今日で3度目
ハリーが授業を欠席した
彼が何の理由もなく自分の授業に出てこなかったことなど今迄に一度もなく、
1週間以上も、彼の顔をみなかったことなど最近では皆無だった
スネイプは戸惑っている
理由がわからないから
あれ程までに自分に執着し、押さえ付け、奪ってきたハリーが
なぜこうも突然に姿を消すのか
戸惑いは、同時に不安も生んだ
ハリーと接するうち、自分の中に生まれた何かを スネイプは気付いていたし、
認めていた
彼に向かう想い
それは、もう二度と持つことなどないだろうと
捨ててしまったものだった
誰かを、特別だと想う心
今、スネイプの中には ハリーという少年が誰よりも大きく存在している

どうして?

彼のいない教室を見回し、
彼のいつも座っている一番後ろの席を見つめて、スネイプの口から自然と溜め息がもれた
昔、こんな風に突然いなくなった人がいた
何も言わず、彼は去り
自分は絶望のうちに取り残された

どうして?

スネイプは、あの頃より大人になったし
あの頃と同じ絶望に縛られることはなかったけれど
それでも、理由だけは知りたいと思った
溜め息がもれる
淡々と、
いつもように授業を進めながら
これが終わったら、彼に会いにゆこうなどと、そんなことを考えた

今週はグリフィンドールが競技場をクィディッチの練習に使っていた
それを知って、スネイプは競技場へと足を運ぶ
いつもの道
誰も使わない裏道を使って、裏門をあけて中へ入った
少年達の声が上空から聞こえる
その中に、ハリーもいた
ホッとする
元気そうだった
それはそれは、憎らしいくらいにイキイキと、ハリーは空をすべっていた
自然と、笑みに似たものが浮かぶ
元気ならいい
そこにいるなら
そうやって、彼が笑っているなら

部屋へ帰ろうときびすを返した時 ふと彼がこちらを見たような気がした
一瞬、ハリーが驚いたような顔をしたのは 見間違いだったのだろうか
振り返って、確かめようかと思ったが
「ハリーーーーーー!!!」
誰かの声に、その思考も消えた
スネイプはそのまま競技場を出た

その夜、何をするでもなく部屋でぼんやりしていたスネイプは、庭に不審な光を見た
「?」
ランプの光だろうか
こんな夜中に部屋を抜け出してウロウロしている者がいるのか
溜め息をつき、ローブを羽織ると外へ出た
まったく、
最近こういう校則やぶりをする者が多い
筆頭はいつも、彼だったけれど

光は動くことなく同じ場所に点っていた
噴水の側
他には何の光もない暗がりを、その小さな灯りだけがたよりなく照らしている
「・・・・・・・・またおまえか、」
声に、その場に座っていた人陰が顔をあげた
「久しぶりだな、先生の声聞くの」
悪戯っぽい、声
出会った頃にくらべれば、落ち着きをもちはじめた声
「ポッター、お前はそんなに寮から減点されたいのか」
自然、不満に似た声になったが気にしなかった
スネイプは続ける
「私の授業をサボっただけでは足りないか?」
1度につき50点の減点だ、と
うめくように言ったのに、ハリーは少しだけ笑った
「それくらい、試合でかせぐからいいよ」
憎たらしく、彼は笑う
そして、その笑顔はすぐに苦笑に変わった
「先生、今日練習見にきてたでしょう?
 どうして?」
不自然に、前を向いて彼は言う
その視線の先には何があるのか
ハリーはスネイプに目を向けずに、繰り返した
「ね、どうして?」

しばしの沈黙の後 スネイプは静かに言った
「お前を、見に行ったんだが・・・」
それでハリーの視線がわずかに動いたのが分かった
「・・・・・・なんで?」
淡々とした声
必死で感情を押し殺したような
「無断欠席などするから、何かあったのかと心配するだろう」
「・・・・・・・・・・・・・それだけ?」
「それ以外に何がある」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

また沈黙が流れた
やがてスネイプは今日何度目かの溜め息とともに言った
「私の授業に出たくないならかまわない
 好きにするといい」
昔、突然消えてしまった人
彼は死んで、二度と会えなくなってしまった
ハリーは違う
側にいなくても
彼は存在する
たしかに呼吸して、たしかに立って、たしかに笑っているならそれでいい
彼が自分にとって特別だからといって、
彼が自分のものであるわけでもなく
彼には彼の想いがあり
自分を奪い振り回したことが、彼の一時的な衝動だったとして
それは、スネイプにどうこう言えることではないのだ
それにより意識がハリーに向いてしまった今
それはハリーのせいではなく、
ハリーに魅かれてしまった自分のせいなのだから
「好きにするといい」
うまく、言えないけれど そういうことだと今日気付いた
ハリーの姿が消え、不安に思って探した
そして、いとも簡単に見つけることができた
いつもと変わらず、笑っている彼を
探せば見つかる範囲にいるのなら それでいいと思った
スネイプは、大人だったから
溢れるような想いを、閉じ込める術を知っていた
あの頃の自分ではなく
彼は、あの人ではなく
この出会いと想いは、あの頃の全てとは、違っていたから

