14. 第2期 「全てのことを忘れるな〜12月〜」


ドアを開けて玄関を入った瞬間、俺は動くことができなくなった
見覚えのある風景だ
半年ほど前に、これと似たものを見たと思ったら背中に冷たいものが走っていった
てるてる坊主、大量の
玄関からズラっと並んで、帰ってきた俺を出迎えているかのよう
(・・・トラウマになるんじゃないか・・・この風景)
不安に似たものと、同時に思い出す甘い、甘い記憶
あの無垢が俺のためにと作った、太陽をもたらす兵隊達のエピソード

(ノース・・・)

部屋の中は静かで、誰もいなかった
窓は開いている
無意識に、下を覗いてから俺は、探している姿を見つけられず苦笑した
まさか、いくらあれがヌケてるからって、ここから落ちたりはしないだろう
高性能ロボットは運動神経もいいのだ
あれは軽い身のこなしで、いつも俺の周りを跳ねてたじゃないか

(だったらどこに行ったんだ)

まだ、昼だ
今日帰るなんて連絡は入れなかったから、図書館に行っているのかもしれない
それともスーパーか?
あいつは食べられないから、俺の留守にスーパーに行く用事はないはずだけど
(・・・しかし、)
もう一度時計を見て、俺は部屋の真ん中に座った
しかし、よく見つけたものだと思う
たしかに隠してはいなかった
押し入れにはそんなにたくさんのものを置いてないから 探せばすぐだろうけど
そもそもあいつに、押入れを探す理由なんてない
大好きな映画のビデオは手前の箱に入ってるんだし、他に必要そうなものは押入れなんかに置いてない
全部引っ張り出して、掃除でもしたのだろうか
それで、これを見つけたのか
(やることは、結局同じなんだな)
降り続く雨が鬱陶しくて、このてるてる坊主の兵隊たちを吊るしたのだろうか
それとも、もしかして
前のあいつと同じように、俺の撮影のために吊るしたとか
(・・・偶然だとしても)
心に、じわじわとシミが広がっていく気がした
温度のあるそれは、痺れるみたいな感覚を同時にもたらす
俺は一人で黙ったまま、しばらくその、部屋中のてるてる坊主を眺めていた

「ノスっ、冨樫くんっ、おかえりなさいノスっ」
1時間もした頃、玄関が開いてノースが帰ってきた
手に黄色いカバンを持ってる
俺が前にあげたやつ
明るい色に魅かれて買ったきり、あんまり使ってなかったそれ
青空の下、黄色いカバンを下げて図書館に行くこいつの姿を想像したら、可愛いんじゃないの、なんて思ってあげた
奴は嬉しそうにして、俺に何度もありがとうと言ったっけ
「ただいま」
「何時に帰ってきたノス? 今日は図書館に行かなかったらよかったノスっ」
俺の正面に正座して、身を乗り出すように言った奴に、俺は笑った
どうして、今まで俺はこいつが気に入らなかったんだろう
こんなに、無垢なのに
こんなに、まっすぐに俺を見てるのに
「ごめんな、おまえはちゃんとノースなのに」
口をついて出た言葉
奴は不思議そうにして、返事をしなかった
意味が理解できなかったから、どう返事をしたらいいのかわからなかったんだろう
「冨樫くん、カメラがないノス」
「カメラって?」
「冨樫くんが机の上に置いてたやつノス」
「ああ、あれは、撮影に持っていってたんだ」
「なぁんだっ、畳の下まで探したノス」
ノースは笑って、机の上に置いてある俺の荷物に首を伸ばすように視線をやった
カメラを探していて、このてるてる坊主を見つけたのか
あれがダンボール2つ分のてるてる坊主を荷造りして、途端にバッテリー切れしてしまってから 俺は何かを封印するみたいにそれを押入れに突っ込んだ
それっきり
二度とあの無垢は戻らないのだから、あの箱も開けることはないんだと思っていたけれど

(それにしても・・・)

机の上のカメラ、と言ったか
俺のカメラは、最近友人から返ってきたばかりだ
半年ほど前に貸してくれと言われて貸してやった
そう、たしか、あれはノースのバッテリーが届く少し前だったか

(何の記憶だよ、それ)

ソワソワと気持ち悪いような胸騒ぎがした
机の上にカメラを置いていたのはずっと前だろう
あの無垢が傍にいた頃
恥ずかしがる無垢の写真を1枚だけ撮ったことがあったはず
おまえのことは、撮ってないけど

「ノース、写真を撮ってやるよ」
「ノス?」

立ち上がってカバンの中からカメラを取り出した
フィルムはあと少し残っているはずだ
そこから構えたら、正座した奴はシャキっと背を伸ばしてみせた
「どんな顔をしたらいいノスか?」
「今の気持ちの顔でいいよ」
「今の気持ち」
ノースが笑ったから、俺はシャッターを切った
それでフィルム切れ
あとで現像に行こうと思いながら、まだ笑ったままのノースに俺は言う
「そんなに嬉しいのか、おまえ」
「ノーーッスっ」
返事は特大だった
自然に笑みが漏れる
俺も笑ってるだろう、笑うのは久しぶりかもしれない
「現像行くか」
「現像行くノスっ」
正座したままノースは両手を上げた
そして、慌しく黄色いカバンを片付けた

おまえはノースだ、間違いなく
ようやく俺はそれを認めた
瞬間、愛おしさが今までの100万倍溢れてきた
おまえはノースだ
俺が欲しかったものだ
それはずっと傍にいたのに
ずっと俺を見てたのに

「冨樫くん、夜ゴハンはどうするノスか?」
「実は昼も食ってないから腹が減ってるんだよな」
「ノス?! ゴハンを作るノスっ」
「じゃあラーメン」
「ダメのす、八宝菜を作るノス」
(なぜ八宝菜)

ノースが早く行きたそうにしているから、俺も出かける行動に移る
てるてる坊主だらけの部屋を出て、てるてる坊主だらけの玄関で靴を履く
その間、ノースはずっと楽しそうに俺が留守の間のことを話していて
俺はその声を聞きながら 洪水みたいなピンク色の気持ちに押し流されそうなのを必死に堪えた


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