満月の夜が明けて


今まで、何回 満月の夜を迎えただろう
1年に12回、それが4年間分
寒い夜も、雨の夜も、そういえばあいつはいなかった
得に気にしてなかった
リーマスが具合が悪いのなんて、しょっちゅうだったから

今夜は満月、リーマスはまたいない


明け方、談話室で一人 暖炉もつけずに本を眺めていたシリウスの耳に ギイ、と扉のあく音がした
振り返ると、リーマスが俯きがちに歩いてくる
ちいさな扉の側の灯りの下 その顔はひどく疲れているように見えて
静かな、まだ誰もが寝静まっている時間
立ち上がったシリウスに、彼はとても驚いたようだった
「あれ・・・起きて、たんだ・・・?」
「ああ」
いつもの笑顔
リーマスは、優し気に笑って こちらを見上げてきた
今朝から具合が悪いと言って、リーマスはどこかへ行った
たいてい医務室とか、静かな人のこない裏庭の木陰とか、図書館の隅の方とか
そういう所にいつもいる
すぐによくなって帰ってくる時もあれば、次の日にならないと戻ってこない時もあって
いつものことだから、いつも通り
心配しないで、と笑った彼を見送った
いつものことだと思った

「リーマスの言葉は、あいつの想いの裏返し」

ジェームズが、そう意味不明の言葉を吐くまでは

華奢なリーマスの身体は、ほんのわずか、震えていた
「寒いね、ここ
 暖炉に火を入れようよ」
「おまえ、震えてるもんな」
きっちり着込まれた制服の下の白い肌
傷ひとつない綺麗な身体
少し前まで、色んな男が触れて抱いて、その欲情を満たしていた対象
「僕は寒いのは嫌いなんだ」
また、リーマスが笑った
ちょっと不自然な感じがする強ばったみたいな笑み
今日はお得意の笑顔も作れない程 具合が良くないんだろうか
「おまえのその顔、嫌いだって言ったろ」
「酷いなぁ
 作り笑顔なんかじゃないよ、これは」
「・・・嘘つけ」
暖炉に杖を向けると、真っ赤な炎が燃え上がり 薄暗かった部屋を照らした
「身体、もう大丈夫なのかよ」
「うん、もう平気」
ぽすん、と
さっきまでシリウスの座っていたソファに腰掛け、リーマスは今度は俯いたまま笑った
まぶたが、震えてる気がする
リーマスを抱くようになって、知ったことがある
彼は目を伏せて、時々泣き出しそうな顔で笑う
仲間といる時にはけして見せない顔
いままで気付かなかった自分
4年も一緒にいたのに、シリウスはリーマスのことを、あまり知らない

「どういう意味だよ? それ」
「言ったまま
 リーマスは他人に一線を置く
 俺達は隣で眠ることを許されるくらいには許容されてるけど、それでも奴は俺達に笑顔しか見せない
 口癖は<心配しないで>
 ・・・こっちの想いが伝わってないわけじゃない、ただ
 あいつは想いの返し方を知らないし、その資格が自分にはないんだと思ってる」
「・・・意味がわかんねぇ」
「おまえはバカだからなぁ」
くくっ、と
ジェームズは笑って、それからリーマスの出ていった扉を指差した
「俺はあいつを心配して あいつの後を尾けてったことがある」
彼の眼は、いつも強くて迷わなくて
だからこんなにも魅かれるんだと思いながら、シリウスはジェームズの指差した扉を黙って見つめた
14才の少年達
学校は毎日が楽しくて、やっかいな授業もあるけど 仲間は最高
校則やぶりも、悪戯の相談も、抜け道探しも、新しい魔法の特訓も 楽しくて仕方がない
ここが一番居心地がいい、とシリウスはそう思ってる
みんなもそうだと、このあいだまで信じて疑わなかった

「僕はだれだっていいんだ、寂しい時 慰めてくれる人なら」

リーマスのあの言葉を聞くまでは
彼はそうじゃなかったんだと知るまでは
そして悔しくて、憤って言った
「だったら俺が抱いてやる」
それ以来、彼と身体を合わせるようになって
リーマスの、知らなかった顔をいくつも見た
そのほとんどが、今にも泣き出しそうな顔だったけれど

シリウス、と
呼ぶ声に、シリウスは意識を戻した
「何?」
「座れば?」
「・・・・・・ああ」
リーマスの 綺麗な顔
チラチラ揺れる炎のひかりがあたって、ちょっと疲れたようなやつれた顔は艶っぽかった
何人もの男が欲しがってる この存在
「どうして起きてたの? 何か読んでた?」
「ああ」
たわいもない話をするリーマスの声、テーブルの上に置かれた本に手を伸ばす仕種
見つめながら、シリウスはあの無気味な声を思い出していた
つい数時間前に聞いた、あの血も凍るような叫び声
生温い空気の中、扉を開けることができなかった
見てはいけないものを、見てしまう気がしたから

「今夜は満月だな」
ジェームズは、そう言って笑った
「俺があいつを尾けた日も、満月だった
 暴れ柳の下、秘密の抜け道から」

秘密の抜け道探しは、4人の中での最高の遊びで
それを地図に記しては、ホグワーツ攻略に1歩近付いただなんて盛り上がってた
暴れ柳?
そんな抜け道知らない
地図にも記されてない、知ってるならどうして教えてくれなかったのか
(それを、確かめに行くんだ)
夜、ベッドを抜け出したのはそのためだと 自分に言い聞かせた
ジェームズの不吉な言葉の意味は わからないまま
胸を過る、妙な不安にも目を瞑った
「心配しないで」と言ったリーマスの笑顔
シリウスの嫌いな、作ったような顔
身体を重ねて、熱を分け合っても 彼の考えてることはわからなかった
想いまだは伝わらない
大切な仲間、親友だから、と
言ったシリウスの言葉に、リーマスは揺れる目で苦笑しただけだったっけ
リーマスニモマタ、シリウスの考えが理解できないんだろうと思った
二人はまだ14才
こんな子供では、誰かの想いをはかることすら ままならない

