その日は、夜から近くで夏祭りがあった
「メシ食ったら行くぞ」
「うんっ」
夏祭りなんて、ハリーは当然行ったことがなかったし、何よりシリウスと夜にでかけられるのが嬉しかった
「ね、早く行こうよっ」
さっさと自分だけ準備をすませ、ハリーは食事の後片付けをしているシリウスの服をひっぱる
「わかったから、もーちょっと待ってろ」
「そんなの後にしよーよっ、早く行こーよっ」
ぐいぐいぐい、
何度も何度も引っ張られ、それでとうとうシリウスが観念した
「わかったわかった、わかったよ」
やれやれ、とTシャツの上に軽く上着をひっかけて、シリウスは言った
「では、行きましょーか」
「うんっ」
生まれてはじめての夏祭り
シリウスと二人で、夏祭り
ハリーの心は踊った
田舎の夜道を、二人手をつないで歩いていく

祭りは村の広場でやっていた
本当に小さな祭りのようで、簡単な屋台のようなものがいくつかと、後は何人かの大人達が集まって話したり飲んだりしている
「あ、わたがしっ」
「おー、懐かしいなぁ」
最初に見付けたわたがしの店で、ひとつ買ってもらって、それを片手に端から店を見てまわった
手作りのアクセサリーや、なんだかよくわからない置き物なんかが並んでいる
あまりハリーにとって興味のあるものはなかったけれど、その中に一つだけ、シリウスがつけているような、シリウスによく似合いそうな指輪があった
(・・・・・・シリウスあーゆうの好きそう〜)
チラ、と何か飲み物を買いに行った彼の後ろ姿を見て思い、
それからハリーは店番の男を見た
「ん? 何か気に入ったか?」
シリウスと同じくらいの年だろうか?
さっきからグビグビとお酒を飲んで酔っぱらっているようだ
「あの指輪、お兄さんが作ったの?」
身を乗り出して聞いてみる
とても綺麗な細工がしてある
銀色で、きっとシリウスがつけたら格好よくきまるだろうなぁ、なんて
そんなことを考えた
あんなのをシリウスにプレゼントできたらいいのに
自分はまだ子供だから、あれを買えるお金なんか稼げないけど
「お、いいのに目つけたな〜
 いいだろ、これ
 オレが作った傑作品だぜ?」
ホラ、と
男は笑って指輪をハリーに見せてくれた
「いいなぁ・・・・」
ハリーにはもちろんぶかぶかで、似合いもしなくて、重かったけれど
「いいなぁ」
つぶやきに、男がおかしそうに笑った
「サイズ合わせてやろうか?
 それはお前にはでかすぎるだろ?」
「ううん、僕のじゃないんだ」
それで、ハリーがこちらに向かって歩いてくるシリウスを見遣り、
それで男はははぁん、と笑った
「なんだ、男連れか〜
 せっかく可愛いから連れて帰っちまおうと思ったのになぁ」
「え?!」
驚いて顔を上げた途端、男が身を乗り出してハリーの両腕をぐいっと掴んだ
「わ・・・・・・・っ」
「お代はこれでいいよ、可愛い子チャン」
店の、商品台ごしに男が身を乗り出してハリーに触れ
驚いてどうにもできなかったハリーの、その唇に一つキスをした
「・・・・・・・・・・・!!!」
「ごちそうさま」
にやり、
甘ったるいピーチの味が舌に残って、それでハリーは真っ赤になった
「な・・・・」
「その指輪やるよ」
「え・・・・・・・・・・?」
キョトン、
ハリーが男の言葉の意味を理解しようとして、
だがそれは、シリウスの剣幕で一瞬にして吹き飛んだ
「お前っ、今ハリーに何したっ」
ガツ、
物凄い勢いでシリウスが男の胸ぐらをつかみ
「シ・・・シリウスっ?!」
「あはは、冗談だよ、冗談」
今にも噛み付きそうな勢いのシリウスに、男はへらりと笑った
「何もしてないよな?
 ちょっと触っただけだよ〜」
あんまり可愛かったから、つい、と
男の言葉にシリウスが左腕を上げた
殴る、と
思った途端ハリーはその腕にしがみつく
シリウスは強いだろうし、怒っているし、
シリウスが怒る理由はわかるし、それはハリーにとっては嬉しいことなのだけれど
「シリウスっ、怒らないでっ」
この男だって悪い人ではないし、
それにおどろいたけど、そんなにひどいことをされた気にはならなかったから
「おまえなぁっ、あんなことされて平気なのか?!」
「び・・・びっくりしたけど、大丈夫だよっ
 お兄さん酔っぱらってるんだよっ」
せっかくのお祭りなんだから怒らないで、と
必死でハリーは彼の腕にしがみつく
「・・・・・・・・・・酔っぱらっててもなぁ、あんなことされたら・・・」
「大丈夫だよっ
 ね、お願い、怒らないで?」
シリウスの眉がよって、顔からは怒りの色は消えなかったけれど、それでもシリウスは掴んでいた男の服を乱暴に放した
「いやぁ、ありがとう」
へらり、と男は笑うとハリーに片目をつぶってみせる
それを見て、ハリーは少しだけ顔を赤くすると そそくさとシリウスの腕をひっぱってその場から離れた
手の中には、彼のくれた指輪が握られている

