1. プロローグ


本日、晴天
ノースはいつものように俺の部屋にやってきて、窓を開けた
彼は晴れの日の空が好きだ
窓の下は学校の運動場
視界は広く、空にも手が届きそう
「冨樫くん、今日は朝からお仕事ノスね」
「うん」
「昨日約束したの覚えてないノスか?」
「したっけ?」
「したノス」
窓から風が入ってくる
今日は風がきつい
そろそろ春だから肌に冷たい程ではないけど
「ノース、窓しめて」
「・・・・・」
ノースは窓の外を見ている
こいつはたまに、聞えてるくせに聞えないフリをする
一体どこで覚えたんだか
「ノース」
トーンを下げると、無言で振り返って彼は笑った
「いい匂いがするノス」
「そう、でも原稿が飛んでいっちゃうからな」
「重しをすればいいノス」
「いい重しがないんだよ」
また風が吹く
それで、脇に置いた紙がバサバサと散らかった
「ほら」
「重し、あるノス」
期待した返事とは違ったから、俺は顔を上げて奴を見た
窓際から離れて畳の上に散らかった紙を拾い上げる後姿
今日も、コイツはノーテンキだ
「こうすればいいノス」
ぱさ、と机に戻される紙
俺の原稿
昨日までは傑作だったのに、スポンサーのご意見とやらを加えて 今や駄作になろうとしている
「ほら」
その上に置かれた手、ノースの手
「・・・ずっとそうしてる気か?」
「冨樫くんの仕事が終るまでノス」
ずっとそうやって手で押さえてるつもりか?
風が吹けばばさばさと、紙がノースの手の下で騒ぐ
「いつ終るノスか?」
「・・・悪いけど、今日はまるまるかかるよ」
「それは大変ノス」
「おまえがな」
ずっと、そうやって押さえてるつもりなんだろうな
窓から吹く風が、いい匂いがするというそれだけの理由で
「冨樫くん、終ったら散歩にいくノス、約束したノス」
「終ったらな」
「きっと花が咲いてるノスね」
「写真でも撮るか?」
「いいノスねー」
いつものノーテンキな声
俺は無意味にこみ上げてくる、いつもの何かに無意識に笑った
行きたいな、散歩
風の匂い、花の匂い
おまえが来るまでは、たまーに気づく程度だったものだ
おまえが来てから、そういう写真が増える一方だ
「ああ、そうだ」
「どうしたノスか?」
「変更変更、やっぱりココは曲げられないよなー」
「曲げられないノス」
わかってないくせに相槌をうつ、それもこいつのクセ
フンフンと鼻歌みたいなものを歌いながら、開いた窓の方を見てる
ノースの手の下でパタパタしてる原稿も、まるで生きているみたいだ
さっきまでは死んでいたのに
(そう、これは俺の原稿、生きてる原稿)
手直しして死ぬのは可哀想だ
何のために生み出したのか、俺が何を言いたかったのかくすんでしまう
やりたいことをやるために、ここにいるんだから
まだここに生きているんだから
「ノース、それ貸して」
「書き直すノスか?」
「うん」
彼の手が原稿を掴んで寄越す
また風が吹いて、今度は俺の鼻にもいい匂いとやらが届いた
「写真を撮るなら昼間だよな」
「空の写真も撮るノス」
「いいね、今日のはいい空だ」
だったら仕事は午前中まで
大人の事情を考慮しつつ、それでも一番大事な部分は曲げない作品を作れれば それがプロってことなんだろう
プロになりたかったわけじゃないけど、今の俺はプロなんだから
やりたいこと100%は無理だとしても、せめて曲げてはいけないものは、
せめて生きているものを、
創りたいじゃないか
俺は俺の世界を妥協したくない

「あっ、野球の声がするノス」
「見てきたら?」

言うまでもなく、ノースは窓際
俺は机でペンを走らせる


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