ぎし、と
ソファに膝をつくと、小さな音でそれはきしんだ
細い腕を取って、手首にくちづけた
驚いたようなリーマスの目が見上げてくる
何故、自分がこんなことをするのかわからなかった
ただ、この胸に残るもやもやしたものが心地悪くて
消してしまいたかった
吐き出してしまいたかった
「シリウス・・・?」
頬に手を触れて、唇にくちづけた
冷たい
舌をからめたら、応えるように彼のものが舌先に触れ、ひらいた唇から熱い息がもれた
「どうしたの? 珍しいね・・・」
君から、してくれるなんて、と
囁くよう笑ったリーマスの声がやけに腹立たしくて
「黙ってろ」
ここにいる自分が ちっぽけで卑怯でバカな存在だと思えてならなくて
シリウスは、まるで噛み付くようなくちづけを何度もその身体に落とした
服を剥いで、爪をたてて
もう何度も触れた身体に舌を這わせていく
愛してるから、とか
そういう理由で抱くんじゃない
愛しさなんか心に湧かない
リーマスを抱いた後は ただ悲しいだけ
虚無に似たものが身体と心に残るだけ
だって終わった後リーマスは、やっぱり寂しそうに微笑するから

は・・・っ、と
息を上げて背を反らせたリーマスの、その昂ったものを手で掴むと かすれた声で彼がシリウスの名を呼んだ
「あ・・・っう、・・・・っ」
くちゅ、と濡れた音がさっきから、いやに耳につく
いつも、こうだったっけ
彼を抱いてる時、いつもこんなにいやらしい音がしてたっけ
「ひ・・・っ」
身体を押し進めて、その中にねじ込むよう挿入すると 必死で殺した声のかわりに空気だけがリーマスの白い咽から漏れた
じゅ・・・、と
繋がった部分から どろっとしたものが流れていく
さっき中に出したから、それが溢れてるんだろうか、とか
そんなことを考える
「シリウス・・・っ、」
身体の下で、喘ぐ親友
細い身体
愛してるわけじゃない
それなりの理由があって こうしてる
なのに勃つのは何故だ? と
どこか冷静な自分が、いつも疑問に感じてるこの瞬間
今だって、求められもしないのにこんな風にして
リーマスを、めちゃくちゃにしてしまいたいと思ってる
その衝動に、負けそうな自分がいる

抜け道は、叫び屋敷に続いていた
薄暗い階段を上り、2階へ上がった時 その叫び声は聞こえた
獣の咆哮に似たもの
低いような、高いような、泣いてるような声
ここには化け物が住んでいて、夜になったら無気味な叫び声が聞こえるんだ、と
それはホグワーツに入ってすぐに聞いた噂
村へ下りた時、何度も外から眺めて見たその場所
扉の向こうには、その化け物がいるのだろうか
シリウスは、立ち尽くしていた
ドロドロした不安が、胸にたまって吐き気がした
だから今夜、眠れなかった

「あ・・・・っ、あ・・・・う、もぉ・・・無理だよ・・・っ」
がくがく、と
何度も何度も突き上げられて、イかされて
それでも行為をやめないシリウスに、リーマスはかすれる声で懇願した
「シリウス・・・っ、お願いもぉ・・・っ」
身体が砕けそうで、熱くて気が狂いそうで
「いつもは もっとしろって言うくせになっ」
「ひ・・・・っ」
その震える身体をソファに押し付けて、濡れてぐゃぐちゃになったものを手に掴んだ
泣き声みたいな声が上がる
「あ・・・・・っ、あう・・・・・っ」
リーマスの中を、彼が壊れるくらい突き上げて犯した
何度も中でイッた
それでもドロドロしたものは消えない
彼がもう許して、と泣き出しても
悲鳴みたいな声を上げてイっても
こうして震えながら、今にも気を失いそうな程感じてるのを見ても この不快感は拭えない
不安は、消えない

やがて、リーマスは完全に意識を落とした
浅く息を吐き、シリウスもまた彼の向かいのソファに倒れ込んだ
仰向けに寝転がったシリウスのその視線の先に、薄紫の空が映る
叫び屋敷から帰ってきて、ここで一人 月を見ていた
不安に押しつぶされそうになったのは 予感に似たものがあったから
リーマスは帰らない
夜がこんなに長いなんて知らなかった
あの屋敷では今も、得体の知れない獣が 無気味な叫び声を上げているのだろうか
「あの夜も、満月だった」
ジェームズのように頭が良ければ 彼の言う意味が理解できるのだろう
心配しないで、と笑うリーマスの言葉に隠された想いを 理解できるのだろう
「わっかんねぇよ」
つぶやいて、シリウスは目を閉じた
泣かせて、気を失うまでひどくしたリーマスの身体
精液まみれになって、倒れてる白い身体
終わったあと、いつも彼が寂しそうに笑うから そのたびに切なかった
お前がそんな風なら、この行為に何の意味もないじゃないか、と
言ってやりたかった
泣きたくなるくらいに、情けなかった
今ばかりは、その負の感情はわいてこない
正体不明の高揚感に似たものが、消えない不安と混ざりあって ますますシリウスを混乱させる

空が白み出した
満月の夜が終わり、シリウスもリーマスもまた 日常へと戻る


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