15. 第2期 「全てのことを忘れるな〜12月〜」


12月はあっという間に過ぎていく
ノースのバッテリーの寿命は半年
クリスマスまで保つだろうかと、思いながら俺はツリーの飾りを作っているノースに視線をやった
クリスマスは25日
ケーキを作って、チキンを焼いて、ワインを開けてツリーを飾ると奴は張り切って準備をしている
あと、10日
おまえのバッテリーはそれまでちゃんと保つのだろうか

(嫌だぞ、俺は、これだけ準備したあげく一人でクリスマスとか)

こういう気持ち、今までは感じたことがなかった
クリスマスもあまりやったことがない
仕事があれば、没頭して
なければ本でも読んでのんびりして
いつのまにか正月だった、それがいつもの年末
10日も前からクリスマスの準備なんて、多分生まれて初めての経験だ
「ノスっ、できたノスっ」
「おー、すごいな、紙とは思えない」
「冨樫くんも作るノスー、手がお留守ノス」
「はいはい、星を作ればいいのか?」
「サンタを作るノス」
「無理だろ、そんな高度な折り紙は」
フンフン〜と鼻歌
ハサミと折り紙とのりが畳の上に散らかっている
ツリーはこのアパートの裏に生えてるそれっぽい木で代用するとかで、とりあえず2日前から飾りばかり
作って
作って、作って、それでも飽きずにまだ作ってる
「冨樫くん、サンタができたノス」
「・・・おまえ、器用だな」
赤い折り紙のサンタ
のりで、金色のトナカイとくっつけて出来上がり
(トナカイの方が豪華なんて)
アンバランスと思いつつ、それがノースのセンスかとおかしくなる
「プレゼントの箱も作るノス、くつしたも吊るすノス」
「はいはい」
今度は裁縫
今朝二人で針と糸とフェルトを買ってきたから、それでくつしたを
クリスマスの日に二人でお互いのフェルトのつくしたにプレゼントを入れようと、こいつはそれをとても楽しみにしている
クリスマスをここまで喜ぶ奴も珍しいと、俺は妙に新鮮になる
そして同時にプレッシャー
ここで期待はずれのプレゼントを入れてしまったら? なんて
まるで好きな女の子にあげるプレゼントに悩む中学生だ
青春真っ只中

「ノース、でかすぎないか?」
「ノス、プレゼントがたくさん入るようにノス」
「欲張り」
「欲張りはいいことノス」

でっかいフェルトをチョキチョキくつした型に切って、2枚合わせてチクチク縫う
縫い目はガタガタしてるけど、これでもかってくらいに頑丈で、必要以上にでかいくつしたができあがる
青色と、黄色のくつした
青色の方が特大だから、そっちが自分用のくつしたなのだろう
(あれをパンパンにする量のプレゼント)
そして俺はまた悩む
あいつが欲しいものって何だ
わかるようで、わからない
だってあれは、俺がやるものの全てに喜び
俺といるだけで幸せだって顔を、いつもしてるから

(・・・あと9日)

ノースのバッテリーは保つだろうか
俺はそればかりを気にしている
このあいだバッテリーが切れたとき、7月何日に入れたっけ?
半年といったって、6ヶ月きっちりで切れるわけじゃない
多少の誤差はあるだろう
せめてクリスマスはこいつとやりたいと、俺は思って苦笑した

(今まで何をしてたんだか、俺は・・・)

こいつとの時間は長かった
俺はこいつを放ってばかりで、一人ででかけて、あれは留守番ばかり
撮影にも、結局一度も連れていってやらなかった
避けるようにしていた、可愛くないとか、前の方がどうだとか言って
無駄にした、この半年を
その間もずっと、あれは俺を見てたのに

(後悔してしまった、俺の一番きらいな行為なのに)

心に苦いような、甘いような想いが広がる
俺のノース、おまえといられるのはあと何日?
おまえが今の俺を覚えているのはあと何日
胸のシミは広がる一方だ
この複雑なもの、この年になって初めて体験したのであろう甘さのような痛みのような痺れのような感覚
それが何か、俺は正体を掴みかけている
ただ正確な名前がわからないだけで
ただ、言葉にしたくないだけで

(さて、プレゼントだ)

本とか、模型とか、色々考えた
服でもいいかもしれない
あいつは未だに俺のを着てる
あいつには、黒じゃなくてもっと綺麗な色の服が似合うだろう
(それとも絵画セットとか)
(楽器とか)
それとも、もっと別の何か

