新月の夢 (譲×神子)


その日から、譲は戦闘中 意識しての左側に立つようになった
剣をかまえ、振り上げ斬り付けるの動作は大きく、隙ができやすい
そして、敵に狙われた時、
は本人の言うとおり、ほとんど無意識に自分の左腕で
盾があるわけでもなく、防具を付けているわけでもない生身の左腕で、咄嗟に攻撃を防ごうとしている
それを視界の端に捕らえ、
譲は自らの腕で その攻撃を受けた
「・・・譲くん・・・っ」
皮膚を切っていく攻撃
間髪入れずに矢を射ると、それで敵は消滅していく
「譲くん大丈夫?!」
「俺は平気です」
斬られた腕には 血が滲む
こんな場所でこんな風に戦うには、も自分も軽装すぎるのかもしれない

譲が意識して見ていただけで、は5回、左腕で攻撃を防ごうとした
何度も何度も同じ場所をやられて、
もう1年近くも包帯が取れない左の腕
少し気をつけて見ていたらすぐに気付くようなものなのに
どうして今まで わからなかったんだろう
の癖
戦っている時は必死だから、見ているようで見ていなかったのか
が隠しているから、気づけなかったのか
(・・・ぞっとする・・・)
ずっと側にいたから、
戦いの中で、常にの左に立つことを意識するくらいには余裕が出てきているから
それで譲が庇った数だけ、譲の身体に傷が増えた
これが、こうしなければ全て の左腕に刻まれていた傷だと思うとぞっとする
治らないはずだ
包帯の下が痛むだろうに
そんなこと、一言も言いもしないで

「名誉の負傷ってやつか?」
着物の片袖を抜き、受けた傷を自分で手当てしていた譲を 将臣が冷やかしにやってきた
本日の将臣は、無傷
倒れて立てなくなった敦盛をおぶって帰ってきて、
弁慶に引き渡してきたところなのだろう
暇そうにプラプラしている様子に、譲はわずかに眉を寄せた
「名誉って・・・?」
ばっか庇ってると、自分が死ぬハメになるぞ」
お前の夢みたいに、と
どっかりと腰を下ろして言った兄の顔に 譲は苦笑した
言い返す言葉もない
どれも本当だから
を庇ってばかりの戦闘
いつもより傷を負い、だがは守ることができた
これからもずっとずっと そうしていって
いつかあの夢のように、を庇って死ぬのだ
このままでは
には八葉がいるんだぜ
 全部おまえが守らなくたって、誰かが守る
 お前は無理しすぎじゃねぇか?」
「ようやく、先輩を守れる強さを手に入れたんだ
 ・・・誰かなんかあてにしていられない、自分の手で、確実に守りたいんだ」
じくじくと、痛み出す腕の傷、肩の傷
どれも 戦闘に慣れた今の自分には たいした傷だとはいえないもの
こんなものは、薬をつけておけば2週間程で痛みが消える
そしてそのうち治っていく
もうわかっているから、平気なんだ
それよりも、戦いながらを守るために動ける自分の余裕に、心が晴れる
努力して、手に入れた力は 今自分の求める形で使うことができているのだから
「庇うにしても もうちょっとやり方があるだろ」
いつもサラっとしている兄にしてはからむな、と
視線をやると、将臣は大きな溜め息をついて肩をすくめた
「身張るのは利口じゃないぜ
 お前がの代わりに血を流しても、は喜ばないと思うぜ?」

将臣は、景時に呼ばれてその場を離れていき
残った譲は 傷に包帯をまきながら 溜め息を吐いた
やりよう?
それは、こういうことか
を庇って、自分も無傷ですますことができる将臣のように
あんな風にやれと
誰一人傷つけることなく、自分も傷つくことなく
戦えてはじめて強さを得たと言えるのだと、そういうことか
(仕方がないじゃないか・・・)
じっと宙を睨み付けた
将臣は剣で敵の攻撃を受け止める
そしてそのまま反撃する
譲にはそれができない
手にした弓で攻撃を受けることはできない
剣と違って繊細な譲の武器は、弦が切れれば使い物にならなくなるから
弓で攻撃を受けるなんてもってのほか
だからの側にいて、
いつでもこの身を盾にできるよう、戦いながらもの動きに注意してる
(俺にはこのやり方しかできないんだ)
将臣のいうようにできるのが一番なんだろう
そして、
こんな自分だからこそ、あんな夢を見るのだ
あんな死を、選んでしまうのだ
だが、実際に
あの夢のような場面にでくわしたとして、この身を盾に庇う以外に自分に道はあるのだろうか
毎日毎日考えているけれど
それ以外の方法で
あの夢のとおりにならない術など、あるのだろうか

しばらく物思いにふけっていた譲のところに、がやってきた
「譲くん・・・傷大丈夫?」
「平気ですよ」
心配気な顔に、笑ってみせると はためらいがちに首を振った
「あのね、譲くん」
まっすぐに見上げて、決意したような顔をして口を開く
「お願いがあるの
 もう、二度と、私を庇ったりしないで」

