夏の出会い


夏休みになると姉さんが帰ってくる
あの変わり者の姉を 両親は大変誇りに思ってるみたいで、彼女が帰るたびに何かとチヤホヤ
我が家から魔女が生まれただなんて、大騒ぎして期待して
昔、一族に優秀な魔女がいただの、
その魔力の血統が絶えずにすんで良かっただの
大騒ぎの大人の中に顔色一つ変えずに立ち、カエルやらトカゲやらの気味の悪い生き物にばかり興味を示すあの姉を、私はあんまり好きじゃない

何考えてるのか、わからないから

短い夏、人々は解放的に外へ出る
家にいたら 今日帰ってくる姉さんと朝から顔を合わせなきゃならないから、と ペチュニアは朝から家を出た
近くを散歩しようか、と あてもなくブラブラ歩く
よく晴れた でも少し憂鬱な朝
学校では大変優秀らしい姉さん
でも私だって同じくらい、頑張っているのに
成績だって、とてもいいのに
(誰も認めてくれないんだわ
 みんな姉さんばかりを誉めるんだから)
魔女の何がすごいのか
魔法が禁止されてるからって、リリーは一度も魔法を見せてくれたことがない
ただヘンテコな呪文のたくさ書かれた教科書とか、杖とか、真っ黒のローブとか
そんなのを見て想像する
魔女って何?
魔法って何?
得体の知れないものは恐い
普通はそう、思うでしょう?
だから大人ってわからない
魔法のことも、魔女のこともよく知らないで まるで神様の子みたいにリリーのことをチヤホヤするんだから

いつのまにか、ペチュニアは村の一番端まできていた
この向こうは無気味な森
行ってはならないと教えられ、今まで一度も足を踏み入れたことはなかった
暗くて、先が見えなくて、道なんかない森だから 入ったらきっと出てこれなくなる
考えてゾっとして、ペチュニアは元きた方へと戻ろうとした
その時

ひゅっ

「きゃぁっ」
突風が、ざぁっと吹き抜けていった
この季節、時々起こる強い風
油断していたから 風に吹かれてよろめいて
お気に入りだった帽子を攫われた
白いレースのついた 今年のバースデーに買ってもらった大好きな帽子
それが風に飛ばされて、森の手前の木にひっかかった

必死に手を伸ばしても、ジャンプしても当然届かなかった
そんなに高くない場所に、突き出た枝がある
これなら登れる、と
ほんの少しの躊躇の後、ペチュニアはその枝に足をかけた
いける、これならこのまま上っていける
そう考えて、上を見上げた
お気に入りの帽子は、ずっとずっと先

村の隅の方
行ってはならない森の側
お気に入りの帽子をようやく手にして、ペチュニアは息を吐いた
取れた、よかった
あとは木を下りて 戻るだけ
下りるだけ

「・・・・っ」

ひ・・・っ、と
ペチュニアは身体をすくめて顔を強ばらせた
思ったより高い
下を見た途端、すくんで動けなくなった
恐い、おりられない
ここから動けない

しくしく、と
女の子の泣き声がする
意外にも頭上から
見上げて、ジェームズはふと笑みをこぼした
白いワンピース、白いレースの帽子
巻き毛の女の子がなぜか、木の上で子猫のように泣いている

「どうしたの、君」

突然かけられた声に、ペチュニアは驚いて下を見た
知らない男の子が立っている
よく陽に焼けた顔
おかしそうにその子は笑って それから両手を広げていった
「降りるの恐いの?
 大丈夫、受け止めてあげるから飛び下りてみな」
飛び下りろって? ここから?
この身もすくむ高さから?
「そんなの無理っ、恐いっ」
泣きながら言ったら、彼はまたクスクス笑った
「大丈夫だって
 絶対大丈夫、怪我なんかさせない、約束する」
どこからそんな自信が?
こんな高い木の上から飛び下りてきた女の子を、簡単に抱きとめられるはずがない
大人ならまだしも、そこにいる男の子は、自分といくつも年の変わらない少年なのに

「目を閉じて」

そう言われて、戸惑って彼を見た
不思議と落ち着く声
いつのまにか涙は止まっていて、震えてた手も静かになった
「目を閉じて、深呼吸して」
言われた通りにしてみる
そうしたら、下から彼の明るい声が飛んできた
「はい、ジャンプ」

ふわっ、と
浮遊感は一瞬
その後また一瞬の落ちていく感覚
悲鳴も上げられないまま どさっと
自分の身体の重みを感じた
誰かの腕に抱きとめられて、痛みを少しも感じなかった
それで、おそるおそる目をあけた

「ほら、言った通りだろ?」

側で、よく陽に焼けた顔が笑ってた
ああ、こういうのを一目惚れって言うんだろうか
ドキン、と
高鳴った心臓、同時に顔が真っ赤になった
目が、彼の顔に、唇に、眼に釘付けになる
こんな風に笑う人に、今まで出会ったことがない

「気をつけなよ、あんまりお転婆してると怪我するよ」
そう言って彼は、ペチュニアを立たせると また笑った
「木登りなんて女の子がするもんじゃないと思うけど?
 ここらへんでは流行ってるの?
 俺の知り合いも、よく木に上ってるけど」
おかしそうにクツクツ笑う
それが恥ずかしくて ペチュニアは真っ赤になって抗議した
「違うわっ、普段はこんな・・・ことしないわ
 ただ帽子が飛んでいっちゃったから、取りに・・・・っ」
木に上るなんて男の子みたいな真似、なんてはしたないと呆れられただろうか
嫌わないで、と
必死に言い訳したペチュニアに、彼はクスクス笑って一つうなずいた
「怪我がなくて良かったよ」
そして、じゃあね、と
手を振って、道を村の入り口の方へと歩いていった
その後ろ姿に、ペチュニアはいつまでも見とれていた
夏の出会い
恋のはじまり


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