陽 光

彼は、本の山の中 暮らしていた
天窓からわずかに入る光に、チラチラとほこりが舞う
そんな中男は、どっかと腰を下ろし組んだ足の上に置いた本に目を走らせていた
静かな、午後
広い部屋の中央に、わずかに人が2人程座れるすきまがあるだけで、そこはまるで物置きか何かのように、雑然としているのだ

(・・・なんて所なんでしょう・・・)

花咲き狂う庭を通り、神秘を感じる神殿を抜け、磨き上げられた扉のノブをまわした
そうしたら まるでそこだけ別世界かのような景色
唖然と、ルヴァはそこに立ち尽くしていた
「おい・・・
 いいかげん片付けろよ、これ」
溜め息とともに聞こえた呆れ声に、男はようやく顔をあげる
「ああ、カティス」
窓の光は明るい
そして その男もまた陽気に笑った
「それか、オレの跡継ぎ」
立ち上がり、彼はどこか不安気な顔をしたルヴァを見た
「は・・はい・・、あの、ルヴァと・・・いいます・・・・」
背筋を伸ばし、出した声はどこかぎこちなく 言葉もうまく流れなかった
緊張、して当然だろう
突然あらわれたサクリア
迎えの者に連れられて着いたのは まるで異世界
そして与えられた「守護聖」という使命と地位
「あ・・・あの・・・・・」
宜しくお願いします、と
ペコリと頭を下げたルヴァに クスクスと彼は笑った
「そんなに固くならなくてもいいのに、なぁ?」
同意はカティスに対してか 呆れ顔のカティスは苦笑した
「お前程ユルいのも考えものだけどな
 お前の後任だろう、ちゃんと出迎えくらいしてやれよ」
ああ、と
男は少しすまなさそうにルヴァを見た
「つい夢中になっててなぁ、忘れてた」
そしてスマンスマン、と笑った
クスリ、とカティスが失笑する
「ルヴァか、いい名だ」
ぽん、と頭に手をのせられ身体が少し緊張した
「そんなにかたくなってると疲れるぞ?
 楽にしてろ、楽にしてろ」
ぽんぽん、と今度は背中を叩かれた
「は・・・はい・・・」
「それじゃあ、後はまかせたぞ」
バイバイとカティスに手を振って、男は固まって動けないでいるルヴァに言った
「役目を終えた守護聖はとっとと下に降りるのがきまりなんだけどなぁ
 なんせ部屋がこんなんでな
 ちょっと居残りで片付けろって言われてるんで宜しくな」
はい、と
わけもわからずルヴァはうなずく
「ん、いい子だ お前」
クスクスと男は笑う
ルヴァはただ、ただ、そのペースについていけなくて立ち尽くしていた

それからルヴァは、聖地での最初の仕事にとりかかった
自分の座るスペースを作ること
男が大袈裟に言い渡した使命を遂行すべく ルヴァは雑然と積み上がった本をどかしたり きちんと積み直したりする
「怪我するなよ〜気をつけないと生き埋めになるぞ」
その横で 男はそれを手伝うでもなくただ座って楽しそうに話すのだ
「ここは執務室っていってな、昼間はここで仕事をするんだ」
だが、そこには机さえない
「ん〜昔はあった・・・だが一昨年 土砂崩れが起きた」
そして机は消えたのだと 男は笑う
(・・それは・・・この本の下に机が埋もれているということでしょうか)
呆然とする
話に聞いた地の守護聖とは、宇宙の知を支配する者
聡明で、毅然としていて、女王の傍で常に助言しその政治を補佐しているとか
「あはは、そんなのただの噂だろ」
だが、この目の前の男には そんなところがかけらもない
陽気に、笑う
サクリアを失い守護聖を退位するのに 悲観するどころか、自分の後任の守護聖が来るのに それを忘れて本など読みふけっていたりするのだ
「いやいや、あれは悪かったと思ってるよ」
クスクスと、男は笑い そうしてただもう何といっていいのかわからないでいるルヴァのその顔を覗き込んだ
「ん? もしかして怒ってるか?」
「い・・・・・いいえ・・・・」
「だってアトレーユがなぁ、大ピンチで目が離せなくてな」
楽しそうなその顔に、ルヴァは無意識に笑った
「お、いい顔するな」
途端 彼は破顔する
「ノビノビしないとな
 ここで過ごす時間は長い
 かたくなってたら 疲れるだけだぞ」
いつのまにか、あんなに緊張していたのが消えているのに やっとルヴァは気付く
(・・・ああ・・・・・なんて人なんでしょう・・・・・)
その人柄に、魅かれる
笑顔の明るさが 心地いい
「さーてと、本当は私邸ってのがあってだな 夜には帰るんだがオレはここで片付
 けをしにゃならんので 宜しくな」
そして またしても意味を理解する前にうなずいてしまったルヴァは その日明け方まで山のような本達にかこまれて過ごすのである

