新月の夢 (譲×神子)


譲くんが、死んだ
その両腕で、私を守って

何も考えられない、動かないあなたを抱いたまま
まるで全て、全てを奪われてしまったかのような痛みだけを感じる
お願い、だれか
これは嘘だと言って
連れていかないで
私から、譲くんを奪わないで

力なく下ろされた手、今は何も掴むことのない
やめて、奪わないで
閉じられたまぶた、もう二度と目をあけない
嫌だ、いかないで
閉ざされた唇、微笑は凍り付いたまま

「いや・・・・・っ、譲くん・・・っ」

声をからして呼んでも、届かなかった
引き離される身体
あなたの温もりは、手のひらからとっくに消えた
それでも抱きすがっていた身体、何の音も聞こえない
ねぇ、どうして
悪夢は終わったと、言ってくれたじゃない
大丈夫だと、笑ってくれたじゃない
けして死にはしないと、約束してくれたじゃない

「どうして・・・・・・・・っ」

泣いても、何も変わらないことを たくさんの運命を辿って知った
戦って、進んで、つかみ取っていくしかない
自分の望むものを手に入れるためには、強くなくてはならないと
今までの戦いで、学んだはず
そうして、何人も何人もの大切な人を 救ってきたのに
それなのに

「こんなのって・・・ないよ・・・っ」

どうして、どうして、
一番大切な人を、こんな形で失って
進むべき力である逆鱗をも、失って
どうすることもできない
何もできない
誰よりも、何よりも大切なあなたを、救いに行くことができない

こんなにもあなたのことを想っているのに

ぼんやりと、は冬の訪れた庭を見つめていた
夜も朝も、ない
ろくに眠ることもできず、ただ存在しているというだけ
譲の姿を探して、歩いてみたり
声が聞こえた気がして、呼んでみたり

「譲くん・・・」

彼が自分のために植えた花は、この雪の下で眠っている
このまま時が流れて春になったら 花が咲くんだろうか
あなたの好きな花を、植えますね なんて
優しく笑ってた姿、
こんなにはっきりと、姿も声も思い出せるのに

あなたはどこにもいない

「せめて・・・、せめて逆鱗があったら・・・っ」

ぎゅっ、と
砕けて金具だけの残った首かざりを握りしめた
いつかの日、譲が逆鱗に金具をつけて紐を通してくれたもの
大切なものなのに、よく落として慌てていたに優しく笑って 器用に細工してくれた
この金具は、もともとは譲の弓についていたもので
だからは、それを手にする度 譲を想った
何度も何度も運命を辿り
一人、戦いの中へ帰ってゆく時 必ず必ず譲を想った
まってて、
すぐに、戻るから
大切な人たちをみんなみんな救い出して、それから
それからあなたのところへ戻るから

まってて

部屋へ流れ込んできた冷気に、顔を上げた
もう涙はかれた
泣きつかれて、泣くことの無意味さを悟り
結局は、何もできない自分に気付く
だから こうしてここで、座っているしかない
譲の影を追うようにして

また雪が降り始めていた
東の空は、薄桃色に明けはじめている
世界はこんなにも綺麗なのに、
どうしてここに、あなたはいないんだろう
どうしてここに、私は一人なんだろう

「あなたが戻るなら何でもするのに・・・」

ぎゅっ、と
もう一度 強く金具だけになったものを握りしめた
夢でもいいから逢いたいと、願っているのに逢えはしない
泣いても何も変わらない
では、自分に何ができると?
泣いて嘆く以外に、何ができるというのか

「・・・このことは まだちゃんには内緒に・・・」
「罠かもしれませんから」

開け放した扉の側で、いつまでも庭につもる雪をみていたの耳にわずかな人の話声が聞こえてくる
空は大分白み、雪はキラキラと輝いている
「情報が足りない、もう少し・・・」
「聞いたことがありませんからね、こんな都合のいい話」
ザワザワ、と
意識が刃のように研ぎすまされていく
みんなは何の話をしているの
逆鱗の話?
時空をこえる力の話?
それを、再び手に入れることができるのなら 私は何だってできる
何だってする

「今の話、聞かせて・・・っ」

立ち上がる、ほんの僅かな望みにかけて
握った剣は重くて、唯一残された護りの石が かちゃ、と音をたてた
前を向くには、その音すら届かない
、罠かもしれない、充分に気をつけていけ」
「神子、けして一人で無理はしないで」
仲間の声も もう聞こえない
罠でも、
賭でも、
何でもいい
何かできることがあるのなら
泣き嘆く以外に、できることがあるのなら

