誓い


すこやかなる時も病める時も、彼を愛すると誓いますか

「はい、誓います」
「誓います」

それは、ホグワーツの北に広がる魔の森での儀式
二人しか知らない秘密の誓い
「誓いますか? リリー」
「誓います、ジェームズ・・・あなたは?」
「もちろん誓うよ、俺の全存在をかけて」
グリフィンドールの制服に身を包んだ男女が、老木の前に立っている
互いに顔を見つめあい、それからどちらからともなく微笑しあった
「誓います」
リリーが繰り返す
何かの魔法か、老木が光を放つ
それはまるで教会に掲げられた十字架を思わせた
男女の手が、重なりあい その光の十字架へとかざされる
魔の森、暗闇の中
輝く光の中 ジェームズがまた口をひらいた

「俺達は永久に、セブルス・スネイプを愛すると誓います」

それは儀式
そして盟約
同じものを愛する二人の交わした、悲しい誓い

ホグワーツは、冬を迎えた
ジェームズとリリーにとって6回目の冬
不思議な予知の力を持つジェームズと、水晶で未来を読むことができるリリーは 人気のない廊下で出会った
まともに会話をしたのは、たぶんこれが最初

「ジェームズ、あなたの眼は何を映してるの?」
「愛する人の泣き顔、かな」
「私も同じよ
 あの人が泣いてる、水晶はそれしか語らない」
時が流れていく上で、未来というものが決まるポイントがあるのだとすれば、それは昨日だった
不吉な新月の夜
闇の魔法に心酔する者達の、よからぬ思考
歓迎できぬ行動
それが、陽の光の下に生きるものの知らぬところで 何らかの方向を決め動き出した
それが、昨日の夜だったのだろう
不穏な動きを知らずとも、知り得る未来は色を失う
嘆きと悲しみを見い出して、少年と少女は愕然とした
愛する人が、この先の未来で泣いている

リリーは、聡明な少女だった
はっきりした口調、きつい目、美しい容姿、そして強い魔力
研究熱心で、女の子が好むものはあまり好まず
「変わり者」と言われてはいたが、何か男の気を引くものを持っていた
それで同年代の男なんかが時々、愛を告げては邪険に扱われ、
やっぱりあいつは変わり者だなんて、批判を受けるのを聞いたりした
当の彼女が自分から寄っていくのはただ一人
彼女の属するグリフィンドール寮とは代々犬猿の仲にあるスリザリン寮の同級生
陰気で嫌味なセブルス・スネイプただ一人だったから

「彼と一体何の話をするの?」
「研究している動物や植物についてよ」
「楽しい?」
「とても楽しいわ」
リリーの友人がそう問うたび、変わり者の少女は笑った
スリザリンで秀才を誇るセブルス・スネイプの研究ノート
それに及びはしないが、それでも
びっしり書かれたノートを持ち寄り リリーとセブルスは月に何度か二人きりで
空いた教室だの、図書室だの
そんなところで目撃された
二人が恋人であるとは誰も思わなかったけれど
陰気で嫌味なスリザリン生に リリーをとられて好ましくない思いでいる男が多かった

一方ジェームズとセブルス・スネイプはこれまた異様なとりあわせで
彼等が2年の頃から 何かと一緒にいるのをみかけた
一方的なジェームズを、スリザリンの秀才は相手にはしなかったが
それでもいつのまにかジェームズのペースにはまり、怒鳴ったり 顔を真っ赤にさせたりして最後にはどうしようもなくなっているセブルスに これも誰もが思っていた
「ジェームズも物好きだよな、なんであんな奴にかまうんだ」
毎日のように ジェームズはセブルスの側へと行く
彼に話し掛ける
彼に笑いかける
そうして二人が6年生になってもなお、その関係は続き
いまやそれが普通になり日常になり
二人が一緒にいるのを見ても誰も、違和感を覚えなくなった

ジェームズとリリーは、二人ともがセブルス・スネイプに視線を向けている
自然心に生まれた想いとともに

「あいつが泣いてる、それが俺達の未来だ」
「そうね、私も同じものが見えるわ」

後天的に、未来を見る目を得たジェームズは 彼には似合わない今にも泣き出しそうな顔をした
占い学をくだらないと言って、教科書なんか一切見ず 水晶をあやつり様々な未来を予測した 先読みの魔力に優れたリリーは、まるで怒ったようなきつい目をした
「どうしてなの? 昨日まで、正常な未来を映していた
 彼は、泣いてなんかいなかった」
「未来は変わったってことだ、悪い方に」
これほどまでに魔力が強くなければ、この暗雲に気付かずに その時まで
悲劇の日まで、幸せに暮らすことができたのだろうか
愛する人の側で、彼が泣く未来が待っているなんて知ることなく
笑っていられたんだろうか
安穏と
「無視はできない、セブルスを泣かせるなんて俺はいやだ」
「私もよ」

ジェームズは、この未来を知った昨夜、衝動につき動かされセブルスの自室へと向かった
この腕に愛する人をだきしめて、何も言わずに一晩過ごした
はじめはいつものように、怒ったりもがいたりしていた彼も
何かを感じたのだろうか
やがて、おとなしくなって されるがままになっていた
朝まで、その身体を抱きしめて、
別れ際、ジェームズは誰にも見せたことのないような痛みの伴う微笑をしてみせた
「セブルス、俺はお前を誰よりも好きだよ」
もう何度も言った言葉
また繰り返して もう一度笑った
セブルス、お前が何より大切だ
だから、お前を泣かせるだけの未来は 必ずこの手で変えてみせるから

そして今朝、
朝一番にリリーはセブルスの元へと駆けていった
「セブルス、あなたを好きよ、誰よりも」
伝えたことのない言葉を、静かに告げた
驚愕したような彼の顔を見て、それから今にも泣き出しそうな顔をしてみせる
セブルスの好きな、エメラルドの目が涙で揺れたのをみながら言葉もない彼に リリーは微笑を苦労して作った
「あなたを好き、それを覚えておいて」
あなたの未来を、変えてみせるから
けして、この水晶に映ったような嘆きだけを残して逝ったりはしないから

「考えたことがある、リリー
 セブルスに希望を残す方法を
 セブルスを救える存在を残す方法を」

風のふきすさぶ廊下
この季節、誰も外には出ない
身体の凍えるこの場所で、ジェームズとリリーは向かい合って互いを見つめている
強い決意を秘めた目で

「リリー、君の子供が欲しい
 セブルスの愛した君の子供なら、きっと君と同じ目で彼を見るはずだ
 セブルスの、救いになると俺は信じる」
「そうね、ジェームズ
 セブルスの愛したあなたの子供なら、まるであなたが側にいるかのように
 あの人の側にいてくれるはず
 それはあの人の救いになる、私もそう信じるわ」

冬のホグワーツ
白い雪が、二人の肩につもっていく
互いに、苦笑しかできなかった
でもこれで、愛する人が救えるなら
セブルスが、また笑ってくれる未来を掴めるなら
「俺は何でもする」
「私は何でもするわ」
二人は死んでもかまわない

ここに誓います
永久に彼を愛することを
この身が滅んでも、希望は残ると信じている
二人は同胞
運命を、存在を共有した戦友
それはひとえに、愛する彼のためだけに


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