とある休日、スネイプは部屋の奥にある物置きの片付けをしていた
普段から使用している部屋とは違い、めったに足を踏み入れることのない場所で、
そこには山と積まれた本やレポートや標本が何層もの地層を作り上げている
「・・・・我が部屋ながら、すごいな・・・・・・・」
今日は特にやらなければならない仕事もない
天気もいい
本を日干しにするにはちょうどいいし、いいかげん整理しないと近いうちに雪崩れが起きて遭難してしまう
(よし、やるか・・・・・・)
気合いを入れて、足の踏み場もないその場所に無理矢理に一歩踏み出した
その、ほんの一瞬後

「先生、いますか?」

勢いよく部屋のドアが開き、ハリーの声が響いた
「・・・・・・・・・いるが」
ああ、たまに何かしようと思ったら邪魔が入る
普段ならこんな天気のいい日は外で子供みたいに飛び回っているくせに
「何の用だ?」
「先生、何してるんですか?」
こちらの問いには答えずに、ハリーは普段はしまったままの扉を興味深げに見た
今さら隠しても遅いだろうな
ドアは開いていて、中のありさまが丸見えだろうし
「すごいですね、物置き?」
「・・・・そのようなものだ、今から片付けるところだ」
言い訳がましく、スネイプは中へと入っていく
それに続くようにがらくたの間をハリーも歩いた
まったく、どうしてこんな時に来るんだ
これではまるで自分が片付けのできないだらしのない人間みたいではないか
ここは普段は使わないから、たまたま汚いだけなのだ
普段から、片付けができないのではない
ここはわざと片付けていないのだ
「僕、手伝いますね」
ブツブツと自分自身に言い訳をしていたスネイプの横で、ハリーは床に座り込んで辺りのものを物色しだした
「・・・・・・本を外に運んでくれ」
「はーい」
素直な返事に少々気が抜けた
どうやらこいつは ここの汚さよりも物珍しさの方に意識がいたらしい
それならそれで、よかった
スネイプは、本やら標本の間からレポートを引っぱり出しながらハリーのうきうきしたような横顔を見た
大人びた顔つきに、子供の目
こういう表情をしているのを見るとホッとする
ハリーが年相応に子供のような顔をするのが、スネイプは好きだ

「先生、これ欲しいな」
突然、背中に重みを感じてスネイプはへたっとその場に座り込んだ
「・・・・・何だ」
のしかかってくるハリーを睨み付けながら見ると、その手には古い写真があった
「・・・・・・・・・・」
それは学生の頃の自分
どうしてこんなものが?と
スネイプはとっさにそれを奪い返そうと手を伸ばした
「これ先生だよねっ」
にやっ、と意地悪く笑ってハリーは写真をポケットにしまうと相変わらずスネイプの背中にのしかかりながら両腕を首にまわした
「いいよね、写真くらい」
「・・・・・・よくない、返せ」
「こんなところに置いてあるくらいだから大事じゃないんでしょ」
「そういう問題じゃない」
「恥ずかしいんだ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ」
恥ずかしくないわけがないだろう
ちょうど5年の冬
今のハリーくらいの時の写真だ
撮ったのは誰だったか
嫌だというのに何枚も何枚も撮って、
全部処分したと思っていたのにこんなとこに紛れていたなんて
「僕が先生と同級生だったら、どーなってただろう?」
耳もとで、ハリーがつぶやくようにいった
ギクリとする
少しトーンの下がった声に、体が少しだけ緊張した
「先生と僕は同級生で、今みたいになってたかな?」
「・・・・知らん」
胸が痛むのをこらえた
もしハリーが自分と同級生で、あの頃側にいたとしたら?
そんなこと、考えられない
考えるだけ無駄だろう
もしも、は起こり得ないのだから
「今みたいにはなってなかっただろーな」
ぎゅっ、と抱き締められてスネイプはまた身を固くした
「先生子供っぽそーだもん
 僕、同年代のガキっぽい先生には興味ないかも」
「・・・・・こちらが願い下げだ」
「あはは」
クスクスと、楽しそうに笑う声が耳もとでして
スネイプはこっそりと苦笑した
もしもは、考えるだけ無駄だと知っている

「先生はこの頃ジェームズが好きだったんでしょ?
 どこが好きだった?」
「は?」
片付けも佳境にさしかかり、本棚に本が綺麗におさまった頃、にこにこ笑ってハリーが言った
「顔? 頭? 将来性?」
「・・・・・なんだそれは」
「何が決め手だったのかな、と思って」
「・・・・・・・・・・・」
ハリーを見つめた
同じ顔をして何を言うのか
どうしても、ハリーの中からジェームズの存在は消えないのか
「顔?」
「・・・・・・お前程整ってはいなかったな」
キョトン、とハリーがこちらを見た
「じゃあ頭?」
「使い方を間違えれば、宝の持ち腐れだ」
おかしそうに、ハリーが笑う
「じゃあ何? 性格?」
「最低だ」
今思い出しても腹が立つ、と
眉を寄せると、今度は前から体重がかかった
勢い良くのしかかられ、そのまま無抵抗に後ろに倒れた
「つ・・・・・っ」
「じゃあ何が良かったのさ」
「知らん、そんなもの」
少なくとも、
そんな風に考えたことなどなかったし、それどころではなかった
「僕の方が顔はいい?」
「・・・・・そうだな、あいつよりは品がある」
「頭は?」
「お前は勉強しろ」
「性格は?」
「・・・・・・・・・」
あの性格の悪さに張り合うかな、と
いいかけて、その唇をふさがれた
長く、それでもいつもより気をつかったキスが続いて、
それからやっと解放されると真直ぐに顔を覗き込まれた
「超えられると思う?」
静かに問われて、その緑の綺麗な目を見返し苦笑した
「お前には先がある」
そう、お前には未来がある

あの頃の写真を一枚奪われて、もしもの話を少しだけして
起こり得ないことを笑い飛ばして、
「ジェームズよりいい男になる」
「そうか」
ハリーの宣言にスネイプは目を閉じた
実現してもしなくても、そんなのはどちらでもいい
ハリーが笑っていること
それだけが、今と変わらなければそれでいい




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