「私は何だってやる」

あなたに、もう一度逢えるのなら

その戦闘は、厳しかった
暗い洞くつで、音が反響し耳がおかしくなるような中
チカチカと、視界の端で燃える青白い光を常に見ていた
「源氏の神子、おまえと戦うのは至福の喜びだ」
冷たくわらう男の顔
なんて強さ、とても叶わないような力の差
それでも立ち上がるのは、こんなところで終わりたくないから
何よりも大切な人を失ったまま、
あなたに護られたこの命を、何もできないまま こんなところで終わらせるなんて嫌だから

「神子・・・っ」

リズヴァーンの声が、響いた
まるで呪いみたいに 目の横でずっとチカチカしている青い光
何度かそれは弾けて 仲間の身体を吹き飛ばしていた
さんっ、避けて・・・っ」
「・・・・・・・・っ」
知盛の力が、彼の左手から放たれる
耳をつんざく音が響き渡り、爆風が吹き荒れる
っ」
とても身体を支えきれない
まるで紙きれのように吹き飛ばされて、
必死に上体を起こしたところ、視界に青が広がった
「源氏の神子、ここまでか・・・?」
その向こう、冷たい顔がわらう
悲痛な叫びが、あちこちから響く
嫌だ、
こんなところで
あなたに逢えないまま、
ここで終わるのは嫌

「いやだ・・・・・・・っ」

最期まで、剣は放さなかった
間に合わないとわかっていても、それを胸元に引き付け構える
同時に、青い光が知盛の手から離れた

瞬間、

もう何度も見た、白い強烈な光が何もかもを飲み込んだ
暗い洞くつに太陽が投げ込まれたかのような、衝撃
だがそれは、を護るように存在した
胸元で、護りの石が砕けて消える

「譲くん・・・っ」

はもう何度も、あの光に救われていた
誰かを助けるために進んだ運命の先での戦いの時に
それはをいつも護った
お守りです、なんて
笑っていってた譲の優しい微笑
あなたは、離れていても私を護ってくれるんだねと
心強かった
戦いは、恐くはなかった
自分は一人ではなかったから
いつもいつも、譲がこうして守っていてくれたから

「譲くん・・・・っ」

最後の力で、踏み出した
胸元に引き付けていた剣を、前へと振り上げる
手ごたえと、それから残像に似たもの
腕に響いてきた感触と、視界でとらえたものが結びつかず はそのまま地に崩れた
同時に知盛が 視界のずっと先でその姿を薄くする
「やはりおまえは、いい女だ」
死なない目がいい、と
その言葉を最後に 彼は姿を消した
やがて洞くつの光も、おさまっていく
「まって・・・っ」
必死で、叫んだ
望んでいたのはこれじゃない
戦いたくて来たんじゃない
得たいものがあったからだ
何に変えても欲しいものが、今の自分にはあったから
だからそのために、ここへ来たのに
そのために、こんなにも必死に剣を振っているのに

「おまえの期待するものはここにはない」

絶望的な言葉だけが響き、後には静寂だけが残った
先程までの戦いが嘘のように静まりかえる洞くつの中に 救いはない
ここには彼の言うとおり、欲しかったものは何もない

「・・・譲くん・・・・・」

もう、立てなかった
思い出したように痛み出す身体中の傷
どんなに平気だと言っても、全くきかずに無理矢理に手当てするあの人はもういない
自分だってボロボロのくせに、
あなたは大丈夫ですか、なんて
人の心配ばかりしている あなたはいない

「譲くんを返して・・・」

かれたと思った涙が また溢れてきた
人は、どこまで泣いたらかれるのだろう
どこまで傷ついたら、忘れられるのだろう
この痛みを
大切なものを失った、激しい喪失感を

ぼろぼろと、
こぼれる涙はの頬を伝って 逆鱗の金具へと落ちていった
それを無意識に取ったの手をも濡らしていく
そして、やがて
涙は洞くつの中のわずかな光を集め、
急速に、何かの力に影響され 光を増やし輝きを強めた
さん・・・っ」
「逆鱗が・・・・・・っ」
響いていく、声
視界に映る不思議な現象
止まらない涙から形成されるかのように、
手の中に、何かが生まれつつあった
白い清浄なる気が集まっていく
まるで、今までに砕けていった護りの石の全てが ここに戻ってきているようだと
ふと思った

まるで、この手の中に譲の魂が戻ってくるような そんな気がした

「譲くん・・・」

握りしめる、強く強く
切ないような音を響かせて、
逆鱗は再び の手に戻ってきた
これは奇跡か、
進む術を、再び手に入れることがてきるなんて
あなたに逢うために、もう一度運命を辿れるなんて

まってて・・・・!

目を閉じた
不思議と呼吸が落ち着いていく
響く、不思議な音
今度こそ、私はあなたを失わない


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