1回目の嫉妬 (赤×黒)


廊下から爆音が響いてきた
皆が驚いて、訓練場から駆け出していく
「何の爆発?!」
一番出口の近くにいたさくらが もうもうと煙の上がっている倉庫へと駆け込もうとしたのを制止して、暁が一人中に入った
同時に廊下でけたたましく警報が鳴る
「ねぇねぇ、どうしたのかな?」
「最上が何かミスったんじゃないのか」
興味シンシンにドアを見つめながら聞いてきた菜月にそう答えた
側の電話でさくらがどこかに連絡しているのが聞こえる
しばらく、見ていた
1分もしないうちに、暁がぐったりした蒼太を抱いて出てきた

「バカじゃねーの、トラップにひっかかったんだろ?」
「まぁ、そんなとこだな」
「未熟すぎ
 わざと作動させたにしても もーちょっと場所選べっての」
朝から蒼太は、本部が運び込んできた遺跡からの発掘品の調査をしていた
午後になって訓練の時間になっても出て来ず、相当熱中してるんだな、なんて皆が話していた
そんな最中の大爆発
暁が倉庫の中に入った時には キラキラと輝く龍のような形の発掘品の側に蒼太が倒れていて
呼吸をしていなかったという

「で? 別に命に別状ないんだろ?」
「ええ、今はまだ気を失っていますけど」
「だったら別にここにいなくてもいいよな
 俺は戻るからな」
「そうね、蒼太くんには私がついていますから 皆は訓練に戻ってください」
皆、医務室に運び込まれた蒼太についてこうしてベッドを囲んでいるが、彼はまだ目を覚まさないし
覚ましたところで 自分がここにいても何もできはしないだろう
それに、別に蒼太など どうでもよかったりする
自分が意識してるのは暁だけだ
彼に勝つことだけが 自分にとって大切なんだから
「さっさと行こうぜ
 ミッションまで1週間もないんだろ 」
まだ今日の訓練は始まったばかりだし、夕方にやる模擬試合も終わってない
昨日は暁に惨敗だったけど、今日は絶対に勝ってやる、と朝から気合いが入っているのに
「さくらも、戻っていい
 蒼太には俺がついてるから」
だが、当の暁は言うと でも、と言いかけたさくらに静かに視線をやって言った
「行っていい」
「・・・はい」
これ以上言わせるなというような、静かで でも有無を言わせない視線
さくらは、うなづいて それから菜月の背を押し部屋を出た
「・・・お前は来ないのかよ」
「蒼太についてる
 しっかり訓練しろよ、真墨」
フォーメーション見直しておけ、と
暁は眠っている蒼太を見つめたまま、言った

おもしろくなかった
自分と勝負するより蒼太の方が大事なのか
あいつ、自分の方を見もしなかった
そんなに あのバカが心配かと思った
トラップにひっかかって爆発起こして人騒がせな あんな奴が
(なんだよ、あんなのただの足手まといじゃないか)
自分なら、あんなトラップにひっかかったりしない
だいたい倉庫には最新のトラップスキャンだってあるんだし、
何より切羽詰まった状況じゃないんだから トラップかどうか迷ったら誰かに相談するなり調査を後回しにして調べるなりすりればいいものを
こんな大騒ぎを引き起こして、自分は眠ったままいい気なもので
そんな奴に 暁がつきっきりで訓練に出て来ないなんて

はっきりいって、おもしろくない

その日の夜、メンバーを集めて暁が言った
「蒼太のレポートによると あの発掘品の中に何かが封印されているらしい
 触ると妙な声が聞こえたり 何かの気体と反応して熱をもったりすることから自然物ではないと判断される
 人間に作用する脳波のようなものが出ているのか、もしくは細菌の類いか
 今は第4保管庫に移動させてあるから、近付かないように」
その妙な脳波だか菌だかのせいで蒼太はまだ眠りからさめないらしく、暁は今夜は自分が寝ずに付いているからと言った
「まるで呪いだな」
言いながら 解散するように仕種でうながした暁に、さくらが、心配そうに言ったのが聞こえた
「チーフ、身体に触りますから私が」
「いいよ、俺がついてるから
 さくらは悪いけど、報告書作ってくれ」
その言葉に イライラと妙な感情が胸の中に広がっていった
どうして、暁はそんなに蒼太にかまうんだ

