たまには (蛇×鹿)


筒良が泊まりにきた
何でもテスト勉強をやるのだとかいって、金曜の学校帰りにパジャマなんかが一式入った鞄を開けて見せ、彼は笑った
「蛇神は物理が得意でうらやましいのだ
 僕にはさっぱりわからないのだ」
解き方を教えてほしいのだ、と
てくてくと自分の前を歩いていく後ろ姿に苦笑してみる
泊まりに来るなどと、勝手に決めてしまっているが それなら泊まる先にも事前に了解を得て欲しいものだ
自分が聞かされたのは練習の後
それから10分もたっていない
こんなに急で、もし自分の都合が悪かったらどうするつもりだったのだろう
(・・・まぁ、結果は想像できるが・・・)
断ろうものなら、一気に膨れっ面になって言うに決まっている
「わかったのだ、蛇神とはもう口をきかないのだ」
それで、今 蛇神は苦笑しつつも鹿目と一緒に家路についている
蛇神の家は、この坂をのぼりきったところにある

「・・・さっさと部屋に案内するのだ」
ひーはーと、肩で息をしながら鹿目は持っていた鞄を地面に置いた
綺麗に掃除された石の階段
登る前には呆れた程の段数を上りきり、鹿目は大きく息を吸った
「練習のあとにこの階段は疲れるのだ」
寺や神社は昔から高い場所にあるというが、これは高すぎるだろうと、鹿目は今登ってきた階段を見下ろした
辺りはうっそうとした竹林で、夕暮れ時は光も届かず なんとなく嫌な雰囲気がある
ぶるっと肩を震わせて、平然と階段を登ってきた蛇神を見て、もう一度言った
「蛇神の部屋はどこなのだ
 さっさと行くのだ」
あまり好きではないこういう雰囲気
それでも、ここに来たのにはわけがある
最近練習ばかりで忙しくしていて、二人あまり一緒にいられないから
せめて、テスト前の練習が早く終わる時間、側にいたいとここへ来た
蛇神の家が、こういう雰囲気だと想像はできたが、それでも二人でいたかった
教科書やノートはその口実
見上げて、鹿目は少しだけ頬を染めた
優し気に微笑して蛇神が離れの方を指さし、ゆっくりと歩いていく
それについて、鹿目も歩いた
久しぶりに、彼が笑うのを見た気がする
こんな近くで

あーだこーだと教科書を広げながら、鹿目は時々顔を上げて蛇神を盗み見した
教室で毎日見ている横顔も、二人きりではまた印象が変わる
ここが彼の家だからか、どこかその表情が穏やかな気がするし
わからない、といった問題の解き方を説明する様子も、
ペンを握ってノートに字を書く様子も、
その一つ一つが新鮮に見えた
「・・・・・筒良」
鹿目は彼の口元が好きだ
きゅっと結ばれた形のいい唇からこぼれる声も、心地ちいい
「筒良」
ぼんやりと、
いつのまにか問題の説明なんか聞こえなくなって、ただ蛇神を見つめていた鹿目に、彼が怪訝そうに眉をひそめた
「聞いているのか、筒良」
そして、そのちょっときつい声にはっとする
顔をあげると、するどい目でこちらを見られて それで慌ててうなずいた
「き・・・聞いてるのだ」
「では解いてみせよ」
「え・・・・」
ポン、と問題集が渡された
「う・・・・・」
苦手な物理の応用問題
基本ならなんとかわかるのだけれど、応用になったらさっぱりわからなくなる
「先程説明した
 聞いていたのならできるだろう?」
淡々とした声に、少しだけむっとした
「わからないのだ、蛇神は説明が下手なのだ」
ぷうっと頬をふくらませると、やがて蛇神は小さくため息をついてもう一度ノートを鹿目の前に置いた
「この図式を見て考えるのが基本也
 問題文の意図をまず理解し、求めるに必要な条件を揃えよ」
ペンで線が引かれていく
長い指
ペンを持つその手に、今度は意識がいった
その指に触れられたいと思った
そうしたら、本当に頬に手がのびてきた
「筒良」
「え・・・?」
「何をぼーっとしている
 集中力に欠けている也」
長い指が頬に触れ、うつむいていた顔を上向かせられた
「どうかしたか?」
呆れたような、どこか心配気な顔
覗き込まれて、鹿目は頬を染めた
「な・・・なんでもないのだ」
心臓がドキドキしだした
勉強どころではない
蛇神は違うかもしれないけれど、自分は彼に触れられるだけでこうして心が揺れる
彼を見ているだけで、ぼーっとなってしまう程に、彼に捕われている
「なんでもないのだ
 蛇神が邪魔するから勉強に身が入らないのだ」
「・・・・は?」
触れられた手をひっぺがして、鹿目はもう一度ノートに目を落とした
二人でいると 蛇神のことばかりに気がいって勉強どころではない
ため息を吐いて、鹿目はペンを置いた
「もおいいのだ、やめるのだ」
「・・・・・何を・・・」
「蛇神のことが気になって勉強どころじゃないのだ
 蛇神が悪いのだっ」
「は・・・・・・?」
唖然と、彼がこちらを見たが構わなかった
「勉強したければ勝手にやるのだ
 僕はもおいいのだ」
それからもそもそと、蛇神の隣へ移動した
言葉のない蛇神をよそに、机を押しやり、できたスペースに入り込んだ
「つ・・・・筒良・・・・・」
「勉強が終わったら呼ぶのだ
 それまでここで待っててやるのだ」
何がしたいのか
何を考えているのか
鹿目はすっぽりと、あぐらをかいている蛇神の足の間に入り込み満足そうに彼を見上げた
本当に、何がしたいのかさっぱりわからなくて
蛇神は小さくため息をついた
気紛れな行動も、意味を理解しかねる言葉も、勝手な態度も
どんな時でも平常心を保っていられる彼の心を簡単に揺さぶる
動揺に似た感情を押さえながら、蛇神は膝に鹿目を抱いたまま教科書を手に取った
さっきまであんなに集中できていたのに、さっぱり頭に入ってこない文章を 何度も何度もくり返し読んで
10分ほどそうして格闘したあと、蛇神は盛大にため息をついた
「どうしたのだ?」
「・・・・・・今夜はやめにする也」
集中などできるはずもない
教科書を置いて、蛇神はその指で鹿目の髪に触れた
さらさらと、細い髪が流れていく
ああそういえば、最近は練習ばかりでこうして彼を側に抱くなんてこと久しぶりだ
そっと、肩を抱いて引き寄せ、髪に軽く口付けた
土と陽の匂いがした
「たまには・・・こういうのもいい」
返事はなかったが、腕の中で鹿目がこちらに身をすりよせてきた
そう、たまにはこういうのもいい
練習のことも、勉強のことも考えず、彼だけ
腕の中で大人しくしている猫みたいな、彼のことだけを考える
そういう日があってもいい
(我も修行不足也)
彼に対してだけは、ながされやすい己にそっと苦笑しながら


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