新月の夢 (譲×神子)


強く願え、強く想え
そして、けして諦めるな

「譲はん、引きが甘いなぁ」
真夜中の、陣の裏手でいつものように譲は与一に弓の稽古をつけてもらっていた
側のかがり火が赤く 師匠の頬を照らしている
「怪我した肩、庇うてたらまっすぐ引けへんよ」
「すみません・・・」
もう秋に近い気候の中、譲の首筋を汗が伝う
時々 見張りの兵の足音がする他は、静かな夜
遠く離れた暗闇の中の的に向かって、譲は弓を引き絞った
ぎり、と
心がきしむような音が、鼓膜に届く
いつでも心を静かに、意識を均一に、意志は強く、
与一はそう言い、いとも簡単に的を射抜いてみせた
穏やかというよりは無気力に見える表情
緩慢に似た普段の動きからは、とても想像のつかないような矢捌き
鋭い一閃は見る者の目を引いた
九郎も弁慶も一目置く、本物の弓の名手
彼に弟子入りを志願した時 面倒くさそうに何度も何度も断られて
それでも頼み続けた時 彼は一つだけ譲に質問をした

「譲はんは、何のために戦うん?」

深夜に及ぶ訓練に、毎日のようにつきあってくれる与一は 時々空を見上げて明日の天気の話や鳴き始めた虫の音の話をする
そして一晩に何百と矢を射る譲の 癖や歪みを指摘する
あの日から、
弟子入りを認められた日から、文句の一つも言わずに毎日毎日

「先輩を、護りたいんです
 あの人のために、強くなりたい」

我ながら必死だと、言っていて思った
のこととなると、自分には余裕というものが消え失せる
いつも冷静に、
どんな時も落ち着いて、など
基本が頭からふっとんでいく
必死で、まるでもがくように、なりふり構わず、手をのばして

「えらいええ女なんやな、白龍の神子はんは」

うちの大将もお熱らしいやん、と
冗談めかしく笑った与一は、を見たいと言い出して
二人して、同じく夜に剣の訓練をしているを覗き見に行った
手の平の皮が擦り切れて血が滲むほどに、は毎日剣を振る
両手に巻かれた包帯も 一晩でボロボロになって
それでもやめない
彼女を護る八葉が側にいるのに
自分がここにいるのに、なのに剣を振る
何を護るために、何を倒すために、何のために

「白龍の神子はんて、思うてたのと少し違うわぁ」

与一がコソコソと物陰から覗くようにしているから 自然譲も彼の後ろで同じようにすると
彼は 特有の悪戯っぽい笑みを浮かべて振り返った
「彼女、充分強いみたいですやん?」
「だから、です・・・」
から離れているここまで、剣が宙を斬る音が聞こえてくる
ああやって毎日毎晩訓練して、強くなって、傷ついて
「俺が強ければ、先輩がこんな風に辛い思いをすることはないんです」
カチン、カチン、
「俺の知らない戦いを、あの人がしていることが我慢できないんです」
剣につけた護りの石が鳴る
知らぬ間に、砕けて減ってゆく
それを見るのが耐えられない
あなただけ辛いなんて、そんなのは嫌だ
「譲はん、あの女に命かける気ありますの?」
暗闇で、与一の眼が光った気がした
「もちろんです」
押し殺したような声をしぼりだす
命など、いくらでも
のためなら、いくらでも差し出す
「あの人を護ることが、俺の生きる意味、なんです」
真剣に、答えた譲をよそに 与一はふーん、と
曖昧に返事をして その場を歩いていってしまった
慌てて追い掛けて、元の陣の裏手へと来ると 彼は自分の弓を手に遠くの的へと向き合った
「人を護る弓なんか教えてあげられへんよ
 私が知ってるのは 人を殺す弓だけや
 それでええなら、教えたる
 命、かける気あるんなら」
隙のない動きで、弓を引き
与一はまっすぐに的を見つめて、そして射た

「・・・・・・っ、すごい・・・」

暗闇の中、肉眼で捕らえにくい程に遠い的
わずかの狂いもなく それの中心を射抜き 彼は笑った

「私は命かける機会を与えられへんかった
 人を殺して、自分だけが生き延びた
 そんな弓しか知らへんけど、それで譲はんがええんなら」

いくらでも教えたる、と
それ以来 毎晩の稽古に付き合ってくれる
与一の教えで、譲は確実に強くなった
そしてこれからもっと、力をつけていける
そう実感している
全てのものからを守れるようになるまで
がひとりきり、戦わなくてすむようになるまで

「意識はしてへんかもしれんけどな、肩下がっとるで
 いつも、その背に白龍の神子はんを守っとると思い
 矢当たらへんかったら やられんのは自分と後ろの女なんやで」
「はい・・・っ」

冷たい夜気に、身体は冷えるはずなのに
譲は熱さをずっと感じていた
を想う
誰よりも大切な人、誰よりも愛しい人
自分の中に昔からずっとある この想いは、八葉の皆が抱きはじめた気持ちなんかとは比べ物にならないと、言い切れる
それほどに、譲にはだけ
のためだけに、生きている
この手で敵を殺すのも、この身を犠牲に守るのも
こんなに心を痛めるのも全て、全て

「あなたを想っているからです・・・」

誰よりも、誰よりも
そして、きっと叶わなく届かないであろう想い
いつか夢の中のように、別の誰かとが笑ってる そんな光景を見る日がくるかもしれない
別の誰かのために、が泣いているのを見る日がくるかもしれない
自分でない男の名を呼び、自分でない誰かを求めて傷つくを見るかもしれない
それでも、

「好いた女がいるだけ、幸せやと思うよ」

タン・・・、と
矢が的に当たる音が響いた
与一が感心したような溜め息を漏らす
指先が、熱いと感じた

(先輩・・・)

誰よりも好きな人
あなたを守れるなら、何もいらない
たとえあなたが別の誰かを選んだとしても それでもいい
笑ってくれるなら
それであなたが、幸せなら

そのためなら、命をもかける
それしか、自分にはできないから
あなたのために、なんて
無力な自分にできるのは、この程度のことしかないのだと

「わかっているから・・・今は力だけが、欲しい」
「与えましょ、
 譲はんが 私の教えた弓で誰かを守れたんなら それは私にも意味のあることやからね」

譲の矢は夜の闇を射抜く、不安と絶望を払うように
あなたを、守るために


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