次の日は 彼に連れられ寝不足の身体をひっぱられながら聖地の中を歩き回った
「ひろ・・・いんですね・・・」
息をきらせて登った丘の上から下を見下ろして、ルヴァは言う
広く、美しい聖地
選ばれた者だけの 特別な場所
ここでは時の流れは遅く、人はいつしか孤独を背負うのだという
「そーだな〜だけどそれは考えようだぞ?」
例えば、と
彼は一瞬子供のような目をした
「せっかく人より長い寿命があるんだから 好きなことを極めたり
 新しいことにチャレンジして会得したりだな、色々できる」
そしてオレの部屋はあんなになったんだと、付け足して彼はまた笑った
よく笑う人だと、感じる
温かく、陽気な人
「さて、次はどこに行こうか?」
「え・・・まだ回るんですか!?」
昨日ここに来たばかりで緊張して疲れている上に 一晩中本と格闘してヘロヘロになり、その上寝不足なのに 今朝早くから聖地中をひっぱり回されているのだ
「なんだなんだ、ヤワだな〜」
「あ・・・あなたが人間離れしてるだけですっっ」
思わずついて出た言葉に 彼はケラケラと笑った
「なんだ、元気じゃないか」
そしてヒョイ、と
その身体を軽々と抱き上げた
なにを、と
言いかけた時にはもう、今しがた登ってきた丘の階段をタンタン、と軽快に下りはじめる
「あ・・あの・・・自分でおりれます・・・っっ」
「これでヘバられたら困るからな
 今夜もあの部屋で 居残り片付けなんだぞ?」
当然手伝ってくれるよな、と
悪戯っぽく笑った顔に ルヴァはクスリと笑った
「・・・はい」
いっそ ずっと片付かなければ一緒にいられるのに、と
そんなことを無意識に思った

それから5日、ある日には一日中本の整理をしていたり
ある日には私邸まで普段は使わないような本を置きに行ったり、と
二人は忙しく聖地中を歩き回った
本の相手に飽きれば聖地の中を散歩したりと、彼といると、またたく間に時間がすぎていった
そうしてそんな時間はいつか終わり やがて別れが来るのだとルヴァは無意識に、意識していた
ずっとこうして過ごしていられたら、と思っていた

ある朝、ルヴァは まだ執務室らしからぬ部屋で目をさました
本は、来た時の半分程まで片付いた
机も現れた
それも毎日毎晩 ここで夜おそくまで片付けているルヴァの功績であり努力の結果だった
この惨事をつくり出した本人はといえば、片付けているのか散らかしているのか、整理していた本を読みふけり あげくにはぽかぽかと差し込む陽の中居眠りまでする始末
本当に知の守護聖と詠われる人なのか、と
片付けが進まないからと どこかで遊んできてくださいと追い出したこともあった程だ
「・・・・・・でもまだあと半分・・・・」
苦笑しながら 身体を起こした
途端 フラリ、と視界が回る
(・・・・・え・・・・・・・・・?)
慌てて手をついて身体を支えたところに ぐっと頭に血がのぼった感覚にとらわれる
視界がかすむ
「・・・・・・あ・・れ・・・・・?」
身体を支えているのも辛い
カクン、と
手に力がはいらなくて倒れた
それから、頭の中が真っ白になった

気付いたのは、ベットの中
ボンヤリと開いた目に高い天井が見えた
「・・・あ・・・・・・?」
身体を起こして初めて ここが私邸だと気付く
本を移動したり 食事をしたりでこちらに戻ってきたことは何度かあった
だがこのベットで眠ったのは初めてだ
「ああ、目さめたか」
グラスを持って少しすまなさそうに彼は言い、そうしてベットに腰を下ろした
「悪かったな、労働させすぎた」
苦笑して、グラスをルヴァへと渡し 空いた手でその額に触れる
「サクリアが身体に馴染むのに時間がかかる者もいるらしい
 オレは平気だったけど お前はまだ馴染んでなかったみたいだな」
なのにあの毎晩の労働
そりゃ熱も出すわな、と
彼はすまなさそうにした
「い・・・いいえ・・・・」
全く覚えていないけれど、朝倒れたのは熱が上がったせいなのか
今もどこか身体がだるい
「サクリアはお前がここに来たときには完全にお前に移行してたんだけどな
 だから大丈夫だと思ってたんだが」
そして彼はパチン、と
ベットの側の灯りを消した
薄いレースのカーテンにさえぎられて、部屋にはボンヤリとした光しか入らない
「身体の力を抜いて、大人しくしてな」
わけのわからぬままに、うなずくと また彼は笑った
「よし、いい子だ」
そうして額を軽く押されて ルヴァはベットへと倒れこみ、
そのまま彼は ルヴァの身体に指をはわせた