12月はあっという間に時間が経つ
明日はいよいよ、24日
ノースは朝から忙しそうに、チキンの下ごしらえをして、サラダを作って部屋を飾り付けてる
俺はそんな様子を見ながら、内心はまだ油断してない
なんせこいつのバッテリー切れは、突然来るから
それこそ さよならを言う時間もない
(さよならってのも、おかしいけど)
「冨樫くんっ」
「ん?」
「大変ノスっ、ワインが開けられなかったノス」
「ん?」
ぼんやりしている暇は、なかった
ノースの悲鳴みたいな情けない声に意識が現実に戻ってくる
「どれ?」
「・・・ごめんなさいノス」
「おまえ、こうなる前に言えよ」
ノースの手の中のワインの瓶
コルクが瓶の中に埋もれたみたいになって、ほじったのか上の方のコルクはボロボロ
これはどう足掻いても、ここからどうこうするのは無理という状態
「ううう」
「しょうがいない、ワインはなしで」
「ダメのすっ、ワインはいるノスっ」
「いいよ、本の通りでなくても」
「ダメのすーーーーっ」
(そのこだわりは何なんだ)
喚くノースをなだめて、結局俺はワインを買いに出た
ノースはその間にツリーの飾りつけをすると言って家に残った
ツリーか、と
アパートの裏のあれを思い出す
部屋から見える場所じゃないから、あれを見にわざわざ寒い中出ててかなければならない
(やっぱツリー買った方が良かったかな)
小さいのじゃ嫌だと奴が言って、裏のあれを見つけてきて、これでいいと言ったのはいつだったか
けっこう大きいその木をいっぱい飾れるだけの飾りを作ってた
本当に、飽きもせずに毎日毎日
(おまえのそういうとこ、ほんと見ててたまらなくなる)
そして、それが今、自分の手の中にあり、こちらを見ているということ
その高揚
それは、俺の毎日を輝かせてくれる

もっと早くに、認めていればよかった
そうしたら、たった1ヶ月ではなく半年ずっと、お前との毎日を楽しめたのに

(また後悔か)
もういい年なんだから、そろそろ大人になりたいと思いつつ、俺は苦笑した
ノース、半年前に戻れるなら、俺はお前にもっと優しくする
ノース、お前が撮影に行きたいと言ったら、どんなに邪魔でも連れていってやる
ノース、おまえが俺の傍にいて幸せだと、たとえ後付けの感情であったとしても思ってくれるなら 俺はお前になんでもしてやる
ノース、おまえの無垢を 俺はこの半年間ずっと傷つけてきただろう
だから俺は後悔してる
お前にちゃんと向き合わなかった日々のことを

「ただ今」
「おかえりなさいノスっ
 冨樫くん、プレゼントを入れに行くノス」
「飾りつけ、もう終ったのか」
「終ったノス
 プレゼントを入れたら、12時まで待つノス
 プレゼントを見るのは25日になってからノス」
「はいはい、仰せのとおりに」

本で読んだクリスマス知識で、ノースは仕切る
楽しそうに狭い台所でチキンを焼こうと奮闘している
俺は言われるがまま、机の横に置いたバッグを持ってまた外へ
12月は寒い
夜だからまた冷える
寒いのが好きじゃない俺は、震えながら階段を下りた
裏庭にはぼんやりとした灯りがあった
1階の住人の窓の灯りが、わずかに届くのだろう
夜中の12時にプレゼントを取りに来るなら、その時には懐中電灯がいるかもしれないと思って 俺はそのツリーを見上げて笑った

「すごいな」

どうやって飾り付けたのか、結構高いところまで飾りがついてる
折り紙の星、それからサンタ、プレゼントの箱にリボン
風でハタハタしてるのもあるから、俺が帰ってくる前に、と急いで飾ったのだろう
(凝り性なんだよな)
手を伸ばして、取れそうになっているのを付け直した
そしてくつしたを探す
ノースが一番楽しみにしていたプレゼント交換
2歩回り込んだところに、青色と黄色のフェルトのつくしたが吊ってあった
そこだけ、枝がたゆんでいる

「・・・入れすぎだろ」

何かがギュウギュウと詰め込まれた特大サイズの青いくつした
その隣に、普通サイズの黄色のくつした
(・・・青い方が俺のなのか)
気付いたら、俺は一人で笑ってた
愛しさがまた、100万倍あふれ出す

(さて、どうするかな)

てっきり、特大サイズがノースのだと思っていた俺の用意したプレゼントは、もちろん特大サイズのくつしたがパンパンになる量
それこそ、大きなバッグ一杯分
(確実に入らないだろ)
普通サイズの靴下に、一つ包みを入れた
もちろん、それでいっぱいだ
もう他には何も入らない
(うーーーん・・・)
悩んだ
ノースのためにと用意したのだから、他へ回すよりは本人に渡したい
かといって、入れる場所がない
だが、持って帰って部屋で渡すのは ルール的にまずいのだろう

仕方なく、俺は回れ右して駅前までダッシュ
雑貨屋みたいな店で、黄色のくつしたを大量購入
何個あったら足りるんだ、なんてとっさには計算できなかった
いっぱい用意しすぎて、プレゼントが何個あるのか数えてない

そして20分後、黄色のくつしたが10個も並んだツリーに満足して、俺は部屋へ戻った


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