風呂 (将臣×譲)


最後の戦いが終わった夜、
大宴会で散々騒いだ後 疲れて眠った者のために布団を用意し
奥の部屋で 未だ飲み騒いでいる連中のリクエストで夜食なんかを作らされ
ようやく一息ついた時、風呂から声がかかった
そういえば、もう1年以上も聞いてなかった こんな風な間の抜けた呼び声

「譲〜」

なんだよ、と
少しばかり懐かしく感じながら、譲が風呂のドアをあけると 浴槽の湯に首までつかって 将臣がこちらを見上げていた
遥かなる世界で見ていたのとは別人のような、
いつもの、日常の将臣が、媚びるような目で自分を見てる
「湯がぬるい」
「・・・・・」
あ、そう、と
譲は溜め息を吐き、にっと笑ったその顔を見た
自分とは似ても似つかぬ兄
いつも何故か自身満々で、楽観的でめったに怒らなくて、そのくせ喧嘩はやたら強い、なんて
まるで小説の中のヒーローみたいな兄に、譲は少なからずコンプレックスを抱いている
昔からずっと
「しょうがねぇだろ〜一回入っちまったら自分で沸かせねぇんだから〜」
「・・・わかったよ」
たしかに八葉全員が風呂に入って、
将臣で最後だったから、そろそろ湯は冷めているだろう
この家は大きいだけがとりえの旧式の家だから、風呂を沸かすには一度外に出なければならない
「譲さんきゅ〜」
嬉しそうな無邪気な声を背中で聞いて 譲はもう一度溜め息を吐きながら風呂を出た
そのまま 深夜の庭へと降りていく

「・・・懐かしいというか、何というか・・・」

カチ、ボウ・・・
しばらく聞いていなかった音に耳を傾けながら、譲はふと込み上げてきた笑みを唇に浮かべた
将臣は、冬には特に こうして風呂の中から譲を呼びつけた
入る前に確認すればいいのに、
入ってからぬるいだの、寒いだの
人を寒空の下へ行かせて、自分はノホホンと湯の中で待ってる
悪戯な目をして、甘えたような顔で
(変わってないな)
風呂から呼ぶ、間抜けな声を思い出した
さっきの将臣と、異世界で見ていた将臣はまるで別人だ
笑ってたって眼に鋭い焔を飼ってた天の青龍は、今ようやく 譲の知る兄の顔に戻った
そんな気がする

「兄さん、湯加減は?」
「サイコー」
しばらく外で風呂の湯を沸かして、
夜の冷気ですっかり冷えた身体を震わせながら覗いた風呂には、あたたかな湯気がたちこめていた
相変わらず首のあたりまで湯に身体をしずめて将臣が笑う
「そ、じゃあ俺はもう寝るから火の始末はしてくれよな」
「譲〜、せっかくだからお前も入っていけよ」
「俺はさっき入ったからいい」
「けどほら、今外に出たから冷えただろ?」
ここはぬくいぞ、なんて
笑った将臣を見遣って、譲は苦笑した
誰のせいで冷えたと思ってるんだ
だいたい温泉でもないのに、一緒に風呂なんて何考えてるんだ、なんて
言っても無駄なんだろうと思って、それが何故か無性におかしくなった
こういう風な将臣は、安心する
自分の知らない何かのために戦っていた天の青龍
それは何故か、彼に置いていかれたような気分にされたから
将臣が、理由も告げずに去るのを見るたび
知らない恩人達のことを、話すたび
腹立たしかったのは、自分の知ってる将臣がそこには存在していなかったから
「背中流すだけならしてやるよ、今日だけな」
戦いの終わった今、
全員が無事で、全員が笑った今日という日
二人は元の世界に戻ってきて、懐かしいこの家の日常にいる
それはとても心地よかった
クタクタに疲れてはいるけれど、気分は自分で思うより御機嫌のようだ
こんな風な、将臣の言葉につきあってやろうなんて気持ちになるくらいだから
「めずらし、譲がそんなサービス」
「いいから早く座れよ」
「御意〜」
景時の真似なのか、
嬉しそうに笑いながら将臣が浴槽から立ち上がる
なんとなくそれを見ながら、湯気の向こうに見えた傷に 譲は急にハッとした
「・・・・・」
本人は鼻歌まじりの御機嫌で
せっけんをタオルに泡立てながらゴシゴシやってる
その身体
1年間見てなかった将臣の身体
あちこちにひどい傷跡が目立つ、まるで知らない男の身体
日常とはかけはなれた、痛々しい傷跡
「兄さん、それひどいな」
「あんな世界に丸腰で放り込まれればなぁ」
将臣は笑う
もう4年以上も前に異世界に一人流された将臣には、譲の知らない3年間がある
この傷の一つ一つがそれを物語るようで
それで譲は急に不機嫌に 過去の傷の上をごしごしと泡タオルで擦った
「・・・何だよ、急に」
「別に、痛くないだろ古傷なんだから」
「痛くねぇけど、何怒ってんの?」
「別に怒ってないよ」
ごしごしごし、ごしごしごし
しばらく無言で擦り続けて、泡だらけになった将臣の背中に、乱暴に湯をかけて洗い流した
こんな風なのを見ていると、またふと考える
ここにいるのは、まだ知らない影を持つ天の青龍で
だとしたら、それは譲にとっては不愉快なことで

「何、おまえ 何に怒ってんの?」

将臣が振り向いた
眼鏡がなくてもこの距離なら表情までちゃんと見える
不敵な顔で、笑ってた
まっすぐに視線を合わされて、逸らせないままに そのまま腕を取られた
強い力、知ってる、この強さ
「怒んなよ」
しょうがねぇなぁ、と 小さく聞こえた
子供扱いするな、と
カッとなったけど、それもすぐにひっこんでいく

あたたかな湯気で濡れた唇が、重ねられた

そうだった
将臣は、こういうタイミングで、こういうことをする奴だった
「・・・・・・・・っ」
「譲〜、何怒ってんだよ〜」
ぐい、どさ、べちゃ
これが1年ぶりでなければ、こんな不様なことにはなってなかった
その腕に引っ張られ 将臣の濡れた身体に倒れ込んで
せっかく着替えた服もびちょびちょになって
抵抗もできず、罪なく笑う奴の腕の中に抱かれてるなんて
それで言葉もないなんて

「ばかかっ、あんたはっ」
「そこまで濡れたら風呂 入り直した方がいいぜ」
「うるさいっ」
けたけたと笑う将臣を風呂に一人残して、譲はずぶ濡れのままピシャリと風呂のドアをしめた
心臓がバクバクいってる
自分でそれがわかる
何だっていうんだ、あんな風に
まるで日常
遥かなるあの異世界を知らなかった頃のような、変わらない将臣の行動、しぐさ、熱
熱がじん、と身体に広がっていく
「・・・、あのばか」
彼の中では4年という歳月がたっているのに、こんなところは変わらない
ああいう風に機嫌をとったり、抱きしめてみたり、キスしてみたり
(・・・俺もばかだ)
忘れていたのだろうか、この熱を
彼のもたらす、この熱を
彼は何も、変わってはいないのに

溜め息を 吐き、譲はざばざばと水音の聞こえる風呂を後にした
濡れた身体がこの熱を奪わないうちに、と
長く離れていた日常の、ベッドへと戻っていく


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