あいつは僕の嫌がることをするのが生き甲斐なんだ
あいつは僕が嫌がるのを楽しんでいるし、
僕が困るのを喜んでいる
どうやったら僕が、機嫌を損ねるか
平常心でいられなくなるか、そればっかり
そして、その結果に奴は満足するんだ
要するに、僕は奴に遊ばれているんだ

よく陽に焼けた腕に、ぎゅっと抱きしめられて、セブルスははっ、と息を飲んだ
「よ、おまたせ」
首だけ後ろをみやると、そこには快活な顔が笑っている
「・・・・呼び出しておいて遅れるなんてどうかしてる」
イライラと、
セブルスは首にまわされたジェームズの腕を払った
「わりーって、これお詫び」
少しも悪びれた様子もなく、彼はいうとゴソとロープのポケットから小さな瓶を取り出した
「じゃじゃじゃーーーん
 なんとこれは、この季節にはとっても貴重な葉っぱなのだ〜」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
瓶につまっているのは、まさしくセブルスが今一番欲しいと思っている薬草で
それは村でも貴重でなかなか手に入らないものだったりして、
「欲しい? 許すならやるよ」
にっと笑った彼に、セブルスは一つ溜め息をついた
「・・・・・許す」
でも次はないからな、と
夜中の1時の約束に、1時間も遅れてやってきた相手にセブルスは言った

ジェームズはそういうことが、とても巧い

「だいたいどうしてお前の呼び出しはいつもこんな夜中なんだっ」
「だって変に10時とか11時とかたっだら微妙に寮監とか起きてるだろ?」
オレは抜けてこれるけど、と
ジェームズはスタスタと前を歩きながら笑った
「・・・それは・・そうだけど、だったら夜にわざわざこなくたっていいだろう」
「夜にしか見れないから、夜に来てんだろ〜」
ホラ、と彼はいうと森番の小屋の裏側に回って手招きした
渋々に、回り込むとそこにはいつくかのピンが並べられていて、
それぞれに1本ずつ、不思議な金色に輝く花が咲いていた
「・・・・・月草・・・」
「そ、お前が咲いてるの見たいって言ってたから苦労して育てたんだぜ〜」
オレ様って花育てるの天才? と
彼は笑ってその瓶を一つ取り上げた
「森の奥の奥の奥にしか咲かない貴重なお花だぜ?
 きまり破って来た甲斐あったろ?」
なんてことだろう
こんなに簡単に、こんなにいくつも咲かせて
いったいこの花が、どれだけ貴重でどれだけの学者達が研究のために育てようとして、それでも失敗し続けているか知っているのか
禁忌の森の奥の奥の、ずっと奥にしか咲かないと記されているのに
そこの秘密の泉の水でしか、育たないとされているのに
「オレは秘訣を知ってるからね〜」
カラカラ、と
笑って彼は満足気にした
「気に入ったろ?
 お前、これで何か作りたいんだろ?
 観察日記でもつける?
 おまえのために育てたんだし、これ全部やるよ?」
もっとも、瓶に入ってる水がなくなったら枯れてしまうけれど
「・・・・・・本当に、いいのか?」
価値がわかっていないのだろうか
いや、大体こんなに簡単に言うけれどどーやってこれを手に入れたんだ
「森の泉の番人に種を貰って育て方を聞いたんだよ」
にこり、
冗談なのか、本気なのか
彼は笑っただけだった
こういう時、
とんでもないことをサラリと奴がやらかす時
決まって僕は、劣等感に身を浸す
そういうお前か嫌いなわけじゃないけれど

