ここからオレを解放してください

蜉蝣 2000.03.12

いつからか、夢をみなくなった
続く悪夢は途絶え、白い眠りが辺りに広がる

あの日のことを、まだよく覚えている
繋がれた手がごつごつして冷たかった
捨てられることは恐くなかった
そういうものだと、思っていたから
それで少しでも家族が楽になるなら、オレは何も辛くはない

見上げた父の顔は険しく
出掛けに見た母の顔はどこかひきつっていた
「聡い子・・・・・恐ろしいくらいだわ」
夜にそんな言葉をきいた
何も知らずにただ笑ってるだけだったら もう少し違う想いを注がれただろうか
もっと他の兄達のように、優しく頭をなでてもらえたのだろうか

役たたずだから、だよ
冷たい草の上に横たわって つぶやいてみる
一番小さかった自分
この手で何もつかめなかった子供
誰にも、何もしてあげることができない役立たずだった
だから捨てられたんだ
一番、必要ない子供だったから

夜になっても、そこから動かなかった
恐いとか、苦しいとか
そんな感情は生まれなかった
届かなかった自分
何もできなかったいらない子供
ただ、それが悲しかった

そんな子供は、捨てられて当然だ

夜中に、ふと目を覚ますと窓があいていた
「・・・・・尚隆?」
今夜は戻らないと思っていたその姿が、ある
窓辺に座って 外を見ている
「ああ、なんだ、起こしたか」
苦笑して、主人は寝台へと歩み寄った
かすかに漂う、香の匂い
なぜ こんな時間に戻ってきたのだろう

「なに、お前のことが気になってな」
いつもの食えない笑みを浮かべ主人は言う
嘘ばかり
本当のことは何も見えない
いつも全部をごまかして こうやって笑っている
「そ・・・・」
ボンヤリと、その顔を見上げた
あの日 疲れ果て眠りに落ちて最初に見た顔
もぅ疲れたと、
もう解放してほしいと、はじめて泣いて見つけた光
誰かがいたらいいのに、と
求めて得た、唯一の主人
「おまえが最初で最後だ」
何が、と彼は笑う
何にも動じない
余裕のその表情は時々ハラが立つ程だけど
「オレなんかを拾って ずっと持ってる物好きな奴」
自嘲の表情に気付いたのだろうか
尚隆は、六太のその言葉を止めた

あの草の上、冷たい夜露
凍えた手足、麻痺する感覚と意識
凍り付いた感情
あきらめることを知っていた子供
寂しいなんて、言えなかった

体温を濡れた唇から感じながら、六太は意識を飛ばす
あの日へ
あの、時へ
捨てられたことは役に立てなかったことへの罰なんだと
自分に言い聞かせた あの夜
もっと強くて、
もっと力があって、もっと大人だったら良かったのにと
そうしたら家族の役にたてたかもしれないのに、と

哀しかった あの夜へ

「くだらんことを考える」
すぐ側で主人は失笑する
「そんなことを考える余裕がまだ、あるということだな」
クツクツと、心地いい笑いが響く
どうしてこいつは、こんなにも強いんだろう
このオレを抱いてもなお、こんなに余裕に笑ってる
自分は立つのにも精一杯なのに
「おまえは深く考え過ぎなんだ」
夜になると、と
彼は笑って その首筋に少し触れた
心地いい感触
何度も繰り返された愛撫に、身体はもう慣れてしまっている
「尚隆・・・」
声に出して、名を呼ぶと主人はまた 彼に触れる
泣いてる子供をあやすかのような、やさしい愛撫が繰り返される

目をとじよう
何も見えなくていい
その体温の熱さと 身体に触れる感触だけでもういいから
もう一人じゃないんだと、わかるから

そして子供は夢に戻る
おだやかに朝を迎え、ひかりの中 目をさます


解放を望んで手に入れた、魂の束縛

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