66.神子と譲

「はぁ〜。」

譲は机の上に広げた手芸用品を見つめながら大きくため息をついた。
「中学3年にもなって、何でこんな宿題がでるかなぁ・・・・・」

コトの起こりは、2学期の終業式。
「正月で浮かれるのもいいが、それまでに宿題ちゃんと終わらせとけよ。後に残すと大変だぞ〜」
「センセ〜、短い冬休みなのに宿題多すぎじゃないですか〜?!」
「文句言うなって。これでも少しはオマケしてやってるんだ。優しいだろ?」
「「「「え〜???」」」」
「あ、団体で『え〜?』なんて言ったな?そしたらもっと優しくしてやろう。
女子は木を使った工作を一品、男子は手縫いの手芸作品を一品、休み明けに提出すること!」
「うそ、マジで!?」
「まじで。」
「「「せ、先生、優しい!!うん、先生ってすごく優しいよね!ね!ね!」」」
「もう遅いぞ。」
「「「え〜ん、先生さま〜!!お代官さま〜っ!!大臣さま〜っ!!王さま〜っ!!」」」
「もうひとつ、宿題増やすか?」
「「「・・・・・。」」」

「はぁ。」
クラスメイトのとばっちりを受けた格好になった譲は、もう一度ため息をついてからしぶしぶとハサミを手に取った。
「仕方ない、余り布で巾着袋か何か・・・簡単なもので済まそう・・」
母親に出してもらった、余り布や中途半端に残った毛糸などが入った袋をごそごそと探る。
いつから溜め込んでいたものだか、妙に古臭い布やフェルトの残りなど、広げてみると結構な量があった。
「これでいいか。」
二つに折れば丁度いい大きさになりそうな青いチェックの生地を選んで、残りをまた袋に戻しかける。
「・・・あれ?これって・・」
詰め込みかけた生地の中に、たどたどしい縫い目の、作りかけで放り出されたような中途半端な何かを見つけ、
譲は手にとって少し考え込んでから、はっと思い出したように顔を上げた。
「ああ、これ・・・先輩だ・・。」
小学校の時、初めて縫ったフェルトの財布を先生に誉められて嬉しくなって、他にも何か作ろうと思ったんだった。
そして、作ることにしたのがフェルトの先輩マスコット。
イメージ色のフェルトをお小遣いで買って作り始めたはいいけど難しくて、結局最後までやらずに終わっちゃったんだっけ。
「そのまんま入ってたんだ・・。」
丸く切った顔らしきものと、紫色のたぶん髪らしきギザギザの切れ端。
譲はそれを作っていた時の自分を少しずつ思い出して苦笑した。
「何だか・・すごいヘタクソだな、これ。」
でも、結構真剣だったかも。と、改めて手の中の『先輩』を見つめた。
「今なら、少しはマトモにできるかな。」
譲は巾着用の生地を針箱の下に押し込み、『先輩』用の生地を見つける為にもう一度袋の中身を全部広げた。
宿題よりも、こっちの方が断然やる気が出るってもの。

マスコットといっても随分張り切って作ろうとしていたようで、生地を合わせると結構大きいものになるようだった。
「これで、ひと通りは揃ったかな。」
待ち針で止めて一度形にしてみてから、生地に合わせた色の糸でチクチクと刺す。
「おれ、こういうの結構好きかもな。」
とか、ひとりごとを言いながら調子よく縫い合わせていくと、思ったよりも単純な作業は程なく終わってしまった。
「なんか、あっけないな・・」
小学校の時はあんなに難しく感じたのに。
それだけの時が経っているという事なのだけど、先輩ってあまり変わらないよな・と思いながら、譲はフェルトの先輩に話しかけた。
「あとは、糸の始末だけですよ。先輩。」

「何が?」
「うわっっ!!☆♪×▲◎@★●!!」
声がしたのと、譲が叫びながら手芸用品とフェルト人形を抱え込んだのとがほぼ同時だった。
「せ、せせせせせ先輩??」
「どうしたの?譲君?」
振り向かなくても、先輩が窓から覗き込んでいるのが手に取るように解る。
だって先輩は玄関から入るのがめんどくさいって、よくここから俺たちのことを呼ぶから。
「な、何でもないです!」
「だって、今なにか隠した。」
「ふ、冬休みの宿題に手芸作品を一点っていうのが出たから・・」
「へえ、男の子なのに手芸の宿題なんだ?変なの。」
「そ、そう、変なんだ・・だから、その、見ないで・・・・」
「難しかったら手伝うよ?」
「い、いい!!いいからあっち行っててくださいっっ!!」
「ぷぅ〜。見せてくれたっていいじゃん。」
「だめです!」
「ケチ!いいもん、将臣くんとこ行くから!」
「は、はい、行ってらっしゃい・・。」
「・・・変な譲くん。」

領子さんより
投稿ありがとうございます!!!
http://www.geocities.jp/sasyabom/


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