時々、あの人がすごく大人に見えることがある
振り回されてばかり
いつも気がつけば 彼の思惑にはまってる

「あのさ〜越前
 一夜漬けなんかどーせ何の役にも立たねぇぜ〜」
深夜、側でゲームなんかしてたあの人が言った
昼間 新しいゲームを手に入れたとかで家へやってきた先輩
オレが明日テストだってのに横でピコピコ楽しそうにしてそのまま
そのまま いつのまにか もう夜中
「・・・・先輩さぁ、邪魔だから帰ってよ」
「冷たいね〜だからお前も諦めて一緒にやろうって言ってんだって〜
 これおもしろいぜ〜
 本物のテニスとはまた違う感覚でさ〜ほら、スペシャルサーブ!!」
まるで子供
人の邪魔をして、家におしかけて、あげくに一人で遊んでいる
今が何時だとか構うそぶりも見せないし
この人にとったら そんなことは本当にどうでもいいんだろうと思う
「だいたいコレはお前にやらせてやろーと手に入れたモンなんだから
 お前がやるまでオレは帰らねェよ〜」
その割には自分だけ楽しんでいる、と思う
チラリ、と横目で楽しげな顔を見るとなんだか無性に腹が立ってくる
「・・・・ヘタクソ」
「お、だったら対戦するか?
 いっとくけどオレ様のスペシャルサーブは無敵だぜ」
「いいよ、そのかわりオレが勝ったらなんかしてよね」
「おー、負けるもんか」
キラリ、と彼の目が輝く
本当に子供だと呆れる
でも、結局こうやってそのペースに乗せられてしまうオレも子供なんだろうな

先輩の持ってきたゲームは最新の人気テニスゲーム
昔のアナログな画面から一転して、複雑なコマンドで迫力あるサーブなんかも出せるかなり凝ったつくりになってた
「出た〜桃スペシャル〜ドカーーーーン」
「ふんっいかすかっっ」
いつのまにか、二人して夢中
深夜だってことを忘れて、コントローラーを握りしめて叫んでる
ゲームに
この時間に
浸ってる

そうしてマンマと
オレは先輩の思惑通りに さんざんゲームの相手をさせられ
ついにはオレの方がはまりこんで熱中してた
いつのまにか、いつものように
オレはこの人にしてやられてる気がする
そして、それに気付いた時に なんだかとてつもなく悔しくて恥ずかしい
ニヤ、って笑うあの顔が 悔しい
「どした? そろそろ寝るか?」
ほら、今みたいな顔
かなわないと 思い知らされる余裕の笑み
「・・・・・勝つまでやる」
「あはは、無理無理
 オレ様は本物もゲームもテニスに関しちゃ無敵だからなぁ〜」
「絶対勝つっ」
意地になってしまう
そうして、その子供っぽさに
自分の幼さに いちいち思い知らされる
「しゃーないな〜
 じゃ気の済むまでつきあってやっか〜」
そして、そういう先輩の
そういう時の仕種や、声や、言葉や、表情が
たまらなく、たまらない
独占しているような気になる
そういう錯角に陥る

結局 明け方までやって 一勝もできなかった
「なんだよ〜」
「オレは日頃格ゲーできたえてるからな〜」
二人して床に手足を投げ出して寝転って
先輩は楽しそうにケラケラと笑った
「さてと、リョウマくん」
「・・・・・なに?」
「勝てなかった君には オレのワガママをひとつ聞いてもらいましょう」
言われてムッとした
「・・・・・何?」
「あはは、今あからさまに嫌そうにしたな〜負けず嫌い君」
起き上がって彼は笑う
「フン」
負けるのは悔しい
勝ってワガママを言ってやろうと思っていたのはこっちなのに
テスト勉強をほったらかしてゲームやってた意味がどこかへ消え去ってしまった
「なに?」
「キスしたいな〜」

その時の不敵な笑み
この自信家、と蹴り飛ばしてやりたくなるような顔
「いやだっっ」
不覚にも、きっと顔は真っ赤で
一瞬動きは止まってしまった
「いやっっ」
「んな思いっきり言うことないだろー」
「い・やっっ」
だけど この人がこの人である限り
そんなのが通じるはずはないんだよな
そうして、
また不敵に笑った先輩の顔を見た後は ただ必死に心臓の音を押さえるしかなかった
触れる程に近付いたあの人に 聞こえないように
あんな不敵な自信家に これ以上つけあがらせないように

「ごちそうさま」
「なんだよ、それっ」
動けば触れてしまいそうな距離を保ちながら 先輩は笑う
「いやいや、お前は何度してもそーやって顔赤くしてるな〜と思って」
ニヤニヤと笑う
結局、遊ばれているんだろうか
それが悔しくて 意地をはる
平気なふりをして、強がってしまう
「・・・・・今日 部活の時 再勝負」
言うと相手は快活に笑った
「寝不足でオレ様に勝てると思ってんのか〜?」
「寝てないのはお互い様でしょ
 それより先輩の方が年なんだからね」
「お、言うな」
調子に乗ったのか、またキスしようとして迫ってきた先輩のハラを思いっきり蹴りあげる
「うげ・・・」
「甘いよ、先輩」
「おまえなぁ・・・本気で蹴っただろ」
ゴロンと寝転がって唸るあの人に やっといつもを取り戻して言えた気がした
「オレはそんなに安くないんだからね」
ヘェヘェ、と
呆れたような、楽しんでるような 微妙な返事が返ってきた
それが妙にくすぐったくて心地よかった

相手の方が一枚上手
相手の方が余裕があって、大人だとわかる
でも、それでも振り回してやりたい
振り回されるばかりじゃ悔しいし、
そんなのはつまらない
だからオレはきっとずっとこんな風に、必死につくろいながら背伸びをしながら
あの人の隣に立ってくんだと思う
そうしてやってくんだと思う



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