いつもみたいに、追い掛けてきてくれると思ってた
一方的に話を終わらせて、一方的に部屋を飛び出してきた
あいつの言う言葉なんか、何ひとつ聞かずに
そうやって、いつもあいつが迎えに来てくれるのを待ってる
オレは、こんなにも弱い

夜の空は、とても綺麗だった
だけど寒い
寒くて、泣きたくなる
ケンカの後はいつもこう
くだらないことで言い合いになって、相手の言い分も聞かず飛び出してきてしまう
どっちが悪いとか、悪くないとか
本当はもうどうでもいいんだ
ただ、少しのことですれ違うたびに お互い合わないんだと思い知らされているようで苦しくなるから
全部から目をそむけて、逃げてしまう
あいつが優しいのを知ってるから
あいつなら、そんなオレでも追い掛けて連れ戻してくれると知ってるから

「バカだなぁ」
胸が痛い
「お前は本当にバカだなぁ」
しめつけるように、いつもの発作が身体を蝕む
そして、奴は静かに隣へとやってきた
「いつも、そうだからといって
 あいつが今夜もまた ここに迎えに来てくれるとは限らないだろう?」
クツクツと不愉快な笑いが響き、あたりが闇に捕われた
いつからだろう
この死に神にとりつかれたのは
発作のたびに奴はやってきて、アヤセの心の隙間にはいりこむ
「もうそろそろ1時間たつぞ?
 いつもなら、迎えにきてくれている時間じゃないか?」
影だけの存在
それはアヤセ自身が生み出したものなのだろうか
心の不安を口にして、闇へとひきずり込もうとする者
「・・・・・・だまれ・・・・・」
もう この苦しみにも慣れたのに
なのに、なんて痛い言葉
自分には、失って辛いものなんかないのに
そう思おうと心を閉ざし生きているのに
「どうする?
 今度こそ 本当に嫌われたのかもなぁ」
お前みたいに自分勝手でワガママな奴にはつきあいきれないよ、と
死に神は醜く、笑った

竜也と出会った時、彼の自信に満ちた目が気に入らなかった
なのに同時に とてもとても心魅かれた
どうして、
どうしてそんな目で真直ぐに立っていられるんだろう
死に神にとりつかれ闇と死に魅入られた自分と、まるで太陽さえも味方につけて立ってる彼
あまりに己が醜くて、泣きたくなった
そしてとても、欲しいと思った

そう、
欲しいと思ってしまった存在
それが竜也
命さえ思い通りにいかなくて、もう何もかもどうでもいいとさえ思っていたのに
全部をあきらめていたのに
「竜也・・・・・・」
彼を見て魅かれ求めた
その自分にはない光が、欲しかった
竜也という存在に、ただ必死に手をのばした

「呼んでも来ないよ」
奴は笑う
なんて不快な声なんだろう
なんて醜い姿なんだろう
これこそが、自分の本当の姿なのかもしれない
こんな自分では、あの何にも恥じずに立っている竜也には不釣り合いかもしれない
側にいられないのかもしれない
「竜也・・・・・・」
泣きそうになった
あまりに辛い
命をあきらめた自分が こんなにも求めている人なのに
だからこそ、生きたいと言えたのに
「・・・・・・苦しい・・・・・・・竜也・・・・・」
本当に、見限られてしまったのだろうか
もう、いつもみたいに来てくれないのだろうか
「愛想をつかされたんだろうよ」
当然だよなぁ、と死に神は笑った

その手は闇の中やけに白く光っている
漂う黒い霧に、身体が飲み込まれそうになる
「もう・・・・いい」
竜也にいらないと言われてしまったのなら、もういい
来てくれないなら 自分などいらない
今までに何度も抗ってきた死というもの
死にたくないと思ったのは恐かったから
闇も死も、アヤセにはただ恐ろしかった
そして、竜也に出会って全部が変わった
彼とともに生きたいと願った
彼のように、真直ぐに立っていたいと思った
だから死にたくないと言った
竜也がいるなら

「いないなら・・・・意味がない」
まるで全てを手放そうと、アヤセはそうして目を閉じかけた
痛みと苦しみに抗うのをやめて
迫る闇に身をまかせようと、
そうして意識さえも手放そうとした
だけど、突然に

