新月の夢 (譲×神子)


カラン、と
廊下にかすかな音が響いて、の手から何かが転がっていった
「あ・・・っ」
慌てたように 落ちた光るものを拾い上げるのを視界の端に捕らえ そういえば今朝も、こんな風景を見たなと思い至る
「先輩、それ、何なんですか?」
「え・・・っ?!」
今は大事そうに手の中に握りこんでいるもの
白く輝く不思議な石のような、何かの結晶のようなもの
「お守り・・・かな」
「よく落としてますね」
「この着物ポケットがないから 懐に入れててもすぐに落ちちゃって・・・」
着慣れないから どこに入れておいたら落ちないのかがわからない、と
笑ったに 譲もクスと微笑した
「ちょっと貸してください」
「え・・・」
戸惑ったようなの顔
だが手を差し出した譲に、ほんの少しの躊躇の後 は光る石をそっと手渡した
「さっき弓を手入れしていたんです」
「私をかばってくれたせいで壊れちゃったやつ・・・?」
「壊れたってほどでもないですよ、少し金具が弛んだのを直しただけです」
気にしないでください、と
表情を曇らせたに、譲は笑って懐から小さな包を取り出した
「捨てようと思ってたんですが」
そうして、中から小さな金具や糸のくるまったのやらのかたまりを取り出して 器用にほどきはじめた
心配気に側で見ているの気配
側にいると安心する
いつもいつも、こんな風に自分の目の届くところにいてほしい
「今日かばってくれた時の傷・・・平気?」
「平気ですよ」
「ごめんね」
「あなたが傷つくのは見たくありませんから」
怨霊と戦う時、は敵の懐まで踏み込んで剣を払う
小さな身体で、リーチが短いから必然的に、その動きは大きくて
それで隙ができやすいんだと思う
何かの行動を起こした後のわずかな隙
そこを狙われることが多々あって、その度に攻撃を受けたの身体はいとも簡単にふっとばされてしまう
大人の男なら堪えられる衝撃も、少女であるの力では支えることも踏み止まることもできず
その身に痣や切り傷を刻まれる
(あなたは強い、けれど・・・)
体格の差は埋まるわけがなく、速さや鋭さだけで無傷でいられるほど戦いは甘くない
それでも、の力で戦いが早く終わるようになったのは、目にみえて感じる
誰も、それを不思議に想わないけれど
白龍の神子の力だと、勝手にそう思い込んでいるけれど
「先輩、いつの間に剣を扱えるようになったんですか」
譲だけが気付く異変、急に強くなった
いつの間に、と聞いた時 リズ先生に教わったの、と
笑ったは、二度瞬きをした
あなたの嘘をつく時の癖、それを知ってるのは多分自分だけだと思う

「できましたよ、先輩」

いらなくなった金の金具を、その石に付けて紐を通してやると、は嬉しそうにそれを受け取った
「首からかけていると、落とさなくていいと思いますよ」
「ありがとう、譲くん」
その目がキラと輝く
紐を首に通して、長い髪をすくった仕種に ドクン、と
熱いものが胸に広がっていった
そういうあなたの仕種のひとつひとつに、視線を奪われる
「ありがとう」
大切そうに、手に握り込まれた不思議な石
自分が持った時は何もなかったものが、の手に触れると不思議な音を奏でる気がした
切ないような、
この音は、まるで心に響いてくるようで
だから本当に聞こえているわけではなく、単にそういう気がするだけかもしれないと思った
あなたの目が、何かの痛みと決意に満ちているから

切ないような、決意
あなたは何を想って、ここにいるのですか

「そういえばね、今日 白龍にうらしまたろうの話をしてあげたら喜んでた」
「玉手箱を開けたらおじいさんになってしまう話ですね」
「そう、
 それでね、白龍が言うのよ
 開けなかったら良かったのにって、神子は開けないでねって」
笑っていたの表情が一瞬曇った
「それで何て、答えたんですか?」
見上げてくる目
それはすぐに笑顔になる
「一人きりで戻ってしまったなら、開けてしまうかもしれないねって」
そう言ったら 白龍泣きそうになっちゃった、と
はまた、石を握り込むようにした
その仕種、もう癖になっているんだろうか
不安を打ち消そうと、しているようで痛ましい
本人は、自覚がないようだけれど、その時の目には何か痛みを浮かべている
「そう言われてみれば、俺達 うらしまたろうみたいですね
 こちらの世界と元の世界の時間の流れが同じなら、いいんですが
 戻ってみたら随分と時間が経っていた、なんて物語みたいなことになるのは勘弁してほしいな」
僅か、ほんの僅かだけ、の手が震えているような気がした
「玉手箱開けちゃう気持ち、わかるよね
 開ければ失った時間が戻るかもしれないって、期待しちゃうから」
嘘の笑顔で、は話を終わらせた
これありがとう、ともう一度言って立ち上がる
「私、そろそろ寝るね」
「はい、」
何も言わずに見送った
言いたいことはたくさんある
全て、言葉にはできない曖昧な感情
予感だったり、不安だったりする 不確実なもの
「先輩・・・あなたは何を考えているんですか?」
目を閉じて、息を吐いた

たった一人で戻ったら、玉手箱を開けてしまうかもしれない
それが失った時間を、取り戻してくれるかもしれないと期待するから

「まるで、」
あなたはたった一人、戻ったことがあるみたいだ
過ぎた時間に嘆き悲しんで、僅かな希望に 異世界で得た力を使ったかのようだ
たった一人で

開け放たれた扉の向こうに見える月を見上げた
あの痛い夢を見た新月の夜を思い出す
炎に包まれて、泣き崩れたあなた
救いたくても手が届かなかった悪夢
そういえば、あの時あの手の中に 何かが光っていなかったか
それは、が大切に持っている あの石に良く似てはいなかったか

「わけがわからない・・・」

全てが曖昧で、不確実
想像だったり、推測だったり、予感だったり、夢の中のことだったり
「先輩・・・、あなたは何を想っているんですか」
溜め息を吐き、譲は僅かに首をふった
考えてもわからないことばかり
ならいっそ、何も考えずにいた方がいいのかもしれないと
立ち上がり、側に置いてあった弓をとった
ならば今、やることは一つ
全ての敵からを守れるよう
の傷つく姿を見なくてすむよう、強くなること
それだけを考えていよう
それだけを、強く願っていよう
この どうにもならない想いを隠して


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