え? と
譲は動きを止めて を見た
「私を庇って譲くんが怪我をするのは嫌なの」
ずっとずっと、そう思ってたと
は言う
強い意志をその目に浮かべて、だがまるで懇願するように
「ね、私は大丈夫だから
 私、もう強いんだよ
 だから、私のことを庇ったりしないで」
今日の傷のことを、心配しているのか
それともいずれやってくる、を庇った後に訪れる死を恐れて言うのか
「そんなの、俺には無理です」
「どうしてっ」
口調を荒げたを、譲は真直ぐに見つめた
自分よりずっと背が低くて、身体も小さくて、
何よりは女の子で、
力も弱く、身体も脆い
そんなを、
何より誰より愛しい人を 庇うなという方が無理な話だ
自分はここにいて、手が届くのに
その傷をかわりに、受けることができるのならば
「俺はあなたが傷つくのを見たくないんです」
自分の身より、が大切だから
こんな傷なんか痛くもない
「そんな風にして・・・いつか、私を守って死んじゃうの・・・?」
死なないって言ってくれたのに、と
夢の中で聞いた台詞を繰り返す
気丈に、まるで睨み付けるような眼から 目が逸らせない
心がぎゅっとなる
死んでも、
例えこの身が滅んでも、
だけは守りたいと、自分は未だに思っている
そう願っている
ばかなことだと思いながら、
それでは何の意味もないんだと知りながら
生き残る術を探しながら
「俺は、死んでもいいんです」
根底の想いはかわらない
何より誰よりが大切だから

「・・・譲くんなんか嫌い」

ぽつり、
今まで強い目をしていたのが、急に揺れた
ぼろぼろと、涙がこぼれていく
呆気に取られて、譲はを凝視した
どうして、泣くのだ
何が、こんなにもを泣かせるのだ
「譲くんなんか大嫌いっ」
突然に、
は言うと、部屋を駆け出した
「ちょ・・・、」
慌てて譲も立ち上がる
呼び止めようとして、言葉を飲み込んで
そのまま譲も部屋を出た
裏庭の方へと走っていったの姿を 僅かなかがり火の灯りで追う
ドクンドクンと
わけのわからない想いが、あふれてくる

裏庭から座敷へ上がるあたりで 譲はの腕を捕まえた
「先輩・・・っ」
呼んでもはもがくだけで、こちらを見ようとはしない
「先輩、まってください」
「嫌っ、はなしてっ」
力任せに引かれて、振りほどかれて
「先輩っ」
言う間には座敷へと駆け上がった
パタン、と
譲の目の前で障子がしめられる
「先輩っ」
「大嫌いっ、譲くんなんか・・・・っ」
そして、障子一枚隔てた向こうで の泣き声が響いた
ドクンドクン
どうして、そんなに泣くのか
何が、そんなにさせるのか
全て本当のことなのに
を想うから、守り
が大切だから、この身を犠牲にする覚悟があるのに
「私のこと・・・庇うのはやめて・・・」
頼り無い、震える声が聞こえてきた
「それは、無理です
 あなたが傷つくくらいなら、自分が傷ついた方がいい」
何のために、今まで訓練を繰り返してきたのか
全て全てこのためだ
を、守るためなのだから
「譲くんは・・・そうやってまた死ぬ気なの・・・?」
また、と
が言ったのに、あの新月の夢を思い出した
リアルに実感する死の夢と、その続き
を泣かせた選択に、自分は愚かだと痛感したけれど
だけど
「あなたが死ぬよりはいい」
言った譲に、障子の向こうでの影がずるずるとへたり込んだ
「私だって・・・同じこと・・・考えてるのに・・・っ」
泣きながら、訴えるように
言葉は途切れ途切れに紡がれる
「私だって・・・譲くんが怪我するなら 自分が痛い方がいい・・・っ」
こんな風に、泣く人だとは思わなかった
夢で見た以外では初めてだ
泣きじゃくる
息もできないほど
まるで子供のように
「大切な人が自分のせいで死んじゃう気持ち・・・譲くんにはわかんないよ・・・っ」
まるで叫ぶように、
障子の向こうの影が震えるのに、譲は心がぎゅっとなった
開けたら、また逃げるだろうか
だが、動かずにはいられなかった
たとえ今、嫌われても
こんな風に泣くを、放っておけない
痛すぎて
の言葉が痛すぎて、どうしようもなく
たった一枚二人を隔てていた障子に手をかけた
音もなく、それはすべり
譲の目に、震えながら泣くの背中が頼り無く映った
「先輩・・・」
そっと、手を伸ばす
は逃げなかった
「先輩・・・泣かないでください」
抱きしめる
腕の中にすっぽりとおさまってしまう大切な存在を、両腕にしっかりと抱きしめた
どうしたらいいのか、自分にもまだわからない
その時がきたら、やはり自分はを庇うだろうし
その結果、死が訪れることになるのかもしれないと、思っている
そして、それはも同じなのだろう
このままでは同じ運命が待っていると
怯えているのか、恐れているのか
こんな風に泣いて
こんな風に訴えて
こんなにも痛い言葉を、口にして

「死なないで・・・っ、あんな想いするの・・・もう嫌だよ・・・っ」

ぎゅっ、と
の手が 譲の袖を握りしめた
震えている
ぼろぼろと、惜しげもなく涙をこぼして
譲を想って泣いている

ずっと、
譲はを抱き締めていた
やがて泣き止んで、だがされるがまま
何も話さず、もずっとそこにいた
どうしたら、いいのかなんてまだわからない
辿る運命は、同じ様に繰り返されているのだろうか
だから がこんなにも怯えているのだろうか
「約束して・・・譲くん」
ぽつり、
つぶやきに、譲は僅かにうなずいた
もうこれ以上 を泣かせることはできない
不安ばかりの未来に、苦い思いが広がっていく
決戦まで もうあとわずか
譲は選択を迫られている


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