夜中、眠りが浅かったのか 変な時間に目が覚めた
「今 何時だ・・・」
暗い中 枕元の時計をさぐりあて目をこらして表示を見る
3時30分
(くそ・・・なんでこんな時間に・・)
思って、そのまま部屋を出た
なんとなく、無意識に足が医務室へと向かい
灯りのついたドアから 看護婦のような人が出てくるのを見た
「最上まだ寝てるのか?」
聞いたら ええ、と彼女が答え
時々 呼吸が止まるから心配ね、と言った

(呼吸が止まるって・・・)
よほど、害のある脳波なのか
それとも何かの呪いか、細菌か
遺跡の宝にいわくは付き物
それでも真墨は、トレジャーハンターとして「入った者は死ぬ遺跡」とか「触ったものは呪われる宝石」とか そんなものを相手にして今まで生きてきたし
呪いや迷信のたぐいは本当に信憑性のあるものしか信じていない
嘘やデタラメ、人の作り話はすぐに分かる
本当の呪いなら、肌でわかるから
ずっと遺跡や呪いや宝なんかの側にいた真墨には、そういうものを嗅ぎ分ける感覚がもう染み付いている
だから今回の発掘品にも 何か妙なしかけがあって呼吸できなくなる脳波が出ているのだ
でなければ、長い間地下に隠されていた時に付着した菌か何かだ
それを吸い込んで 呼吸困難か何かになっているのだろう

「・・・ほんと人さわがせな奴」
ずっとついて見ていなければ 呼吸が止まった時対処できないから、暁がこうして側にいるのか
さくらにやらせなかったのは、皆に余計な心配をかけないためか
(なんなんだよ、医者にまかせとけばいいだろ)
人工呼吸でも何でも
思って、その光の漏れるドアを開けた
中央のベッド、それにおおいかぶさるようにした暁の後ろ姿が見えた

「ん? ああ、お前どうした?」
しばらくして、蒼太から身体を放した暁は いつもみたいに笑った
今のは人工呼吸?
そういう装置、世の中にはあるんじゃないのか?
わざわざお前がしなくたって
「何? お前もしてほしいのか?」
「いらないっ
 医者にまかせとけばいいだろ、そういうのはっ」
カッと頭に地が上った
「菌かもしれないからな
 口移しでうつるとまずい
 装置は明日には届くらしいから それまでな」
「そんなのお前にもうつるじゃないか」
「俺はあの時 倉庫に入ったからうつるならもううつってる」
でも 今はとりあえず平気だし、と
笑って、それから真墨が入ってきたドアを指した
「あんまり長居するな」
それは、うつるかもしれないからか
それとも、蒼太に集中してたいからか

イライラ、と真墨は廊下を歩いていた
人工呼吸だってキスには違いないだろう
何の抵抗もなく、そういうことができてしまう人種なわけだ
暁は、自分とでなくても
多分 誰とでもそういうことを平気でするんだ
(くそ・・・っ、だからって何だよっ)
別に自分と暁がキスをしたのも あんなのただの遊びみたいなもので
あいつが勝手にしたことで、
それは昨日のことだけれど、
あの時 自分はどうしようもなくグラグラした
犯されて、気が昂って、どうしようもない時だったから余計
あのキスを、
奴が笑って触れてきたあれを、抵抗できなかった
ただそれだけのことなんだ

「くそっ」

イライラで、どうにかなりそうだ
暁と自分は 何か特別な関係というわけではない
彼が真墨にとって唯一尊敬し憧れているトレジャーハンターだったこと
その彼が突然宝探しをやめて、世界から消えてしまったこと
彼を目指していたのに、裏切られたような気がして
必死で彼を探した
そして、みつけた
こんな下らない財団なんかで人の下で働いてる腑抜けた彼を
瞬間に、怒りが湧いてきて
あんな奴に憧れていた自分がバカらしくなった
トレジャーハンターだった暁は、自分にとって特別で孤高の人だったから
不滅の牙は、けして人の下で働くような そんな平凡な男じゃない

(だからって何だ、
 あいつはもう不滅の牙じゃないし、俺はあいつを許さない)
憧れを裏切った代償は大きい
なぜ、急に消えたのだと憤ったあの時
探し求めて 探し当てたのに
最高の宝を見つけたのに、それはただのガラクタになってしまっていた
悔しかった
どうして、昔のままの彼でいくれなかったのかと思った
そんなお前を負かして、俺が世界で最高のトレジャーハンターになってやると心に誓った

