするタイプ?」
「別に」
居心地悪くて、真墨は俯いた
こんなのは、本当の強さじゃないから 何と言われたってかまわない
何度も見てたのは、その点数がどうこうじゃなく
ただ彼の動きに魅きつけられたから
時々見える揺るがない眼とか、躊躇しない決断力とか、絶対の自信みなぎる剣の一閃とか
そんなのに、強く強く魅かれて、必死で追っていた
その姿から目が離せなかった
「俺はあまり好きじゃなくてな」
言って、暁は真墨の手からデータを取り上げた
「たとえ財団の計算結果が70点以下だったとしても、俺はおまえ達二人をメンバーから外す気はなかったぜ」
それから悪戯っぽく笑ってみせる
「なんでだよ」
「必要なのは こんな力とか技とか順応力とかじゃない
 意志と勘と経験だ」
お前達二人には、ここにいたいという意志があり、戦いに生き残れる勘ももってる
そして、経験はこれからいくらでも積んでいける
「入団試験の時 俺が見てそう思ったんだから 今さらテスト入隊なんか必要ないんだよ」
二人とも、最初のミッションの時から正規メンバーだと
暁は言って 笑った
そういえばこいつは、入団試験の時 自ら出てきて入団希望者と戦っていた
実際に向かい合ってみないと相手の強さなんてわからないと言い、
最後の最後で 真墨は暁に負けたのだ
1回目の敗北だった
それからたったの2週間程で もう何十回と床に叩き付けられ、壁にふっとばされ、組み伏せられているけれど

「さて、訓練に戻るぞ」
「あ、ああ」
少し、気持ちが昂っている
自分と同じように こんな点数には意味がないと言った暁の言葉が嬉しかった
素直に口にはできなかったが、彼もこんなもので自分を評価したりはしない
それが心を高揚させた
「だいたい お前が80点てな」
廊下を歩きながら、暁が笑った
「なんだよ」
「知ってるか? お前戦ってる時は野生の獣みたいな眼してんだぜ
 80点てことはないだろ」
100点でも足りないな、と
それは独り言か、暁は面白そうに笑った
心に、くすぐったいような、満ち足りたような想いが広がった


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