油断してたんだと思うんだ
雨がふってすべりやすくなってたし
ちょっと考え事してて、あんまり足下を見て歩いてなかった
だから、
だから、

「うわぁ・・・おまえスゲー様だな〜」
「・・・・」
突然頭上から降ってきた声
なんてタイミングのいい時に出てくるんだろう
本当にどこかで見張ってるんじゃないだろうか
「ドジだな〜落ちたのか」
階段の上から見下ろして、彼は言う
いたわるとか、心配するとかいうより前に楽しんでるのがわかる顔
ちょっとだけ、腹がたった
「・・・・誰のせい?」
「なんだよ、オレのせいだってのか?」
ジットリにらんだら、彼は苦笑して降りてきた
不様に座り込んでる ここまで

「立てるか?」
足を滑らせて落ちた階段
カバンを拾って渡してくれた先輩に、少しだけ仕返ししたくなった
誰のせいでこうなったと思ってるんだ
だいたいいつもいつも 頭の中に登場するから他のことが考えられないんだ
「立てない」
見上げる
驚いたようにオレを見つめてる顔が そのうちすぐに笑顔に変わった
「へぃへぃ、王子様
 送っていってあげましょーね」
ヒョイとしゃがみこみ、向けられた背中におぶさる
立ち上がった先輩の背は 普段のオレの身長のはるか上
急に景色が開けた気がした
「んじゃあ帰りますか」
「うん」
その背中ですこし照れる
何をしているんだろうと思う
恥ずかしいのと同時に嬉しい
一体、何をしているんだろう
足をいためるような落ち方する程鈍くないし
痛みだってないんだけど
でも
「しかし、お前 なにボーっとしてたんだ?
 すっ転ぶなんてらしくねーな」
くくく、と振動が背中に伝わる
ノーテンキ屋
人をその気にさせておいて、どうしてこの人はいつもこうなんだろう
オレのマジメの半分くらいは考えてほしいもんだと思う
それで
つもりつもった普段のうっぷんかな
ちょっとだけ、いじめてみたい気になって

「桃先輩のこと考えてたからだよ」

そう言ったら少しだけ
ピク・・・と肩が揺れたのがわかった
「そりゃあ・・・・どうも、光栄なことで・・・」
照れたような もごもごとした声で
いつも無敵のあの人がつぶやく
少しだけ、それで安心するオレがいる

「ここでいいよ、先輩」
「なんだ? 歩けないんだろ? 家の中まで運んでやる」
「い・・・いいよ」
「遠慮するな
 ちゃーんと親父さんに階段ですっ転んで足怪我したって言ってやるから」
「い・・・いいってば」
ケラケラと快活な笑い
これはさっきの仕返しだろうか
「いいよ、もぉ下ろしてよっっ」
「こら、暴れるなっっあぶないだろ」
「おろせーーーーっっ」
右足も左足も健在
ケタケタと笑いながら下ろしてくれた先輩の前にスクリと立って
「わかってるくせに、意地悪いよ?」
「平気なくせにここまでおぶらせた奴の言うセリフか」
「だから落ちたのは誰のせいさ」
負けまいと言ったら また彼は笑った
「それはそれは、光栄のいたり」
さすがに二度は通じないか、なんて
考えてるそのほんの一瞬
それがオレがこの人に勝てない理由
いちいち頭をいっぱいにされてしまう理由
「スキあり」
ふ・・・・と唇に触れられる
不覚にも何の反応もできずにキスを奪われ
そうして、はっとしたオレに一言
「顔、真っ赤だぜ」

それはそれは、不敵な笑み
オレのこういう態度が、必要以上に彼に自信を持たせてしまってるんだろうか
それとも、やっぱり彼にはかなわないということなんだろうか
「う・・・うるさいなっっ」
「オレ様の夢みてベットから落ちんなよ」
笑いながら去っていく人
それを見送りながら またボンヤリしかけた思考を戻す
こんなんだからダメなんだ
わかってるけど
少しでも追い付きたいと背のびをして そのたびにマンマと見すかされてしまうけど
それでも今は、
柔らかく触れた唇があたたかいから
まだその感触が残っているから
今はそのことだけ、考えていよう
このぬくもりを、感じていよう



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