新月の夢 (譲×神子)


熊野へついてすぐのある朝、いつものようにを起こしに行ったら 珍しく布団の上でボンヤリしているがいた
「先輩・・・」
声をかけようとして、ふと飲み込んでしまったのは の表情が少し憂いでいたから
嫌な夢でも見たのだろうか
自分も夢に苛まされることがあるから、少し気になる
その様子に
「将臣くんに、逢いたかったな・・・」
の口からこぼれたつぶやき
ああ、離れてしまった兄の夢でも見たのかと
瞬間イラ、と
不快に似た感情が 頭をもたげた
この程度の嫉妬なら、昔からずっとずっと心にあるから押さえ込むことができるはずだ
何でもない顔をして、笑うことができるはずだ
「先輩、声が聞こえましたけど大丈夫ですか?」
いつもみたいに、扉をあけて声をかけると は驚いたように振り返った
「え・・・?」
私、何か言ってた? と
無意識だったのか、頬を赤らめた様子に苦笑する
「ええまぁ・・・」
「あ、あのね、ちょっと将臣くんの夢みちゃって」
「心配してるんですね」
「譲くんも心配でしょ? 時空のはざまではぐれたっきりだから」
「そう・・・ですね
 でも俺は兄さんは大丈夫だと なんとなくわかりますから」
あまり心配はしていません、と
言ったらは不思議そうに そうなの? と
僅かに笑った
寝起きの無防備な表情にドキ、とする
他の人のことなど考えないでほしい
兄のことなど、心配しないでほしい
「私、ちょっと散歩してくるね」
は、言うと開け放たれた扉から出ていった
後ろ姿を視線で追い、苦笑する
日に日に強くなるへの想いが、抑えきれない
止まらない

それからすぐに、は将臣を連れて戻ってきた
「3年ぶりだな」
陽気に話す兄は、容貌は少し変わったものの あの明るさと強さを持った譲の知るままの彼で、
俺はどうやら3年前の世界に飛ばされたみたいだと まるで冗談のように語って笑った
「八葉とか面倒なのはごめんだけどな
 まぁ、本宮までなら俺も用事があるからつきあってやる」
将臣は、いつもの調子で、自然と場を仕切りはじめていて
「将臣くん、髪が伸びたね」
「こっちの世界に合わせてんだ」
嬉しそうに、は将臣を見上げて笑った
「逢いたかったんだよ、伝えたいことも沢山あるの」
「ああ、そうだな
 俺もお前に話したいことがたくさんある」
将臣とは二人でいると とても絵になる
背が高くて、手が大きくて、
巨大な剣を軽々と持つ将臣は、とても頼りがいがあって強そうみえた
ああいう男なら、を守れるのかもしれない
譲が望んでやまないもの
大切な人を守る強さを、彼は持っているのかもしれない

戦いで、将臣はその力を見せつけた
大きな剣は敵を真っ二つにし、常にの側でをかばった
ガキィン・・・、と
音が響く度に、視線を奪われる
譲のように、身体を張ってかばったりしない
と敵の間に入り、その剣で敵の攻撃を受け止めて
自分もも無傷で、敵を斬る
その手はを守ることができるのだ
「将臣くん・・・っ、ごめん・・・っ」
「俺がいる間は怪我なんかさせねぇよ」
なんて余裕の笑み
そして、なんて強さ
譲が欲しいものを、将臣は持っている
悔しい程に、将臣は譲の理想で、自分が無力だと痛感させられる相手
彼がいると心がイライラと不安定になる、そんな存在

「しかし、 よく見たらお前傷だらけだな」
「私、まだ力が足りないから」
「こんだけ男がいて 誰もお前を守れないのかよ」
「そんな言い方しないで
 みんな必死に自分の守るべきもののために戦ってるんだから」

二人の声を後にして、譲は廊下を歩いていった
弁慶に手当てしてもらった背中の傷はだいぶん癒えた
をかばう度、譲はその身体を張る
至近距離で使える剣と違って、譲の弓は長距離攻撃のためのもの
側にいるを敵から守るために その弓から矢を放つ余裕はない
自然と、身体が動いてを、
敵に捕われようとするを抱き締めて その身を犠牲にして
かわりに攻撃を受けてを守る
そんなやり方しかできないでいる
だから譲の身体にも傷が増える
将臣のように、自分もも無傷ではいられない

(・・・力が、足りないからだ・・・)

自室に入って、明かり取りの窓から外を見た
今夜は新月
暗い夜に、不安は募る

新月にはきまって、あなたの夢をみる

眠りはゆっくりと降りて来て、やがて譲を夢の世界へと案内する
今までにもう何度も何度も、の泣く夢を見た
いつも違う誰かのために涙を流して、誰かを想い手を伸ばすのだ
今夜は側にリズブァーンがいた
死なないで、と悲痛な叫びが聞こえてくる
「死なないで、先生
 私も生きるから、あなたも、生きて」
必死に彼の背中を追い、あるいは矢に倒れ、あるいは泣きながらその名を呼んで
「お願い、もう、一人で苦しまないで」
その身体を抱きしめるようにして、震えながら名前を呼んで

(先輩・・・)

新月の夢はいつも、痛かった
自分の死の悪夢の方がよほどマシだといつも思う
現実か夢かもわからない
涙も血も、痛みも悲しみも リアルに感じた
誰かのために、はいつも必死だった
夢の中で、戦いを繰り返した
それこそ、譲がまだ見たこともないような強敵と何度も

(先輩・・・これは、何の、夢なんですか・・・・)

朝までは、けして眠れない
必ず途中で覚醒して、譲は大きく息を吐いた
この夢は、を想うあまり、
嫉妬に狂うあまり、自分の心が見せる幻なのだろうか
だからはいつもいつも別の男の側に、いるのだろうか

それ以上 眠れなかった譲は 起き上がると暗い庭に出た
かがり火の側に、誰かが立っている
見遣って、思わず動きを止めた
が そこで空を見上げている

「先輩・・・っ」
「・・・っ、譲くん、・・・どうしたの?」
カラン、
下ろされた剣につけられた護りの石がぶつかりあって音をたてた
自然目がいくそれ、また数が減っている白い石
もうあといくつ
一体どこで割れたのかわからない、護りの石達
「先輩こそ、こんな夜中にどうしたんですか」
「うん、ちょっと眠れなくて」
は力なく笑った
さっきまで将臣と話していたとは別人のようで その様子がふと気になった
「何かあったんですか? 」
「どうして?」
「様子が変です」
力なく、は笑った
「譲くんって、反則だ
 どうして、そんなに鋭いの?」

はそれ以上は何も言わなかった
ただ、うつむいて、力なく笑う
「私は無力だから、大切な人をまた失くしてしまったの
 だから、また、戻るの
 ・・・今度は、失わないように、運命を選びに、行くの」
意味のわからない言葉だと、思った
ただ、それは痛ましく、静かな夜に響いていった
「ごめんね・・・」
顔を上げたは、笑おうとして失敗したようだった
「もう少しだけ、まってて」
まるでこれはさっきの夢の続きのようで
がこんな弱い顔を見せるなんて、考えなれなくて
譲には何も言うことができなかった
何もしてやれなかった
今にも泣き出しそうな

そのまま、は去っていった
譲に背を向け、庭を突っ切るように歩いていって、唐突にその姿を消した
ただ痛い気持ちで、譲は目を閉じた
これは夢の続きなのか
それとも全ては、現実なのか
今はまだ、わからない
悲痛な予感があるだけで 何にも答えなど、出てはいない


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