やさしいきもち

「シオン、明日名古屋に行ってくれない?」
ユウリさんから そう言われたのは今日の昼前でした
なんでも、ある会社のコンピュータシステムがウィルスで使い物にならなくなったらしく、急遽仕事の依頼が入ったとか
「名古屋・・ですか」
「ええ、明日は私達 別の仕事で手が空かないの
 悪いけど一人でお願いね」
ひとり、と聞いてドキンと心臓が鳴りました
昔のように「独り」ではないことを知ってるけれど やっぱりこーゆう時って心細くなってしまいます
僕ってまだまだ、子供なんですね

夜、支度をしながら僕はまだ帰ってこないドモンさんをまっていました
ドモンさんったら仕事に行ったきり帰ってこないんです
日付けはもう変わろうとしてて 他のみんなはとっくに寝ちゃったのに
「・・・・遅いな・・・・・」
コチコチ響く時計の音とか、
シン・・・とした空気とか 僕はあんまり好きじゃないです
まるで自分がまだ あの場所にいるような気がするから
「早く帰ってきてください・・・・」
ドモンさん、寂しいです
明日は一人で遠くに行かなきゃならないし、それでなくても最近ドモンさんと二人きりで過ごすことが少ないのに
「・・・・・・寂しいです・・」
つぶやきは、まるであの頃のように無人の部屋で響いていました

「おうおう ただいま〜」
丁度3時、ドモンさんはお酒をいっぱい飲んで帰ってきました
「ドモンさんっっこんなに飲んで〜」
フラフラとなってるドモンさんの身体を支えながら、僕は漂ってくる甘い香りが少し哀しくて泣きたくなりました
きっと、町で会った可愛い女の人と一緒にいたんだろうな、とか
その人は僕なんかよりずっと 一緒にいて楽しいんだろうな、とか
そんなことを考えて、とてもとても悲しくなりました
僕はドモンさんをずっと待ってたのに

「おやぁ?
 どーした、シオン 元気ないな〜」
ソファーに座って御機嫌に、ドモンさんはいつもみたいに僕の髪を優しく撫でてくれました
胸が切なくて、
でも そうされてるのがとても気持ちよくて 僕は少しだけ笑いました
「えへへ
 なんでもないです・・・」
お酒に酔ってクタクタになってしまったドモンさんはやがてそのまま眠ってしまいました
「ドモンさんが側にいてくれるだけで幸せだって思わなきゃバチが当たりますよね・・」
でも、寂しさに涙がこぼれてしまいました
僕はドモンさんに甘やかされて 少し贅沢になってしまったみたいです

次の朝早く、僕はTR事務所を出ました
「いってきます・・・・」
まだ眠ってるドモンさんに そっとキスして、そう言いました
大きな手でいつもみたいに髪をなでて 行ってこいってキスしてほしいな、なんて
やっぱりぼくのわがままなんだろーなぁ・・・

それから長い間、僕は一人でした
新幹線の中も、向こうの会社についてからも寂しくて仕方ありませんでした
早く帰りたくて、一生懸命になっていました
「よぉ、チビ
 それ終わったらメシでも食いに行こうぜ」
会社の人が優しくしてくれたけれど、僕はずっとうわの空でした
だって、ここにはドモンさんがいないから

それから会社の人達にさんざん引き止められて乗る予定だった新幹線に大幅に遅れて、僕はからっぽのこころで駅に向かっていました
「切符・・・買い直さないと・・・」
ぼんやりと、たださみしくて
僕はいつのまにかこんなにも、心の中がドモンさんでいっぱいになってるんだと気付きました
「・・・ドモンさん・・・・・」
つぶやいた時 急に目の前が明るくなって僕は驚いて顔を上げました
「くぉら、シオン
 おまえ何時間またせるんだっっ」
ただびっくりして、僕はその場に立ち尽くしました
ドモンさんが
大好きなドモンさんがそこにいて、僕の名前を呼んだから

「ドモンさん・・・・どうして・・・?」
ここは名古屋なのに
他のみんなは別の仕事があるっていってたのに
「・・・・・昨日は悪かったな
 お前 ちょっと様子変だったろ?」
朝ぼんやりとした記憶の中で、昨夜の僕のことを思い出してくれて
それで心配してくれたっていうの?
だから こんなところまで来てくれたっていうの?
無意識にボロボロと涙がこぼれて止まらなくなりました
僕は、嬉しくて仕方なかったんです
だって こんなに近くにドモンさんがいるから

「まったくお前はすぐ泣くな〜」
あきれたようなドモンさんの声
そして僕の側まで来てくれて 大きな手で髪を撫でてくれました
「ドモンさんが来てくれて そんなに嬉しいか」
明るい笑い声
大好きなドモンさんの言葉
「はいっっ」
顔を上げて言ったら、そのままキスをくれました
僕、ドモンさんのこういう時のキスって すごく優しくて大好きです

それから僕はドモンさんが乗ってきたというバイクの後ろに乗せてもらいました
「新幹線なんかでチンタラ来れるかよ」
どこぞでチャーターしてきたとかで、初めてみるドモンさんのバイクにまたがる姿はとてもとても格好よかったです
「今日中に帰れるでしょうか・・・」
いつのまにか もう夜も更けて、最終の新幹線も出た後でした
「ばーか
 せっかく久しぶりに二人なのに このまま真直ぐ帰るかよ」
くすくすと、心地よくドモンさんは笑いました
「どこぞで宿とって一泊だ
 たまには二人でゆっくりしようぜ」
そしてドモンさんは悪戯っぽく笑いました
僕の大好きなドモンさん
そんなに優しかったら 僕はどんどん贅沢になってしまいます

それからしばらくバイクで走って、小さな宿を見つけました
真夜中に知らないところで二人きりで、とてもとても嬉しかったです
「なんだ、さっきまで泣きそうな顔してたくせに」
ビールを飲みながらドモンさんは笑うけれど やっぱり僕はドモンさんがいなくちゃ寂しさでどうかなってしまいそうなんです
ドモンさんがいなくちゃダメなんです
「でも本当はわかってるんです
 側にいられるだけで満足しなきゃダメだって
 いつも一緒にいたいとか、髪をなでてほしいとかキスしてほしいとか・・・思っちゃダメだ
 って・・・わかってるんです」
ドモンさんは僕だけのものじゃなくて、
ドモンさんにはドモンさんの大切なものがあるんだから
「なんだなんだ、寂しいこと言うじゃないか」
くすくす、と笑う声
腕を強くひかれて 僕はドモンさんの大きな腕に抱きかかえられました
「・・・・・・・」
あたたかさが伝わる距離が大好きで
もう何も恐くなくなって
さっきまで あんなに一人で寂しいと思っていたのが嘘みたいに思えました
「寂しいこと言うなよ
 オレはお前に必要とされたら それはそれは嬉しいんだぜ?」
むしろオレが惚れてるんだ、って
小さな声で言うのが聞こえました
それから何度もキスをして、何度も何度もだきしめてくれました
安心で、身体中がいっぱいになるまで

ねぇ、ドモンさん
僕はあなたが大好きです
あなたに出会えたこと、それが僕の一番の幸福です

2000.05.31

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