(あんな呪い・・・)
足が勝手に第4保管庫に向かっていた
菌だの呪いだの脳波だの
何だっていうんだ、そんなもの
そんなもの自分が解除してやる
そして、教えてやるんだ
牙の折れたお前なんかより 俺の方が優れているって
こんなトラップも解除できないお前の部下の蒼太は ただの足手まといだって

重いドアを開けた
厳重にセキュリティのかかっている扉も さっき医務室で盗ってきた暁のIDカードで簡単に開いた
あいつ、こっちをろくに見もしないで蒼太ばっかり見てたから
俺が盗んだのに気づかなかった
チーフはどこでもフリーでいいよな、なんて
つぶやいてガラスケースに入った龍を見つめた

本当に綺麗で、魅せられてしまいそうだ
開けてもいいよ、と
柔らかな声が聞こえた気がした
これが、蒼太のひっかかったトラップなのだろうか
(・・・トレジャーハンターをなめるなよ)
意識を集中して ガラスケースの外から龍を観察した
今までの経験からして どこかに印があるはずだ
もしくは文字、もしくはくぼみ
ウロコの下に、何かが刻まれているのを見つけた
小さすぎてよく見えない
「・・・出すしかないか」
手袋をはめてガラスケースの横の穴に暁のIDカードを入れた
ケースが開く
呼吸を止めて、それを手にし、裏返してウロコの下を見た
古代文字が 5文字並んでいる
古代文字を知らなければ ただの傷だと思うほどに小さなもの
ダミーがいくつもある中の この5文字だけが古代文字だった

(見たことあるやつだ、これ・・・)
目を閉じて、記憶を探った
現在 発掘されている遺跡で見つかる古代文字の種類はほぼ30種類
その半分くらいは実際にこの目で見たことがある
どこだったか
あれは側に滝の流れる洞くつの奥深くではなかったか

「わかった・・・水の中だ」
それも、海水だ
あの場所は、海底で、激しく流れ落ちる滝も全て塩辛かった

側にあったマシンにデータを打ち込んでいる最中、ふと視界の端に光が入った
きらきらと、
静かな輝きを発していた龍が突然にまばゆく光りだす
(やばい・・・っ)
長く外の空気に触れさせてはいけなかったのか
慌ててケースに戻したけれど遅かった
ロックをかける前に閃光と爆音が響き そのまま、真墨は気を失った

目を覚ました時、そこは医務室だった
頭がガンガンする
でも、生きていた
呼吸も正常にできている
「真墨が目を覚ましたっ」
側で菜月の声がした
身体を起こして見遣ると 隣のベッドに蒼太が同じ様に座っている
なんだ、治ったのか
あの爆発の後、どうなったのだろう
龍は壊れたのだろうか
せっかく謎を解いて、トラップが解除できそうだったのに
「真墨、気分はどう?」
菜月が呼びに行ったのか、部屋にさくらと暁が入ってきた
むっとする
蒼太が倒れた時はつきっきりでみてたのに、俺の時は部屋にもいない
そんなに蒼太が大事で、自分はどうだっていい存在なのか
「真墨」
つかつかと、暁がベッドへ向かって歩いてきた
左腕にテーピングがしてある
怪我なんかしてたっけ、とぼんやりと思った
途端、ばしっと頬をぶっ叩かれた
あんまり急で、
何の前触れもなくて
驚いて、ただぽかんと暁を見た
怒ったような顔がこっちを見下ろしてる
「謎を解いたことは誉めてやる
 でもあの場所は、立ち入り禁止だと言ったはずだ」
わざわざ人のカード使いやがって、と
いつもより低い暁の声に、今度はふつふつと怒りが湧いてきた
「謎といて解決したんだろっ
 だったら俺が殴られる必要ないじゃないかっ 」
頬が、今になってジンジンしてきた
思いっきり叩きやがって
睨み付けたら、胸ぐらを乱暴に掴まれた
「反省の色がないな」
「するかよっ、そんなもんっ」
それで もう一発はたかれた
それから 乱暴にベッドへと放られる
怒りと、意味のわからない激しい感情が身体中に溢れていった
爆発しそうだ
どうして、自分だけこんな風にされるんだ
蒼太の時は優しくみてたのに
自分は あの謎を解いてやったのに、心配どころか怒るだけで
2発も 思いっきり殴りやがって

