新月の夢 (譲×神子)


クリスマスには、雪がふっていた
窓の外を覗いて が笑う
「ねぇ、譲くん
 あとで雪だるま作ろうよ」
部屋の中では ストーブが温かく燃えていて、
テーブルに置かれたカップには ココアが湯気をたてている
「ダメです
 あなたは熱があるんですから」
そして、
そんなを何とかベッドへと戻そうと、先程から奮戦している譲が
焼きたてのケーキを片手に部屋へと入ってきた
「美味しそうなにおい」
「本当に、食べたらベッドに戻ってくれるんですね?」
「食べたらね」
いつもより紅潮した頬をして、が笑う
二人、あの遥かなる世界から戻ってきた、まだほんの一週間後
「何のために学校休んでるんですか
 ちゃんと寝て治してください」
「はぁい」
ふわふわの、まだ温かいスポンジにフォークを入れ
わずかにオレンジの香りのするケーキを はひときれ口に運んだ
幸福に似た味が、広がっていく
こんな穏やかな時を過ごせる日が来るなんて、と
気をぬいたら涙がにじんでしまいそうになる
「でも・・・残念でしたね」
「何が?」
「今日、クラスでパーティをやるはすだったんでしょう?」
「いいの」
にこり、
の笑みに 譲は小さく息を吐いて苦笑した
この世界に戻ってきた時、はちゃんと 自分達の流されたその日まで時空を遡った
あの雨の昼休み
もう1年以上も通っていなかった、学校の懐かしい風景の中に 二人戻ってきた
何ごともなかったかのように
だから誰も、知らない
二人が何を失い何を得て、今ここに立っているのかを

「クリスマスは、譲くんと一緒がいいの」
「・・・はじめてですね、こういうの」

今朝、いつも遅刻ギリギリのが譲の家のチャイムを鳴らして、
ちゃんと制服を着ているくせに、今日は学校は休むのだとか言い出した時には何ごとかと思ったけれど
そう言えばいつもより頬が赤いとか、
目が潤んでいるな、とか
思い至った先、は言ったのだ
「熱が出たらいいなぁって思ったら 本当に出ちゃったの」
それで、譲はなぜかおとなしく自分の家で寝ていなかったを看病すべく ここで一緒に自主休校なのだ
一度 自分の部屋に寝かせたは、2時間もしないうちに こうして出てきてしまったのだけれど
「おいしいね、譲くんのケーキ」
「・・・食べたら寝るんですよ」
じっとりと、
見遣る譲の視線に、が僅かに首をすくめる
「譲くんって融通きかないなぁ」
「ききませんよ」
計った熱は8度ほど
微熱というには高い熱に、それなりに身体は辛いはずなのに なぜかはずっとにこにこしていて
先程降り出した雪に、嬉しそうにはしゃいでいた
ケーキが食べたいとか、ココアが飲みたいとか
あげくに雪だるまを作りたいなんて言い出して
「熱、上がったらどうするんです
 せっかくのクリスマスなのに」
そっと、その額に手を触れると てのひらにじん、と熱が伝わる
おとなしく、は譲を見上げ
その視線に、譲は苦笑を漏らした
が言ってくれたこと
クリスマスは譲と一緒がいい、と
その言葉が嬉しくて、結局の我がままを全部叶えて
の身体の心配をしながらも、なかなか無理矢理にはベッドへ戻せない自分がいる

「先輩のクラスは仲がいいですね
 みんなでクリスマス会なんて」
去年もやってたでしょう、と
言うと は嬉しそうに笑った
「私と将臣くんが幹事でね、なかなかに盛り上がったから今年もって、みんなが言い出したの
 可愛いお店なんだよ、駅前の」
今度一緒に行こうね、って
言いながら はココアに口をつける
それを見ながら、今は遠い去年のクリスマスのことを考えた
将臣はと一緒に過ごせるのに、一つ年下の自分はそうはいかなくて
例えクラスのクリスマス会でも 嫉妬した
そして、今年もそうなるのだと思っていた
あの世界に流された日の朝も、将臣は放課後にとクリスマスの買い出しに行くのだと言っていたから
今年もは将臣と一緒で
自分はやはり、と過ごすことはできないのだと思っていた
「兄さんはいないし、先輩も休みだったら幹事は誰がやるんですか」
「さぁ?」
「さぁって・・・」
は、笑った
「大丈夫よ
 お店の予約は入れてあるし、必要なものは全部買ってあるから」
誰かがやるよ、なんて
のんきに窓の外を眺めてる
手にカップを包み込むようにしながら

クリスマスの日に、と過ごせるなんて思いもしなかった

いつしかケーキの皿はきれいになり、カップもカラになった
温かい室内に、静かな時間が流れていく
「先輩、そろそろベッドに戻ってください」
「もうちょっとだけ」
片付けを終えてもまだ寝ようとはしないに声をかけると、視線の抵抗がかえってきた
雪がやむまで、と
ねだるようなその言葉に、苦笑が漏れる
「仕方のない人だな、あなたは・・・」
そっと手を伸ばし、その身体を腕の中に抱いた
いつもより、熱い体温が伝わってくる
窓の方を向いたまま、チラチラする雪を見つめながら
わずかに、は笑ったようだった
後ろから抱きしめている譲に、その表情は見えなかったけれど

「来年も、その次も、こんな風だといいな」

それは、二人でクリスマスを過ごしたいということか
それとも、こんな風に雪が降ればいいということか

(・・・どっちでも、いいか・・・)

を腕に抱き、譲も窓の外へ視線をやった
降る降る雪、クリスマスという特別な日
こんな風に手の届く距離にがいて
この腕の中 目を閉じて今にも眠りに落ちていきそうになっているから
全てが愛しくて、全てがかけがえなく
確かに感じる幸福に、譲はそっと息をついた
あたりまえの日常を、これからは二人で過ごしていける
それが、何よりも嬉しい


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