新月の夢 (譲×神子)


未来を視る力などいらない
変えることのできない未来なら、いっそ知らない方が幸せではないか?

「譲くん、元気ないね」

陣の裏手で、ボンヤリと立っていた譲にかかった声に はっとして顔を上げるとが優しく笑っていた
一晩寝て熱が下がったは、予想通り 戦いには行くんだと言って聞かず
今度も九郎の考えた奇襲が失敗すると言い出し、源氏を危機から救った
白龍の神子の、未来を知るかのような不思議な力
彼女がいれば、源氏は危機を避けて通れると
兵士達は噂し、今夜も明るい顔で笑っていた

未来を知る力
それが、どんなものなのか 皆は想像もしないのだろう
この先にまっている運命に怯え、嘆くことなど

「師が・・・、負傷したんです」

譲は力なく微笑した
弁慶の手当てを受け、眠っている与一の様子は まるで死んでいるようだった
一命をとりとめたと聞いて安堵し、
次に不安に胸がしめつけられた
人は簡単に死ぬのだ
今日の戦いでも、何人の味方の兵が死んだかしれない
その誰もに、想う人がいて
別れも言えず死んだのかと思うとぞっとした
毎晩のように繰り返される悪夢の中で
自分はに、さよならを言えただろうか
この狂いそうな程の想いを、告げることができただろうか

「幸い、命はとりとめましたが」

心配そうに目を揺らしたに、譲は微笑した
優しい人
味方の兵士が負傷したと聞けば、弁慶を手伝い怪我人の面倒をみて
八葉が倒れたとなれば 一晩中でも側についている
自分だって無傷ではないのに
治らない傷が、痛むこともあるだろうに

「人は簡単に、死んでしまうんですね」

の目を見つめた
かがり火がパチ、と音をたてる
なんて静かな夜
自分の呼吸する音までもが、に届いてしまいそうだ
「先輩は、パンドラの箱の話を知っていますか?」
知ってるよ、と
は答えた
パンドラの箱、この世の不幸や恐怖のつめられた箱
それを一人の女性が開けてしまったから、世界にこんなにも嘆きがあふれているのだと
だがその箱の底には「希望」が残されていて、
だから世界は絶望だけでできているのではないんだと、いう話

「パンドラの箱にはもう一つ違うバージョンがあるんです」

何で知ったんだったか、
人に伝え聞いたか、本で読んだのだったか
「箱の底に残っていたのは希望ではなく、未来を視る力だった、と」

譲の言葉を、は不思議そうに繰り返した
「未来を視る力は あらゆる災害よりも恐ろしいものだったんです」
未来を知る力
けして変えられないと知っていてなお、毎晩見せられる悪夢
自分の死の夢
あなたを置いて、先に死ぬ夢

未来を視る力などいらない
変えられない運命なら、いっそ知らない方がいい

「譲くんは、死んだりしない
 そんな未来は、変えればいいよ」

僅かに、震える声でが言った
目が揺れてるのは、かがり火が映っているから?
それとも、
「死ぬなんて言わないで
 そんな運命なんか、変えようよ」
優しい人
まるで自分のことのように、必死になって泣きそうになって
「あなたは、優しいから」
こんな風に言ってくれる
そして、その優しさは皆に向けられて
だから これが自分でなくても同じ様に言うのだろう
この運命を、変えようと

「ねぇ、お願い
 私と約束して? 死なないって、生きるために運命を変えるって」

の立っている場所まで、4歩
遠いこの距離
あなたのために死ねるのなら、それは少しも恐いことではないんです
むしろそれが、今の自分の救いにすらなっている

あなたを守って死ねるなら

「ただ、」
譲の苦笑に、は辛そうな顔をした
「その後、あなたが別の誰かに微笑むのかと思うと、」
気が狂いそうになる
まるで刃のような想いだ
それを必死に押し殺している
の側に誰がいようと、が誰に笑いかけようと
さえ無事なら
さえ、幸せに笑っていてくれるなら
それでいいと、
それで本望なのだと、必死に、

必死に想いを押さえている

「約束して、譲くん・・・っ」
「約束します」

大切な人、誰よりもあなたを見てる
この想いは、あなたをとりまく人間の中で一番に強いと、言い切れる
そしてそれでも届かない
あなたは俺のためには泣かないから

約束します、と
微笑したら は安心したように うん、と
ひとつうなずいた
未来を知る力を持つあなた
そして、その嘆きの力を持ちながら 前を向いて進もうとする強き意志の白龍の神子
繰り返される新月の夢に、予感は確信になりつつある
未来を知り、運命を変えることに
傷つきながらもあなたは そうやってここまで来たんだと
そして今も自分のために、死の運命を変えようと言ってくれているんだと

「約束します、俺は死にません」

ひとつ、運命を変えるたびに ひとつあなたの傷が増える
一人誰かを助けるために、あなたは血を流し涙を流す
だったら、
自分には、そんなこと必要ない
大切なあなただからこそ、守りたいんだと
あなただから命をかけるんだと誓っているから
いつもいつも、そう思っているから

あなたのことは俺が守るから

安堵したように笑ったに、強く強く思った
その時がきたらきっと、夢と同じ行動を取るだろうと思うけれど
心は決まった、もう迷いはない
俺にはあなたの優しい言葉だけで充分だから
あなたは、安心して、そうして笑っていて
その日がくるまで


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