それから、シリウスはずっと不機嫌だった
二人して、広場から少しはなれた丘に座っている
「ねぇ、もぉ怒らないで?」
「ハリーは平気なわけだ
 あんな知らない奴にキスされても」
「平気じゃないけど・・・・でもあの人酔っぱらってたから」
きっと誰にでもあーやってしちゃうんだよ、と
ハリーは何とかごまかしてみる
だがシリウスの機嫌は直らず、彼はむすっとしたまま買ってきた酒をぐびっとあおった
「ねえ・・・・怒らないで・・・・」
「・・・・・・・・」
無言で隣にすわっているシリウスに、だんだんと悲しくなってきてハリーはそのうちうつむいてしまった
「・・・・・シリウスのバカ」
「な・・・・・・・何でオレがばかなんだ」
「バカーーーーーーーーーーーーーっ」
耳もとで叫ばれ、シリウスが顔をしかめる
「あのお兄さん いい人だもん
 これシリウスに似合うから欲しいって言ったらくれたんだもん」
握っていた手をひらいて、もらった銀の指輪を見た
キラキラしていて、指輪はやっぱり綺麗だった
「くれたんだもん・・・・・
 ちょっとふざけてキスしただけだもん・・・・・っ」
こんなにシリウスがわからずやなんだったら、こんなものもらわなければ良かった
お代だって言ったキスも、
これがなければされなかったのに
そうしたら、シリウスはこんなに怒ったりしなかったのに
今頃、二人で楽しくお祭りを見てたのに
「シリウスなんか嫌い・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・ハリー」
嫌い、と
顔を伏せてしまったハリーに、今度はシリウスがオロオロしだした
シリウスはと言えば、自分が目を放したすきに どこぞの男にハリーに手を出され、それがあまりに一瞬のことだったため、見ていたにも関わらず何もできなかったのと
怒りにまかせて殴ってやろうと思ったそいつをハリーが庇ったのでおもしろくなかったのだが、
嫌い、と
言われて怒りがスッと冷めた
そんなことより、今ハリーの言ったことの方が重大だった
「ハリー・・・・・」
オロオロと、ハリーの肩を抱き寄せると、ハリーが身をすり寄せてきた
それで少しだけほっとする
本気で嫌われたわけではないようだ
「ハリー、すまない・・・・・」
肩を抱き寄せると、やっとハリーが顔を上げた
目に涙がにじんでいる
「オレが悪かったよ・・・・・」
「もう怒ってない?」
「ああ・・・・・・・・」
それで、ハリーは少しだけ笑った
「よかった」
その様子にたまらなくなって、シリウスはその涙をぬぐうのと同時にそっとその唇に自分の唇を重ねた
嫉妬しているのか、いつもより歯止めがきかない
軽く触れるだけのものでは足りず、そっと舌をすべりこませると ハリーが戸惑ったように身体を固くした
そんな愛しい相手のその肩を抱きながら、その舌を優しくからめとって何度もキスを繰り返す
「ん・・・・・・・あふ・・・」
ようやく解放されると、ハリーは真っ赤になってシリウスを見上げ
それでシリウスは少しだけ苦笑した
「他の男にキスさせたからお仕置き」
言うと、ハリーは耳まで赤くしてうつむいた
「ごめんね・・・・突然で・・・びっくりして・・・」
自分だって、させたかったわけではないのだけれど
あまりにも急で、
あまりにも優しいキスだったから
何の抵抗もせずに奪われてしまった
指輪の、代金として
「あ・・・あのねっ
 これ、シリウスにあげる」
指輪を差し出すと、シリウスは複雑な表情をしたが やがて笑って受け取った
「さんきゅ、
 高いもんもらっちまったな」
このためにキス1回か、と
シリウスは独り言のように言って、右の中指にしていた指輪をひとつ外してそこにつけた
「あ、やっぱりとっても似合うねっ」
パァ、とハリーの顔が明るくなって それでシリウスは笑った
「じゃあ、これはハリーにやるな」
おかえしに、と
シリウスはハリーの左手を取りその中指に指輪をはめた
ススス・・・・と、指輪のサイズが変わり、ハリーの指にピタリとはまる
「え・・・・」
「いらない?」
「う・・・・ううんっ」
かぁぁ、と顔が真っ赤になった
シリウスからもらった、シリウスのしていた指輪
自分の指をみつめて、ハリーはなんだかとても嬉しくなった
「い・・・いいの? もらっても」
「いい虫よけになる」
それでハリーは少し笑った
あの屋台の人みたいな?と
「そーだ、お前はどーやらガードが甘いらしいからな」
シリウスの、やれやれといった それでも本気の匂いのする声がおかしかった
あの男と同じ味がしたキス
ピーチの甘い、お酒の味のキス
そのことは、黙っておこうとハリーは心の中でちいさく呟いた

帰り道、二人は手をつないで帰った
シリウスの右手と、ハリーの左手の指輪が時々ぶつかって、優しい音をてたる
夏祭りの、夜の出来事



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