熱のせいだろうか
思考がまとまらない
身体に力も入らない
彼が何をしたいのか、何をしているのか
それさえ よくわからない
ただ、彼が触れるたび身体が熱くなり高揚感が満ちる
「あ・・・・」
服はいつのまにかはだけ かけられていた毛布も床に落ちている
熱をもった身体は 彼の前にさらされ、ふれられるままに反応している
「同じサクリアを持つ者は身体の波長が特に似ているらしい
 普通の人間はサクリアなんて大きな力を受け入れないから 受け入れる為に身体
 が変化するんだという
 普通は難なく変化をとげるが 体質によって変化に時間がかかったりお前みたい
 に副作用みたいなもんが出たりすることもある
 時を置けば治るもんなんだけどな、波長が合う者と肌をあわせれば もっと早く
 治るし楽なんだと」
そう前任から教わった、と
彼は笑って もうすっかり熱をおびて頭をもたげた中心に触れた
「あ・・・・っっ」
ビクン、と
身体を硬直させたルヴァに 彼は言う
「実はな、明日がオレがここにいられる期限でな」
思わず目を見開いた先で 彼は笑っている
「オレがお前にやれるものは全部あの執務室に置いてあるから、あとはお前を楽に
 してやるだけなわけだ」
そうして、その中心に触れたまま 彼はゆっくりとルヴァの中に踏み込んだ
ドクン、と
何かが身体を駆け抜ける
痛みはなく、高揚感だけが身体を支配する
「あ・・・・・」
肌のふれた部分はジン・・と熱くなり、意識のぼんやりしたのが次第に消える
「サクリアは悪いものじゃない
 使いよう、考えようだ
 捨てたいと思う時がきたら、考え方を変えてみるといい」
ほら、と
彼の先から、熱いものがほとばしり
深く彼を受け入れたルヴァは その手の中果てた

それから先は 覚えていない
大きな手で優しく身体に触れられて あまりの気持ちよさにいつしかルヴァは眠ってしまった
浅い眠りの中、陽光のユラユラ揺れているのを感じた
暖かい、と
あの人みたいだ、と 思っていた

朝が来ると、別れが待っていた
「身体の調子は?」
問われて ルヴァは少し笑った
熱も引いた
だるさも、ない
サクリアはすっかりルヴァものとなり その身体に馴染んだようだ
「そりゃ良かった」
満足そうに彼は笑う
「名残惜しいね〜」
「ああ、寂しくなるな」
別れには 皆が見送りにきていて、彼のひととなりをそれが示しているかのようだった
「どこへ行くか決めたのですか?」
女王の言葉に彼は笑う
「そうですね、とりあえずは暖かいところへ」
寒いのが苦手なもんで、と
付け足しに 何人かが失笑した
そうして彼は笑って聖地を去っていった
「寂しくなるな」
誰かが、ポツリとつぶやいた

それからルヴァは一人 執務室に戻った
一週間、ずっとここで二人で片付けをした
まだ半分も残したまま 去っていってしまった人
あの天窓からさす陽光みたいな人
ずっと一緒にいてくれたら、と思っていた
昨日は最後の日だったのに 熱のせいでロクな別れも言えなかった

「おまえにやれるものは全部執務室に置いてあるから」

たくさんの本が並んでいる
地の守護聖として、必要なものはここにある
たけど、この寂しさは何だろう
聖地に来た日 緊張していた自分をほぐしてくれた人がいない
彼の陽気さが、どこか運命というものを悲観していた自分を楽にしてくれていた
なのに、今ここには彼がいない
「・・・寂しい・・・・・・です・・・」
苦笑してみた
もう孤独を感じている自分が、少し情けなかった
「あなたはなんて・・・すごい人だったんでしょう・・・」
たった一週間の間に、彼から教わったものは多かった
彼の言葉は、いくつもルヴァの中に残った

それからしばらくして、部屋に何人かの守護聖達がやってきた
「うわー・・・片付いたな〜」
「でもまだこんなに残ってるじゃないか」
彼らは部屋の有り様に何だかんだと言いながら ポカンとしているルヴァに言った
「しょうがねー先輩を持つと苦労するな
 仕方ないから手伝ってやるよ」
にか、と誰かが笑った
「まぁ、こんだけ人数いれば1日で何とかなるだろう」
「何ならもっと呼ぶか
 あいつらどうせ暇してるんだろう?」
ワイワイと、楽しげに
彼等は 新入りそっちのけで無造作に積まれた本に挑みはじめた
「ま、そういうことだ」
まだポカンとしているルヴァの横でカティスが笑う
「皆 気はいい奴らばかりだ
 ここも そんなに悪いところじゃない」
そうして自分も腕まくりをした

「お前にやれるものは全部 あの執務室に置いてきたから」

ああ、と
涙が出そうになった
ここに人が集まる
この物置きみたいな部屋
仕方ないな、と片付けに来る者達
笑いながら この部屋の元主人の話をして
新入りに アレコレ質問をしたり茶化したり
そうやって、受け継がれようとするもの
あの男が 大切にしていた同じ宿命を背負った者達
「・・・ありがとうございます・・・」
ポツリとつぶやいた
笑ってる顔ばかり見せていた あの人へ
今はもう、どこか遠く 南へと旅だった あの人へ



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