その夜から7日、あの花は夜になると花を開いた
月と同じ金色に輝く花
ぼんやりと、それを見つめ、セブルスは思いに浸る
例えば、あいつは天性の能力を持って、クィディッチの名シーカーとして活躍している
あいつはやれば器用に何だってこなすから、運動なんかは何でもできた
その上毎日遅くまで練習しているんだから、そういった能力で奴にかなう者なんかほとんどいない
それから、呪文もすぐに覚えることができる
一度聞いたものは、繰り返すだけで効果は出たし、
興味を持ったものなら、少し勉強しただけで とんでもない威力を発揮した
あいつの杖は、金色に光る
はじめて本気の魔法を見た時に、身が震えたのを今でも覚えている
それから、
あいつは人に好かれる
よく笑うその快活さと裏表のないように見えるあの性格のせいだろう
誰もが慕い、自然人が集まる
いつも輪の中心で、皆をひっぱってくのが似合っている
僕から言わせれば、あのカリスマも詐欺みたいなものだけれど
そして、
彼には、それ以外にも不思議な能力がある
禁忌の森のことを知り尽くしている様子
動物とかもののけとか、そういった類に強いのも本当だし、
それらすら魅了する何かを持っているのも感じる
だいたい普通の一生徒が、こんな世にも貴重な花を「セブルスのために」なんて理由で咲かせられるはずがない
そうして、そういうことにこれっぽっちも興味がないのも腹立たしい
「・・・・・・変な奴」
彼はたまに、セブルスのためにといって不思議なものをもってくる
おまもりの羽だったり、銀の鈴だったり、石の飾りのついた鍵だったり
そうして、その変なところ含めて全てが、彼の魅力で
その全てに魅かれてやまない自分がいるのにセブルスは気付いている
同時に、
「セブルスのために」なんて笑って言う奴が、大嫌いな自分もいる
「あんな奴」
「・・・・・・・それってオレのこと?」
突然、背後から声がしてセブルスは驚いて顔を上げた
「か・・・・勝手に入るなと何度も言ってるのにっ」
「だってノックなんかしたら見つかるだろ?」
ファサ、と
窓の側に彼が立った
その腕から透明マントが滑り落ち、彼の身体が現れる
「お、まだ咲いてるな
 でも今夜で終わりってとこだな〜」
ふむふむ、と
近寄ってきて彼は笑った
「いい研究できましたか? セブルス先生?」
「・・・・・・・おかげさまで」
ブス、と
セブルスは顔を背けて言った
「だったらお礼が欲しいなぁ、なんて」
「・・・・・・・・・・・・・・」
しばしの沈黙の後、彼が笑った
「当然でしょ、貴重な花なんだから」
「価値もわからんくせに」
「ま、ね」
オレは花なんかどうでもいい、と
彼は言って、ふ・・・とセブルスの首筋にくちづけた
「?!!」
「じっとする、」
耳もとでささやかれ、それで身体が動かなくなった
「な・・・・何する気だ」
「印つけるだけ」
にやり、と
彼がいつもの不敵な顔で笑ったのがわかった
「印?!」
ざわり、と
彼の手が髪をすくようにして、それでまた背が反った
「な・・・・な・・・・・」
「大丈夫、今夜はそれ以上はしないから」
それで顔が真っ赤になった
「い・・・・いいかげんにしろっ」
そうやってからかって、
僕が嫌がるのを知ってて
僕が抵抗するのを楽しんでる、悪趣味な
「最近 なんかお前見てる奴いるからむかついてね〜
 オレのもんだって印つけとくからそのつもりで」
それでもう一度、
今度はさっきより強くくちづけられ、
ドクン、と
体温が上がったのを感じた
それはつまり、
「お前はオレのもんだよ」

ジェームズは、本気じゃないと知ってる
ジェームズは、その気にさせるのが巧いだけなんだ
ジェームズは、楽しんでるだけなんだ
ジェームズは、ジェームズは、

次の朝、制服を着て鏡を見て、セブルスは一瞬また動きを止めた
うなじにしっかりと、赤い痕がついている
はっきりと、二つ
「な・・・・・・・・・・・・・・・・っっ」
つけられた時には、それがこんなに目立つ場所だとは思ってもみなかった
「あいつ・・・・・」
真っ赤になって、何とか隠そうと髪をなでつけてみたりしたけれど、
長さが足りずに痕は隠れない
(・・・・嫌がらせだっ)
そうと決めてかかって、さして寒くもないのにマフラーを巻いて外に出た
あいつは僕の嫌がることばっかりする
あいつは僕がこうやって怒るのを楽しそうに見ている
いつも、
あいつは、そういうことしかしない

「よ、セブルス
 おまえさ、こないだ星の石欲しいって言ってたよな?
 オレ森に行くけどついでに探してきてやろっか?」
「え・・・・・・、そんな簡単にあるわけ・・・」
「んでも、なんかオレの知り合いがぽいもの見たことあるってさ」

それでもセブルスは言う
あいつは、オレの嫌がることしかしない
そしてそれでもジェームズは笑う
セブルスのためなら、

セブルスのためなら、



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