「彼が隊長になることに、賛成できません」
ひとづてに聞いた
そう言うた時のあんたの顔、ちょっと辛そうやったって

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『雪中花』

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しんしんと雪がふるのを見ながら、ギンは浅く息を吐いた
今夜は満月
月明かりに、視界に入る世界は銀色に輝いていた
美しい景色だと思う
多分この世界で一番に、美しい景色だと思う
「今夜はえらい、無口ですねぇ」
ふと、傍らの藍染を見遣ると 彼は黙って外を見ていた
読みかけの本は、机の上に放られてもう2時間ほど
頬杖をつくような視線は、ただ降る雪に向けられている
今夜は満月
こうしてすごす、最後の夜

「藍染隊長」

その指が不揃いの髪を梳いたのに、ようやく藍染は視線をギンへと移した
室内は、開け放たれた窓から入る冷気に、凍える程に冷えている
触れたギンの指も、氷のようだった
「藍染隊長、今日は残念でしたねぇ」
「そうだね」
視線を合わすと、彼の眼に痛みが見えた
何を想っているのか、わからない
だからこそ、こんな風にイライラする
「あんたはボクに隊長になってほしなかったのになぁ」
「この世界が君の能力を欲しているということだよ
 ・・・君は明日から3番隊の隊長だ」
おめでとう、と
その言葉はちっともめでたい風でなく
逆に憂鬱そうなため息が漏れたのに、ギンは思わず苦笑した
「上が頭悪いと苦労するなぁ
 みんながみんな、あんたみたいに冴えてたら良かったのになぁ」
その言葉には答えず、藍染はまた視線を外へと向けた
恐ろしい程の、力に身を浸しているギン
目の前で得体の知れぬ笑みを浮かべて
求めるものを必ず手に入れ、飽きれば捨て、それが望む形をしていなければねじ曲げる
最初の言葉を交わした瞬間に、感じたものは今 確信となって藍染の中にある
「この男は危険すぎる」

彼は、危険すぎます

それは、今朝 口にした言葉と同じだった
ギンを隊長に、と
そう言う長の言葉に、絶望に似たものを感じた
ああ、その力だけを欲して
彼を手の中におさめられると思っているのか
ギンは誰の言うこともきかない
彼は、己だけのために生きているのに

「なぁ、なんでそっちばっかり見てるんよ?」

すい、と
伸びた指が頬に触れた
冷たい、冷たい指
初めて触れられた時は戸惑うより先に驚いた
熱というものを持たないかのような
氷みたいなギン

無理矢理に、その顔をこちらへ向かせてくちづけをむさぼると
この部屋で唯一の熱が 触れた部分から染みとおってきた
苦し気に吐き出される吐息が、白く見えてやがて消える
「こういうことをするのも、最後だね」
どこか諦めたような口調に クツ、と腹で何かが鳴いた
ああ、あんたはそうやってまた ボクを見ない
「それはどうかなぁ
 あんたよりおもろい玩具があったらええけど」
「玩具呼ばわりはごめんだよ」
「けど、おんなじやん、こんなの」
「こんなの、・・・ね」
彼が頬杖をついていた机に、その上半身を押し付けて
ギンは藍染の服を剥ぎ取った
凍えた空気に、肌が触れる
ギ・・・、と机が嫌な音をたてた
「なぁ? 玩具やなかったら、何?」
噛み付くようなくちづけをして、露出した肌に舌を這わせた
ぴく、と
反応する身体
あきらめた顔
目はまだ降る雪を、見ている
いつものことだけれど、彼はこういう時でもギンを見ない

は・・・、と
息を吐くたびに白い色が目についた
凍えていく身体
繋がっている部分だけが熱くて、痛い
「は・・・っ、う・・・・・」
何度もくり返した行為も、痛み以外生みはしなかった
それでも慣らされた身体は、濡れて快楽の果てに二人を誘う
「早よぅイきぃや 藍染隊長」
耳もとで、ギンの声が囁くのを聞いて
ぞく、と身体中が反応した
得体の知れない男
誰が彼の本気を見たことがあるか
いつも笑って剣を振る
ギンの微笑以外、誰が見たことがあるか

「は・・・うぅ、・・・っ」
床に押し付けられた身体
見えるのは、顔にかかった自分の髪と暗い床
そしてギンの指
「そろそろボクも、保たへんで・・・」
「ひ・・・っ」
ギンがどんな顔をしているのかなんて、見えない
いつも彼は後ろから犯すから
こうやって組みしいて、いとも簡単に自由を奪って
玩具で遊ぶように、この行為をくり返すから

ドク、と
熱を感じて 藍染は果てた
熱さも痛みも、かきけされる瞬間
わずかな間に慣らされた身体が、行為に震えるのをどうしようもなかった
荒い息遣いだけが部屋に響いて
二人は何も話さない
藍染は横たわったまま
ギンはその傍に、
先程まで藍染が頬杖をついていた机にもたれかかって
二人は黙って外を見た

「君は何が欲しいんだい」

ぽつり、
問いに答える声はなく、
熱もさめ、凍えきった身体をようやく起こした時にはギンはそこで目を閉じていた
「君は、何が欲しいんだい」
もう一度、問いかけてもギンは答えなかった
「寝てなんかないくせに」
ぎし、
萎える身体を必死に動かし、部屋を出てゆく藍染の後ろ姿をギンは黙って視線だけで追った
「何がほしいかって・・・?」
雪の庭を、彼は歩いていく
汚された身体を清めたまえ
彼の魂は、どんな屈辱を受けてもなお、誇りたかくそこにある
「そら、きまってるやろ」
満月の、光に優しい色の髪が照らされて
それはとても綺麗だった
ああ、雪景色
この世で一番綺麗なものだ思っていたけれど
「かなわんなぁ・・・」
つぶやいて、ギンは目を閉じた
欲しいものはたった一つ
けしてこちらを見ない眼
けして汚れない魂
与えられない心
この手に抱けるのは、抜け殻のような身体だけ

「あんたが欲しいて、言わんかったっけ・・・?」

冗談だろう、と
今でも彼は笑うだろうか
この欲望をその身に注がれ犯されてなお、そう言うだろうか
「言うやろなぁ・・・」
それは冗談だろう
でなければ、何かの間違いだ
彼が僕を好いているはずがない
「だって君は僕を人として見ていないじゃないか」
性行為の道具? 暇つぶしの玩具?
いつかの言葉が忘れられない
泣きそうな顔をして言ってた言葉
「君は僕を見ていない」

「その言葉、そのまま返すわ」
つぶやいたギンに、藍染が振り返った
「何か言ったか?」
手のひらに雪を掬おうと、そこに咲いていた雪中花に手を伸ばして
うっすらと花びらにつもった雪を指ですくって
彼はこちらを見た
それでようやく、静かに静かに
ギンは満たされていく
ようやく彼が自分を見たから

今夜は満月
戯れに雪を掬い、花を撫でる藍染の横顔に 銀色の光がかかる
もう視線は戻らないけれど、
落ち着いて、ギンは浅く息を吐いた
欲しいものは手に入らぬ
ならばいっそ消えてなくなれと、
言うまであと、どのくらい
どこまで保つか、わからない


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