「く・・・・そ」
目をぎゅっとつぶった
倒れ込んだベッドから起きあがれない
泣きそうになった
泣きたくなくて、必死に歯を食いしばった

その後すぐ、暁は部屋を出ていき、さくらと菜月もついて出ていった
残された蒼太が、ぽつと言う
「菌だったらしい、あれについてたの」
お前が謎を解いて入れたデータを見て 暁がトラップを解除して判明した
あの発掘品は海底の遺跡から発見されたもので 回り回って何人もの人間を死に至らしめ
とうとうこの財団に辿り着いたんだと
トラップを解除した後出てきたのは 紋章入りの宝剣で、
それを見て暁が菌だと、そう言った
以前入ったことのある古代の遺跡
そこの壁画に埋め込まれていたこの宝剣を見たことがあって、その時 原因不明の病でメンバー全員が倒れたんだと
「チーフはその時 現地の薬で助かって帰ってきたらしい
 あの菌は呼吸器官を麻痺させて殺す古い菌で 今では薬があまりない
 現地から取り寄せてる間に俺達が死ぬからって、今、チーフの血からワクチンを作ってるとこ」
一度、この菌を体内に入れた暁には免疫があって、
だからずっと蒼太の側についていても、人工呼吸にくちづけしてもうつらなかったんだとか
「チーフ、お前のこと心配してたよ」
ワクチンをうってもしばらくは呼吸が止まる症状が続いたから それで真っ青な顔して手を握ってた、と
蒼太の言葉に 真墨は顔を上げた
「んなわけあるかよ、あいつは俺だけ殴ってったろ」
「さっきまで死ぬかもと思ってたから・・・気が抜けたんじゃないのか」
「気が抜けて殴るやつがいるかよ」
「あんだけ心配かければ、怒りもするよ
 お前、近付くなってチーフの命令に背いたんだろ?」
命知らずな奴、と
蒼太はわずかに笑った
「あと2.3回はワクチンをうたなきゃならないらしくて、チーフは今それ作ってる
 血が大分いるらしいから 今夜はもう会えないよ」
そういえば、さっきも顔色が悪かった
あの腕のテーピングは採血の痕なのか
ひっぱたかれた時の痛みが、頬にじん、と戻った
本当に心配してくれたのだろうか
蒼太の言うとおり、呼吸の止まった自分を 蒼太の時と同じように心配して処置してくれたのだろうか

その夜に2度目のワクチンをうたれた後、真墨はそっと部屋を抜け出した
隣の部屋に暁がいると聞いたから、どうしても様子を見たかった
立てなくなる程血を採ったときいたから、今はもう眠っているかもしれないけれど

「・・・真っ青じゃないか・・・」
思った通り、暁は目を閉じていた
その顔は蒼白で、いつもの不敵な彼じゃないみたいだ
腕からは2本の管が通っていて、その一本には点滴がくっついている
痛々しい姿
自分があの時、謎を解いたことに気をとられず あの龍をもっと注意深く扱っていたら
暁はこんなにたくさんの血を採らずにすんだのだろうか
自分が爆発なんてヘマをやらなければ、
ワクチンは一人分ですんだはずだ
こんな風に、立てなくなるくらい 暁の血を採る必要はなかったかもしれない

「・・・俺のせいかよ」
お前は甘いんだよな、と
昨日の訓練で、暁が言ってた
そんなつもりはなくても、やはり最後にスキができたりするのだろう
スムーズにいってた楽勝のハントでも、最後の最後で怪我をしたり
最後のトラップにはまってしまったりしたことは 今まで何度もあった
今回のも、そうだ
謎をとくまでは うまくいっていたのに
(・・・さっさと目、覚ませよ)
いつまでも、こんな風にらしくなく寝てないで
いつもみたいに不敵に笑って、嫌味の一つも言えばいい
憧れでない、本物の彼と出会ってからまだ4日
それでも 自分は散々に奴の言葉に翻弄されて
振り回されて、どうしようもなくなっている
まるでこれこそ何かの呪いみたいだと、思った
がらにもなく、こんなことをしてるなんて