「先生は、僕に会えなくても平気なんだ」
「・・・・・・・平気ではない」

突然、ハリーが顔をあげた
驚いたように、こちらを見ている
久しぶりに、みつめられ
その目の奥の炎を見た
(ああ、変わらない)
いつもの彼の目
スネイプを無理矢理に組み敷き、奪った少年の目
「・・・・・・どーゆうこと?」
「言ったままだが」
「好きにすればいいって言ったでしょ?」
「・・・・・お前は好きにすればいい
 お前のしたいようにすればいい」
私に、お前を拘束する権利はないのだから
「・・・・・・先生、意味がわからないよ」
「お前が会いたくないのなら、それでいいと言っている
 会いたいのは私だけなのなら、
 その時には、私は自分でお前を探すから」

ポカン、とハリーはスネイプを凝視した
それから、思いたったように自嘲の笑みを口許に浮かべた
「僕は、父さんの代わりにはなれないよ?
 僕に会いにきたって、そこに父さんはいないよ?」
それで、ギシとスネイプの心が痛んだ
痛いハリーの顔
この顔が、自分は好きではない
彼には笑っていてほしい
こんな、悲しい顔をしないで欲しい
「お前とジェームズは違う
 私はお前に会いに行くといっているんだ」
何と言ったら伝わるのかなんて、わからなかった
こういうことは、苦手だし
ハリーがこんなにジェームズにこだわる理由もわからなかった
「父さんのこと、好きだったんでしょ?」
「そうだな、好きだった」
ハリーの目が揺れた
「彼はもういない」
そして、
お前は彼ではありえない、と
スネイプは そうしてうつむいた

唯一の人を失って、
その生き写しの少年に魅かれたからといって
それが、偽りだと誰が言える
こんなにも、
目の前の少年は痛い目をして
負の感情をむき出しに、向かってくるのに
まるで、彼とは違う存在なのに
そして、
その少年へと倒れていく心を止められなかったからといって
誰がそれを責められるか
誰がその想いを、あざ笑うことができるか

「私は、お前を見ている
 今、私の腕を掴んで放さないのは、お前だ」
彼じゃない
もう、ここにはいない彼じゃない
「・・・・・・バカみたい」
乾いた笑いが、ハリーの口からこぼれた
「先生、それ本気?」
答えないスネイプに、ハリーはまた笑った
「嘘みたいだ
 先生が、僕を、見てるなんて」
失礼な、と
スネイプはひとりごちたが、ハリーには聞こえなかった
彼は、救われたような
まだ、全てを信じきれていないような複雑な顔をしていた
「先生、僕はね
 先生のことが好きだけど、先生の求めるものをあげられないから
 素直に身を引いてあげようとしてたんだよ」
震える声で言ったハリーは、また笑い出した
「バカみたいだ
 せっかく会わないようにして、忘れてあげようとしてたのに」
150点、損したと
彼は笑い続けた
涙が滲む程に

それから、ようやく平静を取り戻したハリーは
いつもの悪戯な色をその目に浮かべ、スネイプを見た
「先生も、僕のことを好き?」
それには、スネイプは答えなかった
「あ、やっぱり先生ってばそーゆうこと言えない人なんだ」
にやり、と
意地悪い笑みがひらめく
「恥ずかし気もなく言えるお前がどうかしているんだ」
「だったら、キスして」
その言葉に、スネイプは顔をしかめた
「言えないなら、せめて態度で示してよね
 先生がはっきり言わないから こんなややこしいことになったんだから」
責任とってよ、と
言ってハリーはまた笑った
ああ、と
安堵に似たものが、広がっていく
そう、この顔が好きなんだと認識する
痛い表情など見たくない
こんな風に、意地悪く憎たらしく笑っているのが彼には似合う
「・・・・・目を閉じろ」
「やだよ」
むっ、とした
だが、じ・・・とこちらを見ている彼を、今さら自分がどうこうできるとも思えなかった
浅く息を吐いて、それから
少しのためらいの後、座っているハリーの方へ身をかがめた
自分がこういったことが得意ではないのはわかっていたが、
それでも精一杯の努力をした
触れた唇は冷たくて
それで少しだけ、チクリと何かが痛んだ
「・・・・なんか、新鮮」
すぐ側で、ハリーが笑った
それで、相変わらず不機嫌な顔をしながらもスネイプは安心した
結局、
最初から最後まで振り回されっぱなしで
ハリーの憎らしい意地悪な顔も健在だけれど
それでも、彼が笑っているならそれでいいと
スネイプは思った
やがてまた、いつもと変わらぬ日常が戻る



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