12. 第2期 「全てのことを忘れるな〜10月〜」


冨樫くんがいなくなってしまったので、おれはとてもつまらなくなった
今日は雨
図書館に行く日だったから、おれは傘をさして外に出た
空の色は灰色
でも傘の色は青
おれの傘を買ってくれる時、おれには冨樫くんの声が聞えた

「俺は雲ひとつない空の色が好きなんだ」

その時 冨樫くんは口を開いてなかったから、本当は冨樫くんは喋ってなかった
でもおれは、この色が冨樫くんが好きな色と知ってたから手に取った
広げてますます好きになる
雨が降ってるのに、ここだけ青空
おれはこれが欲しいと言って、冨樫くんは「うん」と言って買ってくれた
冨樫くんの言葉は「うん」だけ
空の話なんて言わなかった
だからおれは、それは冨樫くんからのテレパシーだと思ってる
おれは時々、冨樫くんからのテレパシーをキャッチできる
それが嬉しい

「あっおぞら、みっずたまり、あめふりー、あっおいかさっ」

本を入れてるカバンは冨樫くんの
なんか可愛かったから昔買ったという黄色いカバン
歌いながら振り回してたら、図書館に着く頃には濡れて重くなっていた
前に冨樫くんが、振り回すなって言ってたのを忘れてた
中の本が濡れてないか見たらちょっと濡れてたから、おれはこっそり本を返却棚の上に置いて逃げてくる
今日は何の本を借りようかしら
掃除、片付け、料理、それからカメラ
(カメラ・・・!)
冨樫くんのカメラが机の上にあったのを思い出した
前におれを撮ってくれたとき、壊さなかったら使っていいって言ってたから おれはあれを使ってみようと思った
冨樫くんが好きそうなものを撮って、帰ってきた冨樫くんに見せてあげよう

「あれ? ないノスー」

帰ってきたおれは、濡れたカバンを窓のところに干して、借りてきた本を畳の上に置いて、
それから冨樫くんの机の上を見た
富樫くんの机はいつもきれい
本が12冊と、ペンと、カメラがあったと思ったのに

(おかしいノス、前はここにあったノス)

おれは引き出しを開けてみた
ノートとか手紙とかが入ってた
カメラはない
押入れを開けてみた
上の段は布団、下の段はダンボールとこのあいだ片付けた扇風機
「この中ノスかー?」
ダンボールを1つ引っ張り出した
中には服が入ってて、カメラはない
「これノスか?」
もう一つ引っ張り出した
中には雑誌、カメラはない
「これノスか?」
もう一つ
中にはたくさんのてるてる坊主、カメラはない
「これで最後ノス」
最後のダンボール
中にはたくさんのてるてる坊主、カメラはない
「てるてる坊主がたくさんあるノス」
カメラはなかったけど
「これを全部吊るせば晴れるノスか?」
なぜだかダンボール2個分のてるてる坊主が見つかった
外は雨
これは雨が嫌になった冨樫くんが作ったものだろうか
こんなにたくさん
りりしい顔、とぼけた顔、メガネくん、それから笑ってる顔のやつ
「いっぱいいるノスね、これだけいたら晴れるノス」
ダンボールを逆さにして、畳の上にてるてる坊主を全部出した
こんもり山
1つずつ、窓のところに吊ってみた
あっという間に満員
机の上に並べる、でもまたあっという間に満員
次は椅子、その次は押入れ
風呂、トイレ、それから玄関、壁にも画鋲で留めていく
「吊るすところがたりないノス」
それから画鋲も足りなくなった
でもまだてるてる坊主はいっぱい
「明日、画鋲を買いに行くノス」
そして全部を飾ろう
そうすれば雨は止むだろう
そうしたら、きっと冨樫くんも撮影が進んで助かるに違いない

夜の12時におれは睡眠モードに入る
だから11時50分から記録の確認
大丈夫、今日もちゃんと覚えてる
何も忘れてない
冨樫くんが帰ってきて聞かれても、ちゃんと答えられる
冨樫くんの望むとおり、おれはちゃんと覚えてる


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