そっ、と
その乾いた唇に くちづけをした
暁の唇は冷たくて、体温が下がっているのが伝わってくる
ぴちゃ、と
舌を差し入れた
ドクン、ドクンと心臓が鳴ってる
ベッドに手をついて、もっと深く深く くちづける
自分の熱が、暁にうつればいいと思った
彼がくちづけた時 自分がそうなったように

そっと、唇を放すと 真墨は浅く息を吐いた
どうかしてる
男にこんなことするなんて
しかも、自分から
こんな奴に、こんなこと
「・・・何やってるんだ、俺・・・」
つぶやいた
もう部屋に戻ろうと思って身を返した
その手を、冷たい手が掴んだ
「う・・・・っわぁっ」
「でかい声出すなよ」
くくっ、と
あの笑い声が静かな部屋に響いた
「おおおおお、おまえ起きてたのかよっ」
急に、体温が上がっていくのを感じた
顔が熱い
きっと真っ赤になってるだろう
寝てると思っていたのに
意識なんかないと思ったから、唇に触れたのに
「熱烈なキスで目覚めた」
にっ、と暁が笑ったのに 真墨はどうしようもなく立ちすくみ
何か言い訳を、とグルグルの頭で考えた
ダメだ、何も浮かばない
あんなこと、しなけりゃ良かった
そもそもどうして暁にキスなんかしたのかすら分からない
起きるなんて反則だ
ここから動けない
そんな風に見られたら、動けなくなる
「呼吸は大丈夫か?」
「あ・・・ああっ」
暁は腕を放さない
こちらを見る目が、ちょっと真面目な色に見えた
怒ってるのでもない、初めてみる色だと思った
こいつはいつも 笑ってたから
「お前はほんと甘いな
 なんでケースに入れてるのかとか、考えろよ」
「うるさいな・・・っ
 謎は解いたんだから あんな殴ることないだろ」
「おまえが命令違反するからだ」
「俺が謎を解いたから最上の病気の原因がわかったんだろ」
「おかげで、病人が一人増えたけどな」
溜め息と一緒に、暁は苦笑した
真夜中に、突然やってきた真墨を追い返した後しばらくして、ふとテーブルの上に置いてあったIDカードがないのに気付いた
慌てて電話でさくらを呼んで、蒼太をまかせて廊下を走った
真墨のあの性格からして、第4保管庫に近付くなという自分の命令なんか簡単に背いてくれるだろうし
あの謎を解こうと、するかもしれない
そして真墨なら あんな謎くらい解けるかもしれないけれど
怒りみたいな感情と、不安みたいな感情が折り混ざったのを感じながら廊下を走っていたら、爆音が響いた
遅かったかと思って保管庫に駆け込んだ先、床に真墨が倒れていた
昼間の蒼太と同じく息をしていないのを見て ゾクとした
おまえは俺の獲物なのだから、俺の許しなしで死ぬのは許さない

その場で蘇生処置をして、医務室に運び込み
第4倉庫に戻って 真墨の入れたデータを見た
海底の遺跡の宝で、海水に浸せと書いてあった
その通りに実行して、出て来た宝剣を見て またぞっとした
何年も前の悪夢が蘇ってくる
異国の地、遺跡内に充満していた菌を吸い込んで ばたばたと呼吸器官を壊して死んでいった仲間達
運よく薬で助かったのは わずか3人だった
あの呼吸のできない苦しさは 今も身体が覚えている
(薬を取り寄せてる時間なんかない)
犠牲者が二人
それから 今二人の側についてるさくらにもうつったかもしれない
菜月も蒼太の病室へ入った
蒼太をみた医者、看護婦
いったい何人分のワクチンがいるのか
免疫をもってるのは、自分しかいない

「ま、無事で何よりだ」
暁は 笑って、それから目を閉じた
「血足りなくて眠いな
 お前 明日の朝メシはステーキにしろって言っといて」
肉食いたい、と
つぶやいて暁は眠りに落ちた
そっと、自分の腕を掴んでいる手を放す
それから、ほっと息を吐いた
少しは、自分を心配してくれたのかもしれない
暁はその血で、真墨を助けてくれたのだから

しばらく真墨はその場で暁の顔を見ていた
心なしか顔色が良くなったと思うのは気のせいだろうか
さっきのキスで自分の熱が移ったのかもしれないと、ふと思った


女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理