「アヤセ!?」

一番に聞きたかった声
求めていた 自分を呼ぶ声
「・・・・・・・・・」
目をあけると 遠くから走ってくるその姿が見えた
「探したぞ
 お前 こんなとこで何してんだ」
きつい声
でも とても心地いい
闇は逃げ、死に神は去る
胸の痛みもウソのように引いて、そしてそこには竜也がいる
「お前なぁ、話の途中で出ていくんじゃねーよっっ」
いつもみたいに怒った顔で、
でも息をきらせて走ってきてくれた
ただ安堵に、涙がこぼれた

「・・・・・泣くなよ・・・」
不満そうな声
乱暴に涙をぬぐいながら、竜也はひとつ溜め息をついた
「まぁ・・・今回はオレも悪かったよ
 でもなぁ、なんでお前はケンカのたびに逃げるんだ」
半分あきれたように、半分怒って
探すこっちの身にもなれ、と
つぶやく声が 嬉しくてたまらない

「どうして・・・?」
どうして、来てくれたのか
どうして、見限らなかったのか
「どうして・・・?」
あいつの言うように、もう終わりだと思った
こんなことが 今までに何度あっただろう
言い合いのたびに逃げ出して 話を途中でやめてきた
すれ違うたびに、泣いたり怒ったりして困らせている
誰だって、いつかは愛想をつかすだろう
いつか、終わりが来ると思ってた
「もう・・・・来ないかと思った・・・」
泣きながら言った言葉に 竜也は一つ息をはいた
「・・・・あのな、ガキじゃないんだから
 ケンカしたくらいで絶交なんかしてたら周りに誰もいなくなるだろ」
そして苦笑がこぼれる
「言っただろ
 アヤセは特別なんだよ
 だから怒ってても探すし、すれ違ってもあきらめない」
だいたい、と
言って彼はうつむいたアヤセの顔を上向かせ、言い聞かせるように笑った
「違うからこそ、魅かれるんだろ」
同じものしか持ってない奴になんか興味ない、と
竜也は 少し乱暴にキスした

帰り道、竜也はもう怒っていたことも忘れたように話をしていた
すれ違いのこと
それによってできる溝のこと
全く違う価値観のこと
だからこそ、人は他人に魅力を感じるんだということ
「お前はさ、すれ違って溝ができてお互い なんだこいつって思うのが嫌なんだろ?
 ケンカするたび 相手のそーゆう嫌いなとこが増えていって、同時に相手も自分のことを
 キライになると思ってるんだろ?」
笑いながら彼は言う
「そんなのは仕方ないし、それでいいんだよ
 オレは等身大のアヤセが見たいんだから きれいごとで飾られたアヤセを見たって何も
 嬉しくなんかないんだから」
強い人
こんなにも自信にあふれて笑ってる
「お前はお利口なオレが好きなわけ?
 今日のケンカで幻滅した?」
問われて、アヤセは首を横に振る
恐れているのは その逆なのだ
自分の醜いところをさらけだして、竜也に嫌われてしまうのが恐い
それが辛くて、いつもいつも逃げてしまう
「人間なんだから汚いにきまってんだろ〜
 お前がオレを嫌いにならないように  おれだってお前のこと嫌いになったりしないよ」
だいたい、と
悪戯に笑って、竜也はアヤセの腕をとった

「こんなに欲望潜ませてるオレに比べたら、お前なんかきれいなもんだ」

そうして熱い、くちづけが降る

わかったことがあった
竜也が強い理由
彼は人をよく見てる
そして、自分のことをよく知っている
上辺だけを見て、上辺だけのつきあいをしないから 彼はいつでも自信にあふれているのだ
自分の汚い部分とか、醜い部分とかをサラリと笑って言える強さ
他人のそういうところさえも、愛しいと受け入れられる大きさ
それを竜也は持っている
だから、こうやってケンカの後でも迎えにきてキスを与えてくれるのだ
「・・・・・・・」
また泣きたくなって、目をとじた
強い力でつかまれた腕から、崩れてしまいそうで
もう竜也なしでは 何の意味もなさないところまで来てしまっていると自覚しながら
アヤセは小さくつぶやいた

「お前で、よかった」

深いくちづけにさえぎられ、きっと竜也には届かなかった言葉
でも、いつもこの胸にある想い
彼がそうであるように、自分もいつか全てをさらけだすことができるだろうか
竜也には、全てを知ってほしいと望んでいる自分がいる
そうして、
それでもなお、変わらず側にいたいと願っている

2000.05.21

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